自由に感じとってください!『12か月の未来図』オリヴィエ・アヤシュ=ヴィダル監督【来日インタビュー】

『12か月の未来図』 オリヴィエ・アヤシュ=ヴィダル監督

自由に感じとってください!
『12か月の未来図』
オリヴィエ・アヤシュ=ヴィダル監督【来日インタビュー】

移民、貧困、学力低下―。フランスを悩ます社会問題を背景に描く“学ぶこと”の大切さ。エリート教師と問題だらけの生徒の交流と成長がユーモアたっぷりに描かれる感動作『12か月の未来図』が4月6日(土)より岩波ホール他全国で上映されます。
よりリアルな教育現場を描くために中学校に2年間通い、500名の生徒と40名の教師と共に学校生活を過ごし本作を完成させたオリヴィエ・アヤシュ=ヴィダル監督。公開を前に来日されたオリヴィエ監督に、本作の見所や教育についてなどたっぷりとお話を伺いました。

『12か月の未来図』 オリヴィエ・アヤシュ=ヴィダル監督

オリヴィエ・アヤシュ=ヴィダル監督

―― 非常に感動してグッときました。まず、監督がこの作品を撮ろうと思ったきっかけを教えてください。

オリヴィエ監督:
教育問題には以前から興味がありました。本作のプロデューサーが「映画で撮らないか?」と声をかけてくれて、彼とやりたいことが合致したのはラッキーでした。
実はフォトジャーナリストとして活動していた時に海外の色々な教育現場を取材していましたし、自分自身にも子供がいるので、学校は決して遠い存在ではありませんでした。

―― フランソワ・フーコー先生(役:ドゥニ・ポダリデスさん)を見ていて、最初嫌味な先生だなと思いました…。

オリヴィエ監督:

『12か月の未来図』 オリヴィエ・アヤシュ=ヴィダル監督
それは願ったり叶ったりです(笑)。

―― しかし、生徒のセドゥがフーコー先生に「僕はバカだからできない」と言った瞬間に、先生の気持ちは大きく揺さぶられ、変わっていったのではないでしょうか?

オリヴィエ監督:
その通りです。

―― 翻って、フーコー先生には元々“子供たちはできるんだ”という信念があったということなのでしょうか?

オリヴィエ監督:
“子供たちはバカじゃない”っていう信念があるかどうかということについては、“バカだとまでは思っていないけど、子供はそんなに賢くもない”ぐらいのちょっと偏見的な思い込みがあったのではないかと思います。
ただ、子供の口から「僕はバカすぎる」「どうしようもない」みたいなことを言われると、先生はそれを聞いてひょっとしたら「僕のせいかな?」「僕があまりにも高圧的に指導するせいかな?」と自分を見直すきっかけにはなったと思います。
フーコー先生は、有名校から送り込まれた際、子供たちをよく知ろうという思いがあったわけではないんです。彼は自尊心があって、“僕は名門校でも優秀な先生だし、僕自身の教育方法を使って今回も軽々と成功してやろう”と。だけど、それが全くもってうまくいかない。壁にぶつかったことでようやく石のような心だったものが、子どもたちとの関わりによって開いていくという物語なんです。
手の打ちを明かすとこういうことですが、観客の方々がそれぞれの思いでこの作品を見てくれることが大切です。僕自身は一番大まかな石を並べただけなので、自由に感じとってください(笑)。

―― 教師として、プロとしての魂を呼び覚まされたのかなとも感じました。

オリヴィエ監督:
余談になりますが、現実って一瞬一瞬が繋ぎ合わさって現実になっていますけど、映画は現実に見せかけているけど、実はフィクションであって、シーンがつなぎ合わさっているだけで、色んな真実が抜け落ちていると思います。そこを埋めるのは観客の方の想像力です。
だから、本当に観客の想像力次第なんです。

―― とても想像力をかき立てられた作品です。

オリヴィエ監督:
メルシー!
“1冊の本の方が2本の映画よりも想像力をかき立てる”ってよく言われますけど、確かにそれは正しくて映画もあまり説明的に全てを提示するのではなくて、想像力を残していくことが大事ですよね。

―― その想像のうちの一つなんですが、フランスは洗練されたエリートによって成り立っている国家であり、フーコー先生のような厳しい先生(笑)が有名校には多くいらっしゃるイメージがあります。実際はどうなんですか?

オリヴィエ監督:
まさにリアルです(笑)。

―― え!そうなんですね、実際に厳しいんですね。
ところで、日本の教育現場にアドバイスをいただきたいのですが、一部の学校では学級崩壊もあるようです。監督が教育現場を2年間取材された経験を基に、先生たちに対して何らかのアドバイスをいただけないでしょうか?

『12か月の未来図』 オリヴィエ・アヤシュ=ヴィダル監督

オリヴィエ監督:
アドバイスって難しいんですけど、聞いてもらえなかったり、ボイコットされてしまったりした時に、“ひょっとしたら自分の授業がつまらないんじゃないか?””関心を持ってもらえないのは何でだろう?”と考える必要があります。どんな形でもいいので、子供たちに教科について興味を持ってもらうというのは、凄く大事なことです。
例えば、数学に関するドキュメンタリーを見せてみるとか、あるいは課外活動をするとか、どんな形でもいいので「数学というのは単なる数式じゃないんだよ。数学というのは実生活にも結び付いているし、奥の深い世界なんだよ」って伝えることが大事なんじゃないかと思います。

―― 有難うございます。本作に戻るのですが、フランスには沢山の移民が流入していると思いますが、その移民を円滑に受け入れていく上で、「教育」が果たす役割は非常に大きいのではないでしょうか?

『12か月の未来図』 オリヴィエ・アヤシュ=ヴィダル監督

オリヴィエ監督:
確かに教育は大事ですし、基礎になることだと思っています。
映画でも語っているんですが、教育があるからこそ社会のレベルが上がり、社会も良くなっていくと思います。非常に大事なんですけど、残念ながら我々の問題は政府が教育に対する予算を沢山充てていないことです。
本来、若い教師が一人前の教師になるためには養成期間が必要です。それが、23~24歳ぐらいで自分の専門分野、数学なら数学、地理なら地理の知識だけをもって先生になっている実態があります。そんな状態で郊外の学校に送られてしまうと、彼らはその生徒たちを教師として手名付ける術を持っていません。
知識の伝達者としては持っているんですけど、(フランス語では)pédagog i(ペダコジ)っていうのはÉducation(エドゥカッション)とは別で、教育法というのは単なる教育と別もので、自分自身が持っている知識をいかにして伝えていくのか、それ自体を教師が学ばなければなりません。予算がないために教師を養成する3年とかの学校を作れないでいる、これは政府の問題です。教えること、教育方法を学ぶことが必要なのではないでしょうか。




―― 子供たちには当然教育が必要で同時に愛情も必要です。そのバランスが取れれば非常にいいと感じました。若い先生とフーコー先生のようなベテランの先生にはその辺りの差があるのでしょうか?

映画 12か月の未来図

オリヴィエ監督:
フーコー先生も教育者としての訓練を受けていないんです。だからあの人はベテランと言いながらもベテランじゃなくて、彼自身も子供たちにホロリとさせられたんです。だからこそ自分の中のエモーション(感情)を動かされて、人間らしさが出てくる。(先生と生徒の関係は)双方向だと思いますし、伝えるだけじゃなくて愛情を持っていることも確かに必要だと思います。

―― 生徒であるセドゥが戻ってきた時に、ヴィクトル・ユーゴーの4つの言葉の話をしていました。席に着き、話を聞いてるセドゥが悲しそうな表情をしているように見えました。あのシーンの意図というか、捉え方を教えていただけますか?

映画 12か月の未来図

オリヴィエ監督:
決して悲しい顔をしているわけではなくて、その4つの言葉がヴィクトル・ユーゴーの物語でもあるんだけど、自分の物語でもあるということでオーバーラップしているんです。だからどちらかというとセドゥは愛情を感じているんです。
一度退学させられて、戻って来れて、再会が出来て、感動もしています。嬉しさの一方で、気まずさも多少はあるから複雑な感情を抱いているんです。

―― ラストにかけてセドゥとフーコー先生の言葉と行動がシンクロするシーンがあります。二人の目線がぴったり合ったシーンは、そういった伏線があってのことかと思い、とても面白かったです。

映画 12か月の未来図

映画 12か月の未来図

オリヴィエ監督:
同じレベルで感情的に同じ立場に立った二人が勘違いしているという。そこで二人の考えが同期しています。でも、そこでの二人は完璧に正しいことで同期しているんじゃなくて、勘違いしていて双方が違う方向を向いてうなずき合っていた。でもその後、この二人の前に現れた一人の女の子が「申し訳ありません」という言葉を言い間違えるわけです。その間違いにセドゥも気づいて、そこで初めて二人が共犯者になり、一件落着となりました。

―― 監督の罠にまんまとハマって感動しました。

オリヴィエ監督:
感動するのも映画の楽しみですからね(笑)。

―― フーコー先生がセドゥ達の行為を見逃してあげるシーンも非常に印象に残りました。あの見逃してあげる行為もセドゥ達には必要な教育だったということですかね?

オリヴィエ監督:
その通りです。
フーコー先生が名門アンリ4世高校にいた時は、親に頼まれても容赦なくゼロを付けていました。子供たちを厳しく罰するような先生でしたが、郊外の学校に行ってから、そうではなくて一人の人間を育てようという長い目で子供たちと接していくようになるんです。
その中で確かにあの行為のようにインチキするのはよくないんだけど、あそこでチャンスをあげずに潰してしまったら、彼らはまた悪循環に陥ってしまう。そうじゃなくてプラスの方向に持っていって、さらに発表する機会を与えたり、いい循環を作り出すというのがフーコー先生が一人の人間を作り上げるために教師として必要な役割だったわけです。

―― 人として親として色々なアプローチがあるんだと、とても勉強になりました。

オリヴィエ監督:
親としては宿題をしない時や言うことを聞かない時に、ついイライラして声を出してきつく言ってしまいます。でも、そうではなくて逆の方向に行ってみると意外とうまくいくので、大変だし複雑ですけどバランスが必要です。
日本はどうか分かりませんが、フランスでは子供よりも大人だから尊敬する、子供に対する尊敬の念がちょっと足りない傾向があるように思います。それは良くないことです。子供も同じように尊敬すべきです。かといって子供を王様扱いするってこととも違いますから、子供の人格というのも尊重することです。もちろんそれにはバランスが、微調整が必要です。

―― ここぞというタイミングだったり。

オリヴィエ監督:
以前、「先生になる前、または親になる前は、色んなルールに従うべきものだとがんじがらめになっていたけど、一旦親や教師になるとそういうの脇に置いておくことも大切なんだ」と私にお話して下さった方がいました。親がルールをいっぱい作ったり、教師もルールは大事だと思ったりしているけど、そう単純にはいかないんです。
一番は大切なことは子供たちと話し合うことです。

―― 先生も知識だけでは務まらないということですね?

オリヴィエ監督:
Pédagogi(ペダコジ)ですよね。どんな風にして教えるか、そのスキルを持っているかどうかです。

―― ひっくるめての話なんですが、オリヴィエ監督にとって「教育」とは?

『12か月の未来図』 オリヴィエ・アヤシュ=ヴィダル監督

オリヴィエ監督:
色んな答え方があるんですけど、「教育」とは人を自由にさせる、自由に仕向けることじゃないでしょうか。
例えば、生まれて赤ちゃんの時には自分一人で食べられない、子供時代も自分一人では食べていけない、親も子供を守ろうとして守られた制約の中で子供が育っていきます。子供たちは教育を受けることによって少しずつ親離れをしていき、自分の羽で世間に飛べるようになり、自由を勝ち得るわけです。そして独立して責任を持つようになり、他人に対してもオープンなマインドを持ち、そういう風な人間に辿りつくことに繋がっている。
つまり、最終的にそれは「自由」になることだと思います。

―― 最後に映画ファンに向けてメッセージをお願いします。

オリヴィエ監督:
いつも悩みます(笑)。
映画を体験して感動してください、泣いてください。
ペルー、メキシコ、イタリア、スペイン、色んな国で上映した経験から言うと、どんな国でもどれだけ文化が違っても先生たちが「自分と近いもの感じました!」と言ってくれました。すごく普遍的な物語だと感じているので、日本の皆さんにもきっと共感していただけると思います。

『12か月の未来図』 オリヴィエ・アヤシュ=ヴィダル監督

編集部より

発音やアクセントが分からず名前さえちゃんと呼んであげることが出来ない。
自分はこれまで通り指導しているのに、学校以外で彼らが抱える問題は理解できるはずもなく、授業が上手くいかない原因にたどり着くことさえ出来ない。
自信に満ち溢れていたフーコー先生は「無力」を味わった時に初めて、固定概念から解放され彼らに近付いていくことが出来るのです。

そんなフーコー先生をオリヴィエ監督は、
「エモーション(感情)を動かされて、人間らしさが出てくる」と表現してくれました。

二人の甘酸っぱい恋にも表現されているように、
ちょっぴりチャーミングなフーコー先生やセドゥたちの完璧ではない「人間らしさ」に触れ合ってください。
そして、本作を観た観客の皆さんが、それぞれ関心を持った分野について大いに想像を広げてください。

オリヴィエ監督、自由に想像する映画の楽しみを届けてくださってありがとうございます!!

映画『12か月の未来図』は、
4月6日(土)より岩波ホール他全国ロードショー

オリヴィエ・アヤシュ=ヴィダル監督プロフィール

1969年、フランス・パリ生まれ。広告代理店でクリエイターとして働いた後、1992年、フォトジャーナリストとなる。ユネスコのミッションに参加し、世界中を取材した経験を持つ。
2002年、初の短編映画「Undercover」(未)を監督し、モントリオール映画祭で最優秀賞にノミネートされるなど、世界の映画祭で評価を得た。続いて監督した短編映画「Coming-out」(未・05)では『最強のふたり』のオマール・シーが主演している。
2012年には、ガド・エルマレとアリエ・エルマレ主演の短編映画「Welcome to China」(未)を脚本・監督。中国で撮影され、主演のエルマレ兄弟が本人の役を演じている。
本作『12か月の未来図』で長編監督デビューを飾り、アメリカ、カナダ、ブラジル、アルゼンチン、メキシコ、ペルー、イタリア、スペイン、台湾、ナイジェリア、セネガル、コートジボワールなど、世界各国で上映が決まっている。




■ 予告動画

■ キャスト
ドゥニ・ポダリデス「最初の人間」(12)
レア・ドリュッケール「ジュリアン」(19)

■ コピーライト
© ATELIER DE PRODUCTION – SOMBRERO FILMS -FRANCE 3 CINEMA – 2017

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『12か月の未来図』4月6日(土)より岩波ホールほか全国公開決定!!

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