東京国際映画祭で意気投合!映画『あなたの微笑み』リム・カーワイ監督&渡辺紘文さんインタビュー

全国順次公開中の映画『あなたの微笑み』は、2021年に公開された『COME & GO カム・アンド・ゴー』が話題となったマレーシア出身、関西在住の映画監督リム・カーワイ最新作です。
本作は、インディーズ映画界でもがき苦しむ映画監督“世界の渡辺”が沖縄で久しぶりの映画制作に挑戦し、コロナ禍の全国ミニシアターを行脚する物語。果たして、くすぶり続ける主人公は成長出来るのか!?
そんな“世界の渡辺”を演じるのは、映画ログプラスでもお馴染み、『普通は走り出す』(’18)や『叫び声』(’19)など唯一無二の自主映画制作を続ける映画監督・渡辺紘文さんです。
今回は、リム・カーワイ監督と渡辺紘文さんにお二人の出会いやリム監督の撮影スタイル、ミニシアターや映画への想いなどを伺いました。

リム・カーワイ監督(左)と渡辺紘文さん(右)
映画祭と自主映画
―― お二人の出会いは東京国際映画祭ですか?
渡辺紘文さん(以下、渡辺さん)
そうですね。
2016年の第29回東京国際映画祭で『プールサイドマン』を出品したのですが、ラウンジで映画監督の柳町光男さんと話をしていた時に、同じ交流ラウンジにリムさんがいたので紹介してもらったんです。
僕は東京国際映画祭で映画を大量に観る生活をしていて、リムさんもかなり映画を観る方なので、映画の話をしたり、一緒にご飯を食べたり。
リム・カーワイ監督(以下、リム監督)
東京国際映画祭で映画を観てから二人で他の人の映画の“面白くなさ”を話して、そこで仲良くなったんですよね。
(爆笑)
審美眼が同じというか趣味が合うんです。みんなが面白いと思う映画も、僕らからすると全然面白くない。それが結構楽しかったです(笑)。
渡辺さん
ラーメン屋で永遠に文句言ってる(笑)。
リム監督
「なぜ、あの映画が選ばれたんだろう。全然面白くない」とかを延々と話して。
でも、面白い映画に出会ったら絶対に興奮気味に「面白いですよ!あの映画は絶対観た方がいいよ!」とか、それで盛り上がったりして。
―― そうすると、お互いの印象は映画好きの趣味が合う監督仲間みたいな感じですか?
リム監督
一番思ったのは、渡辺さん本人と劇中に出てくる映画監督渡辺のキャラクターが違うということです。本人は好青年で大人しくて礼儀正しいですけど、映画の中ではちょっとブッ飛んでいて、あらゆるルールを無視する感じの方じゃないですか。そういう現実の彼と映画の中の彼が違うところが面白いですよね。
―― 渡辺さんはいかがですか?
渡辺さん
リムさんに会ったのは柳町さんの紹介が初めましてだったんですけど、リムさんの映画を最初に見たのは『マジック&ロス』(’10)という映画なんです。だから会ったことはないけど作品は知ってるみたいな感じでした。
ただ、一緒に映画を作るようになるとはその時は思っていなかったです。
―― お二人とも国内外の映画祭に出品・受賞し、注目されていたと思いますが、その後の日本国内での劇場公開や海外での上映というのはどういう状況なのですか?
渡辺さん
僕の場合、賞を獲ったことは獲らないよりは良かったと思うんですけど、思ったより自分の映画が広がらなかったという事実もあります。そもそも1本を公開というのはあまりなくて、結局特集上映という形で1日毎に別の1、2作品ずつを上映していく形態が多かったです。
だから国内ではどうしても東京中心で、地方は大阪、京都、名古屋、広島とかで上映しても中々集客が難しい。国際的な賞を受賞し、映画祭に出品することが功を奏する人もいると思いますが、僕の映画に限らずあまり効果のない人間もやっぱりいると思います。
―― その感覚はリム監督も同じですか?
リム監督
渡辺監督の映画だけじゃなくて、特に自主映画監督の作品は海外で評価をされたり、賞を獲ったりしても日本では中々劇場公開に辿り着けない、もしくは日本で公開したとしても話題を呼ばない、お客さんも中々来てくれないという事実があるんです。それが自主映画の難しさで必ずしも賞を獲ったからヒットするとは限らないという現実ですよね。
僕も渡辺さんも最初はまだ夢を持っていた時期があったと思います。要するに、自主映画を撮って海外で評価されたら日本でも評価されるだろうという夢は持っていたんですけど、最初はね。
でも、僕も彼もずっとやってきてもう現実に慣れてきた。ある意味で夢から目が覚めたんです。それを受け入れることになったから、今回は現実を踏まえて作ることが出来たと思います。
多分、若手の監督は映画祭に行ったら興奮する人も結構いるし、それで上手くいく人もいたんですけど、僕らはそのプロセスも体験して、夢を持たなくなった監督でもあるので、逆に冷静さを持ってこの映画を作れた気がします。
―― この作品を見て一番感じたのは色々なテーマはありながら、まずシンプルに面白いエンタメだということです。それはこれまでの経験から辿り着いたということですか?
リム監督
本当にその通りなんです。
これまでの経験によって諦めたというか、楽観的に開き直る。
渡辺さん
そうそう、開き直っているんで(笑)。
リム監督
開き直って楽しくやろう、と。最後はちょっと暗くなるかもしれないですけど、決して絶望したわけではなく、やるしかないし、歩き続けるしかない、と。
リム・カーワイスタイルに迫る!
―― 改めて、リム監督の映画作りのこだわりを教えてください。
リム監督
基本的に自分の映画の撮り方として引き画が中心で、カット割りも少ないです。ロードムービーの場合、皆さんカメラを手持ちで撮ったりするじゃないですか。でも、僕の場合はFIXで撮ることが好きだからカメラは固定するというスタイルで撮ります。その辺はこだわっています。
でも、内容に関しては本当に何でもウエルカム。全く予想していないことが起きても、それもなるべく取り入れる。現場の雰囲気を大事にして、アドリブとか即興を取り入れて、編集の時に判断をする。編集が凄く大事だと思っています。
―― 渡辺さんは主役なのでほぼすべてのシーンに参加されていると思いますが、リム監督の現場は楽しかったですか?
渡辺さん
メチャクチャ楽しかったです。
沖縄からクランクインして仲間と旅をしているような(笑)。
リム監督
カメラマンはずっと「修学旅行」と言っていました(笑)。
渡辺さん
それは言い過ぎなんですけど(笑)。
各地で美味しいものをいっぱい食べましたし、とにかく楽しかったです。
リムさんの演出は即興なので出たとこ勝負というか、何が起きるか一切分からない。だから、そこを楽しむことが大切だと思います。あとは撮影前に「準備することはありますか?」とリムさんに聞いたら、「何も準備しないで現場に来てくれ」と言われたので、何も準備せずに入るということだけ決めて入りました。
最初の沖縄の頃は僕も普通に聞いちゃっていたんです。「リムさん、明日の予定はどうなっているんですか?」って。リムさんも「分からないです」って。途中からは“聞くな”みたいな雰囲気もあって…聞くのを止めました(笑)。
リム監督
準備をしながらやっていく感じです。
渡辺さん
夜になると僕が先に宿舎に入って就寝していても、リムさんは若手のスタッフと次の日の撮影準備をしたり、出演してくれる人たちと交渉したり。僕が見てないところでは馬車馬のように動き回っているんです。
リム監督
普通だったら撮影の1ヶ月前には撮影スケジュールがあって交渉に入るんですけど、撮りながら考えるわけですから。撮影交渉も前日しかないんです。撮影場所の許可も2日前か前日の夜。そうなると現地で準備する必要があるんです。
渡辺さん
だから、巻き込む力は本当にスゴイと思いましたし、自分にも取り入れたいです。その土地の人たちを巻き込んでいく“リムスタイル”というか、素晴らしいなと思って見ていました。
―― ところで、劇中の“世界の渡辺”のキャラクターや台詞は渡辺さんが考えているのですか?
渡辺さん
一番最初は僕の監督作『普通は走りだす』(’18)のキャラクターの延長で入りました。その要素も若干残っているんですけど、結構修正されました。それはこの作品の渡辺はあくまでもリム・カーワイ監督作品の渡辺なので。
リム監督
そうですね。最初は過剰な部分もありましたので、ちょっと抑えるようにして。台詞も最初は自由に言ってもらったんですけど、合わないと思ったら修正をしたり、別のことを語ってもらったり。
詐欺師的な部分は、別にわざと嘘をついているわけではなくて、展開を面白くするため。(上映が)決まってないのに決まったと言えば、お客さんは分かっているから笑うじゃないですか。それがちょっと詐欺師みたいな形になっているんですけど(笑)。
渡辺さん
途中から詐欺師みたいな芝居がかなり増えて(笑)。
リム監督
それもあくまでも物語の展開としてちょっと面白くするためで、そういうキャラクターを作りたいわけじゃない。
渡辺さん
僕の映画だったらさらに振り切るところを、リムさんは結構抑制する。そのバランス感覚みたいなところが、リムさんとの駆け引きで面白かったです。
リム監督
例えば、鳥取のジグシアターではもっと色々語ってもらったけど、結構カットした。アレを使うともっと詐欺師になってしまう(笑)。
渡辺さん
(笑)。
確かに、全部使っていたら映画監督の話から途中で詐欺師の話に変わっている可能性があります。
リム監督
そうするとラストに向けて同情しなくなっちゃうから(笑)。
渡辺さん
詐欺師の顛末みたいなことになると狙いが変わっちゃう(笑)。
リム監督
最初はちょっと厚かましくてウザイかもしれないですけど、どんどん彼のキャラクターも分かってきて愛おしくなる。そして、段々カッコイイ奴になっていく。最終的にはカッコイイ渡辺さんが撮れたと自信を持っています!
渡辺さん
(笑)。
人気が出たらいいですよね。
―― そして、平山ひかるさんがとても綺麗でした。二人で外に踊っていくようなシーンもリアルなのか幻なのか、不思議な時間が流れる感じが凄く良かったです。
リム監督
ありがとうございます。そう観てくれて嬉しいです。
彼女はダンサーなので、もし彼女が出演してくれなかったらダンスシーンも思い浮かばなかった。それが最初から脚本を用意していないことの面白さでもある。だって最初は踊りのシーンもないですし、キャラクターに女優さんも入れてないですから。
―― 出会いによって作品が作られていくのですね。
ミニシアターへの想い
―― この作品を通じて、ミニシアターについて改めてどんなことを感じましたか?
渡辺さん
僕の映画は今までどうしても東京中心の上映だったので、今回リムさんと一緒に回ったミニシアターさんは自分の不勉強なんですけど、本当に知らない映画館ばかりでした。
映画館を経営して上映している人たちや各ミニシアターに来る常連さんは、映画を本気で愛している人たちだなって。映画に愛情を持つようになった理由とかエピソードを聞いてみると、経営者の方もお客さんも本当に一人一人に思い出がある。
ミニシアターとか映画の置かれている立場は段々と厳しい状況になっているような感覚も自分の中にはあるんですけど、理想論かもしれないですけど、ミニシアターという文化の灯は消しちゃいけないと思いました。
そのためには、“映画をこれからどうしていけばいいのか?”みたいなことを、映画の作り手、映画を上映する人、お客さんも含めて映画に対する愛情を持っている人たちがもっと一緒に考える時期なんじゃないかなって。小さなきっかけかもしれないですけど、そのきっかけの一つにこの映画がなってくれればいいなと思います。
本当に良い映画が出来たと思っているので、沢山の人に観てもらいたいです!
リム監督
自分も最初から東京、大阪、名古屋、神戸、横浜など大きい地域にしか営業に行かないので、今まで地方ではほぼ上映してもらったことがないです。だから、地方の劇場の状況には凄く興味があったんです。
この作品を作ることによって、地方のミニシアターを初めて知ったのですが、経営の状況やお客様の数は想像した通りですけど、自分が思っていた思い込みはちょっと違うということも分かりました。
それは地方の劇場は決して暗いわけではないということです。
地域の中に劇場があって、その劇場を運営する館長や支配人が居るんですけど、みんなすごく個性的で、みんなすごく明るいです。とても前向きで、その部分はこの映画の最後のエンドロールを見てくれたら分かると思います。
状況は決して明るくないですけど、みんな本当に映画を愛していて、どうしても映画を上映したい、上映しないと自分の人生も何か欠けてしまう、映画を通じて地元の人と交流したいというような強い想いを持って映画と接している人々です。
心から映画を愛する、心から映画を上映したいという想いに凄く感動しました。
―― ありがとうございました!
映画『あなたの微笑み』シアター・イメージフォーラム
劇場トークイベントスケジュール
11/15(火)11:30回上映後 登壇:石川慶監督、リム・カーワイ監督
11/16(水)11:30回上映後 登壇:平山ユージ(プロ・フリークライマー)、平山ひかる
11/16(水)21:00回上映後 登壇:松浦祐也、リム・カーワイ監督
11/18(金)21:00回上映後 登壇:中原昌也、リム・カーワイ監督
※11/19(土)以降の上映スケジュール、トークイベントスケジュールは劇場HP、映画公式SNS、HPにてご確認ください。
※ゲスト、イベント内容は予告なく変更となる場合がございます。
※敬称略
(C)cinemadrifters
渡辺紘文 平山ひかる 尚玄 田中泰延
監督・プロデューサー・脚本・編集:リム・カーワイ
撮影:古屋幸一 録音:中川究矢、松野泉 音楽:渡辺雄司 サウンドデザイン:松野泉
宣伝デザイン:阿部宏史 予告編監督:秦岳志 配給:Cinema Drifters 宣伝:大福
英題:Your Lovely Smile
2022|日本|カラー|DCP|5.1ch|103分 ©cinemadrifters 文化庁「ARTS for the Future!」補助対象事業
公式HP:https://anatanohohoemi.wixsite.com/official
2022年11月12日(土)よりシアター・イメージフォーラム、
12月3日(土)よりシネ・ヌーヴォ他全国順次公開!
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