本物のエンターテインメントを求めて 映画「星めぐりの町」黒土三男監督インタビュー

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1月27日(土)より丸の内TOEI他、全国公開となる映画「星めぐりの町」は、主人公で実直な豆腐屋・島田勇作(小林稔侍)とその娘・志保(壇蜜)が、東日本大震災で家族全員を失った少年・政美に優しく寄り添いながら、心の再生を温かく見守っていくヒューマンドラマです。今回は、『蝉しぐれ』以来12年ぶりの映画となる黒土三男監督にインタビューを行いました。本作品から映画への熱い想いまで、たっぷりと語って頂きました。

— 黒土監督にとって東日本大震災とは何だったのでしょうか?

震災が何かというより、液状化が酷かった浦安で被災したので僕は死ぬと思ったんです。家族一緒にいたのですが、間違いなくやられるという気がしました。浦安に居ない人達は気付かないと思いますが、僕はもう駄目だと思いました。

日本の映画監督として、日本のたたずまいを映す

— 監督が大切にしている映画のテーマについて教えて下さい。

いろんな監督がそれぞれに映画を撮るわけですが、我々日本人じゃないと創れないものを大事にしたいわけです。
例えば、東京の街を見渡せば、米国のモノマネをして造った建物ばかりです。そんなものは一体何なのでしょう?日本に必要なのか?どうして日本にあるの?といつも思います。便利だったらいいのか、そんなんじゃないと思います。この国がどんどん進んでいく一方で、逆にダメにしている部分もあると思います。そうやって日本人は一体どこまで行くのか?いいものがどんどん壊されている部分もあります。

私の作品の『蝉しぐれ(2005年公開)』なんかでは「自然や風景が美しいですね」とよく言われますが、そうではないんです。
例えば、小津(安二郎)さんの映した『東京物語(1953年公開)』の東京には、今の東京はありません。あの時代の銀座を映しているわけではなくて、セットで銀座を映しているんです。これは小津さんの日本であって、つまり僕らの時代の僕らの日本でなきゃ何の意味もないと思うんです。
同じく『蝉しぐれ』では、藤沢周平さんが愛した故郷の鶴岡の空気をとにかく映さなきゃいけないと思いましたので、九割は山形で撮影したわけです。江戸時代から残っている畳があれば畳一つでも探して撮りに行きました。
美意識は大事にするのですが、何を映すのかと言われたら日本のたたずまいであって、それが無ければ、日本の映画監督じゃなくていいわけでしょう?

僕は『星めぐりの町』の風景にしても「豊田のどこを撮るのか?」と言われた時に、皆が勧めてくれた場所があったのですが、そこは正直いいとは思わなかったんです。
僕は僕の日本を撮る。それを頑固にやってやる。世界にもっていくためには、僕らの土俵を撮らなければ世界相手に質問もできないですよね。

やはり、小津さんも敬愛しているのですが、やはり黒澤明監督を一番尊敬しています。黒澤監督が亡くなる時に最後に「あとを頼むぞ」と言っています。それは後輩に言っているんですよ。誰かが守らなければ、日本の映画は駄目になってしまう。
僕はあの震災で命を貰ったわけです。ウケようがウケまいがそんなことはどうでもいい。日本を撮るんだ、日本の美しさを撮る。美しさを撮るというのは、きらびやかな美しさではなくて、泥の河を撮っても日本というたたずまいがあれば美しいんです。ヒマワリをゴッホが描いた様に、映画監督はそういうことだと思います。

映画はエンターテインメントだ

— 映画に込められたメッセージがあるとすればそれは何でしょうか?

映画の根底にあるのは理屈ではないと思います。それは黒澤大監督でありエンターテインメントだと思っています。
淀川長治(1909-1998年)さんのエピソードでは、『七人の侍(1954年公開)』の火事のシーンを実際にみて、淀川さんが黒澤監督に「凄い(火)ですね」と言ったところ「これじゃ足りないんだ。もっと凄くないとお客さんが喜ばないんだ。」と監督が言ったそうです。
このお客さんを喜ばすというエンターテインメントですよ。本当に力のある芸術家はエンターテイナーなのだと思います。

初めて演出した神戸さんがいい、現場ではもっと良かった

— 俳優の皆さんの演技がとても自然でした。神戸浩さんもとても印象に残っています。

神戸(浩)さんがいいんですよね(笑)。映画の冒頭で神戸さんが政美君(荒井陽太さん)と並んで立っているシーンがありますが、神戸さんに出演依頼をしに行った時に、最初にそのシーンが思い浮かんで来たんですよ。現場ではもっと良かったです。神戸さんの演出は初めてですが、良い俳優さんですね。

「久米書店」を見て壇蜜さんは絶対いいぞと思った

— 壇蜜さんは政美君が葛藤するシーンで、本当に泣いていらっしゃったのではないですか?

本当に泣いていましたね。
壇蜜さんの演技は見たことがなかったんです。ただ、久米宏さん司会の番組「久米書店」でアシスタント役として出ているのは見ていました。とても勉強している人だな、これは絶対いいぞ。真面目で本を読みこんでいて、言っている言葉にインテリジェンスがあるな、と思いました。

稔侍さんの魅力は「誠実さ」、役者として得難い人!

— 俳優さんの演技力が十分引き出されているように感じました。秘訣があったら教えて下さい。また、これ以上に、監督がこうしたいと思うところはあるのですか?

もうちょっと時間が欲しいですよね。「これから、この人はこうしたい」というのがあります。今回は制作費の制約で、日数に限りがありました。本当はもっと時間をかけたかったのですが、そこは残念ですね。

やはり、小林稔侍さんを主役にしたのが大きいと思います。
実は、稔侍さんとはお付き合いは古いんです。監督としては初めてですが、テレビで脚本を書いて稔侍さんにお願いすることは何本もやっているんです。私生活でもお付き合いはあるのですが、稔侍さんの魅力は「誠実さ」ですね、それが表に出てると思います。
今の俳優さんは多くの方々がコマーシャルに出ていますよね。企業側から、ああして、こうしてと芝居をさせられているんです。そういうものが、染みついてきてしまうんです。
例えば、高倉健さんは仕事がない時にお金が要るとはっきり言ってましたね。海外へ行くなど自分への投資のためにはお金が必要なので、年に1本ぐらいはやっていましたが、CMのために変な芝居はしなかったですよね。
小林稔侍さんは本当に誠実な人。役者として得難い人です。

タイトルは宮沢賢治の「星めぐりの歌」が由来

— 宮沢賢治についてはどういう印象なのですか?

宮沢賢治は天才ですね。「雨ニモマケズ」とだけ聞いてそう思います。こんなに凄い詩があるのだろうかと、日本人として凄いと思います。
映画のタイトルは、この宮沢賢治の「星めぐりの歌」に因んでつけています。『蝉しぐれ』の撮影の時も車を運転しながら聞いていました。それも、宮沢賢治に惚れているチェリストの方が弾いてくれたCDを聴いているんです。とにかく、あれほどの天才日本人はいない、昔から大好きでした。

羽岡佳さんとの出会い

— 映画で奏でられた音楽も流れるようなメロディでした。

音楽がいいでしょう?見つけたんですよ!ある仕事の脚本を書いたのですが、そのドラマの音楽を聞いて「え、誰がかいたの?」と思ったんです。凄いのがいるなと。羽岡佳さんにお会いしてみると、汚れの無い素敵な顔をしていたんです。そこで、映画やる時は絶対にやってねと約束したんです。
偶然の話ですが、今回、「星めぐりの町」の音楽を創ることを羽岡さんが快諾してくれた後に、羽岡さんから手紙が来て「何よりも嬉しかったのは、脚本に宮沢賢治の作品がでてくることです。僕は誰よりも宮沢賢治を尊敬してるんです」といってくれたんです。
宮沢賢治ほどの日本人はいないでしょう?こういう人に巡り合うだけで勇気が湧いて来ますよね。

— この映画を創ることになったモチーフは何でしょうか?

豊田で人との助け合い・温もりを感じたからこそ、そこがモチーフとなって映画を創ることができました。自分の中で理屈にはなっていないのですが、ここで過ごしたらからこそ、この脚本が描けたんですよね。東京に居たらこの映画は創っていなかったと思います。ここの田舎暮らしをやったから出てきているんです。

また豊田で創りたい

— 12年ぶりという事ですが、今後の活動予定を教えて下さい。

もう一本豊田で創ることができたらいいですね。田舎で作りたいし、映画は東京や京都だけで創るものではないと示してみたいです。
豊田や名古屋の人達・若い人達がここで映画を創れるんだという息吹が出てきたら、良いことしたなと思えますね。東京から来た若いスタッフが、今度創るときはまた呼んで下さいと、喜んでくれました。
ロバート・レッドフォードがユタ州のパークシティでやっているサンダンス映画祭のように豊田国際映画祭を創っていけたらいいですね。誠実な映画を作っている人達に来てもらって、その人達の世界の映画祭にできたらいいです。ここを基盤にして、みんなが集まってきて、そういうものを残せたら、黒澤監督に少しは報いることができるのではないかと思います。

映画の楽しさ、面白さに気づいて欲しい!

— 映画が好きな方へのメッセージ

難しいですよね。今の若い人に「伝える」ってことって。
昔ながらの撮影所が残っているべきでしたよね、そこに入ってそこが学校になりましたから。小林稔侍さんも東映に入って、高倉健さんに出会って、撮影所で学んできているんですよね。今では、スタジオなんかは貸スタジオになっているし、創れといわれても創る力がもう無いわけです。中身が。そういう今の若者達には、僕の映画を観て判断して下さい、としかもう言えないですよね。「あとを頼むぞ」といえる後輩になって欲しいですね。私達が政美君と出会ったように、今の若い人達には神様が自然にきっと創る力を与えてくれるだろうから。
ほんとに映画が好きな人は、ほんとの映画の良さを見つけないと。映画はすばらしい。すばらしいものを監督達が作ってきたわけですし、そこの発端からはじまることが大切、映画とは何か、こんなに楽しいんだ、面白いんだとそこに気づいて欲しいです。

僕の師匠である木下惠介監督からは「本を読め」と言われました。ただ、「今の本は読む必要はない、夏目漱石や志賀直哉ら本物を読め」と言われました。
今回、カズオ・イシグロがノーベル賞を受賞したのは素晴らしいことですね。『日の名残り』をこのタイトルのままで日本で映画を創ってみたいです。イギリス人が創ったものではなく、日本人が創ったものを作りたい。アンソニー・ホプキンスの演技って、あれ、日本人だよね(笑)


編集部より
昨今、高度化する映像技術に目を奪われて、しみじみと映画のあるべき姿を語る機会がなくなったと黒土監督との会話を通して感じました。世界の中で黒澤映画が日本映画を代表しているのであれば、今の日本映画にそれを求めるのはごく自然なことだと思います。黒土監督の若者への熱いメッセージに心をうたれました!これからもいい映画を沢山作ってください!!

■ 予告編



■ 出演

小林稔侍
壇蜜
荒井陽太
神戸浩六
平直政
平田満
高島礼子

■ 脚本・監督

黒土三男『蝉しぐれ』

■ 音楽

羽岡佳

■ エグゼクティブプロデュサー

岩城レイ子

■ プロデュサー

中尾幸男

■ 製作

豊田市・映画「星めぐりの町」実行委員会

■ 配給・宣伝

ファントム・フィルム

■ 制作プロダクション

エース・プロダクション/ケイセブン

■ 宣伝協力

プリマステラ

■ コピーライト

(c)2018 豊田市・映画「星めぐりの町」実行委員会

上映時間1時間48分 カラー ビスタサイズ 5.1ch

■ 公開情報

2018年1月27日(土)より丸の内TOEITOEI 他、全国公開

■ 評価・感想

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・ものづくりの原点と、仕事へのこだわり、人への優しさ、しみ入りました。(mitomomiさん)

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