
11月4日(金)から全国順次公開中の映画『桜色の風が咲く』は、視力と聴力を次々と失いながらも、大学へ進学し、やがては東京大学の教授になった福島智さんと彼を育て上げた母・令子さんの姿を、実話をもとに描き出した物語。
今回は、『朝が来る』(20)、『ひらいて』(21)などへの出演で注目を集め、本作では息子・智役を演じた俳優の田中偉登(たなかたけと)さんにお話を伺いました!

智役の田中偉登さん
福島智さんと対面して感じた“人間味”
―― 本作への出演が決まり、福島さんとも対面された中で福島智さんはどんな方だと感じましたか?
田中偉登さん(以下、田中さん)
これまで障害者の方と接する機会があまり無かったですし、(福島さんは)目が見えない、耳も聴こえない中で“どうやってコミュニケーションをとるのだろう?”という気持ちがあったのですが、とにかく明るくて、“本当に聴こえていないのかな?”というくらい。
その場にいる人たちを明るさで和ませてくれるし、「ビールを飲みすぎてこんなお腹になった」とか冗談も言いますし、劇中でも「はよ、せーや」とかツッコミを入れていますが、本当にあのまんま(笑)。
こっちが勝手に感じているハンデを一切感じさせない明るい方でした。
福島さんに「目が見えなくなった時や耳が聴こえなくなった時はどんな気持ちでしたか?」と聞いた時も、とても辛いはずなのに顔は笑顔で凄く明るく話すんです。ちょっと冗談も入れたりして。
でも、表面上はそういう風に明るく接しているけど、その隙間から漏れ出すように悲しみとか苦しみが滲み出ている感覚があったので、凄く人間味を感じました。その瞬間に僕の中ではハッキリと福島さんを演じるイメージを掴みましたし、それをブラッシュアップして積み上げていきました。
実際に福島さんを演じる中でも、笑うことでより悲しさが伝わると思ったので、そういうところは大切に演じました。
―― いくら想像して準備をされたとしても、それを上回る感情が芽生えますよね。
田中さん
僕は目も見えているし、耳も聴こえているので、芝居をしたとしても実際には全部分かっている。それでも見えないようにしよう、聴こえないようにしようと意識して想像するだけで凄く真っ暗な孤独を感じました。だから、実際の福島さんはもっと感じるだろうなって。
とても複雑でとても大切な“笑顔”
―― 障害を抱えている方に対しては大変そうというイメージが先行してしまいがちですが、福島さんの明るさや人柄はそのイメージとは違う側面もありますよね。
田中さん
“笑顔”もただ明るく見せたいというだけではなく、心配をかけないようにしたいという気持ちもあると思います。
且つ、自分のためにも“笑顔”でいることが凄く大事で、多分暗い顔をして内側を向いていたら福島さんの道は切り拓けなかったんじゃないかなって。
辛い状況でも敢えて笑うことで、最終的には“指点字”によってコミュニケーションが取れて、希望の光が見える。あの“笑顔”というのは自然にやっていることだと思いますが、福島さんにとっては本当に大事なことだと思います。
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撮影前は甘いものを我慢!
―― 耳の病状が徐々に悪化していき、表情も感情も変化していく智を演じることは難しかったのではないですか?
田中さん
耳がドンドン聴こえづらくなって不安や孤独と闘っているところは難しかったです。自分には想像しか出来ないから、徐々に聴こえないことを表現しながら、もっともっと、辛い辛い、でも明るく振る舞う…そのせめぎ合いが特に難しかったです。
橋の上でケーキを食べるシーンも、甘いものを控えて治療をしている智の気持ちを少しでも理解したかったので、僕自身も台本をもらってからは甘いものなど糖質を控えるようにしました。橋の上の撮影で久しぶりにケーキを食べたら美味しいはずじゃないですか。なのに吐き出す…。それは耳を治すことを諦めそうになる瞬間だったので、甘くて美味しいはずのケーキがとんでもなく辛い味がした。
あのシーンは印象に残っていますし、辛いというか苦しいシーンでした。
―― 色々と試行錯誤されながら役作りをして、福島さんに寄り添っていったのですね。
田中さん
オーディション前は耳栓をして生活したり、お風呂に入る時にも耳栓をして目を閉じて入ってみたりしました。それでも実際の孤独感とは違いますし、考えることでしか近寄れないから糖質制限も少しでも近づこうと思ってやりました。
小雪さんの気遣いが親子の絆に!
―― 松本監督との会話や監督からのディレクションで特に印象に残っていることを教えてください。
田中さん
松本監督は僕のことを凄く信頼してくださっていたように感じます。
本番をやっていく中で、僕も“まだ絞り出せる、まだ絞り出せる”と思っていたんです。そうすると監督も察して「偉登君、もう一回行こう!」と言ってくださる。回数はそれほど多く撮るわけではないですが、僕が満足のいく状態かどうかを分かってくれるので、僕としては毎シーンやりきっている感覚がありました。
あとは、福島さんは義眼なので目が反応しないためにはどうするか、そういう見せ方は監督や小雪さんも含めて一緒に考えてくださいました。
―― その小雪さんとは共演シーンが一番多かったと思いますが、小雪さんとの撮影エピソードがあったらお聞かせください。
田中さん
昔からずっと見てきた方なので撮影前は共演させていただくことに凄く緊張していました。
“ただの”って言ったら失礼ですけど、本当にお母さん。ちゃんとお母さん。一カ月強の撮影期間でしたが、「ダメよ、ちゃんと食べないと」とか「熱中症に気を付けて」とか声をかけてくれたり、ただの共演者とは思えないくらい息子として気遣ってくれていることが沢山ありました。
智について特別な話をしたわけではないですが、カメラが回っていない所での気遣い、母としての優しさを凄く感じたので、そういう所が二人の台詞の掛け合いにも繋がっていると思います。
―― 小雪さんとの親子の掛け合いは親子そのものでした!
“生きる”とは?
―― どんな人間にも生きている意味があるということに改めて気付かせてくれる、優しさや勇気・希望を感じました。この作品に出演されて、“生きること”とはどんなことだと考えますか?
田中さん
…(笑)。
台詞の中で「白鳥も水面下で必死に足を動かしている」という言葉があって、本当にそういうこと。とにかく色んなものに抗って、色んな壁にぶつかって、そこでどうやったら乗り越えられるかを考えて、その先にまた壁があって。“一生この繰り返しなのかな”って思いますが、そういうことをずっと続けていく、考え続けることが生きることなのかなって。
誰かが言っていたんですけど「死んだら一生暇なんだから、今苦労をしとけよ」みたいな。本当にその通りだと思います。
難しいですよね…(笑)。
コロナで人と会う時間が減って、自分について考える時間が沢山あったので、そういう時にネガティブになってしまうことも多かった。でも、その中で出来ないことを出来るようにすることも勿論大事なんですが、出来ない中でも何をするか、“生きること”と繋がるかどうか分からないけれど、それは最近凄く感じています。
とにかく何回も壁にぶつかって、それでも考えていく、それの繰り返しかなって思います。
教室での青春シーンにも注目を!
―― 最後に、完成した作品をご覧になって田中さんが一番印象に残っているシーンや好きなシーンを教えてください!
田中さん
家の中で叫ぶシーンが印象に残っています。
さっきも話した「まだ行ける!」というやりとりを監督として、演じる度に僕もドンドン気持ちが入ってあのシーンが生まれたので、まさに監督との阿吽の呼吸で勝手に撮れていたシーン。松本監督に「有難うございます!」という気持ちです(笑)。
好きなシーンは、盲学校に戻ってからの場面で、ピアノの上に頭をつけて音を感じるシーンです。映画の中でスクリーン越しに伝わるか分からないですが、撮影をしている時はすごく淡い空間だったんです(笑)。ピアノの音色も良かったですし、夏だったのでちょっと蒸し暑くて、“青春している智”みたいな(笑)。僕はあのシーンが好きです。
―― 有難うございました!!
『桜色の風が咲く』
出演:小雪 田中偉登 吉沢悠 朝倉あき / リリー・フランキー
製作総指揮・プロデューサー:結城崇史 監督:松本准平 脚本:横幕智裕
配給:ギャガ 文部科学省選定(青年・成人向き)
©THRONE / KARAVAN Pictures
11月4日(金)シネスイッチ銀座他全国ロードショー
https://gaga.ne.jp/sakurairo/
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