映画『偶然と想像』は入門編!濱口監督のコンセプトは偶然がどう働くか【インタビュー前編】

映画『偶然と想像』濱口竜介監督インタビュー,画像

映画『偶然と想像』
濱口竜介監督インタビュー【前編】

今年6月に開催された第71回ベルリン国際映画祭で銀熊賞を受賞した濱口竜介監督映画『偶然と想像が、12月17日(金)より全国公開です。

本作は、「偶然」と「想像」をテーマにした3話オムニバスから成る濱口竜介監督初の短編集。濱口監督自身が『ハッピーアワー』等のプロデューサー高田聡氏とともに企画立ち上げを行い、2019年夏から約1年半をかけて製作。脚本はすべて濱口監督自身が手掛けています。

濱口監督へのインタビュー前編では、それぞれの物語で大切にされたことや狙いについてお話を伺いました。

濱口竜介監督から動画メッセージ

―― ベルリン国際映画祭での銀熊賞受賞おめでとうございます!
『偶然と想像』というタイトルの中に第一話「魔法(よりもっと不確か)」、第二話「扉は開けたままで」、第三話「もう一度」が結び付けられていると思うのですが、それぞれのストーリーのコンセプトを教えていただけますか?

濱口竜介監督(以下、濱口監督)
コンセプトというものを考えたことがほぼないのが正直なところです。

ただ、3話作るので雰囲気はある程度考えていて、この3話は全7話あるうちの最初の3話になるので、シリーズ全体の中でも入門編です。

第一話は本当の入り口というところですよね。一番入り易い。凄く日常的で、三角関係もありふれたテーマですけど、その分、誰でも共感して、思いをめぐらせることが出来るものだと思います。それをポップな感じで描けたらいいなというのが第一話です。

「偶然」が一つのテーマになっていて、その「偶然がどう働くか」が全体を貫くコンセプトなんですけど、第二話に関しては、偶然が悪く働くとすればここまで悪く働いてしまう事例というか、3話の中では一番ダークな雰囲気、何だったらちょっと嫌な話です。

入門編なので最後には良い気持ちで劇場を出て行っていただきたいということもあり、第三話に関しては、「偶然」が起こし得る最もいい可能性みたいなもの。偶然の良い方のポテンシャルを描いて終われると今回は良いだろうなっていう形です。

映画『偶然と想像』濱口竜介監督インタビュー,画像

濱口竜介監督

―― スッキリしました(笑)
第一話では、芽衣子(役:古川琴音さん)が「私は愛する人を傷つけることしか出来ない」と語り、仲良しのつぐみ(役:玄理さん)と元カレである男性(役:中島歩さん)が一緒になるという「偶然」が訪れます。最終的に芽衣子は新しい自分を見つけたからこそ、あそこで自撮りをしているのかなと感じました。掘り下げていくと色々なことを想像してしまうのですが、どんな狙いで物語を作っていったのでしょうか?

偶然と想像_クレジット表記,画像

濱口監督
どう書いているかというのは、自分でも本当に分からないと言えば分からない。ただ、大まかな話の流れは一番最初に作ります。その時に出会い方とかも含めて、“こんなことあるかな?こんな馬鹿馬鹿しい話ってあるかな?”みたいな(笑)。

例えば、元カレだと気付いたこの女性は、彼の自宅兼会社に行かねばならない。これは結構エキセントリックな行動なわけです。相当この子はキテル(笑)。

なので、そういうことをしてもおかしくないキャラクターじゃないといけないわけです。そのキャラクターが全編を通じて保たれなければいけない。そういう風に各キャラクターがこういう展開をするのであれば、こういう行動原理を持っていないとおかしいっていうところがまずあります。

何度か書き直しをするわけですけども、二度目に書く時は行動原理をもうちょっとちゃんと合わせていく。そういう風にしていくと、やっぱり一人の人間に多少見えてくるところが恐らくあるんです。

そうなった時に、“この子が一体どういう心境なのか?何を感じてそれをやっているのか?”は分からないけれども、それ以上に“この子は生きているんだな”っていう感覚が加わってくると、分からないということも含めてそのキャラクターの魅力になっていくところがあるんだと思っています。

つまり、脚本を書く時にやっているのは、一人の人間として行動原理はどういうものなのかを考えること。一方で、その行動原理を持った人間が集まってくるので、自分の行動原理を通せるとは限らないわけです。そういう時に、行動原理はひっくり返されてしまうということも含めながら書いていく感じです。

―― 特に今回は「偶然」が入っているから、二重にひっくり返されるのですね。

濱口監督
そうですね。二重三重にひっくり返しが起こる感じだと思います。

―― それだけ脚本を練りながらも、リハーサルを重ねられると伺いましたが、リハーサルの中で変わっていったものはあるのでしょうか?

濱口監督
今回はなかったです。

『ハッピーアワー』(2015年)の時は物語自体が大きく変わったのですが、今回は物語の流れが大きく変わるということはあまりなかったです。ただ、言い回しであるとか、言いづらそうな台詞を消したり、そういう細かな微調整は凄くしました。

そのことで、台詞と役者さんの親和性みたいなものが上がっていく感じはあったと思います。

―― なるほど。続いて、第二話に関しては、性的誘惑に弱い奈緒(役:森郁月さん)が自己否定しているけれども、聡明さの光を当てた時に、決してダークな世界に落ちているわけではなく、解放される。ラストシーンには驚きましたが、「偶然」の落としどころが意図せず悪い方向にいくことはあるにせよ、あまり悪い物語には感じませんでした。

偶然と想像_クレジット表記

濱口監督
ありがとうございます。そう見ていただけたら凄く嬉しいです。

キャラクターが状況的には決して明るい状況では全くないわけですけど、一話、二話、三話を通じて状況はどうであれ個人が生きる力を手に入れたところで終われるのが良いということは、短編・長編に限らず思っていることです。

なので、第二話をそういう風に受け止めてくださるのは凄くありがたいです。

―― 詩を読んでいるような雰囲気に包まれていて、しかも難しいことを言っています。渋川さん(瀬川役)、森さんも色々と考えられたと思いますが、監督からの演出としてはどんなことをお伝えしたのですか?

濱口監督
自分がやっているのは台詞を書いて覚えていただいて、大まかな動きをつける。狭い空間なので出来るだけ空間全体を使えるような、360度余すことなく使えるような動きまでは作るんですけど、後はお任せです。

そこで生まれている感情的なニュアンスみたいなものは、全て役者さんが相手役との関係の中で作ってくれているものだと思います。

―― そして、第三話に至っては、ラストシーンの二人を観ていて泣きそうになりました。
価値観を自分一人では広げることが出来ないようなところでも、相手がいたり、偶然によって変えてくれることになる。新しい世界の扉を一歩踏み込むためには、寛容になったり、色んなことを考えることが大切なんだというメッセージを受け止めさせていただきました。

偶然と想像_クレジット表記

濱口監督
ありがとうございます。

―― 台詞も長くてずっと掛け合いが続きます。俳優陣は大変だったのではないでしょうか?

濱口監督
俳優さんに聞かなければ分からないですけど、大変だったと思います(笑)

今回はある程度時間があったので、ちょっと贅沢を言って「(台詞を)覚えずに来て、本読みをしながら一緒に覚えてほしい」とお願いしました。

本番で覚えていなかったら恥ずかしいのは役者さんなので大変だと思いますが、癖がつかない状態でずっと本読みで台詞を入れて、本番でどうなるかを皆さん楽しんでやっていただけた。厳しいシーンもあるんですけど、本番で生まれてくるものを何より役者さんたちが楽しみながらやっていただけたんじゃないかと思います。

(後編:近日公開!)


キャスト

古川琴音 中島歩 玄理 渋川清彦 森郁月 甲斐翔真 占部房子 河井青葉

監督・脚本

濱口竜介『ドライブ・マイ・カー』(監督) / 『スパイの妻』(共同脚本)

プロデューサー:高田聡
撮影:飯岡幸子
録音:城野直樹 黄永昌
美術:布部雅人 徐賢先
スタイリスト:碓井章訓
メイク:須見有樹子
エグゼクティブプロデューサー:原田将 徳山勝巳
製作:NEOPA fictive
配給:Incline
配給協力:コピアポア・フィルム
宣伝:FINOR / メゾン
(2021年/121分/日本/カラー/1.85:1/5.1ch )
公式HP:https://guzen-sozo.incline.life/
©︎ 2021 NEOPA / fictive

12月17日(金)
Bunkamuraル・シネマほか全国公開

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