認知症が進む天真爛漫な99歳母と71歳息子のドキュメンタリー!映画『99歳 母と暮らせば』谷光章監督

『99歳 母と暮せば』谷光章監督

認知症が進む天真爛漫な99歳母と71歳息子のドキュメンタリー!
映画『99歳 母と暮らせば』
谷光章監督インタビュー

認知症を患っている99歳のお母様を介護すべく、71歳の息子・谷光章監督は実家に移り住みました。老々介護に四苦八苦しながらもお母様の人生最終章の日々を撮影していく監督。そこには、日常茶飯事で起こる失敗や苦難は勿論のこと、お母様のチャーミングな一面や愛おしい発見の数々がありました。
6月8日(土)からの映画『99歳 母と暮らせば』公開を前に、谷光章監督にお話を伺いました。

―――― 非常に参考になったと言いますか、私たちはみな介護を控えているので、本作を通じて色々なヒントを頂戴できたように感じます。

谷光章監督
2025年には、3人に1人は65歳以上となり、その5分の1が認知症を抱えるみたいな時代になるんです。社会全体がそうなると、私たちの周りに必ず介護を必要とする人が出てきます。そういった状態が当たり前の社会にこれからなっていくのかなと思っています。

―――― 早速ですが、監督はこれまでドキュメンタリー映画『さわる絵本―盲児たちの世界』を手掛けたり、いわゆる社会的弱者の方に関心を持ち、作品にされているのかなという印象もあります。今回のこの作品を撮るに至った経緯をお聞かせください。

谷光章監督

谷光章監督
まず前作で前衛いけばな作家の中川幸夫さんの映画『華 いのち 中川幸夫』(2014年)を作ったんです。その方は小さい頃に脊椎カリエスを患っていて、背中が曲がった障害者だったんですが、普段から個人的にもお付き合いがあって、家にも顔を出してくれていましたので。抵抗がないというか、そういう人たちが世の中にはいるんだなということは、自然な形で取り入れてきました。
ご存じないかと思いますけど、まだテレビがそんなに普及していない時代にニュース映画という1週間のトピックスや事件をまとめた7~8分の映像を映画館で流すんですが、それを制作する映画会社におりました。そこでは勿論色んなネタを取り上げたんですけど、そういう中でもやっぱり障害者を取り上げることがありました。
その後フリーになり、『さわる絵本-盲児たちの世界』という目が不自由な子供たちとその子供たちを支援するためのさわる絵本を作っていらっしゃるお母さんたちを取材したドキュメンタリー映画を作りました。ニュース映画ではどうしても1分ちょっとの短いネタだったので、もう少しちゃんと子供たちの世界を知りたいなと。友人のカメラマンに協力してもらって、皆さんに見てもらえるような36分の映画にしました。それがたまたま劇映画のプロデューサーをしている方の目に留まって、応援してもらったんです。
その後も、世界的人気画家マッケンジー・ソープ氏という方がいて、たまたまその方の小さな絵画展を六本木のNPOハウスで目にしたんです。なかなかメルヘンチックな可愛らしい絵を描く人でちょっと興味を持って経歴を読んでいると、発達障害の※ディスレクシアを抱えていて。小さい頃から随分といじめられたりした方で、絵がとにかく好きだったんで、もう絵を描くことに夢中になっていき、やがては障害を抱えながらも絵の世界で生きられるようになったという話を目にしました。それでちょっと興味を持って、ディスレクシアの人たちを支援したり啓蒙するためのNPOがあったので、そのNPOと関わりを持つようになったんですよ。かれこれもう20年近くになるのかな。啓蒙のための短い映像とか、イベントを開催した時の記録映像とかをほとんどボランティアでずっと撮っていました。

※ディスレクシア:1896年に英国のMorgan先生が最初に報告した文字の読み書きに限定した困難さをもつ疾患。知的能力の低さや勉強不足が原因ではなく、脳機能の発達に問題があるとされている。(出所:国立成育医療研究センター)

―――― やはりそういう世界を見てこられた監督ならではの作品だったように感じます。作中で監督はお母様に対して感情的になることがありませんでした。映像の裏で監督が「母ちゃん何やってんだよ!」っておっしゃっていたらあれなんですけど…。

谷光章監督
(笑)

―――― すみません、よく監督は怒らないでやっていらっしゃるなと思ったんです。

99歳 母と暮らせば

谷光章監督
それはですね、やっぱり長年発達障害のお子さん達の仕事をしていてですね。発達障害は幾つものパターンがあり、それぞれの子供達が示す症状も色々とあって、家庭でピョンピョン飛び上がったり、奇声を発したり、一般の人から見れば非常に奇異に映るような症状を示すんです。しかし、彼らにとってはちゃんとそういう行動を起こすのには理由というか、原因が潜んでいるんですね。それがなかなか一般の人はどうしても症状だけを目にするんで、理解できない。変な奴だ、危ないからちょっと近寄るなとか。親でさえなかなか理解出来なくて、何度同じことを教えても全然覚えないとか。
そういうことを色々な団体に関わることによって私自身も勉強させてもらってきたんです。そうすると認知症の人たちも一緒で、認知症の色んな症状というのは当然彼らからすると、ちゃんとそれなりの目的、理由があるんです。例えば、徘徊するにしても自分がどこかに行きたいという目的があって、移動している途中で自分のいる場所が分からなくなるとか。それにはもちろん※見当識障害とか、色んな認識の障害等の理由があります。それをちゃんと周りの人が、出来れば本当に社会全体で理解していければ、ちょっとフラフラして目的もなく歩いているお年寄りがいたら、これはもう徘徊だからちゃんとそれなりの対応をしなきゃっていうことになるんです。今は認知症サポーターという制度が結構広がっていますけど、多くの人の認識がまだそこまで到達していない部分がありますね。

※見当識障害:「今がいつか(時間)」「ここがどこか(場所)」がわからなくなる状態。

―――― なるほど、それで監督がお母様にあのような接し方をすることが出来ていらっしゃるんですね。

99歳 母と暮らせば

谷光章監督
まあ、どれぐらい出来ているのか分かりませんけれど。私だって正直言って、やっぱり何度も何度も同じこと聞かれると途中でイライラしてくることもあるんです。だからこれは自分の言った事を直ぐに忘れて同じことをまた聞くんだなって、ちゃんと腹に収めてないと…(笑)。ついね、叱ったり大きな声を出したりしてしまいますからね。

―――― 監督が排泄のシーンでお母様に「どうしてこういうことになったんだろうね…」って語りかけていました。多分普通の人だったら「うわー」ってなるところを「こういう風にするんだよ」って方法を提示しているようにも見えました。

谷光章監督
私ももちろん介護のプロではないんでね。ちゃんと国家試験(の資格)を持った人たちはそれなりの方法があるんでしょうけれども(笑)。

―――― 母親とはいえ、それなりに介護するってとても大変なんだということがあのシーンで一番伝わってきました。加えて、作品の中でお母様と漫才じゃないですけども、掛け合いで色々とお話をされているじゃないですか。あれが高齢者にとっても介護する側の方にとってもプラスになるような気がしました。関東以北は関西弁に比べるとそういう言葉遊びみたいな文化が少ないので…。是非関東の人にアドバイスをいただきたいのですが(笑)。

99歳 母と暮らせば

谷光章監督
関西関東全国どこの人でも、方言はいろんな家庭であるでしょうしね。まあ、もちろんその本人に気質みたいなものも確かにあると思うんです。やっぱりこっちが言ったら、母もちゃんと返してくれたりとか、それが漫才的なやり取りとして成り立っている部分があると思うんですけどね。
関東でも、栃木弁でも茨木弁でも埼玉弁でもそれは成り立つと思うんです。介護の一つやり方で「ユマニチュード」というフランスの方式があるんです。それは、日常の人に対して、目を見て話しかけ、触れて、そして立つように促していくみたいな手法です。それを私自身もちゃんと身につけているかというと、そうではないんですけども、ただ基本というか根本的な部分っていうのはやっぱり人間らしさを認めて接してあげるというのが基本なんですよね、当然。
その中でも、私は特にコミュニケーションをとることが非常に大切だと思っています。コミュニケーションでも単に話し合うっていうだけではなく、アイコンタクトもありますし、触れることもコミュニケーションの一つですし、重度の人は本当に話もできないような人もいるとは思うんですけど、ただやっぱりそうやって他のコミュニケーションの方法であればね、ちゃんとコンタクトが取れるんじゃないかという風に思っています。
うちの姉はたまに来て一緒にご飯を食べているとすぐ怒るんです。私が母にテレビ見ながら話しかけても、「そんなこと言ったって分かる訳ないやん!」とか言うんです。そうじゃないんですよ、勿論普通の人みたいな反応は出来ないけど、母は母なりに頭の中である程度の部分を理解しているから、それを全否定みたいなことはしたらいけないんです。ちゃんと話しかけて、相手の話すことにきちんと耳を傾けてあげて、コミュニケーションをとっていく。それが母の脳を活性化するというか…。どれくらいか分からないですけど、刺激を与えて認知症の進行を遅らせている部分があるのかなと思っています。

―――― 相手を人としてきちんと認めて接してあげることがポイントなんですね。実は別の映画で、認知症になって言葉や記憶を失うことがあっても感情は残るというお話がありました。やっぱり感情を大事にしてあげることが本人にとってはとても刺激になって、監督の言葉でも「思い出を思い出しながら、幸せに残りの時間を過ごしてほしい」というシーンがあって、そういう部分に繋がっていくのかなと感じました。

谷光章監督
話ができなくても確かに感情はちゃんと残っていて、その感情を逆撫でされると、急に怒り出したり、暴れ出したりするんです。だから最初から全否定をしてどうせ無理だよみたいな接し方をしていると、どんどん日常がひどくなることに繋がりますから。

―――― 作品を見ているとお母様が本当によく食べるなあと驚きました。食欲が衰えずしっかり食べているからこそ長生き出来るのかなとも感じました。

谷光章監督
確かにそれもあるとは思いますが、満腹中枢が衰えていて、一度食べても満腹に感じない部分があるんですよ。ですからこっちも注意をしないと朝食を食べた1、2時間後に周りに食べ物があるとすぐ食べてしまうんです。だから遠ざけて置いておくんですけどね(笑)。
確かにね、あれぐらいの歳になると普通は段々と痩せ細っていくという自然な衰えの流れがあるんですけど…。まあ不思議なことにというか今でも結構食べますね。

99歳 母と暮らせば

―――― お母様が監督に「オムライス美味しいよ」って褒めていらっしゃいましたが、お母様のお茶目さを感じました(笑)。最後に映画ファンにメッセージをお願いします!

谷光章監督
冒頭にもお伝えしましたが、本当にこれから日本の社会全体が周りに高齢者の認知症の人がいるのが当たり前の社会になっている中で、これは別にその人達だけに絞ることではなく、人間関係そのものを上手く保っていってもらいたいなと思います。世界を見渡せばテロとか嫌なニュースもありますけど、基本はやっぱり相手の性格とか個性とか、好き嫌いとか、得意なこと、されると嫌なこと、それをちゃんと知って接するというのは、それこそ子育てでも通じることだと思うんです。子供はなかなか言うことは聞かないし、どうしようもないと思うんですけども、ちゃんとその子供の性格とか個性とか好き嫌いな部分、やりたいこと、嫌いなことをちゃんと理解して上手く好きなことの方に向けて嫌なことを避けつつ伸ばしていくみたいに。それは認知症の人に接する部分と相通ずる部分があるのかなと思っています。この映画を人とのコミュニケーション、人との接し方みたいなものを考えていただくきっかけにしてもらえれば有難いなと思います。

編集部より

谷光監督が見つめている目線の先には、何があるのだろう。
母という名の、温もり、優しさ、寛容さ、厳しさ、有難さ・・・
こうした母心をすっぽりと抱えて、時には冗談を言い合いながら、その余生を共に生きている姿勢をみていると、「自分にも出来るかもしれない」と不思議と勇気づけられます。
当然監督ならではの寛大さやユーモアがあってのことでもあり、また何よりも相手を一人の人間として尊重する関係性の上に成り立っていることにも気づかされます。

劇中の「子供叱るな来た道だもの 年寄り笑うな行く道だもの」という言葉が身に染みてきます。
一度、谷光家の介護を覗いて見ませんか?

2019年6月8日(土)より 新宿K’s cinema ほか全国順次公開!!

■出演
谷光千江子 谷光賢 谷光育子 谷光章
小田中通子/谷光家の人々/川邊壽子/松本尚子/長田典/高橋綾子/前田由美子

■監督・企画・撮影・編集・ナレーション
谷光章

■あらすじ
認知症を患っている 99 歳の母。足腰の衰えも進行して生活を営むことに苦難を感じている母を介護すべく、71 歳の息子が母の実家に移り住んだ。老老介護に四苦八苦しながらも、母の人生最終章の日々を撮影していく。日常茶飯事で起こる失敗や苦難、そして母のチャーミングな一面や日々の出来事で輝く愛おしい発見の数々。介護され、介護する人たちが共に幸せに暮らせる介護とは?生きていることの愛おしさが心に沁みるドキュメンタリー映画。

■予告動画

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