1月11日公開 映画『この道』
佐々部清監督インタビュー

「童謡」の誕生から100年。北原白秋山田耕筰の2人が紡いだ「童謡」は日本人の心の琴線に触れ、その後、日本の歌、日本人の心の故郷として親しまれ、100年を経た今でも歌い継がれています。
2019年1月11日から公開となるこの道は、これまで描かれることのなかった人間・北原白秋が歩んできた道。時代に翻弄されながら、自由に、且つ、奔放に生きた稀代の詩人・北原白秋の人生、名曲誕生の裏側を描いた人間ドラマです。
今回は佐々部清監督にこの作品を映画化する上でのポイントやキャストへの演出などたっぷりとお話を伺いました。

『アマデウス』がヒントになっているんです

―― 教科書の中の固有名詞でしかなかった北原白秋が、これだけ人間味を感じさせる人物だったというのは、すごい衝撃でした。監督と素顔の北原白秋との接点を教えてください。

佐々部監督:数年前に『群青色の、とおり道』っていう映画をやったんです。群馬県太田市を舞台にした作品で、地元の尾島小学校でもロケをしたんですけど、その小学校の校歌の作詞担当が北原白秋でした。その作品のプロデューサーが「北原白秋を題材にした映画をやりませんか?」って僕のところに企画を持って来てくれたんです。二人の偉人伝みたいなことはいろんな番組で何回も見たような気がするから、「それをなぞる伝記映画だったら僕じゃないんじゃない?」ってお話をして。「僕がやるんだったらエンターテイメントをやりたいです」と伝えたんです。それで調べてみると、北原白秋には(結婚・離婚を繰り返し)奥さんが3人いたし、結構チャランポランな人で。実は、山田耕筰にも奥さんが3人(白秋同様)いたんですが、両方の破天荒を描いちゃうと映画としてまとまらないから、そこはコントラストをつけました。そして、白秋を大森君でやるなら色っぽいやんちゃな人でと。
30年前にミロシュ・フォアマン監督のチーフ助監督をしたことがあって、フォアマン監督が『アマデウス』を撮った後のタイミングだったんで話を聞いたんです。その会話や『アマデウス』で描かれているモーツァルトの下品さがふわっと頭に浮かんで、あそこまでやれないだろうけど。あの北原白秋が実は姦通罪で捕まっているとか、そんなこと教科書に書いてないじゃないですか。昼間から酒を飲みながら「俺は日本一の詩人だ」って言っている人が、あんな素敵な詩が書けちゃうのがいいなと思って。『アマデウス』がヒントになっているんです。
まさに血の通った人の臭いがプンプンする白秋になるんじゃないかなって。

―― 癖が強いんだけど、どこか憎めない。天才肌で括ってしまうにはもったいない。与謝野晶子なり周りの偉人たちとの親交もあったと思いますが、彼はどういった背景でここまでの才能を発揮するに至ったのか、監督はどうお考えですか?

佐々部監督:何ですかね…。ほんとは幼少期をもっと掘り下げれば、親戚の誰かが持っていた大量の書物に囲まれていたとか、そんなエピソードもあったかもしれませんが。
それから、元々脚本になかったんだけど、この人にとってなぜ詩を書くことがやめられないのかについては、島崎藤村の若菜集をヒントにしたいなと思いました。本当は若菜集のどこに影響を受けたのかとか、深堀りしなくちゃいけないんだけど、そこまではやる尺がなくて。あとは、子供みたいな人だからあんな詩が書けるんだってことが伝わればいいと思いました。貫地谷くんが演じる妻の菊子も、子供と無邪気に触れ合う白秋を見て「この人きっと私より子供の方が好きなんだな」って、ちょっと嫉妬しているんです。
白秋は、奥さんに怒られる度にシュンとなっちゃうし、羽田さん演じる与謝野晶子に怒られてもシュンってなっちゃう。結婚するんですって言っちゃう天真爛漫な子どもみたいなところが、きっとあの子供みたいな詩が書けるところに繋げられれば伝わるかなって。

―― 白秋は、軍歌を書けと言われても生活苦そっちのけで反発します。単に純粋なのではなく、白秋なりの信念も感じます。

佐々部監督:それがきっと人間臭いというところじゃないですかね。
例えば、造船会社の詩を書いて、機関車の詩を書いて、今度零戦かよって。そんなのやってらんねぇよって。でも、奥さんに怒られたら何だかんだでまた詩を書いちゃうんですよね。日本が軍国に向かい、耕筰から一緒に軍歌をやろうといわれても、僕は国民の詩人で軍の詩人じゃないから嫌だと思っていても、結局菊子に「生活があるんです」と言われたら、書きはしないけど選考委員を引き受けちゃって一番ヒットした作品を選んでしまったことに呵責しちゃうとか、その繊細さや弱さがきっとこの人が持っているものに繋がるのかなと思います。鈴木三重吉の紹介で山田耕筰と最初に出会ったときもはじめは対立してしまって、後で与謝野晶子から怒られて。そば屋で隅っこに行っちゃうっていう、ああいうことだと思うんです。

北原白秋と山田耕筰は、平尾昌昭さんと阿久悠さん

―― 台詞の中にも出てきますが、詩にリズムがあります。

佐々部監督:彼(白秋)の童謡の詩ってほとんどそうですよね。
「ねんねこ ねんねこ ねんねこよ♪」「ピチピチ チャプチャプ ランランラン♪」とか「ゴンシャン ゴンシャン♪」…。「ゴンシャン」ってどんなところから発想が出てくるのかなって。「曼珠沙華」も戦争の時にラジオから暗い歌が流れるといいなと思って選んだりしたんです。昭和で言えば阿久悠さんが山本リンダの「狙いうち」の歌詞の一節、「うらら うらら うらうらら…♪」って山本リンダが歌っていたのをリアルタイムで中学の頃に聞きましたけど、それが平成になっても甲子園の高校野球の応援歌で流れている。同様に、僕の親父が子供の頃も、うちの娘が小さい頃も、誰でも「ピチピチ チャプチャプ ランランラン♪」を知っているみたいな。
それがきっと松重さんの演じる与謝野鉄幹が語っている“彼の詩にはリズムがある”に繋がるんです。「ピチピチ チャプチャプ ランランラン♪」って、これ読むだけでリズムになりますよね。それがきっとこの時代とても新しいっていうか、先端だったんでしょうね。
阿久悠さんといえば、本作のイベント講演で由紀さおりさんがお話して下さった時に、まさにこの二人は平尾昌昭さんと阿久悠さんみたいなもんだっておっしゃっていました。




構想にあったATSUSHIさん幻のシーン

―― 由紀さおりさんと安田祥子さんのキャスティングもすごく楽しませていただきました。ラストのATSUSHIさんの歌も、映画が終わると同時に大音量で流れてきます。あんな「この道」聞いたことありません、凄かったです!!

佐々部監督:実は、ATSUSHIさんの大阪ドームのライブを撮らせて欲しいってお願いしたんです。最後に山田耕筰のあのセリフをAKIRA君が言って、二人が歩いていくと大阪ドームでライブ映像に繋がる。ATSUSHIさんに生でアカペラで歌ってくれないかって。幻のシーンというか実現はしなかったんですが、歌は「AKIRAのために歌います!」って歌ってくださったんです。

―― そのシーンも映像で見たかったです!

佐々部監督:それをやっちゃうとちょっと飛びすぎちゃうって意見もあって。正直、どっちがいいかわかんないけど、ただ撮ってみたかったんです。今の時代、3万人のドームの中でこの二人の歌がこうやって歌い継がれているっていうのを映像にしたらどうなるんだろう?って思ってらやってみたくなって。

偉人伝で終わらせたくなかった!

―― 映画では、北原白秋と山田耕筰との縁を鈴木三重吉が仲立ちしてくれていますが、このくだりは実話だったのでしょうか?

佐々部監督:本当の部分は僕も正確にはわかっていないんです。三重吉さんに紹介されて、最初から“どうもどうも是非一緒にやりましょう!”ではドラマにならないんです。この二人が1回ぶつかってケンカして、それから二人が結びつくには何がいいのかなって思った時に、震災が大きなきっかけなったという展開にしました。
それはおそらく今こうやって僕たちが生きている中に、阪神淡路大震災があり、東日本大震災があり、熊本地震がある。常に僕たちは震災と隣り合せで生きていて、他にも台風とか水害とかいつも自然災害と隣り合わせでいる。この二人がそれをキーワードというかポイントに結ばれれば、ドラマチックになるんじゃないかと。そうすることで、今の現代とこの時代をどこかでリンクした映画を作りたいという想いも実現できます。過去にこんなことありましたねって映画じゃなくて、今我々が見ても共感できるような。この二人が震災や戦災で荒んだ人たちを助けるために音楽作ったのかって。どこまでリアルなのかじゃなくて、エンターテイメントのドラマとして届けたかったんです。

―― 私たち観客も時代を飛び越えることができているわけですね。

佐々部監督:繰り返しになりますが、偉人伝で終わらせたくなかった
実際に二人が作品作りに向かっていったのは震災の前かもしれないですけど。震災の後、ガレキのあんな場所でバッタリ会うはずもないと思ったけど、それも映画としてのシナリオを作りましたで。あそこで抱き合って、馬鹿みたいに泣いていたら、子供っぽい感じも出せて、それを周りのみんなが笑顔で見ている。あの震災の中でも、二人が音楽を作っていけるんだってことが描けると思ったんです。
そういう意味では、二人の最後も、実際には白秋は第二次大戦の中で亡くなっていますけど、その前に、ちゃんと二人の共通認識として“こんな戦争が終わればもっと自由な歌が作れる”ということを共通言語として語らせたかったんです。さらにその前には、与謝野晶子の「この国は今どこに向かおうと…」という台詞も現在にリンクしたくて。近年の日本の政情に対して、この映画から僕は少し声高ではないけどそんなことを感じ取れるように発信したいなって思ったんです。

―― 縁側で語る「赤とんぼ(三木露風作詞・山田耕筰作曲)」のくだりも事実かどうかではなく、白秋の持っているやんちゃ心が失われることに対する寂しさを表現されたのでしょうか?

佐々部監督:あれは、僕じゃなくて脚本家の腕です(笑)
「お前軍服で来ているんだろう?」という白秋に、「何でわかったんだ」って耕筰が返して。「赤とんぼ」であの二人が久しぶりに再会しても、ああやって言い合うことができる。短いシーンですけど、一度台詞で絡んでいるから、今度は歌で絡んでいく。「赤とんぼ」の唄、縁側から見える夕焼け、そして「俺の詩じゃねぇぞ」っていう返し。脚本家の技術というか、うまいうまいって思いました。クライマックスへのイントロダクションのシーンになっていて、あそこでクスッと笑えて作っていけると思いました。。

―― 最初に山田耕筰のふるさとの歌「からたちの花」が、そして最後は白秋の「この道」に辿り着く。それぞれの気持ちを代表するような歌になっていますね。

佐々部監督:実際の時間軸では「からたちの花」があり、すぐ後に「この道」が大ヒットして、二人は仕事をいっぱい受けるんです。これはプロデューサーと話し、映画の最後だけは「この道」でいきましょうと決めました。相当実際の時間軸を動かしながら、あのクライマックスのシーンが生まれたんです。難しくてすごく苦労したシーンでもあるんです。

大森君にはへなちょこさ、AKIRA君には柔らかさを

―― 大森さんやAKIRAさんに対して、監督からお伝えした演出上のポイントがあれば教えてください。

佐々部監督:本読みは二人だけで2~3時間やってもらったんです。
大森君は何となく僕の映画を何本か見てくれていたみたいで、僕の映画では芝居っぽくやんない方がいいって感じてくれていたみたいです。僕が頼んだのは、出てくる女性が大森君の白秋を見たら、かわいいって思っちゃうぐらいやんちゃな感じがいいなってことを話しました。それと、すぐ笑っちゃうし、すぐ泣いちゃうみたいな感じがいいよねって。

あとは対比するAKIRA君をどうやって作ろうかと考えました。AKIRA君がやや硬くなりそうなのを、とにかく柔らかく柔らかく―。AKIRA君は背筋がスッとしていて、キビキビ動くんです。50歳代になってからのそば屋のシーンでも、俺は先に行くって出て行く時に軽やかにスッと立ち上がってしまう。そこは、「もう50過ぎだから、俺なら“よっこいしょ”って立つよ」って話しました。そういう部分を変えてもらっただけです。実際の耕筰は色々な破天荒さもあるんだけど、この映画ではAKIRA君のように真っ直ぐで、真面目なキャラクターの耕筰を演じてくれればいいよって。大森君にはそれと真反対のへなちょこでお願いって(笑)そんなことぐらいです。

女性陣には、羽田さんはひょっとしたら白秋も好意があるかもしれないけど、白秋からちょっと憧れられるお姉さんみたいな感じ。

白秋が夢中になる隣家の人妻の松本若菜さんだけは、明治40年ぐらいの時代設定ですけど、もうちょっと先に行っている、今いるカップルみたいな、あの時代から飛び出して先に行っちゃっているような愛人と演じて欲しいと話しました。そのために「赤い鳥」のシーンは、赤い衣装にしているんです。

その逆を貫地谷さんがやればいい。良妻賢母で、うちの奥さんみたいにびしっと厳しいところは厳しくやればいいよって(笑)

佐々部監督が考える映画の醍醐味

―― この映画は子供たちに是非見てもらいたいですよね。日本語が本来持っている言葉の良さ、耳触りの良さがあるように感じます。

佐々部監督:学校で団体上映してくれるお話もいくつかあるようです。先日の完成披露試写会で合唱隊として参加してくれた宝仙学園さんも校歌を作っているのがこの二人で、全校生徒でこの映画を上映してくださるようです。映画の舞台は小田原なんで、地元の方にも広がったりするといいなと思います。
ただ、今の若い子たちから見たら、この映画は壁ドンでもキラキラしているわけでもないですからね。もうちょっと上の、親の世代が子供を連れて観てくれたりするといいなって思います。恐らく、子供同士集まったら『銀魂』とか人気ですよね。ゲームもいいしパソコンもいいけど、こういうことが昭和から日本がずっと受け継いできたものなんだよって大人が教えてあげるようなことがあるといいなって思うんです。僕も娘に、彼氏と行きなってチケット渡しましたから(笑)

―― 最後に監督から映画ファンに向けてメッセージをお願いします。

佐々部監督:この映画はそんなに難しい映画ではなくて、僕はエンターテイメントを撮ったつもりで、友情の話と音楽と色んなことを込めたつもりです。でも映画ってほんとはその向こう側にちゃんとその時代を映しださなきゃいけないし、そういうものが隠れていて、それを探り出すのが映画の楽しみだったりするんです。僕が若い頃って少なくともそうだったんです。でも、今はみんなが結論を急いで全部提示されて説明しないと中途半端って言われちゃうんだけど。作った我々が今の時代だからこそ、ここに隠したものを一つ二つ見つけながら観てくれるといいなって、それがきっと映画の醍醐味かなって思います。


映画『この道』は2019年1月11日(金)新春全国公開です!

編集部より

楽しい時や嬉しい時に鼻歌を歌っている時があります。それが懐かしい童謡だったりしませんか?私たちが何気なく口ずさんでいる時、歌詞はリズムにのり、心は躍っています。詩が、子供心に寄り添うように丁寧に優しく語りかけてきます。
教科書で学んだ偉人、北原白秋。これまで私たちはその素顔に親しみを感じたことがあったでしょうか。
佐々部監督が描いた白秋には、純粋な人だな、面白いおっさんだ、ダメダメだ、天才、子供が好きな人なんだな、といろんな素顔が見て取れます。そして、山田耕筰との運命の出会いとはどの様なものだったのでしょうか。
「からたちの花」を歌う由紀さおりさん&安田祥子さん、エンディングでは「この道」をATSUSHIさんが圧巻の歌唱力で歌ってくれます。それを聞いていると、まるで時を超えてこの二人の思いが伝わってくるようです。
皆さん!是非、劇場に足を運んで素晴らしい音響でこの作品を体験してみてください!!

予告動画

■ 公式HP/konomichi-movie.jp
■ ©映画「この道」製作委員会





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