阿部定事件を題材にした『愛のコリーダ』藤竜也の表情との共通点『歯まん』岡部哲也監督インタビュー

阿部定事件を題材にした『愛のコリーダ』藤竜也の表情との共通点
『歯まん』岡部哲也監督インタビュー
3月2日(土)公開
ゆうばり国際ファンタスティック映画祭 2015、横濱 HAPPY MUS!C 映画祭 2015、カナザワ映画祭 2017 など、数々の映画祭で受賞してきた日本映画界の新たなる異才の持ち主・岡部哲也監督。期待と注目を集める最新作『歯まん』が3月2日(土)よりアップリンク渋谷ほかで公開されます。『生と性と愛』がテーマのダークファンタジーとなった本作の着想から、作品の見所や俳優への演出などたっぷりとお話を伺いました。
強烈な愛に対する憧れ
―― この作品の構想・着想のいきさつについて教えてください。
岡部哲也監督
最初は、コンプレックスをもった人物をモンスターとして、そしてファンタジーとして描きたいなというところから始まりました。殺したいほど相手を好きになるとか、殺されてもいいと思えるぐらい愛するとか、愛されたいとか、そういったことをベースのテーマとして、コンプレックスを持った人間がそれを葛藤しながら受け入れて生きていく、そういった話にしようと思いました。
―― 生と死、その間を性(セックス)が振り子のように行き来している様に見えます。しかも、振り子が死に振れるほど愛に近づいているように見えるのはなぜでしょうか?
岡部哲也監督
やっぱり相手の命を奪ったり奪われたり、それ程までの強烈な愛に対する憧れを表現したかったというのがあります。

岡部哲也監督
―― 本来は性(セックス)の後に生が宿るものですが、この作品は性の後に死がやってきます。男には死が、女には愛を失う悲しさがあります。この男女の接点をどのように理解すればよいのでしょうか?
岡部哲也監督
“愛”を描く上で、性(セックス)も“愛”に内包されているんじゃないかということです。セックスで体を通して繋がるということを抜きにして愛する人と結ばれるということもあるとは思うのですが、魂が一つになるじゃないですけれど、心も身体も結ばれるという意味ではセックスも必要なのではないかという想いもあります。“愛”の無いセックスということがあまり意味のない行為なのではないか、セックスというのは命を生む崇高な行為であって、命をかけてセックスに挑むというのを描きたかったというのもあります。
話がずれるかもしれませんが、祐介(役:小島祐輔さん)は遥香(役:前枝野乃加さん)と一緒に他人の死というものを共有した時に、いつか自分にも死が訪れる、そのいつかというのは誰にもわからない。その“メメント・モリ”(ラテン語で)“死を想え”という“いつか人間は必ず死ぬ”という事実に気付いて、そこで考えが固まるということは意識して作りました。
その考えが直接“愛”に結びついたのはこの話だからなのであって、誰かの死を目の前にしたからそこで“愛”が強くなるのかというと、そこがイコールという考えは特にはもっていないですが…。
前枝野乃加、水井真希、宇野祥平!キャストを語る
―― ところで、キャスティングの話なのですが、前枝野乃加さんがヒロインの高校生“遥香”を演じてくれました。監督から前枝さんにはどの様なアドバイスがあったのですか?
岡部哲也監督
当時(前枝さん)は22歳でした。仕草、特に泣き方とかは幼く見えるようにと意識して演じてもらいました。
―― 水井真希(みどり役)さんは映画監督もされていらっしゃいます。ご出演された経緯を教えてください。
岡部哲也監督
元々、出演作の『終わらない青(11年 緒方貴臣監督)』『イチジクコバチ(11年 サトウトシキ監督)』とかは、僕が個人的に観て知っていました。出演者をインターネットとかで募集した際に応募して来てくれたのですが、その時点では、何の役かは決めずにオーデションに来てもらって、それでみどり役をやっていただこうと決めました。
―― 山下敦弘監督の作品コメントなのですが、「宇野祥平さんは変態を演らせると手に負えない」というお言葉をいただいています(笑)。これは宇野さんの地が出たということでよろしいのでしょうか?(笑)
岡部哲也監督
宇野さんは、元々山下組で一緒にお仕事をさせてもらっていた関係でオファーさせていただきました。脚本の感じだと、もう少し映画よりも暴力的なというか粗暴な男というイメージで、もっと野暮ったく描いていたんですけど、宇野さんが現場に来て「もっとサイコパスっぽい方がいいんじゃない?」ということで、「それってどんな感じですかね?」って実際に演じてもらってみたんですが、思ってたイメージとちょっと違ったので、「中間を取りましょう」と提案して演じていただいた感じですかね。ただ、現場では宇野さんが暴走し出してムチャクチャやってるなと思ったんですけど、編集する段階で脚本と照らし合わせて台詞を追っていくと、結構一言一句ちゃんと台詞通り言ってるし、ここで殴ったりみたいな段取り的なことも台本通りにやってくれていました。ただ、現場で観ている時はもの凄いエネルギーでやってくれていたので、一か所だけ関西弁が出ちゃっているところがあって。そこは地が出たんだと思います(笑)。
―― 現場全体の雰囲気はいかがでしたか?
岡部哲也監督
撮影期間が短くて、スタッフも僕を含め7人程度だったので、現場は割と次から次に準備してどんどんやらないと、終わらないみたいな、時間に対する緊張感が常にありました。ただ、主演の前枝さんは凄く明るい雰囲気で臨んでくれました。もちろん気合を入れないと出来ないようなシーンもあったのですが、前枝さんの明るい立ち振る舞いでスタッフとしては凄く撮影がやり易かったです。
『愛のコリーダ』藤竜也の表情との共通点
―― “阿部定事件(あべさだじけん)”に共通するものがあるとすればそれはどういった点になりますか?
岡部哲也監督
事件については直接は調べたりはしていないのですが、『愛のコリーダ(76年 大島渚監督)』の映画の中で最期に首を絞めてセックスをする中で、藤竜也さんが“お前にだったら殺されてもいいよ”という表情をしてるなと思って。実際にはそういった台詞は無かったと思うんですけど、そこは『歯まん』と共通している1つの愛の形なのかもしれません。
※阿部定事件:1936年、阿部定が愛人男性を絞殺して性器を切り取った事件。「愛のコリーダ」は阿部定事件が題材の作品。
―― エンディングに向けての構成について監督の狙いを教えてください。
岡部哲也監督
最後のシーンは初めから決めていたんですよ。
彼らが幸福なのか不幸なのか、観る人によって捉え方は違うかもしれません。現実だったらほとんどの人には理解されない愛かもしれません。だけど愛は二人の間に存在するものだから、そこを感じていただけたらと思います。
映画ファンにメッセージ!
―― 最後に映画ファンへのメッセージをお願いします。
岡部哲也監督
自分の映画をみんなが観てくれることを望んでいますが、とにかく自分の観たい映画を作りました。映画を純粋に観て楽しんでいただけたら嬉しく思います。
多分自主映画じゃなければできなかった映画だと思いますし、ここまで振り切った作品は他にはないので、是非劇場で観ていただければと思います。ジャンルも様々な要素が入っていますし、純粋な愛を描いた部分もあれば衝撃的な部分もあります。映画館の中では、自分と重ねて色んなことに思いを馳せて頂ければと思います。
編集部より
エンターテインメントの要素「歯まん」が作品の軸となって、生と死を往来する愛が描かれているように感じます。
この軸の姿は見ることはできないのですが、概念的には存在しうる要素なのだと思います。
だからこそ、現実味を帯びたテーマ性を感じ、「安部定事件」が自然と作品理解の引合いに出されてくるのではないでしょうか。
強烈な愛の姿や形は、相手がいてこそ成り立つものであり、しかも相手との現実的なつながりを求めた場合に性を抜きに実感はできないものではなかろうか、と岡部監督はリアリスティックな視線を我々に投げかけています。そこに何を感じて、どのように愛を理解し定義していくのか?ここだけは私たちの力に委ねられています。
アイデアがとてもユニークなラブストーリーを生み出した岡部哲也監督の才能を是非劇場でご覧ください!
『歯まん』は、2019年3月2日(土)からアップリンク渋谷ほかにて全国順次公開!
■予告動画
■公開情報
【アップリンク吉祥寺 公開終了】(アップリンク吉祥寺HP https://joji.uplink.co.jp/)
【アップリンク渋谷 公開終了】(アップリンク渋谷HP https://shibuya.uplink.co.jp/)
【名古屋シネマスコーレ 2019年5月4日(土)〜公開】(名古屋シネマスコーレHP http://www.cinemaskhole.co.jp/)
【大阪第七藝術劇場 上映時期調整中】(大阪第七藝術劇場HP http://www.nanagei.com/)
【広島・横川シネマ 上映時期調整中】(広島・横川シネマHP http://yokogawacinema.com/)
■キャスト
馬場 野々香
小島 祐輔
水井 真希
中村 無何有
宇野 祥平
泉水 美和子
坂井 天翠
古川 真司
瓜生 真之助
大石 結介
ほか
■公式HP:www.haman.link
■監督・脚本:岡部 哲也
■撮影:長谷川 友美 照明:加瀬 拓郎、録音:川井 崇満、メイク:加藤 由紀 衣装:岩田 洋一 音楽:HIR・三枝 伸太郎
配給:アルゴ・ピクチャーズ 配給協力:武蔵野エンタテインメント
2015/日本語/カラー/95 分/DCP/R18+ ©2015「歯まん」
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