映画『チア男子!!』原作者・朝井リョウ氏×風間太樹監督インタビュー

映画『チア男子!!』原作者朝井リョウさん 風間太樹監督

映画『チア男子!!』
原作者・朝井リョウ氏×風間太樹監督インタビュー

数々のヒット小説を発表し、「桐島、部活やめるってよ」「何者」など映画化された作品も人気を集めている直木賞作家・朝井リョウさんの傑作青春小説「チア男子!!」が遂に映画化され、5月10日(金)より全国のスクリーンに登場しました。

今回は、映画『チア男子!!』の全国公開を記念し、原作者の朝井リョウさんと、大学在学中に制作した『Halcyon days』が山形ムービーフェスティバルで注目を浴び、『恋は雨上がりのように〜ポケットの中の願いごと〜』などを手がけた新星・風間太樹監督に、本作を存分に楽しめるような見所や、原作者・制作者それぞれの想いを伺いました。

―― 映画を観た後も感動がずっと続いています!まず、監督にお伺いします。スポーツに関係する作品なので、躍動感を伝えていくことも非常に大切になると思います。キャストの方々の練習も大変だったと思いますが、一番苦労したことを教えてください。

映画『チア男子!!』 風間太樹監督

風間太樹監督

風間太樹監督

“常に変化していくこと”と言ったらいいのでしょうか、昨日まで出来ていたことが出来なくなったり、また突然出来るようになったりと、完璧ということが無くて、ずっとその日その日の状態と格闘していました。
また、(状態を)持続させることも大変そうでしたが、難しいのは、出来るようになっていくと段々と慣れが出てしまうことなんです。そうすると、出来ない姿を描くシーンの撮影が返って大変になる。キャストの皆さんはそれが一番大変だったんじゃないでしょうか。
演出する上では、出来るかぎり僕も練習には参加して、一緒に体験していきました。「あ、ここが筋肉痛になるんだね」とか、ちょっとしたことでも共有して、芝居に活かせるところを探っていきました。
あとは各々が能力的にどこまで到達できるかという部分です。

―― トンちゃん(小平大智さん)を観ていて、タンブリングが出来るのか?と期待をして応援するような気持ちでした。ステージ上のトンちゃんを観て、生身のトンちゃんを温度差なく感じることが出来たと思います。

風間太樹監督

出来るなら成功させたいと僕も思っていたので、ずっとやってもらうつもりでした。撮影が始まってからも裏で練習をしていたりとか、本人も絶対にやりたいと思っていたはずなんです。そういう彼自身の努力が作品の中にも映っていると思うので、最後の演技には注目してください。
トンって不思議なんですよ。自分が劣っているという感覚がなく、みんな対等だと思ってチアに挑んでいるんです。だから、誰かが出来ないことがあれば一緒に悔しいと思える、負けん気も強いし、自分に対しても厳しいし、そんなトンが全てを振り切ってチアに挑む姿がそのままスクリーンに映っていると思います。

―― 映画から伝わってくるエッセンスとして、若者が純粋に頑張っている姿が一つ大きな軸だと思うんです。原作者としては色々な想いがあり、軸も一つには限らないと思うのですが、映画をご覧になってどのような想いで受け止められたのでしょうか。

映画『チア男子!!』原作者朝井リョウさん

原作者・朝井リョウさん

朝井リョウさん

原作者として関わった作品はどうしても一観客としては観られないので、作品を観てパワーをもらうみたいな見方にはなかなかならないんです。
どうしても物語の構造の話になってしまうのですが、原作は学祭編と大会編があるんですね。学祭みたいなものに臨む時に団体の中に生まれる“まだら”みたいなものと、公式の大会に向けて練習している時に団体の中に生まれる“乱れ”みたいなものってかなり違うと思うんです。今回の映画は、学祭に向かうまでの時間で大会編に出てくる心の問題も描かなければならなくて、その辺りの整理整頓の妙を感じては「監督、大変だっただろうな……」という想いが溢れました。
そういう意味では若者が頑張る姿にパワーをもらったかも(笑)。

―― 監督は朝井さんの作品に相当惚れていたと、ずばり朝井さんのどこに惚れたのか教えてください。

朝井リョウさん

惚れた前提で話をしないといけないから大変ですよ。

風間太樹監督

明確に好きな作品ということで一つあるのは、「少女は卒業しない」です。

朝井リョウさん

ありがとうございます。(「チア男子!!」と同じ)集英社さんの作品でございます。

風間太樹監督

例えば、少女が先生に向けて想いを伝え告白するんですが、そこに至るまでの過程が凄く繊細に描かれているんです。足踏みをしながら、じっくりじっくり。その足踏みをしている状態の描写が心地良くストンと自分の中に落ちてくるような。女性が思っていることを僕はわからないけど、朝井さんの表現を通すと僕の好きな女性像がリンクするというか。そういった繊細な表現や、思い残りを描いたエピソードが凄く好きです。
僕にとって長編映画デビュー作で、それが朝井さんの作品。僕にとってはラッキーというか、嬉しくて仕方がなかったです。

映画『チア男子!!』原作者朝井リョウさん 風間太樹監督

―― 改めて、直木賞受賞作家としての朝井リョウさんにご質問です。野球の話なのですが、あのイチローさんが4、000本安打を達成した時に、打率が3割だから8,000回くらいアウトになっているということに触れて、アウトになった打席を自分の中で消化し、それでも打席に立ち続けたことは誇れるのではないかと、その表現がすごく印象に残っているんです。
そこで直木賞を受賞した朝井さんが、今、誇れることがあるとしたらどんなことなのでしょうか?

朝井リョウさん

直木賞は全然関係ないですが、私は、「書き終えることを続ける」ということは凄いことだと思っているんです。小説家全員に当てはまることです。
小説の新人賞って1,000人くらい応募がある中で、一人の受賞者が決まるんですね。私の感覚でいうと、小説書きたいなって思う人が1,000人いたとすると、小説を実際に書き始めるっていう時点で1/10になって、書き始めたものを書き終えるっていうところで×(かける)1/10になって、書き終えることを何度も続けるっていう時点で×(かける)1/10になると思っているんです。それくらい、書き終えることを続けるって難しいことだと思っています。
私の場合、書くっていうのは、頭の中に思い浮かんだ100点の理想をどんどん破壊していく作業なんです。書けば書くほど理想から離れていって、自己採点が下がっていく。だから書き終えるころってほとんど1点とか2点とかになってるんですね。できない自分に向き合い続けるのって、どんなことでもつらいですよね。
だから、一応「書き終え続けるということを約9年間続けてこれたこと」、それだけは誇れるのかなと思います。完成度は全然誇れないですけどね。

―― ところで、チアリーディングは誰かを応援することだと思うのですが、風間監督にとって、応援することはどういうことなのでしょうか?

風間太樹監督

大事なのは人と人との関係性というか、寄り添うようにちゃんと相手のことを見て、言葉を伝えていくことなのかなと思います。
それは仲の良い人に限ることではなくて、さっきイチローさんの話が出たのでお話すると、イチローさんが引退をした東京ドームのゲームが終わった後に、スタジアムにイチローさんが戻ってこられて手を振って観客の声援に応えている時間があってテレビで見ていたんです。歓声というかイチローさんを励ます声というか「お疲れ様」と労う声が飛び交っていて。イチローさん自身も、会見で「日本人は思っていることを口にすることが苦手だと思っていたけど、今日僕が受けた声援はすごく胸に響くものがあったし、日本人のイメージが変わった」と仰っていました。
だから、応援することって別に特別なことじゃなくて、言葉に想いを乗せて、声に出すことなのかなと思います。そして、それは凄くいいことなんじゃないかと思います。

―― 登場人物の高城さくら(唐田えりかさん)は、自分に起きた不幸を他人の責任にはしない特別な子だと思います。そういう特別な登場人物は物語の中でリアリティの点で少し浮きがちになる気がするんですけど、全然ならないんです。他人の頑張りが自分のエネルギーになるといった気持ちは、ロジックを越えた感情で凄いなと感じました。朝井さんこういう特別な人に出会ったことがあるのでしょうか?

朝井リョウさん

そう受け取っていただきありがとうございます。
なんでしょうね、数式で1+1=3って書くとちょっと気持ち悪いかもしれないですけど、小説の中で、文章で1+1=3になることを書いても、書いた者勝ちだと思っているところがあります。どんな心の動きも、書きようによっては馴染むんです。
つまり、特別な人に会った経験からシーンを書いているわけではないんですね。ちょっと話がズレますが、心にまつわることは1+1=2以外の数式で成り立っていることが多いと思うので、そういうキャラクターが読み手の印象に残るのかなと思います。
凄く幸せな作品を観た後に死にたくなったりとか、沢山人が殺される映画を観た後になぜか明日の活力が湧いてきたりとか、とにかく心の動きって本当に1+1=2ではないところで出来上がっていますよね。なので、実際に「こういうことがあったから、こういう気持ちがありなんだ」と思って書くようなことは少ないです。
文章次第で、恋人に会った2秒後に自殺をする話を書いたとしても、書きようによっては馴染むはず。どんな心の動きでも馴染むような文章を手に入れることができればいいなという気持ちで色んなキャラクターを書いています。

―― 逆に言うと、むしろそれは現実でも起きていると言えるのではないでしょうか?

朝井リョウさん

そうです。実際そこらじゅうで起きていると思います。

―― 最後になってしまいますが、映画ファン、そして朝井さんのファンへのメッセージをお願いします!

映画『チア男子!!』原作者朝井リョウさん 風間太樹監督

朝井リョウさん

特に前者へのメッセージが私には難しいのですが、原作者としては、映画は映像表現、小説は文章表現、それぞれ長所と短所が全く異なるわけじゃないですか。なので、ひとつの作品を長所と短所が全く異なる媒体間で変換させる試み自体に震えるんですね。例えば、私の小説は台詞よりも風景描写などのモノローグで登場人物の心情を描いていることが多いのですが、それをどう映像に変換しているか、みたいなことです。それが映像の長所を活かした表現になっていたりすると、そこに宿る人の知恵に感激しますよね。私はそういうふうに映画を観ることが好きなので、原作ありの青春ものなんて、という硬派な映画ファンの方も、人の知恵を見つけに行く気持ちで観ていただけたら嬉しいです。
私の読者で映画を観ていただける方がいるとしたら、ぜひ映画と原作の違いを照らし合わせてみてください。人の声で言うと浮いちゃう台詞は動作で表現するようになっているとか、何をどう変換しているのか見比べる作業、楽しいと思います。変換が凄くシックリときている映画であれば、それ以外の部分、たとえば「主人公が似ていない!」とかいうことがあっても、全然関係なく楽しめると思うんです。

―― ありがとうございます。それでは〆で風間監督からメッセージをお願いします。

風間太樹監督

彼らが3カ月間チアに向き合ったというドキュメンタリーでもありますし、役として与えられていること以上に彼ら一人一人が個として挑戦した作品です。ある種のダサさとか、滑稽な部分も写っていますし、包み隠していた想いを吐露して、恥ずかしさも超えて声を張り上げている。その時にやっとお互いの心根から気持ちを伝え合える、という彼らの成⻑の過程を最後の最後まで追っている作品だと思うんです。新しいことを始めると上手くいかないこともあるけれど、そういう時に背中を押す力のこもった作品となって届いたらいいなあと思います。予告編を見て、青春のキラキラしたものに抵抗があって警戒している方もいらっしゃるかもしれませんが、でもそうじゃないと。もっともっと人間の心理の深いところにまで入り込んで描いている作品なので、是非ウチの親父にも観て欲しいし(笑)。
極端でしたけど、映画は本当にたった一人に向けて作るべきと思っているので、一人の心を震わせるために、それは親父とか母親だったりとかそういう少しだけ上の世代の人たちにもちゃんと響くような作品を作りたいと思っていたので、若い人に限らず色々な世代の方に観ていただける映画になっていたら嬉しいです。

映画『チア男子!!』原作者朝井リョウさん 風間太樹監督

―― どうもありがとうございました!!

編集部より

直木賞作家の朝井リョウさんは「完成度は誇れない、それでも書き終え続けてきたことを誇りに思う」と明かしてくれました。スポーツ、勉強、仕事…どんなことでも一つ一つに自分の納得のいく形でけじめをつけること、それを続けることは容易なことではありません。そんな朝井さん、風間監督をはじめスタッフ・キャスト全員の力で映画『チア男子!!』がここに完成しました!
男子としてチアリーディングをやるだけでも大変だし、一人の若者としても様々なドラマがある。それを乗り越えている姿を見ているだけでも勇気を貰えるのですが、それでもなお彼らは私たちをガンバレ!と「応援」してくれるのです。
この作品を鑑賞した観客の皆さんの”声援”にしても、様々な形で映画の作り手に、次の挑戦に向けたエールとして届くのです。応援に秘められた無尽蔵のエネルギーを感じてみようではありませんか!
ぜひ、劇場で映画『チア男子!!』をご覧ください!

■予告動画

■ストーリー

柔道一家に生まれた晴希(横浜流星)は、幼い頃から柔道に打ち込む姉=晴子(清水くるみ)に憧れて育った。優しすぎる性格から晴子のように強くなれない晴希は、ある日の試合で肩を負傷。以降、柔道を続けるかどうか迷っていた。そんな時同じ柔道仲間で無二の親友である一馬(中尾暢樹)が、突然「やりたいことがあるんだ」と柔道をやめることを宣言。動揺する晴希に「俺はこれをやる。ハルと一緒に!」と笑顔で畳みかけたのは、“男子チアリーディング部”の創設だった。ひとつ間違えると大けがにつながるチアの基本は、「仲間を信頼すること」。だが、メンバーを集め練習に打ち込んでいくうちに、“BREAKERS”の歯車は少しずつ狂い始め、やがてメンバーの間に決定的な亀裂を生んでしまう。

■ キャスト

横浜流星・中尾暢樹

瀬戸利樹 岩谷翔吾 菅原 健 小平大智 / 浅香航大

清水くるみ 唐田えりか 山本千尋

伊藤 歩

■原作

朝井リョウ「チア男子!!」(集英社文庫刊)

■主題歌
「君の唄(キミノウタ)」阿部真央(PONY CANYON)

■監督
風間太樹

■脚本
登米裕一

■音楽
野崎良太 & Musilogue

■制作プロダクション
AOI Pro.

■配給
バンダイナムコアーツ/ポニーキャニオン

©朝井リョウ/集英社・LET’S GO BREAKERS PROJECT

映画『チア男子!!』大ヒット上映中!

※読書ログ会員の評価・感想・ネタバレ※
朝井リョウ『チア男子!!』(集英社)
平均評価 3.7点 (2019年5月14日更新)

・チアリーディングを通して、相手を応援することだけじゃなく、自分自身、そして仲間も応援されているていうのが、自分が気づかなかった部分でした。
一人ひとり、自分との葛藤とどうやって対話していくのか、乗り越えていくのか、見方をかえるにはどうしたらよいのか。

・太め運動オンチ、料亭の息子、出来る姉をもつ弟、入院中の祖母の孫、元エリートチームの華形。色んな事情を抱え、がんばる彼ら。チアは大会中でも相手チームを、応援するスポーツ。頑張る事や仲間っていいなと思いました。
何か、始めたくなりますよ!

※映画ログ会員の評価・感想・ネタバレ
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