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夜は短し歩けよ乙女」、「有頂天家族」など、数々のベストセラー作品をもつ森見登美彦さんの大人気小説「ペンギン・ハイウェイ」(角川文庫刊)がついにアニメーション映画『ペンギン・ハイウェイ』として映画館に登場します。8月17日(金)の公開が待ちきれないファンに、本作の石田祐康監督の想いをお届けします。

-いよいよ公開が近づいてきました!今の気持ちをお聞かせください!!
心落ち着かない気持ち、だいぶフワワ~ンとしています。会社的には普通に次の仕事をしなくてはいけないんでしょうけど、気持ちが落ち着かず、ボンヤリしながら落書きをしたり、インタビューを受けてなるべく宣伝に協力したりしています。
ほんとに気持ちとしては今、余計にフワフワとした気持ちが強くなってきて、現実味が、、、なかなか、、、ほんとにどういう風にこの作品を観てもらえるのか、ちょっと考えると不安な気持ちにもなりますしね。楽しんでいただけたという声を聴くと安心もするんですが、ある意味考えないようにしているところもあります。

-原作に忠実に描かれている印象をうけますが、注力したポイントはあるのですか?
そうですね、忠実にやりたいというのは確実にありました。長編の作品/映画に関してはまだまだペーペーなので、そんなペーペーが森見さんという有名な作家さんの原作をお借りして創るということに対して、生意気やっちゃいかんだろうな、という想いがありました。そこは忠実にやるということは決めていたんです。
それと同時に、これはちゃんと自分の作品にもさせてもらいたいということもお会いした時にちゃんとお伝えしたんですよ。だから、ちょっと矛盾しているんですけれど、両方の眼差しが確実に必要だろうという意味で取り組んでいます。
で、どういう風にやったら忠実になれるのか、それは脚本の上田誠さんもほんとに慎重に考えて下さいましたし、自分なりにも考えました。確かに、今にして思い返すと、何故忠実になれたのか?色々考えるべき要素がいくつかあったと思います。

原作を読むと、アオヤマ君が一人称視点で日記形式っぽく日々出会うことをつぶさに書いているじゃないですか。その情報量と書き方の豊かさでもって、全部が全部大切に思えるんですよね。ですが、映画にするとそれを全部描けないものですから、取捨選択しないといけなくなります。だから、大部分を削っているんですけれど、でも削ってもその印象を崩さないように描くためには、やっぱり“芯”になるものが必要で、創る前も今もブレずに思っているんですけど、それは“アオヤマ君の想い”ですよね。
文庫本の巻末のあとがきを書いた萩尾望都氏が、原作を読み終わった後に「アオヤマ君とこの本を抱きしめたくなる」と書いていらっしゃいますよね。確かにそうなんですよね、僕も読んで、しかもそもそもこの作品を選んだ理由でもあるんですけど、アオヤマ君のキャラクター性にやっぱり惚れ込んで、これは見上げた少年だと、この子を応援も出来るし、この子の気持ちにもなって作れると。そういうのもあってこの子の想いをちゃんと丁寧に、誠実に書けば、ほかの日記形式で書かれた細かいエピソードを省いても、印象としては最後にちゃんと抱きしめたくなる、そういう気持ちになる、というのはあったと思います。
ですから、それは創っている最中も、脚本であったり、コンテであったり、それ以降の工程も全部そうなんですけど、迷った時はアオヤマ君の気持ちに立ち返ると。アオヤマ君がそういうお堅い少年が、自分が理解できない領域~それは恋心なんでしょうね~を、自分の中で分かるというか腑に落ちる、それをようやく認める、という、それ自体が同じなら同じ印象になるだろうという感じでしょうか。
だから、例えばラスト付近の構成は原作とはすごく変わっているんですよ。お父さんとアオヤマ君の会話の件は映画では一切ありませんし、ペンギン号のところも原作にはないので、結構所々違うんですよね。
違うんですけど、ただ最後に観終わった時の印象として、ほんとにこいつは見上げた少年だ、これはもう良い子だ、最後まで見守って良かった、と観ていて清々しくなるような気持になるその読後感は変わらないように、あのペンギン号の所も、自分なりの想いと願いを込めてプラスアルファくらいのさじ加減で描いたことです。あのアオヤマ君を応援したくなるような、未来に展望を感じるようなシーンになればと。アオヤマ君がこれからお姉さんに会うんだという信念を語る、そこに通じるほんのヒントになればと。

-希望が込められた作品なのですね。
観てくれた方の印象が、きっとそういう風になってくれたらいいなと。僕としては完全にアオヤマ君を応援する気持ちだったので。嬉しかったのは、実際に森見さんにもラストについてお話した時に「映画はあれでよかったです。」とおっしゃっていただいて、僕としても安心しました。

-純粋な子供のこころって非常に純粋、これが最後の涙につながる、監督は何が人を感動させると考えますか。
ペンギンに限った話ではないんですけど、好きだなと思える作品は何というのか、澱み(よどみ)がなかったり、衒い(てらい)がなかったり、ただ一途(いちず)だったり、そういう人物であったり物語であったりにグッときます。そこからくる健気さだったりとか、頑張っている人をけなすなんてことはできないから、どんな形であれ、その人が真剣に頑張っているところに、心を動かされます。
つまりは、少なくとも自分の中ではですけど、人を動かしたい感動させたいというか、そういったものを描くために、今自分がとれる手立てはそれしかないし、あまり手管(てくだ)が足らない分、ほんとそれぐらいしか、それぐらいしかないプラスで、自分が惚れるのはそういうものであるというのが相俟って、それがほんとに好きで信じて描いてます。
その点において、アオヤマ君はほんとにそういう主人公だったから好きになっちゃった。それとは違うパターン、映画ならではの経験豊富な語り口と巧みさで、人を感動へともっていくというような、その、、、なんだろう、複雑系というかプロフェッショナルな技が扱える人は逆に言って憧れというか、そういうのも学んでいかないといけないんだろうなとは思うんですけど、少なくとも自分の中ではそういう段階なんですよね。それしかできないと思って、それを信じてアオヤマ君を描いています。だから正直まだまだ拙いんだと思います。

一方で“世界の果て”も同時進行しています。無常観なども描かれていますが、例えば「真理だね」といった台詞のタイミングはどのような演技指導が行なわれたのですか?
「真理だね」に関してはもちろん重要だと考えていました。始まりがあるものには終わりがあるっていうことですよね。この作品の底辺の部分で支えている、そういう無常観だったり、不条理だったり、人間には理解が及ばないものであったりとか、そういうことにおいても、ちょっと表情にしてもだいぶ色々こだわってはいるんですけれど、それをどのような形で受け止めて、どのようなニュアンスで口に出すのか?というのは、お姉さんはちょっと悲しそうにも悟ったようにも何ともとれるような、あのような表情で描いているんですけれど、それは声でも何度か蒼井さんに挑戦していただきました。
ああいう決め台詞的な所は何度か録ってます。確かに、そのワンテイク、ワンテイク、それぞれに良さがあるテイクで、蒼井さんは上手なものですから、ニュアンス豊かに言ってくださるんですけど、あのシーンにおいて欲しかった無常観、哀愁とでもいう感じは、いくつか録ったうちにこれだな!と言うのがきたんですよね。それは蒼井さん共々、音響監督と一緒になって創り上げていったという感じもあります。この辺が丁度いいんじゃないか?というのを、何か、蒼井さんもそういうやり方は好きだとおっしゃっていましたし、こちらもまだ経験が不足しているからなのか、やってみてこれだ!というのを探るようにやらせてもらったところはあります。

お姉さんが欠伸(あくび)してそのまま倒れるシーンでは、欠伸一つとっても塩梅(あんばい)が難しくて、ほんとに何度か探り探りやらせてもらったりしているんですよね。
で、ああいう台詞に代表される様な、この作品の底の部分に描かれるその感覚というのは、この作品の表層部分に観られる“かわいらしさ”だったり“親しみやすさ”だったりも好きなんですけれど、むしろ敢えて言ったら、それ以上に好きかも知れない。自分としてはそこに一番惚れたかもしれないというぐらいに魅き付けられるものはあったんですよね。
あの、なんだろう、、、あんまりそこに関して具体的に話していないのかもしれませんが、脚本であったり、コンテだったり、なんかちょっと感覚的な部分に入ってくるもんですから。“深淵部”というか、この作品に“光”と“闇”があるとしたら、“闇”の要素というのも、ちょっと感覚的な部分でもあるもんですから、コンテを書く段階でどういう風に見せたら、そのなんだろう、、、どこまでが理解が及んでどこまでが理解が出来ないという感じが出せるのかな?というのは、だいぶ気を付けた、探ったところはありますね。
だから作中に出てくる謎として一番の“海”なんですけど、“海”から派生して街がおかしいことになったりとか、それにその“海”の中に入ったらああいうことになっているわけですし、ああいうカット、描写それぞれに自分なりに思う、分かることと分からないことの、微妙なバランスというのはだいぶ考えました。それは最終的には誰これに相談してやるというものでもなく、自分なりのかなり描き手としての感覚的なところに依ったところがあります。

-森見さんは『ソラリス』をイメージしたそうですが、それは感じましたか?
感じましたね。『ソラリス』は原作本も映画も、新しく作られた作品も観ました。とても魅かれる設定です。『ソラリス』で甦った亡き妻が私って何だろう?と思い悩んでいる姿は、お姉さんに重なって、『ソラリス』を読んだことで“映画ではもう少しだけ踏み込んで描きたいな”と思いました。原作にはなかったアオヤマ君のいないお姉さん視点のシーンを出したりもしたんです。最後にソラリスの海が創った謎の街のイメージ、それも地味に影響を受けています。

-監督は今の世の中をどのように見ていて、それをどのように子供たちに伝えたいのでしょうか?
自分ってどちらかといえば前時代的な人間だと感じていて、今の世の中、複雑系になり過ぎていると言ったらいいのでしょうか。頑張るというシンプルなことに対しても色んな突っ込みがあって「それ無駄なんじゃないか?」とか「それってそういう苦労があるけどいいの?」とか、いろんな意味で茶々が入るとか。
世間的なビッグなニュースで言うと、オリンピックでしょうか。数十年前のオリンピックとは空気が違いますよね。それは、今のこの複雑系になった現代なら、あれやこれや茶々入れられるのも分からんでもないんですけど、単純に好き嫌いで言えばあまり好きじゃないですね。その、、、純粋に頑張らせてくれない感じが、あんまりシンプルじゃないんですよね、シンプルじゃないというより、人類に余計な知恵がついたという感じもします。
そういう点で、アオヤマ君の様な主人公、人間像を見ていると、自分は潔く、快く、晴れ晴れとした気分になれますよね。自分が頑張るということに疑いがないというか、それは、もう、そういう人をなんだろう、、、描く、いや描きたかった。このアオヤマ君に出会えたのはほんとに凄く良かったですし、今後ももし描くとしたらそういう人を描きたいな、それは根本的にある気がします。
その点においてアオヤマ君は一つ問題提起になりますよね。余計な情報を入れずにシンプルにアナログに一つノートを作って、一生懸命自分が良いと思ったものをありのままに澱み(よどみ)なく吸収して、それを素敵と思うままに全て書き記す。そして、お姉さんに出会って、最初はお姉さんへの気持ちが理解できないものの、それを悟ってからは信念と言い切って、本当に澱みなく進もうとする姿は、この時代にあってとても貴重に思えます。あっちやこっちに目移りするのは現代ではいとも簡単ですが、それは嫌です。でも自分だってこの時代に生きているとそうなりかねないとも言える。それに負けないようになりたい、、、くさいですが子供に伝えたいことと言えば、それはアオヤマ君を見てもらいたいということかもしれませんね。
ぼんやり思っていることですが、、、そう思っている気がします。


『ペンギン・ハイウェイ』は8月17日(金)全国ロードショー!


~編集部より~
石田監督はアオヤマ君が好きで描きたかったと話をしてくれました。その話を聞いていて、アオヤマ君は石田監督に描いてもらったことをとても喜んでくれたのではないかな、と感じました。迷ったら、シンプルに純粋さや健気さを追いかけることに心をむけている監督の背中に、日本のアニメーションのさらなる希望を見た気がしてなりません。石田監督!これからも素敵な作品を創り続けてください!!応援しています!!

■石田祐康監督プロフィール
1988年生まれ、愛知県出身。愛知県立旭丘高等学校美術科に入学。在学中にアニメーションの制作をはじめ、2年生の時に処女作「愛のあいさつ-Greeting of love」を発表。京都精華大学マンガ学部アニメーション学科に進学し、09年に発表した自主制作作品「フミコの告白」は、ぐいぐいと惹きこまれるスピード感と圧倒的なクオリティで話題に。第14回文化庁メディア芸術祭アニメーション部門優秀賞、10年オタワ国際アニメーションフェスティバル特別賞、第9回東京アニメアワード学生部門優秀賞など数々の賞を受賞。11年に同大学の卒業制作として発表した「rain town」も第15回文化庁メディア芸術祭アニメーション部門新人賞などを受賞し、2年連続の受賞となった。
13年、劇場デビュー作品となる陽なたのアオシグレを発表。監督・脚本・作画を務めた本作は、シンプルなストーリーながら疾走感あふれる映像が話題となり第17回文化庁メディア芸術祭にてアニメーション部門の審査委員会推薦作品に選出された。14年にはフジテレビ系「ノイタミナ」の10thスペシャルアニメーション「ポレットのイス」を制作。本作で劇場長編作品監督デビューを飾る。

■ストーリー
少し不思議で、一生忘れない、あの夏が始まる。
小学四年生のアオヤマ君は、一日一日、世界について学び、学んだことをノートに記録する。毎日努力を怠らず勉強するので、「将来は偉い人間になるだろう」と思っている。そんなアオヤマ君にとって何より興味深いのは歯科医院の“お姉さん”。気さくで胸が大きくて、自由奔放でミステリアスなお姉さんをめぐる研究も真面目に続けていた。ある日、アオヤマ君の住む郊外の街に突如ペンギンが現れ、そして消えた。さらにアオヤマ君は、お姉さんがふいに投げたコーラの缶がペンギンに変身するのを目撃する。
「この謎を解いてごらん。どうだ、君にはできるか?」
一方、アオヤマ君は、クラスメイトのハマモトさんから森の奥にある草原に浮かんだ透明の大きな球体の存在を教えられる。やがてアオヤマ君は、その謎の球体“海”とペンギン、そしてお姉さんには何かつながりがあるのではないかと考えはじめる。そんな折、お姉さんの体調に異変が起こり、同時に街は異常現象に見舞われる。果たして、 お姉さんとペンギン、“海”の謎は解けるのか― !?

■予告動画

■コピーライト
(C) 2018 森見登美彦・KADOKAWA/「ペンギン・ハイウェイ」製作委員会

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■原作小説の評価・感想
平均評価 4.0点 (2018年8月12日時点)
・大人と子供、べたべたと依存しあう姿がないのが爽快とも言えます。そこがとても気持よい世界でした。そして、森見さんの文章の句読点の打ち方はとても美しいのです。(夕暮れ さん)
・ストーリーを追うよりも、アオヤマ君の研究記録として楽しく読めた。彼がひとつ失ってひとつ成長するラストに、何とも言えないほろ苦さが。(かんぞ~ さん)
・ラスト二行には、胸をギュッとされた。(jhm さん)
・今作は凄い! はっきり言って…全てがチャーミングで そして切なく、そして前向きで強い。全てのページから夏の匂いや情景を感じられ、この世界観に引き込まれている自分がいました。(za_zo_ya さん)
・不覚にも最後の一行で泣いてしまいました。(yuko1510 さん)

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8/17公開『ペンギン・ハイウェイ』

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