3/9公開『家族のレシピ』シンガポールの巨匠エリック・クー監督が食にこだわった理由!

シンガポールの巨匠・エリック・クー監督3/9公開『家族のレシピ』
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3/9公開『家族のレシピ』
シンガポールの巨匠エリック・クー監督が食にこだわった理由

「美味しい」その一言が、時と国境を超え、家族をつなぐ。日仏シンガポール合作の美食映画『家族のレシピ』が3月9日(土)から公開となります。

日本とシンガポールの食文化の架け橋となる主人公の真人を演じるのは、絶大な人気と実力を誇る俳優であると同時に、監督でもあり、映画を通した国際交流にも積極的に取り組んでいる斎藤工さん。真人にシンガポールを案内するシングルマザーのフードブロガー役には、永遠のアイドルとしてアジア全域で不動の地位を誇る松田聖子さん。いつの時代も庶民の心と体を満たしてきたソウルフード(魂の食)をモチーフに、2カ国3世代の家族の絆を描いた珠玉のドラマが誕生しました。

今回は本作の監督を務めたシンガポールの巨匠エリック・クー監督に本作に込めた想いや撮影でのエピソード、さらに日本とシンガポールの文化に至るまでたっぷりとお話を伺いました。

食にこだわった理由

―― とてもハートフルな映画で楽しませていただきました。今回特に食にこだわった要因を教えていただけますか?

『家族のレシピ(Ramen Teh)』第31回東京国際映画祭

エリック・クー監督
私が食に魅了されているからです。亡くなった母へのオマージュでもありますね、最後に出てくる料理は、すべて母が私によく作ってくれた料理で、劇中ではおばあちゃんが作ってそれを並べているんですね。やっぱり食と記憶というのは繋がっていて、口に入れるとワーッとその時の想い出が蘇ってきます。だからスーツケースを真人が開けると、そこに想い出が詰まっていて、そこからストーリーが始まるんです。

―― 最後のシーンは監督のお母様へのオマージュということでしたが、多分観ている方それぞれの家族の味を想い出させるようなシーンだったのではないでしょうか?

シンガポールの巨匠・エリック・クー監督3/9公開『家族のレシピ』

エリック・クー監督
まさにそれが意図したところです。やはり、自分の愛する人に料理を作ってあげる、その気持ちは普遍的なものだと思います。ベルリン国際映画祭キュリナリー・シネマ部門で本作が正式招待され、現地で取材を受けた際も記者の方が泣きながら話を聞いていらしたんですね。「家族の想い出や作ってくれた気持ちが蘇ってくる」ということを言ってました。

日本の美的感覚が大好き

―― シンガポールと日本との食や文化、人の違いについて監督の印象を教えてください。

エリック・クー監督
私、日本が大好きなんですけれども、それは美的感覚というものがあらゆる細かい所まで配慮されている点です。例えばお弁当、美学はそこにありますよね?懐石料理がある意味その究極の形です。だから全てのものに見せ方が考えられ、計算されているのが日本食だと思うんです。

シンガポールの美味しい食は、所謂ストリートフード、屋台で作られるもので、綺麗に見せるものではなくて、紙で巻いたりと手軽なんですね。ただ、今回主人公が日本人の父とシンガポール人の母の間に生まれた青年ということで、彼が体現する象徴的な食は何かと考えた時に、ラーメンとバクテーを思いついたんです。ラーメンも元々質素な屋台の料理でしたよね?バクテーもシンガポールでは労働者が食べる非常に質素な食が始まりだったんです。ですから、それを盛り込みたいと思いました。

それは両国の撮影スタイルの違いにも現れていると思います。日本の撮影というのは、予定があって計画があってそれに従ってそこから外れないことがある意味鉄則ですよね。シンガポールの場合は割とその場の即興で、ちょっと予測不可能な部分があるんです。だんだん仕事をしていくうちに、“あぁ、あの監督の撮り方はこうだ”と日本のクルーの皆さんにも苦労して分かっていただきました(笑)。そして、何よりも素晴らしいことは、違いはあっても私たちはとてもいい関係を築けたことです。

シンガポールの巨匠・エリック・クー監督3/9公開『家族のレシピ』

―― シンガポールは様々な国の方が集まって成り立っていると思うのですが、決してバラバラではなくて、むしろまとまっているイメージがあります。

エリック・クー監督
シンガポールは結構失礼な人がいるんですよね(笑)。人種を問わず物言いであったりマナーが失礼というか、日本人は割ときちんとしていて礼儀正しい人が多く、それは個人個人が深く文化に根付いていて行動様式があるからだと思うんです。それが日本の美的なセンスにつながっているのだと思います。ですからその日本文化を私たちはとても尊重し敬意を払っています。刺身を切るにしても切り方、刃の入れ方、角度によってまた味やら見え方が変わってきますよね。

ロケ地の群馬県高崎市に感謝

―― ところで、なぜ“高崎”を選ばれたのですか?

エリック・クー監督
実はプロデューサーに“小都市で撮影したい、シンガポールは都会なのでそのコントラスト”をと希望したところ群馬県の高崎市とつないでくださって。高崎市の知識がなかったので、まずネットで調べたら巨大観音(高崎観音)が出てきて(笑)。私自身とても信心深く、母が子供の時から連れていってくれたお寺に観音様がいて、今でも観音様に拝んでいるんです。なので「もう行く!巨大観音見に行く!」って言って。
ただそれだけじゃなく、谷があったりと本当に風光明媚な場所で、いいエネルギーを感じました。更に、市町村はじめとしてフィルムコミッションの皆さんがとても熱心で協力的で、運命を感じるぐらいとてもいいロケーションに巡り合え、私の人生の中で幸せな日々の一つです。




松田聖子が英語堪能なシングルマザー役

―― 作品のテーマの一つでもある言葉を越えた和解と融和、そういった世界を象徴するものとしてはこの観音様というのがまさにピッタリでした。そして、とても幸せな撮影だということですが、その中で外せないのが松田聖子さんだと思います。

エリック・クー監督
(松田聖子さんの)レコード全部持っています(笑)。本作のプロデューサーが聖子さんと以前にお仕事の関係で知り合いで、ファンの一人としても“絶対に会いたい”と伝えていたんです。加えて、今回この脚本で美樹という役柄をぜひ聖子さんにどうか?とご相談したところ、「じゃぁ、脚本を彼女に渡しますよ」と言ってくれたんです。(聖子さんに)読んでいただいたところ、気に入ってくださったんですね。

それで、スカイプで話をするに至ったのですが、スター・オーラに私はやられて非常にナーバスになったんですね。でも、5分ぐらい聖子さんと話をしていたら、彼女の役に対する解釈が的確でしたので、もう彼女しかいないということが分かりました。彼女も英語が堪能で、美樹という非常に強いシングルマザーの役柄をよく分かってくれて、ピッタリだなと思いました。それと斎藤工さんも真人の役にとても共感してくれて、お互いなりきって演じてくださったと思います。ただ、そもそもシンガポール人が日本人のことを考えて英語で書いた脚本を日本語に訳して演じてもらうというのは、ちょっとややこしいやり方なので、もうご自身の言葉でセリフを言っていただくことにしたんです。だから、とてもお互いのやり取りがうまくいっていると思います。

シンガポールの巨匠・エリック・クー監督3/9公開『家族のレシピ』

―― まさに台詞なのかな?と思うぐらい、ドキュメンタリーを見ているようでした。

エリック・クー監督
ナチュラルだったし、まさにドキュメンタリー撮影です。そこは撮影監督のブライアン・ゴートン・タンの役割が非常に大きく、何かが目にとまったら“ちょっとあれ、入れてみようよ!”とか耳打ちしてやってもらっていたんです。ただ、日本のクルーにとってはもうジェットコースターに乗っている感じですかね(笑)。

―― 聖子さんが「おいしい、よかった」っていう台詞がすごく可愛くて。

家族のレシピ

エリック・クー監督
すごく自然にしてくださったんです。2テイク以上いらなかったですよ。何せ18日間で全部撮りましたからね。

―― いつものお二人とは違った面が見えました。

エリック・クー監督
映画を見る度に、二人の演技が素晴らしくて泣けてきました。特に最後、真人役の斎藤工さんが泣くシーンには私たちも泣かされました。

アジアに広がる映画の輪

―― 日本とシンガポールの撮影チームはどうでしたか

エリック・クー監督
私たちが日本に来ると「ちょっと飲みに行こうよ!」と誘える友達がいっぱいいるような状況で、クルー同士も仲良くなりました。

今、いろんな困難が世界中にありますよね?ひどいことが起きている。さらにはトランプ政権の影響や右翼的な思想に傾倒にしている国が多い中で、この映画が非常にポジティブな気持ちを奨励したり、まさに慈悲と寛容の神のようなことを役割として果たせればと思ったんです。でも、少なくともクルーにおいては、その影響を私たちが体現しているというか、まさに私たちに起きたのは、世界を越えてつながるということでした。

―― チームワークということですが、共演されている別所哲也さんは以前の作品でもご一緒されたり、斎藤工さんは同じ監督業をされているわけですが、作品に関してディスカッションなどは行われたのでしょうか?

エリック・クー監督
前作では、別所さんは声だけで出演していただいていますが、ハンサムな顔が登場しないのはもったいないということで今回登場してもらいました。『TATSUMI マンガに革命を起こした男(2011年)』の撮影で来てもらってバクテーの店に連れて行ったら、いい声で「バクテーおいしい」って言ってくださったから、いやこれは彼と絡みでやらなくてはいけない、特に彼が気に入ってくれたということであまりにもおいしそうに食べるので。そこからヒントを得ていたのかもしれませんね。

斎藤さんに関しては、彼の撮った短編も長編も素晴らしいし楽しませていただきました。やはり監督同士ということで、やり取りも楽しかったです。実はこの後、私がディレクションした才能あるアジアの監督を集めて撮ったHBO Asiaのホラー作品『フォークロア』というオムニバス企画があり、工さんにも参加してもらっています。彼に手掛けてもらったエピソードはとても良くできていますよ。(他、インドネシアのジョコ・アンワー監督、韓国のリー・サンウ監督、マレーシアのホー・ユハン監督、タイのペネック・ラタナルアン監督が参加)

シンガポールの巨匠・エリック・クー監督3/9公開『家族のレシピ』

―― どんどん輪が広がっていくんですね。

エリック・クー監督
日本が大好きなので次の作品を日本でやりたいと思っています。




斎藤工が経験した歴史

―― 話題は変わりますが、この作品の底流にも流れているテーマの一つですが、歴史上の問題を抱える国々において、芸術には何ができると監督はお考えでしょうか?

『家族のレシピ(Ramen Teh)』第31回東京国際映画祭

エリック・クー監督
脚本では、真人(斎藤工)はその日、戦争博物館に行く、とだけ書いてあり、彼は既に私が到着する1時間前には博物館の中に入って見ていたのですが、私が到着すると走り寄り、青白い顔をし手を取って言うんです、「本当にごめんなさい、何も知らなかった」と。

その日は1日中(斎藤)工さんは、そのことをずっと考えているように見えました。でもそこに行ったことで、何故おばあちゃんが僕(真人)に対してああいう態度を頑なに取ったのか?ということが理解できたのです。この映画に自分の経験がそのまま映っていて、作品を見ることにより私の経験が共有されることがとても意味があると彼も言っていました。フランスの配給元も「シンガポールが戦争で占領されていたことがあったのか」と驚いていました。歴史の大きな枠組みをわかっていても、細かい一つの国の歴史を知らないことの方が多いですよね。

家族のレシピ

―― ごめんなさい、私も正直よく知りませんでした。それを日本の若い方たちにも知らせる、ちゃんと伝えるためにもこの映画は必要だったのではないかと思います。

エリック・クー監督
人間にとって人生というのは続くものですよね、ですから和解があってそれを許し、でもそれを無くしてしまうとどこでもトランプの世界になってしまうわけですよね。ですから、やはりそれを提示していくことが必要だと思います。

―― 真人の悩みとは正反対だったのは聖子さん(美樹)の笑顔です。美樹は全てを受け入れた上での笑顔だったのですね。

エリック・クー監督
彼女は女神のような存在なのです。

―― 監督の言える範囲で結構ですので本作の見どころをこれから観る方へのメッセージを!

エリック・クー監督
この映画は血と汗とみんなの情熱と愛でできた作品です。世の中はもっと愛と慈悲、許し、和解で溢れているべきだと思います。って答えになっていますかね?(笑)

『家族のレシピ』は、
2019年3月9日(土)より、シネマート新宿ほか全国ロードショー

編集部より

あの時食べたラーメンのあの味、覚えていますか?
同じ様に、シンガポールの方々は、様々なあの時に、どんな思いでバクテーを食べたのでしょう?
登場人物たちは食によって時空を超えて、あの時に戻り、そして今を生き直します。
エリック・クー監督が心を込めて作ったこの作品には、愛や慈悲、許しそして和解といったエッセンスがとけ込んでいて、良い香りと味を楽しむことができました!
ぜひ劇場で監督が囁いてくれている、見えないメッセージを受けとってみて下さい!!




エリック・クー監督プロフィール

シンガポールの巨匠・エリック・クー監督3/9公開『家族のレシピ』
1965年、シンガポール生まれ。オーストラリアのシティ・アート・インスティテュート(現ニューサウスウェールズ大学アート&デザイン学部)で映画製作を学ぶ。多数の短編を監督したのち、ミーポック(シンガポールの麺料理)売りの青年と娼婦の愛を描いた『Mee Pok Man』(95)で長編デビュー。高層マンションの住人たちの24時間を描いた長編第2作『12 Storeys』(97)がカンヌ国際映画祭・ある視点部門で上映されて以来、同映画祭の常連となる。第3作の真実の愛を探し求める3人の男女の物語『Be With Me』(05)は監督週間オープニング作品に選ばれ、続く第4作のインド系マジシャンと幼い息子の父子愛を描いた『My Magic』(08)はパルムドール候補となった。その他、『TATSUMI マンガに革命を起こした男』(11)では劇画の創始者、辰巳ヨシヒロの人生とその作品を斬新なアニメーションで表現。シンガポール・香港合作の『In the Room』(15)では、老舗ホテルの一室を舞台に6つの時代に6組のカップルが愛を交わす様を描き、センセーションを巻き起こした。
また、プロデューサーとして後進の育成にも積極的に取り組み、ロイストン・タン監督の『15』(03)や『881』(07)、ブライアン・ゴートン・タン監督の『Invisible Children』(08)などを製作。さらにアジアを代表する監督・プロデューサーとして、齊藤工を含む6カ国の監督が参加するHBOアジアのホラーシリーズ「FOLKLORE」(18)のショーランナーを務める。

『家族のレシピ』作品情報


公式サイト:https://www.ramenteh.com/
シンガポール・日本・フランス合作映画
原題:RAMEN TEH
出演:斎藤工、マーク・リー、ジネット・アウ、伊原剛志、別所哲也、ビートリス・チャン、松田聖子
監督:エリック・クー(『TATSUMI マンガに革命を起こした男』)
主題歌:シシド・カフカ「Hold my Hand」
(C)Wild Orange Artists/Zhao Wei Films/Comme des Cinemas/Version Originale




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