『ムトゥ』に夢中<後編>映画評論家・江戸木純氏インタビュー

『ムトゥ』に夢中<後編>
映画評論家・江戸木純氏インタビュー

伝説の極楽映画が帰ってきた!
『ムトゥ踊るマハラジャ』(4K&5.1chデジタルリマスター版)

K.S.ラヴィクマール監督の計算でキラーショットばかり

―― 映画全体のディテイルの作り込みが凄い。自然過ぎて気付かない点も多々ありそうです。どの辺のディテイルがアピールポイントになりますか?

注目すべきディテイルという意味では、主演のラジニカーントやミーナのアップの入れ方ですね。ラジニカーントのウィンクやミーナの流し目など、一瞬差し込まれる目力の強いカットが絶妙なんです。一見ラフな作りに見えますが、K.S.ラヴィクマール監督はとても計算して撮影や編集を行い、王道のスター映画を作っています。とにかく主演俳優のアップにこだわっているのです。だから映画の画像をどこから抜いてもキラーショットばかりです。あと、この映画の登場人物が自然の中の一部と言うことを表現するために、象をはじめ、孔雀、猿など、様々な動物たちが一瞬登場します。また、木々の緑の濃さも見どころです。馬車チェイスのシーンも『ベンハー(1959年)』みたいなアクションを実際にやって、人間が次々吹っ飛ぶスタントも実際に人間がやっています。こういうアクションは最近だとCGで作ってしましますが、この頃は本当にやっていました。クライマックスに登場するエキストラの数も半端な数ではありません。細かいカットから、そうしたインド映画ならではの人海戦術によるスケールの大きな部分まで、見どころはたくさんあります。

―― 今でこそ細い俳優さんが多いですが、横のちょっとした広さはインドの美男美女の特徴なのでしょうか(笑)?

近年少しずつ変化はありますが、この映画が製作された頃は特に、南インドの映画ではスリムな俳優より、ふくよかな俳優が好まれる傾向にありました。インド以外でも昔は映画のヒロインはマリリン・モンローはじめグラマーな女性が多かったですよね。ミーナの健康的なふくよかさは20年前も話題になりましたが、今でもとても魅力的だと思います。これくらいのほうがサリーなどインドの民族衣装も似合うんですね。

民族衣装で登場する『ムトゥ』はファッション的に古くならない

―― サリーもそうですが独特のファッションですね、時代背景も良くわからないです

物語の時代設定ということですか? おそらく製作時(95年)よりは前の設定だと思います。家電もほとんど出てこないし。ただオープニングに出てくる学生のファッションなどをみるとさほど古い時代ではないかもしれない。いずれにせよこの映画は、ある種戦略的に時代性を排除しているのです。当時、すでに多くのインド映画がTシャツにジーンズ、スニーカーで歌い踊っていましたが、そういうファッションの流行を追ったり、描いたりした作品は今見ると古く感じてしまします。主人公が古いタイプのジーンズをはいていたり、古い携帯電話が出ただけで古い映画に見えてしまいます。でも、ほぼ全員がインドの民族衣装で登場する『ムトゥ』は、時代劇の『バーフバリ』と同じようにファッション的に古くならないんです。こういう映画はあるようでなかなかないんですよ。

映画評論家 江戸木純氏


―― ファッションというか文化なのでしょうか、インドの田舎の方では裸足で農作業をしたり、サンダル履きだったりといったスタイルのイメージがあります。

20年前にインドに行ったときにはチェンナイあたりでも街中にも裸足で歩いている人は多かったです。スニーカーを履くのはステイタスだった感じで、ヒーローの足元がよくアップになったりしていました。でも、今ではさすがにみんな靴やスニーカーを履いています。
ただ、勿論、裸足で家の前を歩いている人もいますし、案外お寺が一杯ある所であれば、そこは裸足にならなきゃいけないから、どちらかと言うとサンダル式のものの方が多いかもしれません。

―― 今回は4K&5.1chデジタルリマスター版ですね

20年前、映画は日本などでも音声はすでに多くの作品がステレオ化されていました。しかし、『ムトゥ』のフィルムはモノラルでした。歌と踊りのシーンが見せ場の作品でしたからそれが唯一残念なことでした。映画が大ヒットしたときも、ステレオ版を作ろうという企画はあったのですが、35ミリ・フィルムでステレオ版を作るのはとても費用がかかるので実現しませんでした。今回日本公開20周年に合わせてオリジナル・ネガから4K版を制作することになり、音も5.1chサラウンドにしました。映像はムンバイのスタジオで、音響はチェンナイのA.R.ラフマーン監修の下、彼のスタジオで再ミックスを行いました。現在、A.R.ラフマーンはインドで最も忙しい作曲家ですが、『ムトゥ』の製作会社カヴィターラヤー・プロダクションズが、たまたま最新作でラフマーン氏のドキュメンタリー・シリーズを製作していたことから、本作の監修も引き受けてくれることになりました。

―― この4K&5.1chデジタルリマスター版は日本以外でも上映されるんですか?

日本での上映がワールド・プレミアで、今後インドのタミル・ナードゥ州やシンガポールやマレーシアなど、世界各地のタミル人マーケットで上映の予定です。日本に在住のタミル人の方にも見ていただきたいと、英語のチラシも作りました。ラジニカーントの人気は今や世界的なものなので、多くのファンがこの4K版を見たいと言ってくれています。

ムトゥ』の歌と踊りはインド映画の中でも特にハイレベル

―― 最大の売りと言えば、この踊りが魅力的でもあり自然ですよね?

『ムトゥ』の歌と踊りはインド映画の中でも特にハイレベルのものだと思います。すべてが物語に関連し、物語をより深めるために機能している。インドのマサラ・ムービーのダンス・シーンには男女の恋愛を描くために、アルプスの山とか、タイの海とか、海外の風光明媚なロケーションでヒーローとヒロインがただ歌って踊るというものがかなりの割合を占めますが、この映画にはそれがない。1曲、1曲がじっくりと練られて作られています。だから飽きないんです。

―― 妖精のような子供達が踊るシーンは印象的ですね

「クルヴァーリの村で」という曲ですね。ムトゥとランガがケーララ州に迷い込み、言葉がわからないままトラブルになった直後に登場するミュージカル・シーンです。妖精が登場する場面の衣装は、ケーララ州の田舎の原住民が着ていたものを参考にかなりデフォルメしてデザインされたものらしいです。途中に出てくるカタカリ・ダンスもケーララ州の有名な踊りです。

―― ミーナさんの踊りにもキレがありますね。またインドでは曲に合わせて歌ったり、鑑賞の仕方が日本とは違いますね?

インド映画の女優はかなりの肉体労働です。ああしたダンス・シーンの踊りは、その場でダンス・マスター(振付師)が付けていきますが、それをその場で覚えてすぐに踊れなければならないので大変だと思います。インドでは、映画の公開から1ヶ月前くらいに音楽がリリースされます。それが最も効果的な宣伝でもあります。ラジオやインターネットでもどんどん流れるので、それが予告編の役割も果たします。公開される頃には、ファンはその音楽を何度も聴いているので一緒に歌えたりもします。

―― 映画ファンへのメッセージをお願いします!

『ムトゥ 踊るマハラジャ』はそもそもとても面白い映画ですが、今回の4K&5.1chデジタルリマスター版ではその面白さやメッセージがよりクリアに伝わってきます。昔見たことのある方は、格段に綺麗になった映像と音響に驚かれると思いますし、初めての方にはこの徹底的な面白さと幸福感はかなりの衝撃だと思います。純粋な娯楽映画としても面白いですが、この映画には人間が幸福に生きるためのさまざまなメッセージが込められています。ぜひスクリーンで体験してみてください。インド映画が好きなら見ておかないと始まりませんし、インド映画への入門としても最適の1本です。

編集部より

インド映画と聞いて本作をイメージする映画ファンは沢山います。日本の映画史に刻まれる一大ブームを巻き起こしたのではないかと思います。
世界を見渡せばいろんな価値観をもつ人たちがいて、その分だけ文化もあります。この映画を観て、インドの方々とその文化を一括りに捉えることはできないものの、魅力的なその一面が照らし出されています。
また、インド映画ならではのダンスシーンも、喜びの表現だけでなく共有しようとする力を持っているのです。
さらに、インドの大地主のラージャと召使のムトゥとの関係は、全く同じではないにせよ、日本の殿様に侍が忠誠を誓う関係にも見えるし、「騙すより騙される方が罪深い」という言葉の意味を、事実関係としての善悪を超えて自らの至らなさに目を向ける感性だと理解することも難くはありません。
4K&5.1chデジタルリマスター版として現代に甦った『ムトゥ、踊るマハラジャ』、映画館の大画面と音響で、全身で体験すべき作品です!!




江戸木純インタビュー第1弾はこちら!
「ムトゥ 踊るマハラジャ」から20年 インド映画が再び日本全国を席巻する「バーフバリ 王の凱旋」降臨
https://tokushu.eiga-log.com/interview/3671.html

『ムトゥ踊るマハラジャ』(4K&5.1chデジタルリマスター版)予告編動画

『ムトゥ踊るマハラジャ』(4K&5.1chデジタルリマスター版)作品情報

■公開情報
2018年11月23日(祝・金)より新宿ピカデリーほか、全国順次ロードショー!!
■公式サイト
http://www.muthu4k.com/
■コピーライト
©1995/2018 KAVITHALAYAA PRODUCTIONS

歌って、踊って、恋をして。
一生楽しいウルトラ・ハッピー大娯楽映画!これが伝説の“見る極楽浄土”。





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