フランスの鬼才ギャスパー・ノエ監督「今だったら絶対作れない映画」20年前の作品が悲劇的に蘇る

映画『アレックス STRAIGHT CUT』, ギャスパー・ノエ監督インタビュー,画像

映画『アレックス STRAIGHT CUT』
ギャスパー・ノエ監督インタビュー

20世紀最大の問題作にして、衝撃作『アレックス』が、ギャスパー・ノエ監督自らが時間軸に沿った物語へと再構築。さらなる衝撃を観客に突きつける、新たな作品『アレックス STRAIGHT CUT』へと生まれ変わり、10月29日(金)から新宿武蔵野館で公開します。

今回は、ギャスパー・ノエ監督に本作に込めた想いや、想像もできないほど過激で凄惨な暴力シーンの描写が賛否両論を巻き起こしたというモニカ・ベルッチさんの演技についてなどお話を伺いました。

映画『アレックス STRAIGHT CUT』, ギャスパー・ノエ監督インタビュー,画像

ギャスパー・ノエ監督

―― オリジナル版に比べて「遥かに悲劇的かつ暴力的」という印象を受けたとのことですが、なぜ、ストレート版がそういう印象を監督に与えたのでしょうか?時間の経過を辿っていくことで、リアル感をより増幅させたということなのでしょうか?

ギャスパー・ノエ監督
時系列を基に戻したことで凄くシンプルになり、特にそれぞれの登場人物の心理がより見えやすくなった。もう一つは、モニカさん演じるアレックスにも感情移入出来る。最後は、レイプ魔以外は、結局皆が負け組になっちゃったわけですよね。そういった悲劇性も、単に時間軸を戻したことで強調されたと思います。

―― 「世の中に”悪”はない、あるのは行為だけだ」という台詞について、非常に深い意味が込められているなと思いました。確かに、“悪”というのは人間の概念的なものだと思っているんですけれども、一方で“行為”は一つの原因となって次の“結果”を生み出すものではないかと考えています。監督はどんな思いを込めてこの台詞を選んだのでしょうか?

ギャスパー・ノエ監督
実は、「世の中に悪はない。あるのは行為だけだ」という意味ではなくて、「世の中に悪い行いというのはなくて、あるのは行為だけだ」という意味だったんです。しかも、これはそういう台詞があったわけではなくて、私の友人でもあった俳優さんがアドリブで言った台詞なんです。

要するに、西洋では善悪の観念、悪か善みたいな観念があって、東洋では例えば、上下関係があったり、色々な要素があってより複雑になっていると思います。伝えたかったのは、西洋では善か悪かどっちかしかないというところに、いやそうではなくて、悪い行いではなくて、単に行為があるのみ、ということを伝えたかったんじゃないかと、アドリブで言った友人はそういうことだったんじゃないかと思います。

実はその友人は非常に才能があって頭のいい方なんですけれども、心が病んで精神病院に入っていて、撮影の時だけ精神病院から引っ張り出してきて、その彼が何かインスピレーションを得て発した言葉がこの台詞だったんです。あんまりカトリック的ではないかもしれません。

―― 少し仏教的な考え方だなとも思いました。

ギャスパー・ノエ監督
確かに、善と悪をどう区別するかは、人間が決められない部分、人工的にあるいは便宜上決めていることは多いですよね。

―― そして、本作のリアル感は群を抜いています。仮に、現実に起きている犯罪の現場を目撃するとしたら、この作品を観るという映像体験そのものではないかと思いました。今でも、暴行シーンは頭をよぎります。撮影にあたって、このリアル感を出すために監督が工夫した点を教えていただけますか?

ギャスパー・ノエ監督
実は、あれは全部デジタルトリックです。本当の暴力は振るわれていません。

例えば、男性が麻薬をやってハイになってクレイジーになっていくところに、ハエがブンブン飛び回るみたいな感じでカメラが飛び回っていますけど、あれもクレイジー感を出すためにあの撮り方をしたんです。お陰様でそれが結構面白く、リアル感のある映像に仕上がりました。リアルな部分には、もちろん一部ですけれどもCGIを使ったりもしています。

―― 加えて、このリアル感を出す上で、俳優陣(特にモニカ・ベルッチさん)とはどの様な会話をしたのでしょうか?面白いエピソードがもしあったらその辺も交えて教えて下さい!

映画『アレックス STRAIGHT CUT』,画像

映画『アレックス STRAIGHT CUT』,画像

ギャスパー・ノエ監督
まず、全員に「カメラの前では観ている人にそれがフェイクではない、真実だと信じてもらうように演じてください」と伝えていたんです。でも、例えばモニカさんの場合、地下鉄の中のシーンやベッドシーンもそうですけど、思いがけず色んなアドリブの会話が出てきて、モニカさんが笑い転げたりして(笑)

私はただガイド役みたいな感じで、「とにかく撮影を楽しんで、やりたいようにやって」という形で進めていきました。レイプシーンも乱暴は一切なくて、あのレイプ魔も実は後からズボンのチャックは閉じたままだったと気が付いたくらいです。でも、モニカさんは本当に本物っぽく最後まで叫びながら、あれだけ大胆にレイプシーンを演じられるというのは、本当に勇気のいることだと思います。それは彼女の演技力と勇気が成せる技だったと思います。

―― 確かに、画面に向けられた、非常に苦痛と苦悩に満ちたモニカさんの表情が頭から離れません。

ギャスパー・ノエ監督
あのシーンは全部シミュレーションの演技であって、本物ではありません。シーケンスを撮るごとに、毎回小さなビデオで白黒の映像を確認していたのですが、モニカさん自身が映像を見て「わぁー、本物みたい!」って言って大笑いしていたぐらい(笑)、確かに本当に真に迫った演技でした。

―― 一つ一つのシーンに破壊力が凝縮されていながら、作品としてはコンパクトにまとまっています。当然演技の力もあると思うのですが、一方で編集の仕方も影響しているのではないでしょうか?

ギャスパー・ノエ監督
編集というよりは、おそらく撮影のコンセプトだと思います。12~14ぐらいのシーケンスを撮っているんですけれども、ほとんど全部がノーカット。編集作業と言えば、何回も撮り直して、その撮り直したものの中で一番良いものを選ぶだけ。後は、それぞれのシーケンスをインサートで繋いだだけです。だから、そんなに編集で工夫していたわけではありません。

時系列を戻したことで、それぞれのカットが物凄く長くて、ラストシーンに近づくにしたがって段々悲劇的になっていく流れが『CLIMAX クライマックス』(2019年日本公開作)に似ているかなと思っています。

―― 「時は全てを破壊する」という副題がありますが、非常に心に残る台詞です。この副題の意味についても教えていただけないでしょうか?

映画『アレックス STRAIGHT CUT』,画像

ギャスパー・ノエ監督
実は、「時は全てを破壊する」というのは、最初のバージョンの副題として付けたもので、新しいバージョンであるストレートカット版は「時は全てを明かす」です。「明らかにする」あるいは「暴露する」といったような意味で、映画の中の台詞になったんです。

「時は全てを破壊する」といっても半分は建設的で、建設される部分があるからこそ半分は破壊的になるわけです。だから、半分半分なんです。「時は全てを明かす」も、ご覧の通り事実を少しずつ明かしていくっていう意味なんですけれども、それがストレートカット版の副題と言えるかどうかは分からりません。

―― 非常によく分かります。
最後に、監督から日本の映画ファンへのメッセージをお願いします。

映画『アレックス STRAIGHT CUT』, ギャスパー・ノエ監督インタビュー,画像

ギャスパー・ノエ監督
この新しいストレートカット版を観た方には、是非古いバージョンもBlu-rayで観ていただきたいと思います。この2つは全く同じ素材を使いながらも、全く違う作品になっています。それぞれ古いバージョンは、どちらかと言うとパズルを組み合わせたような形になっていて、新しいバージョンを観るとそのパズルが組み合わさっていく、時系列通りに組み合わさっていくみたいな感じになっています。ある意味、補完的な要素もありますし、是非両方を観て楽しんでいただけたらと思います。

皆さんの興味が湧くために付け加えておきますと、こういう映画はフランスでもヨーロッパでも世界では今はもう撮ることが出来ません。テーマ、撮り方、シーンなど色んな要素から言っても、もうこういう映画は将来的には一切撮れない、20年前だから出来た。実際、編集したのは2年前ですけれども、今だったら絶対作れない映画なので、是非観ていただきたいと思います!

実はこのストレートカット版はアメリカでは上映していないんです。多分、あまりにも怖くなって公開するのを止めてしまったのかなと思います(笑)

―― ありがとうございます!!

『アレックス STRAIGHT CUT』予告動画

キャスト

モニカ・ベルッチ ヴァンサン・カッセル ジョー・ブレスティア アルベール・デュポンテル 他

監督

ギャスパー・ノエ

音楽

トーマ・バンガルテル

提供:キングレコード
■公式Twitter:@AlexStraightcut
【2020年/フランス/シネマスコープ/5.1ch/90分/DCP】R18+

配給:太秦
公式HP:alex-straight.jp
(C) 2020 / STUDIOCANAL – Les Cinémas de la Zone – 120 Films. All rights reserved.
Photographer : EMILY DE LA HOSSERAY

10月29日(金)より新宿武蔵野館ほか
全国順次公開!

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