旦那の成功を縁の下で支えたい『半世界』高村初乃役・池脇千鶴さんインタビュー

半世界 高村初乃役 池脇千鶴

旦那の成功を縁の下で支えたい
『半世界』高村初乃役
池脇千鶴さんインタビュー

全国の劇場で公開中の『半世界』。第31回東京国際映画祭コンペティション部門に選出され、見事“観客賞”を受賞した本作は、私たち日本人に懐かしさと温かさを届けてくれる素敵な作品です。
今回は公開初日にあたる2月15日に、稲垣吾郎さん演じる主人公高村紘の妻であり、息子・明の母であり、そして一人の女性である高村初乃を見事に演じ、沢山の愛と感動を与えてくださった池脇千鶴さんに初乃について、そして『半世界』についてたっぷりとお話を伺いました。

妻・初乃が抱いた悔しさ、怒り

―― 先行上映舞台挨拶では稲垣さんから花束が贈られました。その後の囲み取材で稲垣さんは「(バレンタインデーだから池脇さんから)後でチョコレートをもらえるはず」と期待されていたようですが?

池脇千鶴さん
あげていません(笑)。

―― 2つほど演技についてご質問させてください。まず杉田さん演じる息子の明が、どうやら学校でいじめを受けているようだと。母親、初乃として池脇さんは薄々それに勘付いている。でも旦那さんである紘に相談しても中々取り合ってもらえない。その時の母としての心情というのは?

池脇千鶴さん
なんて言うんでしょうね。

息子はいじめられているけれども、もう15歳で親が口出しする歳ではないというか。初乃も介入したくないタイプだし、決して過保護ではないですから。本人も“自分でなんとかやっているんだから”という態度を見せて、初乃は毎日近くにいるからそれを分かっているし。けれども決して見過ごせないことだから、一応大黒柱である紘さんには分かってもらいたい。“ここで分からないでどうする”というか、“ここで繋いでおかないと”というか、忙しくて結構ほったらかしだから、向き合ってほしい。そのもどかしさですよね。

私が今思い出しているのが、「良い子たちじゃないか」って紘が言って、それで明が睨むわけですよ。私もそれを言いたくないし、口には出したくないけど、“なんでわからない”って。“この子の表情をなぜ見ない”っていうか、“ちゃんと汲んでやってよ”というか。そこで多分私は柱の所に立って、こうやって視線を送ったりしているんですけど、それリテイクしたんですよね。なぜかは分からないんですけど。“もう、この馬鹿親父!!”っていうか、悔しいって感じですかね。ううん…。

―― 子どもの心情を考えればこれ以上踏み込んだ言葉は掛けられないし、だからこそ雰囲気で旦那さんには分かって欲しかった。そのもどかしさで初乃はイライラというか、苦しいと言うか…。

池脇千鶴さん
苦しい、悔しい、もう飽きれるを通り越して怒りぐらい。“今、この子を助けないでどうするのよ!分かってよ!”っていう感じですかね。

―― 映画ではありますが、本当に親子のような感情が生まれていたんですね。

池脇千鶴さん
そうですね。やっぱり(その感情は)生まれなきゃいけないし、生まれるものですね。なんか本当に、なんていうのかな。自分自身の経験でそういうことはないけれど、例えて言うなら、自分のペットをもし誰かが蹴ったらとか。悔しくてたまらない、涙が出るくらい。そういう沸々(ふつふつ)ときてしまうような、大事なものを貶(けな)される蔑(ないがし)ろにされている悔しさですよね。

半世界 高村初乃役 池脇千鶴

旦那の成功を縁の下で支えたい

―― もう一つは、同窓会と言いつつも初乃が営業回りに行くシーン。この時の初乃の気持ちですが、阪本監督からは「池脇さんは人間としての矜持をもって演じてくれた。そうじゃないと出来ない役だった」というようなコメントをいただいています。あの時にどういう想いで営業をしている初乃がいたのでしょうか?

池脇千鶴さん
あれはもうただただ一家を支えるためだし、彼を助けたい…。彼の不器用さをやっぱ分かっているし、多分、彼は職人だから営業っていってもどこかぶつかってしまう部分がある。それと、亡くなった父親を乗り越えられないっていうのもあるわけです。それを間近で見ていて分かっているから、勝手に「代わりに私がやるよ」なんて言ってもこの人(紘)が嫌がるのは分かっているから、そういうのは本当に縁の下であって、サザエさん一家のフネさんくらい、何にも見せなくて「やっておきましたよ」って。「お財布にお金入れておきましたよ」も言わないみたいな。

それくらい何も見せずに、なんとかして彼の頑張りを成功させたい。それは我々の家計にとっても大事だし、炭にとっても大事。ということは彼にとって命みたいなものだから、それは出来る限り見えない所でプライドを保ってあげたいというか。

それが多分家族が上手くいく方法かなって(笑)。

半世界 稲垣吾郎 池脇千鶴

―― 監督が、「多分営業に行ってもすぐにダメだって帰ってきている、そんなもんだろうと思っている初乃もいたんじゃなかろうか」「だから自分が出ていかないと、ここはうまくいかない。それも言わない方が上手くいく。だと思うよ」って一言おっしゃっていたんですが、まさにそんな感覚?

池脇千鶴さん
本当にそういうことです。
多分一回突っぱねられたら帰っちゃうような人だから(笑)。

映画『半世界』池脇千鶴

―― ドアがバシーンと閉まる音なども含めて作品全体に緊張感が漂っていたので、紘の不器用さや所作もずっと緊張感をまとっていたように感じました。確かに初乃が紘に“言えない”という感覚を、観ている我々も感じてはいたんです。

池脇千鶴さん
踏み込めない感じですかね。

―― そうですね、“言えばいいのに”って思うけど、言えないみたいな…

池脇千鶴さん
そうですね。やっぱり紘さんが小さい所、神経質に響いてすぐ反発する。「あなたってすぐこう言うよね」「ああ言えばこう言うよね」ってなっちゃうのが分かっているから、余計な所でつつきたくないんですよね、私としては。エネルギー使うし。もうずっとそういう事をやってきては地雷も踏んだだろうし、“あー、面倒くさい!”っていう(笑)。

だからこれ以上は言いたいけども、初乃としては飲み込むか…っていう仕方なさはありますね。
面倒くさいお父さんですよ(笑)。

―― なんだか本物のご夫婦の愚痴を聞いているような感覚になりますね。私はっておっしゃっていますし(笑)

(笑)




俳優・池脇千鶴の矜持

―― 「人間としての矜持を出さなければ出来なかっただろう」という監督の言葉が響いています。そこで、俳優・池脇千鶴さんにお伺いしたいのですが、この映画を観る方には、どんな池脇さんに見られたいのか。初乃がいながら池脇さんがいるわけで、どんな“池脇さん”を見られたいのか?加えて、どんな俳優になりたいと思っていらっしゃるのですか?

池脇千鶴さん
この映画、物語に没頭してもらえたらそれが一番だと思う。

これは10代の若い時から気にしていたことで、やっぱり見ている人に認められたいというか、見ている人が“あの娘大丈夫かな?”って冷や冷やしてもらいたくない。そういう人っているじゃないですか、色々な作品を観ていると。なんかその人で冷めるというか、心配な気持ちになっちゃう。そういう存在には絶対になりたくなくて、みんながスッと入り込める、そういう俳優になりたいっていうのがずっとあったから、ただただのめり込んでもらいたいです。

私のファンでいてもらうことはとっても大事で有難いし嬉しいことです。それにプラス私を楽しみに見に来てくれるっていうは、きっとその映画全部を楽しみにして「池脇さん、また初乃だったね」って言われるくらい、そういう褒められ方というか、そういう楽しみ方をされたい。「なんか池脇千鶴だったね」だとちょっと違うというか、私は別にスターでもなんでもないから、そこの中で楽しんでもらいたい。それは今もそうだし、この先も変わらないですね。

半世界 高村初乃役 池脇千鶴

―― この映画では初乃を見て欲しいと。

池脇千鶴さん
そうです、初乃として「池脇さんどこ行った?」くらいに本当は思ってもらいたい。

―― 自分がその時その時にその映画の役にはまり込んで、実感して、感動してもらいたいと。

池脇千鶴さん
そうですね。それはずっと変わらないですね。

―― 紘の妻役とか、明のお母さん役とか、つまりオプション的な役柄じゃなくて、一人の人間として味を出していかなければいけない。そのためには人としての成長も大事だと監督からお聞きしています。池脇さんはどのように成長の機会を求めているのでしょうか?

池脇千鶴さん
成長はしたいか、したくないかと言われたらもちろんしたいですけども、常にそれを目指すというか頑張ろうと何かを考えているわけじゃないです。

振り返って成長できていたら良いなっていうか、そうじゃないと自分では気づかないので。今私が成長しているかって分からなくて、振り返った時にあの頃は頑張っていたし、あの頃よりももう一つ出来たかなって。そういう時にやっと気づけるのかなと思うんです。

ただ、普通に生活をしていれば何かしら勝手に身に着くというか、何かを習得するためにっていうことは全然やっていなくて、台本をもらって役柄をいただいた時に出来ることはやるし、その時に考えるくらいです。

友達も元々多くはないし、でも減ってもないし。だいたい同じ人とずっと付き合っている感じです。人の観察っていうか、人を見る目、それは中身だったり外見だったりっていうのは道を歩いていても出来ますから(笑)。だからこだわってやっているわけではないです。電車の中でも“こういう人っているな”って思っているし。

―― やはり初乃を見て欲しいということは自分の感情にいかに素直になっているか、些細なことでも心の動きとかを考えていらっしゃるのかもしれないですね。

池脇千鶴さん
そうですね。その時にひょっとしたら初乃っぽい人を思い出したりとか、参考にできたりとかあるかもしれないし。私の中にある母性だったり、お母さんに垣間見えたこととか、私が明の年齢だった頃とかを思い出したりとか、色んな想像を膨らませたりっていうことは出来るのかなと。

緊張感MAXの撮影現場(笑)

―― キャストの方々同士で、そんなにお話はされなかったとおっしゃっていましたが。

池脇千鶴さん
そうですね、そういう会話は全然なかったですけど。なんでしょう。現場でお芝居以外でお話するのって緊張するし、恥ずかしいし…(笑)。よっぽどざっくばらんに話してくれるような方がいたら私も心地よくなって喋れるんでしょうけど、そういう感じでもないし、誰も(笑)。

舞台挨拶とかだと、ああいう風になぜか吾郎さんもすごいエンターテイナーになってくれるし、みんなどこかやり切っているから好きに喋れるんでしょうけど。
実際監督怖いですしね。

―― やっぱり!!(笑)

池脇千鶴さん
すっごい優しいけど、本当に細かくて厳しい。怖いというか、それが恐ろしい、私はそこを見透かされて「ああして、こうして」と言われることが恐ろしいというか。だから期待に応えたいし、自分のやりたいこともやりたいし。言われるとドキドキするわけですよ。“ダメだったのかな”、“あれもやらなくちゃ、これもやらなくちゃ”と。自分では考えていないことをいっぱいしないといけなくなるから毎日緊張が途切れなくて。そんなに喋っている余裕がなかったです。

―― 監督からの指導、アドバイスは多かったのでしょうか?

池脇千鶴さん
多いです(笑)。心情的なことは言葉を選んで私にちゃんと伝わるように言ってくださるんですけど、動きとかは本当に細かいです。だからテストもいっぱいしますし、その度に動きが合わなかったら変えていき、そこで「これを言ってみて」とか、「違うな、もう一回これやってみて」とか。本当に細かいので、常に瞬発力を求められていて、私は“ついていかなくちゃいけない”っていうドキドキが強かったです。

映画『半世界』阪本順次監督

―― 監督からは「みかんの皮むきだけお願いした」と伺っていましたが(笑)。

池脇千鶴さん
そうですよ。あれも私あんなにポンポン口にいれて、“喋れるかしら?”ってなるくらいいっぱい食べたし。ちょっとしたことが沢山あって、「そこで咳払いしてみて」とか、なんでもそんな感じです。

映画『半世界』池脇千鶴

―― 現場での緊張感が伝わってきますね。逆に、面白かった思い出とかはありますか?

池脇千鶴さん
こう言っていますけど、監督は物凄く優しいし、ちょっとの合間でもいっぱい喋ってくれて楽しいんですよ。現場を外れると私のことは“千鶴ちゃん”って呼んでくれるし、でも現場では“初乃ちゃん”とか“初乃”とか。初乃っていうのは好きな名前らしくて…(笑)。

今日の初日舞台挨拶でも監督は、「今までの自分の経験を全部出した」って仰っていて、「全部実話だ」みたいな。初乃っていうのも自分が考えた好きな名前で助監督だか誰かの子供が産まれた時にも「初乃ってつけろ!」って言ったけど、つけてくれなかったらしく(笑)。
「僕が女性の役につけたかった」みたいな話はされました。

あとは、最後の一週間くらいのタイミングで私がインフルエンザに患ってしまって。本当はもう少し長谷川さん演じる瑛介と絡むシーンがあったりしたんですけど、省いたりして。私がホテルで軟禁状態にある時に長谷川さんは帰られていたという(笑)。

私が復帰した時には監督がシナリオを全部直してくださって「大丈夫だから」って、私はみんなに謝り倒すっていうね(笑)。でも、書き換えたことで、よりいっそう素敵な場面が撮れたみたいです。

―― これは暴露して問題ないか確認ですね(笑)その流れ(?)でちょっと浮いた質問なんですが、初乃は喧嘩して魚を投げつけるんだみたいな話がありますよね。池脇さん自身は怒ってそういうことってする人ですか?(笑)

池脇千鶴さん
ないです!!!ないですね。
あんまりボン!って強く言えない。言われたら黙っちゃうし、だからモノを投げるとか全く考えられないですね。基本的には喧嘩をしたくないんで。「なんで怒っているんですか?」「ゴメンナサイ、なんでしょうか?」みたいな感じになると思います。

映画ファンにメッセージ!

―― 最後に映画ファンへのメッセージをお願いします。

池脇千鶴さん
何回か同じことは言ってしまっているんですけど、完成した作品を観てすごく面白かったです。とても上質な良い映画だなって思って、性別も年齢も問わず色んな人に投影できたり共鳴できたりして、誰でも感動できるんじゃないかな。本当に懐かしむ。私はこの年齢じゃないのに、なんかこの同級生が自分のようで懐かしいというか。そういう出会ってもいない過去とか色んなものを見せられているような気がして面白いんじゃないかなって。

それで(明役の杉田)雷麟君の年頃だったらもう分かってくれるだろうなとか、どういう目線かなというのも面白いし、割とアラフォー映画とか、男三人の友情とか言われているけど、結構奥さんに感じるものがあるんじゃないかとも思うんで、是非、性別も問わず沢山の方に観てもらいたいなって思います。

半世界 高村初乃役 池脇千鶴

編集部より

初乃の優しい眼差しは常に紘と明に注がれています。
妻として母として、軸はぶれず出しゃばらない。不器用で面倒くさい旦那だけど、憎めず一途で男らしい紘。彼を陰で支える健気な姿はとても印象的でした。
イライラを飲み込み、悔しさや大きな悲しみを抱えた、そんな初乃の心を受け止め、理解することが出来る池脇千鶴さんの感性が初乃とシンクロしているからこそこうした素晴らしい表現になっているのだと思いました。
まさか、怒ったら魚を投げはしまいか?そんなことまでインタビューさせていただきましたが、どうやらそんな心配は要りませんでした(笑)
皆さん、初乃に会いに劇場まで足を運んでみませんか?
池脇千鶴さんの益々のご活躍を期待しています!!

映画『半世界』は、
TOHOシネマズ日比谷他大絶賛全国ロードショー中!!





脚本・監督:阪本順治/出演:稲垣吾郎 長谷川博己 池脇千鶴 渋川清彦 小野武彦 石橋蓮司
©2018「半世界」FILM PARTNERS
配給:キノフィルムズ

■予告動画

※映画ログ会員の評価・感想・ネタバレ※
平均評価 4.8点 (2019年2月25日更新)
・稲垣吾郎、長谷川博己、渋川清彦はもちろん脇を固める役者さんたちも良い。池脇千鶴の妻、母親役がぴったりはまっている。派手さはないけれど、こういう作品が日本映画の王道。稲垣吾郎の代表作になるのでは。
・とにかくネタバレをしたくない!あとを引く映画。3日間ひきずって、またあの住人に会いたくなる。内容解ってるのに、さらに号泣という繰り返し。
・映像も音もとても綺麗。後悔しないように生きて行きたい。阪本順治監督からの愛を感じた。
・妻役の池脇さん、そしてまんぷくで一生懸命インスタントラーメンを開発している長谷川さん。それぞれが主役級の演技、存在感ですね。ラストにかけて長谷川さんが主役って思った人もいるのでは!?
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