ロックウェル監督「かつての自分にもう一度出会ってほしい」映画『スウィート・シング』が描く希望と喜び

映画スウィート・シング,画像

アレクサンダー・ロックウェル監督
ラナ・ロックウェルさん
インタビュー

頼る大人がいない15歳の姉ビリーと11歳の弟ニコ、そしてその家族の物語を、監督の実の娘ラナと息子ニコを主人公に描き、スーパー16ミリフィルム撮影したモノクロとパートカラーの映像の質感など、一貫してインディーズにこだわり続けてきたアレクサンダー・ロックウェル監督による映画愛溢れる傑作『スウィート・シング』が公開中です。

今回は、アレクサンダー・ロックウェル監督が本作に込めた想い、そして、ビリー役を見事に演じられたラナ・ロックウェルさんにお話を伺いました!

映画スウィート・シング,画像

2020 年ベルリン国際映画祭にて

―― 懐かしさ、寂しさ、勇気など色んな感情が湧き上がってくる素晴らしい作品でした。最初に監督にお聞きしたいのですが、なぜこの作品を作ろうとされたのでしょうか?劇中にも登場するビリー・ホリディさんのことについても触れながら教えていただけますか?

アレクサンダー・ロックウェル監督(以下、ロックウェル監督)
まず、苦難の中をサバイブしていく子どもたちの物語を語りたいという感情がありました。子どもは苦難が過酷であれば過酷であるほど、それに抗う中で人間性を見せてくれるんです。

懐かしさを感じられたということでしたけれども、そういうところなのではないかと思います。大人の場合、色々な苦労を背負う中で萎縮してしまったり、負けてしまったりするけれども、子どもの場合は“そうはさせるものか”という反発心があります。“負けてたまるか”という中に希望を見せてくれる子どもたちは、美しさを見せてくれるんです。

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ビリー・ホリディはまさにそういう存在だと思っていて。幼少期から物凄い苦難を経てきた方だったわけですけれども、そういう中から這い上がってきた彼女から、子どものような美しさや希望が滲み出ていたと思います。

そんなビリー・ホリディの特徴を長女が演じたビリーに託しているつもりです。劇中のビリーとビリー・ホリディの2人は、そういうところで繋がっているんじゃないかと思います。

―― 過酷な状況という話がありましたが、ビリーを見ていると子どもには自立していく力があると感じました。ラナさんはビリーを演じていて、どんな女の子だと思いましたか?

ラナ・ロックウェルさん(以下、ラナさん)
おっしゃるように、ビリーも、映画に登場する少年のマリクもニコも、大人が考えているよりも強靭であり、力を持っていて、自立していく力を秘めているんだと思います。ビリーも大人が思っている以上に、そして、自分自身が思っている以上にそうなんじゃないかなと思います。

どういう女の子かというと、口数は多くないけれど静かに周りを観察しているような子なんじゃないかなと思っていて。だけども非常に力強さもある子。それは環境が環境だから必要に迫られて、弟のためにも、父親のためにも強くあらねばならない。こういう重荷はどんな子どもでも背負わせてはならない重荷だとは思うんですけれども。静かだから何もないわけではなく、静かな嵐、そういう子だと思います。

そして、希望を持っている子でもあると思います。ただ、それを表現する機会を与えられていないだけ。そこがマリクとの友情の素晴らしいところ。マリクは、本当にビリーをビリーのありのままでいさせてあげる友達です。そういうところが素晴らしいなと思います。

スウィート・シング,画像

―― もう一つ質問させていただきたいのですが、ウィル・パットさん演じた父親役のアダムについてです。お酒がとても好きで、経済力がない。だけれども、非常に優しいお父さんだと感じました。一方で、ラナさんのお父さんであるロックウェル監督は、どんなお父さんでしょうか?隣にいるので恥ずかしいかもしれませんけど(笑)

ロックウェル監督
僕は部屋を出た方がいいのかな(笑)

ラナさん
素晴らしい父親です(笑)

現場でも本当に父親のことを信頼しているので、そういう信頼関係の中で撮影が出来たのは助かりました。

例えば、ビリーが父アダムに髪の毛を切られてしまうシーンは、演技とはいえ自分の内側にあるようなものをさらけ出す場面です。そういうシーンは、やっぱり信頼出来る監督じゃないとなかなか難しいことだと思うので、そういう意味では助かりましたし、リスペクトしています。

ロックウェル監督
ラナと僕は非常に似ているんだ(笑)

いちいちエキサイトしちゃうし苛立っちゃうし、楽しい時は思い切り楽しんで、怒る時は怒る。感情の起伏がはっきりしている、情熱的な2人なんです。ニコの方は対照的にお母さんに似ていて、非常に静かな子です。そういう意味では、私と似ているからラナの感情の起伏が凄く読み取れるので、演出はしやすかったです。

加えて、ラナは私のテイストを分かりきっています(笑)小さい時から一緒に映画を観てきたし。僕は非常に嗜好が狭いのですが、娘はありとあらゆるものが好き。例えば、一緒にドライブしている時、娘が色んな曲を編曲してくれるんだけど、バッチリ僕のテイストに合うものを作ってくれる、好みのテイストを分かりきっているんです(笑)

―― お父さん(監督)は見抜かれているわけですね(笑)

ロックウェル監督
知り過ぎています(笑)

―― 一般的な子どもと大人についてお聞きしたいのですが、大人になっていくとビリーのような子どもとしての成長力が失われていくように思います。監督は大人と子どもの違いをどのように考えているのでしょうか?

ロックウェル監督
子どもは我々大人を見捨ててはいないと思うんです。なぜなら、我々もかつては子どもだったから、そして純粋でしたよね。肌の色がどうのということはさておき、この人は優しい大人なのか、優しくない大人なのか、優しければ一緒に遊ぶ。とってもクリアなわけですよね。

けれども、大人になっていくにしたがって色んな制限的な信念を自分に植え付けることになっていくわけです。大人になった我々はそれに抗わなければならないと思っています。本作でも、前作の「Little Feet」(2013)でも描いているというか訴えかけようとしていることは、自分自身の中にあるかつての子どもに、もう一度出会えるような作品を目指しているんです。

大人になっていくにつれ周りの色んなプレッシャーがあって、自分のありのままの姿を見せてしまうとそれには痛みが伴うので、どうしても大人として周りに同調してしまう。だからこそ、我々大人は純真無垢な子どもたちから、自分の中にある子どもの頃の自分自身から学べるはずだと思っています。

―― 深いですね。同時にテーマとして“何が幸せなのか?”ということも感じ取ることが出来ました。ダメな親に育てられても、幸福な家庭で育っても、子どもは自分の人生に下手に口出しをされない環境こそがとても幸せなのかなとも思いました。難しいと思うのですが、監督にとって子どもにとっても大人にとっても幸せであることの定義とは一体何なのでしょうか?

スウィート・シング,画像

ロックウェル監督
なかなか思考で“幸せとは?”を定義づけるのは難しいですが、例えば、この映画の中のシーンで、金持ちの家に忍び込んで、おめかしをしてアイスクリームを食べて、お互いに身の上話をして、それでも何の心配もなく添い寝出来てしまう。自分の一番暗い部分を明かした後でも、自然に眠りに入れるぐらいに信頼をおける。そういうことを感じ取れる瞬間こそが最大の幸せだと思います。

つまり、何も隠し事をしなくて済むような、馬鹿でいられるような信頼関係こそが子どもの幸せだと思っています。

ただ、大人になると世間的な形式があって、それに則って我々は「How are you」と言ったりするわけです。お酒でも飲まない限りは、その壁をなかなか打ち破ることが出来ないわけです。でも、子どもの自然な状態こそが一番幸せなんじゃないかなと思っています。

―― ちなみに、ラナさんはビリーを演じている中でどの瞬間に幸せを感じることが出来ましたか?

ラナさん
ビリーが幸せを感じている瞬間は、今自分が背負っている重荷について、あるいはこの先どうなるんだろうという不安を一々意識せず、そしてそれについて考える必要がなく、ただただ今の瞬間を生きることが出来ている時、ありのままの自分でいられる時だと思います。

ロックウェル監督
例えば、泳いでいる時とか、マリクと車に乗っている時なんじゃないかな。

関連記事:監督の実の娘 ラナ・ロックウェルがヴァン・モリソン「SWEET THING」歌う『スウィート・シング』本編映像独占初公開!

―― ところで、ラナさんは歌がとても上手で、色んな感情が歌詞に込められているところもとても素晴らしかったです。最後に日本の映画ファンに向けて、メッセージをお願いします。

スウィート・シング
ロックウェル監督
この作品は、アメリカから希望と喜びを訴えかける手紙だと思ってください。今、アメリカは物凄くネガティブな感情に苛まれていて、怒りや憎悪が蔓延っている世の中になってしまい、そんな世の中を生きなければならない子どもたちが可愛そうです。

一方で、アメリカにはビリー・ホリディのような希望の星がいるわけです。それはアメリカのみならず、世界にもそういう希望がそこかしこにあるわけです。

私は、個人的にはアメリカの同胞の皆さんよりも、日本の皆さんに兄弟愛を感じているんです。人間性的に共通するものがあると感じていますし、芸術という共通項があるわけだから感じるわけです。そういう兄弟たちのいる日本でこの作品が公開されるのはこの上なく嬉しいです。

ラナさん
この映画を観てくださる日本の皆さん全員と、私の心は共にあります。

是非、自分自身を振り返り、自分自身を楽しめる機会になれればなと思いますし、ビリーの持つ軽やかさ、喜び、光を感じ取ってくれればなと思います。そこから出てくる希望みたいなものと共鳴してくれればと思います。

地球の反対側にある日本でこの作品が上映されるというのは、「イカしてる!」って思っています。

―― 本当に素敵な、何度でも観られるとてもいい作品なので、日本の皆さんに紹介していきたいと思います。ありがとうございました!!

原題:Sweet Thing
2020 年|アメリカ|91 分|DCP|モノクロ+パートカラー
日本語字幕:高内朝子
配給:ムヴィオラ
公式HP:http://moviola.jp/sweetthing
©️2019 BLACK HORSE PRODUCTIONS. ALL RIGHTS RESERVED.

ヒューマントラストシネマ渋谷、新宿シネマカリテ、アップリンク吉祥寺他全国順次公開中

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