映画 MAKI マキ ナグメ・シルハン監督_サンドバーグ直美

西島秀俊主演の『CUT』で知られるアミール・ナデリ監督に師事したイラン出身の新鋭ナグメ・シルハン監督が、ニューヨークの日本人コミュニティをクールに描き出す『MAKI マキ』が本日11月17日(土)より渋谷ユーロスペースにて公開されました。本作の公開を記念して、ナグメ・シルハン監督と主人公・マキ役のサンドバーグ直美さんにお話を伺いました。まずは、監督インタビューからご紹介します。

日本人は母国イランの人たちと近い人たち

―本作で日本人を題材に選んでくださった経緯を教えてください。
日本の文化にはすごく興味がありまして、日本の本も沢山読んでいました。映画も、日本の音楽にも興味があって。
また、私はイラン生まれで、もちろんイラン人の家族を持っていて、日本人の友達もいます。その目線から見て、日本に来て感じるのは、なんとなく自分の母国の人たちに近い人たちだなと思うんです。アメリカに住んでいるので、なかなか遠いイランまで行ったり来たりすることはないんですけど、何回も機会があって日本に来るたびに、日本人はすごく私たちと似てるなと。日本人がいると安心したり、自分たちの国の人とお話しているような気持になるので、もっともっとその日本の文化を知りたいと思うんです。
そこで、私の師匠であるナデリ監督が日本で映画を撮った際、「そんなに日本が好きだったら、日本の話を撮ってみたら?」と言われたのですが、その時はまさか実現するとは思いませんでした。でも、行ったり来たりしているうちに、‟今まで遠くから日本を見ていたけれど、ここで作品にしていくことができれば、もっともっと日本に近づけるんじゃないか”と思って、ナデリ監督とかショーレプロデューサーとも色々と相談していくうちに、ストーリーを作る勇気が出てきたんですね。
要するに、この映画を作るということは、もっと日本の文化に近づける、もっと日本人の心を知ることができる、そういったことも一つの目的としてこの映画を作ろうと思ったんですね。

映画 MAKI マキ ナグメ・シルハン監督

ナグメ・シルハン監督

―そこをもう少し掘り下げてお聞きしたいと思います。
例えば、大雑把に言って日本人は島国育ちなので、どちらかというと、団結してルールを守ることが日本人の知恵であり、良しとされます。監督の日本人観を教えてください
私たちは人間であって、人間である限り愛情とか感情には変わりがないと思います。
例えば、日本人はもしかして、愛情よりはルールを大事にするように見えるかもしれないけど、でもルールを大事にするその心の奥深くには、愛情も大事にしている気持ちがあるんですよ。
要するに、ルールを守っている人たちというのは、愛情を守っているんですよ。
それは私たちも同じなんだけれども、ルールはそんなに守らなくても、気持ちとか感情とかフィーリングを大事にしているだけで、それは変わらないと思うんです。逆にそれがあるから日本人に興味を持つんです。
要するに、この人たち(日本人)は心の奥底は私たちと違わないと、それを見せたかったというのがあるんです。この映画を通じて日本人を描いているんですが、見る側は、‟この人たちは、夢を持って自分の国から他の国に行って、こういう風にいろんな人といろんな事をやっているんだけども、これだったら、日本人だけではなくいろんな国の人も同じ事をするかもしれない”と感じると思います。
つまり、ユニバーサルに物事を考えて、日本人の本当の奥深くにある愛情ある心をもっと見せたいなと思います。

異国で感じる”セーフティ”

―文化の向こう側にある心を知りたいということですね
映画でもルールを知った上で、どうやってルールを壊すんだみたいなことはよく言うんですよね。それも、ここで言えることなんですね。
私は、小さい頃にイランからアメリカに渡ったのですが、その時にいつも思っていたことは、なんでイラン人がアメリカに来て、わざわざ皆でまた同じコミュニティを作ったり、一緒に物を考えたり、一緒に集まったり、一緒に同じご飯を食べたりするんだって、ずっと思ってたんです。それで大人になるにつれ理解が進んで分かったのは、自分の国から離れてきて何か目的があって外国に来るんだけれども、見ず知らずの国に行くと、また同じ国民性を持っていた人たちと集まる。それはイラン人だけではなく、フランス人も日本人も皆そうなんですけど、ノスタルジーももちろんあるとは思いますが、やはり自分たちの巣の中にいた方が安心するみたいで、外で何をやってもそこに戻ってくる。それは日本人だけでなく、皆、同じだって思ったんです。
特に、ニューヨークに日本人ホステスがいるクラブがあるんですけど、そこに行ってみると日本人ばかりが集まるんですよ。
そこでよく感じてたんですよね。要するに、ここにくると、皆‟セーフ”を感じる(安心する)んですよね。だから、色んな理由があって行くんだけれども、でもなんか、なんとなく人(日本人)が集まって来るというのは”セーフティ”を感じているからだと思ったんですよ。

―そこが移民の共通の心理みたいなものなんですね。
はい、そうです。

映画 MAKI マキ ナグメ・シルハン監督

―ホステスという話ですが、ニューヨークで日本人が水商売で働くということ、これは映画を見てリスクを知ったような気がしました。アメリカだけではないと思うのですが、身近にこうした企みが潜んでいるということは、監督が調べて判明した事なのでしょうか?
最初は、ニューヨークのホステスクラブ(日本人クラブ)に行って、日本人が皆集まっているのを見ました。ロケーションとしてはすごく魅力的だと思いました。まったく銀座に居るような感じで、そこに魅力を感じてはいても、そこではまだストーリーは浮かんでいませんでした。一方で、日本では師匠が映画を撮っていたので、そちらにも興味があって、銀座のホステスクラブを回ったんです。そこには、ニューヨークにあるものと同じものがあるなと思ったんです。どうやって向こうまで行って同じ物を作っているのかとか、すごく興味を持ちました。ニューヨークのお店にもママさんが居たんですけれども、若い人たちも男性も女性も働いているし、ビジネスマンもいるし、少しづつホステスたちと話をしたり、近づいてママさんの話を聞いたりして、お客さんからもお話しを聞いたりと。
そこで思ったのですが、こういう所でいっぱい物語があるんだろうなと思って。この人たちは、一人一人の物語を持っているんだと。そこで、こういう所をロケしたら、この中から何をいっぱい引き出せるんだろうと思って。普通なら、売春とか愛人とかそういうことばっかり考えるんだろうけど、そうじゃなくて、こういう所には権力も存在し、そこで絶対に愛もあると。それについて書こうかなと思ったんです。だからロケから話が生まれたんです。あまりにも魅力を感じたから。

映画マキ MAKI 12

重要なテーマは、我々は皆同じ道を歩かない!

―マキ(主人公)とユミコ(ホステス)は同じ境遇にいても結果として違う人生を歩むことになります。この二人の運命を分けたものは何なのかという点は、この映画の重要なテーマの一つなのではないでしょうか?その点について監督のお考えを教えてください。
人間はいろいろな選択をしますよね。
同じ問題にハメられるマキとユミコがいて、マキが選ぶ左の道、ユミコが選ぶ右の道がある。それを反対にはしたくなかったということはありますが、同じ問題を抱えていても選ぶ道は自由なんですよ。責任はとらなければならないんだけど、そこには、自由にどこに行くのか、自分でどの道を選ぶのかといった自由さがある。でもそれは人によって違う。
だから、そういう質問をしてくれて嬉しかったんですけど、要するに、マキが選ぶ道、ユミコが選ぶ道は違うっていうのが、それは私たちの人生の中もそうなんです。同じ問題を抱えた我々は皆同じ道に歩かないっていう。でも責任をとらないといけないんですよ、というのはあります。

―ミカ(クラブのママ)はマキの賢さに気づいていたし、トミーですらマキの魅力に心が揺れました。そうしたマキの堅さや愛情の深さがマキとユミコの人生を分けたのではないかと思っていました。
今おっしゃった通り、今までトミーはたくさんの女性と付き合っていたけど、そういう感情をもってなかったじゃないですか。だから、ミカ(ママ)が賢い人なんです。(ミカは)すごい経験が深い感じですよね、そこで気が付くんですよ。トミーはこの娘(マキ)には興味があるって。だったら、この娘が今までの娘たちと違うんだと。

映画マキ MAKI 1

だから、もっと気を付けなければならないというのは、ミカが賢いからわかるんですよ。マキはただ普通の女の子なんですよ。今までと違うというのはミカが賢いから読めるんです。最初、ミカは「私が選んだ娘よ」と(ある意味自慢気に)言うんですけど、でも、途中から今までと違うと気づくんですよ。

映画マキ MAKI 12

―このストーリーでは、女性は妊娠するといろんな意味で弱い存在のように見えてくるのですが、マキの決断によって、それが強い女性に生まれ変わります。ここに秘められたメッセージを教えてください。
これは子供を産むという行為を表現しているだけではなく、みんなの中には恐れてることがあるということを伝えています。
私たちは、妊娠してる時は‟産まれてきたらどうなるか”という恐れを感じているんですけど、産まれてきた時に、怖かったその恐怖感に実は飽きてしまうんです。飽きてしまい、それで決心して育てていくと思うものなのです。
それは、男性にもあると思うんです。自分の中で育っていく怖いもの、恐怖心。それが、実際に目の前にあるとぶつかっていくしかない。その一瞬、そこは人間は強くなるんですよ。決心しないといけないというのは強くなるんですよ。
女性は子供が産まれた時、産まれて出てきた時は決心するんですよね。育てていくんだと。だからすごく強くなるんです。

印象的な音楽は原田美枝子の娘「優河」が参加!

―ところで、音楽が非常に幻想的で、寂しさとか孤独感とか、マキが街を歩いている時に流れてくるシーンがすごく印象的で、良い音楽だなと。これはイランの音楽なのでしょうか?
アメリカのミュージシャンがいたんですけども、ニューヨークに。二人はピアノを弾く女性とそのご主人なんですけれども、彼らは最初から最後までジャズっぽい音楽を作ってくれていたんですよ。だけど、自分は大きなスクリーンで見ることを考えた時に、全てジャズではいきたくなくて。だから、色んな音楽を、自分の好きな音楽を彼らに渡して。
で、今おっしゃったあのシーンの音楽は、原田さん(ミカ役)の娘さんなんですよ。「優河」さん、ミュージシャンです。原田さんには二人のお嬢さんがいて、妹さんが女優さん(静河さん『映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ』ヒロイン美香役)で、いろんな映画に出演していらっしゃって、昨年の東京国際映画祭で賞(東京ジェムストーン賞)をとったり、お姉さんがシンガーなんですよ。石橋優河さんです。彼女の歌とエンディングのイランの歌は、私が持っているので、彼女ら(冒頭の)ミュージシャンの方たちには、この音楽があるので、後はどこの画面にこれが合うのか?という点についてアイデアをくれるように伝えました。そこで、ちょうど優河さんの歌が、彼らが選んだ場所(街を歩いているシーン)に丁度良く合っていて、自分も納得したんです。

―ぴったりですね!
本当に自分も入れて(2人のミュージシャンと自分の)3人でものすごく考えたんで。音楽はもちろん大事なんですけれども、入れ方によっては映像に乗ってしまう時があるので、それはしたくなかったんです。映像の下に流れるような音楽にしたかったんです。

―最後に映画ファンに向けてメッセージをお願いします!
この映画のメッセージでもあるんですが、人生っていうのはチョイスなんですよね。何を選んでいくのか?だから、自分の本当の本音は何を求めているのかとか、自分の本当の声に耳を澄ませて聞いて、何を手に入れたいのか?それに向かって一生懸命に前向きに行く。
これはこの映画のメッセージですので、是非この映画をみなさん見に来ていただいて、それもちょっと考えていただければなと思います。

映画 MAKI マキ ナグメ・シルハン監督

映画『MAKI マキ』は、渋谷・ユーロスペースにて公開中!他全国順次公開です。


ナグメ・シルハン監督プロフィール
イラン生まれ。イラン革命の前年に家族とアメリカへ移住。父親はテヘランへ戻ったが、イランイラク戦争の影響で母親とともにアメリカに残ることになる。この別離や移住、新たな場所での葛藤がシルハン監督の主なテーマになっている。2010年の初長編作品『The Neighbor(Hamsayeh)』が映画祭で話題となり、『MAKI マキ』が長編第二作となる。ボストン大学放送映画学学士。

予告動画

■キャスト
サンドバーグ直美
ジュリアン
おおのゆりか
ブランカ・ヴィヴァンコス
原田美枝子

■スタッフ
監督・脚本:ナグメ・シルハン
配給:ユーロスペース TEL.03-3461-0212
脚本翻訳:田澤裕一 /
制作:Ugly Productions、Small Talk Inc.

■公開情報
2018年11月17日

■公式サイト
http://maki-movie.com/

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