映画『私は、マリア・カラス』 トム・ヴォルフ監督インタビュー

「私は、マリア・カラス」トム・ヴォルフ監督インタビュー

12月21日公開 映画『私は、マリア・カラス』
トム・ヴォルフ監督インタビュー

音楽史に永遠に輝く才能と絶賛されたオペラ歌手、マリア・カラス。没後40年にして彼女の未完の自叙伝の存在が明らかとなりました。本作のトム・ヴォルフ監督は3年の年月をかけた<真のマリア・カラスを探し求める旅>でその自叙伝を入手。さらに、彼女の親友たちからの信頼を得て、未公開映像やプライベートな手紙を入手。苦悩しながらも、全てを受け入れようと変化していく、私たちがまだ見たことがなかった“マリア”の姿がスクリーンに映し出されます。12月21日(金)の公開を記念し来日されたトム・ヴォルフ監督マリア・カラスの人生について語っていただきました。

マリア・カラスはオペラを全ての人々にもらたした特別な存在

―― 素晴らしい映画ありがとうございます。非常に面白く拝見させていただきました

トム・ヴォルフ監督 ありがとうございます。

―― 監督はマリア・カラスのどこに惹かれ、映画化を決意されたのか教えてください

トム・ヴォルフ監督 非常に魅惑的な人生送った方だと思ったんです。
女性としてもアーティストとしても特別な方だなと思いました。
彼女の出自はギリシャ移民でニューヨークに住んでいたという、非常に慎ましい背景なんです。その後ギリシャに移り住み、イタリアで舞台に立ち始めて、それがやがては生きるレジェンドと言われ、あるいは世界的なアイコン(偶像)になったわけです。
オペラをクラシックファン、オペラファンのみならず、全ての人々にもたらした、本当に特別な人だと思いました。

_映画 私は、マリア・カラス

人生の経験や女性としての葛藤を歌声に

―― オペラには声の質も重要ですが、感情を込めた抑揚も大切だと思います。彼女の歌声は人生を投影したものではないかと感じますが、彼女の魅力的な歌の声の正体を言葉で説明するとしたら、監督がどう説明していただけますか?

トム・ヴォルフ監督 まさにおっしゃる通りだと思います。
彼女は自分自身の人生の経験、女性としての葛藤、そういったものを使って、自分のアーティストとしての歌い方に栄養を注いだわけです。そしてキャラクターとしての感情を歌いあげる時に、自分自身の感情を使いました。だから、ステージの上でのキャラクターが非常にリアルに感じられたのだと思います。また、見ている私たちもその感情を感じて、ものすごくリアルなものを感じ、共鳴できるんだと思います。彼女は魂から歌いあげているので、私たちの魂も動かす。非常に普遍的なものなんだと思います。

映画 私は、マリア・カラス

女としてのマリアを愛したオナシスとの出会い

―― 視点をずらして、彼女の最初の旦那さんのことについてお聞きします。彼を擁護するつもりはありませんが、彼が最後にカラスの自叙伝を描くなど、本当はカラスを愛していたんじゃないかと。カラスが非凡すぎたが故に、彼が束縛しているように感じたのではないかと。監督はこの点はどう思われましたか?

トム・ヴォルフ監督 面白い質問ですね。
私は全くそう思わないけど、もし許していただけるなら話を続けても良いですか?

―― 是非お願いします

トム・ヴォルフ監督 私はまったくそうは思わないんです。もちろん最初に彼らが出会った時は、マリア・カラスもまったく無名だったので、本当に愛し合っていたと思います。ですが、段々と彼女が有名になり、世界中で歌を歌うようになった。当時、彼はベローナで普通の仕事していたけど、その仕事を辞めて、彼女のマネージャーになったんです。そして契約を全部取り仕切るようになりました。お金が儲かっていくにつれ、彼は次から次へと契約を結び、彼女に仕事をさせて、その費用もギャランティも吊り上げていったんです。だから彼女はどんどん仕事をしなければいけなかった。しかし、お金は彼がもらっていた訳なんです。なので、途中から女性としてのマリアを愛しているのではなくて、マリア・カラスというお金を生み出す歌手として、金儲けの手段として愛するようになったんじゃないかと思います。
それをマリア・カラスが理解した時に、やっぱりすごくショックだったと思うんです。

私は、マリア・カラス トム・ヴォルフ監督

そして、その頃にオナシスと出会ったんです。オナシスは有名な人なので、別に歌手として有名なマリア・カラスには興味が無く、女性としての彼女に興味があったのかなと。そこで、彼女は自分の夫と離婚しようと思い、オナシスとのラブストーリーが始まるわけなんです。

映画 私は、マリア・カラス

オナシスは本当に女としての自分を愛してくれていると感じた。でもまたそこに二重性があるわけですね。マリアとしての自分と、アーティストとしてのカラス、というところがあると思います。

―― カラスの自叙伝を描いたのも、お金儲けだったのかもしれないですね

トム・ヴォルフ監督 全くその通りだと思いますよ(笑)。それは疑いようのないことだと思いますね。

私は、マリア・カラス トム・ヴォルフ監督

ですから、今回の映画では彼女と最初の旦那さんとの関係ってあんまり長く描いていなかったんです。ちょっとだけ映して、すぐにオナシスとの関係に移りました。というのは、オナシスこそが彼女にとって本当の愛の対象だったからです。




苦難の時を乗り越えマリア・カラスが辿り着いたステージ

―― 恋愛に翻弄されながらも、毅然としたそんなカラスの姿はまさにディーヴァでした。一方で、映画『王女メディア』に出演したのは、ちょうどオナシスとジャッキーとの結婚報道の翌年だったと思います。この女優デビューは恋愛を忘れようと思ってのことだったのでしょうか?元々、女優にも前向きでしたが、映画が最終的に失敗する結果からして、そもそも乗り気じゃなく、動揺する気持ちが映画に出てしまったのではないでしょうか?監督はどのように見られていますか?

トム・ヴォルフ監督 あの時期は、マリア・カラスにとって非常に複雑で難しい時期だったと思います。

オナシスが彼女から離れていっただけでなく、マリア・カラス自身も声の不調でオペラのステージから去って行ったんです。69年が最後の舞台でした。彼女がステージを去ったのは、オナシスとの生活を大事にしようと思った、ということもあるんですけども、そこでまた二重性が出てくるわけです。どちらかがどちらかの犠牲になる。マリアのプライベートライフか、アーティストとしてのカラスか、どちらかが、どちらかの犠牲になるって事が表れてると思うんです。

オナシスはいなくなってしまい、一方で戻るべきステージも声の不調により無いわけです。つまり、仕事も無い、パーソナルライフでもオナシスがいなくなった。69年は、彼女にとって全く一人になってしまった年なんです。

私は、マリア・カラス トム・ヴォルフ監督

そこにパゾリーニが『王女メディア』という作品を持ってきてくれました。基本的に彼はこの役を彼女のために作ったと言っていいと思うんです。彼女がもともと持っていた表現力を、歌を歌わずに、映画に使うということで彼女は受け入れたんだと思います。さらに彼女は、パゾリーニが自分に対して抱いている想いに自信があったんだと思います。つまり、恋愛という意味で愛しているということではなく、アイコン(偶像)としての自分をしっかり愛してくれていると自信が持てたので、映画に出ることを承諾したんだと思います。ただ、パゾリーニは特殊な映画を撮るので、マリアは「ベストなショットが全部床に捨てられていた」と語っています。できあがった作品にマリアはあまり満足せず、むしろ悲しかったと。

私は、マリア・カラス トム・ヴォルフ監督

その後、彼女が映画に出演することはありませんでした。やっぱり自分の天職はステージにあって、オペラじゃなくてもステージで歌うことにあると気が付いたようなんです。だから彼女はステージに戻ってカムバックツアーを始めたんです。

映画 私は、マリア・カラス

結局それが最後になってしまったので、のちに「Farewell TOUR(さよならツアー)」と呼ばれているわけなんですが、その「Farewell TOUR」で一番最後に訪れたのが日本です。こうしてこの映画を日本で上映できることで、一周して縁が閉じたような感じがします。

監督から映画ファンにメッセージ

―― 最後に映画ファンへメッセージをお願いします

トム・ヴォルフ監督 素晴らしい女性であり、特別なアーティストであるマリア・カラスの素晴らしい人生を、皆さんに再発見していただきたいと思います。そして、観客の皆さんが彼女を愛してくれることを願っています。

映画 私は、マリア・カラス

映画ログプラス編集部より

ステージに立つこのマリア・カラスという人は皆が良く知っている人でした。しかし、知っている限りのことで、ある人物の一生を他人が語ったとしても、それはその人の素顔とは一致しないことは、我々は良く知っています。でも、ある人が歩んだ軌跡は全くの他人事ではないことも、また事実です。

彼女にはどんな人生の選択があったのでしょうか?この作品で語られるマリア・カラスという人間が刻んだ人生の足跡を辿ると、そこには「才能を咲かせること」と「自分自身を生きること」に全力で必死な姿がありました。それぞれが特別に華やかな一方で、それぞれがうまく咬み合ってくれない。必死になればなる程、一人の人間としてこんなにも別々の道が立ち現われて来る様に、スターとしての宿命を感じつつも、その素顔に偉大さと愛おしさとを感じます。




トム・ヴォルフ監督プロフィール

私は、マリア・カラス トム・ヴォルフ監督

ロシア、サンクトペテルブルク生まれ、フランス育ち。
2006年に映画作りを始める。カメラマンとしても活躍。手がけてきたのは、ファッション広告、国際的組織や企業のPR映像のようなものから、オペラをテーマとする短編映画など多岐にわたる。シャトレ座ではオーディオビジュアル・コミュニケーションを3年に渡り担当し、さらに、プラシド・ドミンゴ、スティング、デヴィッド・クローネンバーグなどの数々の偉大な人物や作家のインタビュアーとしても活躍。
2013年にニューヨークに移り、マリア・カラスの歌声に感銘を受け、マリア・カラスを探求するプロジェクトを開始。3年間にわたり世界中を旅し未公開の資料や映像、音源を探した。またカラスの近親者や仕事相手にも会いに行き、60時間以上のインタビューを実施。そこで得た貴重な情報や素材は初の長編監督映画となる『私は、マリア・カラス』(原題:Maria by Callas)、3冊の書籍、2017年9月パリで開催した展示会などでみることができる。

ヒュー・グラント似!?トム・ヴォルフ監督フォトギャラリー
映画『私は、マリア・カラス』作品情報

監督:トム・ヴォルフ
朗読:ファニー・アルダン
製作国:フランス
配給会社:ギャガ
上映時間:114分
公式サイト:https://gaga.ne.jp/maria-callas/
(c) 2017 – Elephant Doc – Petit Dragon – Unbeldi Productions – France 3 Cinema
12月21日(金)TOHOシネマズ シャンテ、Bunkamuraル・シネマ他全国ロードショー

誰も知らないマリア・カラスがここに。
「幸せも不幸も選べない。神様お願い、打ち勝つ力をください。」
初めて自らの[言葉]と[歌]だけで綴る、ディーヴァと呼ばれた一人の女性の切ない人生の真実。

映画『私は、マリア・カラス』予告動画

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