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9月8日(土)よりシネマート新宿ほか、全国順次ロードショーとなる映画『1987、ある闘いの真実』は、拷問中に亡くなってしまった一人の学生の死をきっかけに国民が国を相手に戦った、1987年の韓国民主化闘争を描く衝撃の実話です。今回は、『ファイ 悪魔に育てられた少年』(2013年)が韓国で大ヒットを記録し、本作品でもその実力を存分に発揮されたチャン・ジュナン監督にお話を伺いました。

Q.パク・クネ前政権下ではこの作品の制作が困難を極めたと伺いました。
一番最初にオファーを受けた時はパク・クネ政権下だったのですが、脚本作業は秘密裏に進めました。本来は、生存者にインタビュー取材を行って制作するべきなのですが、この作品の存在が漏れてしまうと我々に不利益が及ぶ可能性があったため、文献資料を集めることで作品を作り上げました。制作中、本当に観客の皆さんに届けることができるのか半信半疑でした。
1987年は奇跡のような出来事が起きた年だと思いますが、私達がこの映画を作る過程も当時と似た奇跡的なものでした。崔順実(チェ・スンシル)ゲート事件が明らかになり、パク・クネ前政権の腐敗が明らかになり、政治的な状況がダイナミックに変貌を遂げるなど、私たちがコントロール出来ないような状況が次々と繰り広げられました。
そのような状況において、この作品に参加することを表明してくれた俳優陣の勇気には大変感謝しています。観客の皆さんに届けることができたのはまさに奇跡。迷信は信じないのですが、時より誰かがどこかで私たちを見守ってくれているように感じました。
ちなみに公開数週間後には、文在寅(ムン・ジェイン)大統領が、遺族の皆さんと一緒にこの作品をご覧になりました。状況の変化をご理解いただけるエピソードではないでしょうか。

Q.家族を殺されたパク所長が、任務遂行のために「本当の地獄を知っているか?」とハン看守を追い詰めていくシーンが印象的です。あのようなやりとりは実際にあったのでしょうか?
警察のパク所長が刑務所のハン看守に対して、額縁に写った家族写真を見せ、「(家族を奪われるという)本当の地獄を知っているか?」と追い詰めていくシーンは、実話というより映画的な演出があったシーンです。フラッシュバック映像と音響効果を活用し、新しい映画的な要素を醸し出すべく、隣の部屋から聞こえてくる悲鳴の声とリンクするような感覚を演出しました。緊迫感のあるシーンでしたので、本当にヒヤヒヤしながら撮影をしましたが、キム・ユンソクさんとユ・ヘジンさんの見事な演技で立派なシーンを作り上げることが出来ました。
実は、観客の皆さんが色々な解釈ができる余地を残すシーンがあります。
北朝鮮出身のパク所長が、彼の父親が目の前で竹やりによって殺されたという話を披露するシーンです。竹は南(韓国)で育つ植物ですので、彼が生まれ育った北朝鮮では一般的ではありません。南北のイデオロギーの対立を語る時に、象徴として竹やりが用いられるので竹やりを引用しています。それを聞いて観客の皆さんは、発言通りにパク所長が真実を述べているとも解釈できるし、(北にはないはずの竹やりで殺されたということは)単身で南に渡った彼が生き残り、自分の利益を得るために作り上げた嘘の話という解釈もできるようにして謎を残しているのです。パク所長役のキム・ユンソクさんとは深く話し合いを重ねて撮影したシーンです。

Q.民主化運動家のキム・ジョンナムが教会の窓に掴まっているシーンも印象的ですが、あのステンドグラスに光が差し込んでくるシーンの意図やエピソードを教えて下さい。
この映画は歴史の事実を伝える作品なので、観客の皆さんが事実として受け止められるように映画的な演出を最大限排除するように作りました。例えば、オープニングではカメラワークが意識されないように、ニュースやドキュメンタリーの撮影手法を活用しました。
一方で、ご質問の教会のステンドグラスのシーンは、私が映画的な演出をしてみたいと欲を出したシーンです。「時間の浪費で退屈なシーンでは?」という意見も制作側からあがり、必要かどうか熱い議論を交わしました。完成した作品をみて、制作側に交渉してでも取り入れて良かったと思いました。

Q.報道の自由に対して監督の想いを聞かせて下さい。
どのように歴史が作られ、どのように歴史が変化していくのかをこの作品を通じて伝えているつもりです。そして、各々がそれぞれの置かれた立場で、良心を守る事がいかに重要で、いかに大きな力を発揮するのかが理解できると思います。
映画の中に登場するユン記者は、独裁政権に立ち向かい真実を報道しようとしています。残念ながら、ユン記者はその後東京特派員として勤務したものの、働き過ぎによる過労死が原因で亡くなっていますが、彼はマスコミの力がいかに大きな力を発揮するのかを世に知らしめ、私達に伝えてくれていると思います。

国民が立ち上がり、国と闘った韓国民主化闘争の衝撃の実話を描いた映画『1987、ある闘いの真実(1987 When the Day Comes)』さらに、この映画の中で女子大生のヨニが講義で見ていた光州(クァンジュ)事件のビデオは、日本でも大きな話題となっている映画『タクシー運転手 約束は海を越えて』に登場するドイツ人記者ピーター(実際にはドイツ公共放送連盟東京特派員のユルゲン・ヒンツペーター氏)が撮影した実在する映像を利用しています。こういったものも、韓国の歴史を変えさせたと思っています。繰り返しになりますが、マスコミの力がいかに大きいものかを考えるきっかけになるのではないでしょうか。

Q.監督は1987年には高校生で、映画の中で抗議運動に参加していた学生よりも少し下の世代です。だからこそ客観的な立場で描くことができたのでしょうか。
複雑な側面があるのですが、1987年に大統領の直接選挙の権利を国民は勝ち取りました。しかし、その後行われた選挙では政権への対立候補者を一人に絞れず、軍事政権を引きついでいる盧泰愚(ノ・テウ)政権が誕生してしまいました。国民は勝利を獲得した一方で、敗北感も同時に抱いてしまったのです。
その影響で、私が大学生になった時もデモ運動は続き、そこでも学生が亡くなってしまいました。私も関連するデモに参加していましたし、催涙弾も浴びました。なので、1987年当時の雰囲気に完全には浸りきっていないかもしれないですが、十分に感じてはいました。適度な距離間があったことで客観的に捉える視点を持つことができたと同時に、その時代の雰囲気を取り入れることが出来たからこそ、このような作品を制作することができたと思います。
映画が公開され、当時を熾烈に生きてきた方々から、「自分自身はまだその中に閉じ込められていて、客観的に見つめることができなかった。この作品でようやく客観的に見つめることができ解放された、ありがとう!」という言葉を頂き、私も非常に嬉しく思いました。

Q.パク・クネ前政権下でもメディアに圧力がかかっていたことは驚きでした。今後起きないことを願う一方で、なぜ歴史が繰り返されるように弾圧や圧制が起こってしまうのでしょうか。
この映画は歴史的な事実を扱っています。
歴史は一つずつ足跡を残していき、後に続く歴史に影響を与えていきます。韓国の現代史について紐解くと、韓国は分断されていて、戦争を経験したり、(軍事独裁政権の)朴正煕(パク・チョンヒ)政権が誕生したり、阪本順治監督の映画『KT』にもあるように金大中元大統領が日本で拉致されたり、学生運動もありました。朴正煕(パク・チョンヒ)政権が終焉を迎えても、この映画で描いたように独裁政権を継承したような軍部独裁の時代が始まるのです。このように大きなエネルギーや足跡を残しながら、今に至っています。
1987年、韓国では大統領の直接選挙制が始まり、憲法が改正され憲法裁判所が作られました。昨年、パク・クネ前大統領もその憲法裁判所で審判を受け、法律によって大統領の座をはく奪されています。歴史というのはお互いに影響を与え、影響を受けながら続いていると思っています。私が本作品のシナリオを書いている時に、ろうそく革命が韓国で起きたことを悲しく思いました。広場で人々が革命を起こした出来事を描いている最中に、30年経って今また同じことが起きている、なぜだと。しかしながら、人々がまた民主化に向けて半歩踏み出すことができたことも感じました。遅いかもしれませんが、歴史が前に進んでいると信じたいと思いましたし、前に進むことを期待しています。
なんだか歴史学者みたいな話ですね(笑)

Q.「あの日がくれば」という歌が表現しているのは、理不尽なことがない理想的な社会のことだと思いますが、監督はその歩みが進んでいると思われますか。
そう信じています。
1987年、私達はとても純粋で、熾烈な闘いを通して独裁政権から大きな権利を勝ち取ることが出来ました。その時に唄っていた歌が「あの日がくれば」という歌です。この歌は「今現在の私たちにも有効ですか?」と問いかけたいとの想いからこの作品を制作しました。
つまり革命で大きな権利を手にした後、私たちはどのように生きてきたのかという事です。
例えば、マンションの値段が日々高騰していますが、それはいわゆる386世代(※)と言われる人々によって値上がりしているのではないか。ですから、あの時のことをもう一度振り返って欲しい、その鏡となるような役目をこの映画が果たして欲しいと思いました。この映画を覗き込むことによって、美しかった純粋だったあの時代を振り返って欲しいという想いを込めています。

『1987、ある闘いの真実』は9月8日(土)よりシネマート新宿ほか、全国順次ロードショー !


<編集部より>
登場人物それぞれの立場や想いがひしひしと伝わり、当時の韓国に引き込まれるような圧倒的な緊迫感に包まれる本作品。全員が主役のような輝きを放ち、私達観客に真正面から突撃してくるような素晴らしい映画が、難しい状況において奇跡的に誕生したことを知りました。終始穏やかにお話をして下さった監督から溢れる情熱とメッセージが、韓国だけではなく隣国のここ日本、そして世界に広がり、未来に影響を与えてくれることを信じてやみません。チャン・ジュナン監督素晴らしい作品をありがとうございました!

※386世代とは、韓国において1990年代に30代(3)で、1980年代(8)に大学生で1987年の民主化宣言まで民主化学生運動に参加していた者が多い1960年代(6)の生まれの世代。
■監督
チャン・ジュナン
1970年生まれ。地球をエイリアンから守ろうと奮闘する青年を描いた『地球を守れ!』(03・未)で、長編映画監督デビュー。続いて、韓国の釜山映画祭が企画した、釜山と愛をテーマにしたオムニバス映画『カメリア』(11)で、タイのウィシット・サーサナティヤン監督、日本の行定勲監督との競作を果たす。その後、クライム・サスペンス『ファイ 悪魔に育てられた少年』(13)が、韓国で大ヒットを記録する。前作でも本作でも、しっかりと練り上げられたキャラクターと、先の読めないサスペンスフルな展開が高く評価さ れ、今後が最も期待されている監督の一人である。

■キャスト
キム・ユンソク (『天命の城』『ファイ 悪魔に育てられた少年』)
ハ・ジョンウ (『トンネル 闇に鎖された男』)
ユ・ヘジン (『タクシー運転手 約束は海を越えて』)
キム・テリ (『お嬢さん』)
ソル・ギョング
カン・ドンウォン
パク・ヒスン
イ・ヒジュン
ヨ・ジング

■ 予告動画

■ コピーライト
©2017 CJ E&M CORPORATION, WOOJEUNG FILM ALL RIGHTS RESERVED

提供:ツイン Hulu
配給:ツイン
宣伝協力:ブレイントラスト

■ 公式ホームページ
1987arutatakai-movie.com




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国民が立ち上がり、国と闘った韓国民主化闘争の衝撃の実話を描いた映画『1987、ある闘いの真実(1987 When the Day Comes)』

原題:1987 When the Day Comes /2017年/韓国/カラー/129分


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