“福島はハッピーアイランドだ” 映画『ハッピーアイランド』渡邉裕也監督

映画『ハッピーアイランド』渡邉裕也監督

“福島はハッピーアイランドだ”
映画『ハッピーアイランド』渡邉裕也監督

東日本大震災から8年。
第1回四万十映画祭“長編部門:最優秀賞”や、福岡インディペンデント映画祭2018 “100分ムービー部門最優秀作品”に輝くなど、国内外の映画祭にて高い評価を受け、完成から2年半の時を経て、映画『ハッピーアイランド』が3月2日から東京都渋谷区のユーロスペース、3月8日からは福島県福島市のフォーラム福島・イオンシネマ福島、同いわき市のまちポレいわきにて公開されています。
本作は、福島県須賀川市出身の渡邉裕也(わたなべゆうや)監督が、3.11の原発事故によって風評被害を受けるも、農業を営み続けた自身の祖父の姿を見て映像化を決めた作品です。
今回は渡邉裕也監督に本作の見所や映画に込めた想いをたっぷりと伺いました。

祖父の“変わらない姿”から映画化を決意

―― 『ハッピーアイランド』制作に至った構想・着想をお聞かせください。

映画『ハッピーアイランド』渡邉裕也監督

渡邉裕也監督

渡邉裕也監督
東日本大震災の後、福島に対する風評被害が徐々に表面化していく中で、ニュース等で取り上げられることによってさらに(福島の農作物を)購入しなくなるという実態がありました。こうしたニュースがダイレクトに影響を及ぼして、福島の農家の野菜が売れなくなっていきました。

祖父は福島で農業を営んでいたんですが、風評被害があってもずっと同じ状態で、彼のスタンスは変わらなかったんです。その変わらないスタンスは非常に明確で、カッコいいなと素直に思い、それを形として見えるように作りたいと思いました。

―― 変わらないこと自体、難しいことですよね?

渡邉裕也監督
そうですね、でもやることは全部一緒じゃないですか。
単純な話で言えば、放射能対策用の農薬はあったりするんですけど、農薬をまくという意味では一緒です。

でも、僕の考える“変わらない”っていうのは、“愚痴をこぼすことがないこと”だったりするんです。作っても出荷出来ないものが出てくる中で、捨てなくちゃいけないものが出てくる中でも、それをやり続けるってなかなか・・・要は抑えることもできるわけです、作らなければいい。作ればどうしても費用がかかってしまうじゃないですか。(売れずに)ダメになっちゃうのは何となく分かっているのかもしれないけれど、それでも作るわけです。
それが凄くカッコいいというか、経営的に考えれば上手くいっていないという部分もあるのかもしれないけど、そうじゃなかったというか、きっと多分そういうことではないんだろうなと思いました。

―― また逆に、変わらない福島には変えられる力があると感じました。吉村界人さん演じる真也はいい意味で福島の人達によって変わりましたね。

渡邉裕也監督
萩原さん演じる正雄さんの変わらない姿が、界人というか真也を変えた、青年を変える力がある。それを物語にしたかったというか、変わらない姿を見て、それって凄いことで、それを見て不足している人間がやっぱりそこを補って変わるっていう所なのかなと思ってこの映画にしました。

―― 福島だと会津藩に“什の掟”があり“ならぬことはならぬもの”じゃないですけど、精神的に鍛えられた福島県人の県民性というものもあるのではないでしょうか?

渡邉裕也監督
福島の人はちょっと物静かにやるタイプの農家の方が多かったりしますね。祖父も昔から淡々と農業をやる感じがあって、それが凄い好きだったんです。

―― おじい様のひたむきさ、言葉では言い表せない雰囲気がカッコ良さにつながっているのでしょうね。

渡邉裕也監督
今思い出すと、それは凄く感じます。

あまり映画とは関係がないんですけど、震災から2カ月くらい経過してからですかね、祖父がアルツハイマーになったんです。
震災後なのでそのショックなのか、関連性があるのかは分からないんですが、その後も2カ月くらいは普通に農家をやっていたんです。でも、段々やれなくなってきて、うちの母が看病をするようになりました。すると、アルツハイマーで自我を失っているはずの祖父がきまって朝と夕方に居なくなるんですよ。その時、祖父がいる場所はいつも一緒で、必ず畑にいて土を意味もなくいじっているんです。自我を失った70、80歳くらいのおじいちゃんが、つい半年前くらいまでは農作業をやれていた姿は跡形もないんですけど、でも祖父にとってそういう場所っていうのはそこだった。それって凄いカッコいいことだと思っていて、“この人本当にカッコいいな”と僕は素直に思いました。それだけ想いを込めて一つの仕事をやり続けていた人なんだなって。

3.11の後、福島出身なのでニュースとかドキュメンタリーとかを色々と見ましたけど、そういう姿は描かれていないと思っていたんです。別に実情を皆さんに見てもらいたくて作っていないというか、ああいうことがあってそれでもやり続けている人の姿は、誰かしら何かしらの力で絶対に伝えた方がいいことじゃないかと思うし、だったら自分が伝えようと。想いを込めて作ったら、それが人に伝わるものがあればいいのかなと。

―― 監督の仰るカッコよさが、勇気の見せ方がとても伝わってきます。レビューでも泣けると書いてくれる人もいますが、元気が出ると書いてくれる人もいます。おじい様の持つカッコよさを何らかの形で表現しようという構想に成功したということだと思います。

渡邉裕也監督
(元気が出るとか)そう思ってくれる人がいたら成功ですよね。だからこそ、一人でも多くの方に観てもらいたいというのはあります(笑)。

―― 夜、正雄さんが畑にいて野菜に喋りかけているシーンもすごく印象的でカッコいいなって感じました。おじい様の姿から着想があったのでしょうか?

渡邉裕也監督
そうですね、祖父から着想を得ましたね。
まあ、なんか昔あったんだと思いますよ、震災とか関係なく、自分の幼少の頃に見た記憶が。“このおじいちゃん何やってるんだろう”って。(野菜に向けて)あんなにベラベラ喋ってはいなかったと思いますけど、絶対(笑)。それと多分言われたんだと思います。「想いを込めて野菜を作るんだよ」みたないことを。幼稚園児か小学生の頃に祖父が僕に言ったのをなんとなく覚えているんですよね。それを思い出してあのシーンを書きました。

―― 公民館でドキュメンタリーチックな素晴らしいシーンが展開されていますが、あのシーンの着想はどうやって生まれたのでしょうか?

渡邉裕也監督
この話を撮ろうと思った時に一番最初に思い浮かんだのが、本当の姿・形をした本当の福島の人の声で、それを聞いて主人公が成長していく物語にしようという企画というかコンセプトでした。それができるように本を書こうと思ったんです。「いつ思いつきましたか?」ってよく聞かれますけど、最初から思いついていたというか、あれをやりたいと思っていたからいつかは覚えていないです。この映画を作ろうと思ったスタートでは、農家の話で、主人公が変わる話で、それが現地の人のリアルな声を聞いて変わるんだ、と。

自分には確信のようなものがあって、あの人たちがあのシーンのような想いを持っていて、絶対にああいう言葉を伝えてくれるのは分かっていたので、それって大事なことで。僕の場合、この映画でやりたかったのはそういうことなので。絶対にそこのキーポイントをこの人たちが語ってくれると思っていました。

―― 現地の方々は生の声を聞かせてくれているんですね。台本には?

渡邉裕也監督
台本上は質問が書いてあるだけで、あとは「受け答えです」って。
見開き2ページで、公民館のシーンで、最初に中村さんが挨拶をして、みんなが談笑しているみたいなト書きがあって、真也が次々に質問をしていく。で、質問事項のセリフが何個か書いてあって、以上。

―― 3年前に本作を撮影した当時の福島と今とでは、どんな変化があるのでしょうか?

渡邉裕也監督
それは数値をみれば大分変化しているんじゃないですかね。
でも最近よく思うんですけど、この人たちはいつまで放射線量を測定し続けるんだろうなって。この検査って日本中の全部の農家がやっているわけじゃないじゃないですか。極端ですが、北海道の農家はこの検査はやっていないわけで。会津の方は検査しているけど、会津に近い新潟は当然必要はないのですが検査はしていません。

―― 3年経っても変わっていないことなのかもしれませんね。

渡邉裕也監督
一生変わらないのかもしれないですね。まあ、以前より売上が良くなっていることはもちろんいいことだと思うし、認識は段々薄れてきているんだろうなって思います。

“福島はハッピーアイランドだ”

―― 映画ログのレビューにはタイトル“ハッピーアイランド”について、“福”=ハッピー、“島”=アイランドという意味合いと、同時に監督の皮肉があるのではと寄せられています。

映画『ハッピーアイランド』渡邉裕也監督

渡邉裕也監督
以前、映画祭で僕が話したのを聞いてくれてたのかな。映画祭で“皮肉”って言ったことがあるんですよ。
映画祭で映画のタイトルの質問を受けた時に「幸せの島」という意味を込めて、それと皮肉というか「幸せな島ってみんな思ってないんじゃないですか?」って。それもまた一つの風評じゃないか、ハッピーアイランドじゃないと思われているのは勝手なその人たちの考え方で、今映画に出てくる人たちはそれが嫌なことだとは思っていないし、たまたま起きた震災なんか誰にでも起こりうる話だから、それがすなわち不幸だって思っている人はいないわけです。もちろん震災で悲しんだ方がいらっしゃったことは事実ですが、家族を亡くした方はいっぱいいらっしゃるし、だから幸せじゃないんだっていうのは、それはまた違う話なんじゃないかなと。

話は飛びますけど、例えば他の国の人の一部が福島を毛嫌いしたりとか、それは違うんじゃないかなって。だからこの映画っていうのは、“福島はハッピーアイランドだ”って皮肉というか定義を込めているんです。

―― 続いてキャスト陣の話題に移りたいと思います。舞台挨拶でも吉村界人さんが“浮ついている様”を自ら演出しているようで、自然な演技が素晴らしかったです。

ハッピーアイランド

渡邉裕也監督
フラフラしている方がいいなって(笑)。
キレる所はキレるって何となく分かっていたので、あそこの怒りの振り幅には期待していました。実際には、結構時間をかけて演出しています。それこそ殴ってしまった後、みんなで集まって話し合うシーンは凄い時間をかけた記憶があります。

―― 大後寿々花さんはどういう経緯で?

ハッピーアイランド

渡邉裕也監督
ヒロインを探していた時に、萩原さんと同じ事務所だからお願いしたらOKをいただけるのかなという甘えと(笑)、彼女のこれまでの活躍を僕は見ていたし、素朴な可愛さ、親しみやすさがあって、なんだか保育士さんっぽいなって。

―― そして、大御所の萩原聖人さんですが?

ハッピーアイランド

渡邉裕也監督
助監督の時に知り合っていて、僕が自分の映画を撮るってなった時に「じゃあ、出てやるよ」って。台本を渡したら「お前、こんな真面目な話書くのかよ(笑)」って言っていました(笑)。

「負けちゃいけねえ」
映画に救われた渡邉裕也監督の原点

―― 監督と映画の出会いについてお聞かせください。

渡邉裕也監督
高校生の時に寮で生活をしている中で、部活のメンバーとうまくいかなくなった時に、こいつらと一緒にいたくないというか、向こうもいたくないのかもしれないですけど。

その時に出会った友達たちが僕にとっては大事というか、彼らが映画をよく観ていて。まあよく観ていたというか、みんなで集まった時に映画をよく観にいくことがあって、その時間に救われるわけですよね。友達と一緒にいられるみたいな時間が僕にとっては凄い良い時間で。その時に、映画を観て感動したんですよね。

クリント・イーストウッド監督の『インビクタス 負けざる者たち』(2010年)を観た時に、頑張ろうと思ったんです。差別を描いていたのもあって、負けちゃいけねえなって思ったんです。

その時、“映画ってたった一本の映画を観ただけで人をこんな感情にできるんだ”って衝撃で。“だったらこういう感情を違う人にも与えられるような映画を作りたい”って。高校を卒業してからの進路に悩んでいた時に、“本当に自分のやりたいことをやろう”って思った時、映画を撮ってそういう感情にさせられる映画を撮りたいと思ったんです。

映画『ハッピーアイランド』渡邉裕也監督

―― 映画ファンにメッセージをお願いします。

渡邉裕也監督
自分のやりたかったことは一つで、風評とか、福島を題材にはしているけど、舞台挨拶でも言いましたけど、決して原発とか、地震の被害がひどいとか、風評被害がどうだこうだとかをやりたかったんじゃなくて、人間の根本として人のことを嫌な目で見ることと、風評って大して変わらないことだし、それでもなおかつ頑張り続けるのはすごく大事なことだし、僕の映画を観てそういう気持ちになってくれる人が少しでもいたら嬉しいです。

映画『ハッピーアイランド』渡邉裕也監督

―― 負けてられないっていう監督の気持ちは、ラストの真也の言葉に込められていたように感じました。

渡邉裕也監督
そうですね、あの台詞で終わらせたかった。彼があの台詞を吐くまでのストーリーというか。

―― 自然と心を動かしてくれる力があって、作品を観れば監督の想いをたっぷり感じることが出来ました。

渡邉裕也監督
あまり押し売りはしたくないというか。観る人それぞれに色々あると思うから、観る人に委ねるじゃないけど。

それも野菜と一緒で、萩原さんのセリフにあったように、別に嫌いな人が食べられないのは仕方がないんだと。その気持ちが分かるというか、「子供を持つ親として」って言っていますけど、僕もそういうことなんだろうなと。そういう風に思う人もいれば、そうじゃない人もいるけど、映画には何かしらのメッセージを込めて伝えたいこともあるし、伝わればいいのかなと思って作っています。
レビューサイトでもいい評価をしてくださる方が多くて、であれば、もうちょっと(お客さん)沢山来てくださいって念じています!!(笑)

編集部より

東日本大震災によって悲しい思いをした方や風評被害で苦しんでいる方がいるのは事実です。一方、被災者でない人間の発想は自然と“自分には何ができるのだろう” “今更だけど、何かできないか” と支援することに向かいます。
しかし、本作は決して支援や行動を促すのではなく、福島の日常を描くことによって私たち観客に“生きる勇気”を与えてくれました。劇中で吉村界人さんが演じた真也君の経験は、まさに私たち観客の経験となるのではないでしょうか。
ぜひ、本作を劇場で鑑賞して、”ハッピーアイランド=福島”のパワーを日本中、世界中に届けましょう!




プレゼントキャンペーン開催中!

【特賞】3名様にあたる!

吉村界人・萩原聖人・大後寿々花・渡邉裕也監督のサイン入りポスター

【ハッピー賞】10名様にあたる!

福島県須賀川市産米「ぼたん姫」300g

【キャンペーン期間】

3月2日(土)~ユーロスペースでの上映中

【応募方法】

映画レビューサイト「映画ログ」にて、映画『ハッピーアイランド』の評価・レビュー(感想)を書き込み頂き、 m-kome@sobal.co.jp 宛てに映画ログの会員IDを記載の上、メールして応募完了!

※当選者には、編集部から当選のご連絡をさせて頂きます。その際、プレゼント発送先の、ご住所等個人情報をお預かりさせて頂きます。

渡邉裕也監督プロフィール

映画『ハッピーアイランド』渡邉裕也監督
1992年生まれ、福島県須賀川市出身。2014年大学中退後、助監督として映像業界に入る。
MVなどの監督をしながら、助監督として商業映画に関わり始める。今作が初監督であり、初商業監督作品となる。


■予告動画

■キャスト
吉村界人
大後寿々花
三輪江一
岡村多加江
中村尚輝
萩原聖人

■スタッフ
監督・脚本:渡邉裕也
音楽・主題歌:古舘佑太郎「ハッピーアイランディア」
制作:ExPerson
配給協力:SDP

■公式サイト
http://movie-happyisland.com/

©ExPerson2019




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