東南アジア映画の巨匠たち フィリピンの巨匠!ブリランテ・メンドーサ監督

特集上映「東南アジア映画の巨匠たち/響きあうアジア2019」
ブリランテ・メンドーサ監督インタビュー!
撮影&編集技術の考え方

ブリランテ・メンドーサ監督は、1960年、フィリピン生まれ。監督第1作『マニラ・デイドリーム』で2005年ロカルノ国際映画祭ビデオ部門金豹賞を受賞。その後数々の国際映画祭で評価されるが、最もよく知られている受賞は、2009年に『キナタイ マニラ・アンダーグラウンド』でカンヌ映画祭監督賞の栄冠に輝いたことだ。近年は、フランス政府より芸術文化勲章シュヴァリエを授与されている。
今回の特集上映「東南アジア映画の巨匠たち/響き合うアジア2019」においては、フィリピン麻薬戦争を一人の警察官の視座から生々しく切り取った問題作『アルファ 殺しの権利』、そして国際交流基金アジアセンターと東京国際映画祭が共同製作したオムニバス映画『アジア三面鏡2016:リフレクションズ』の第一話『SHINIUMA Dead Horse』が上映される。撮影と編集技術に関するメンドーサ監督の考え方に迫ってみた。

―――― 『アルファ 殺しの権利』の制作に至った経緯を教えて下さい。

フィリピンの巨匠!ブリランテ・メンドーサ監督

フィリピンの巨匠!ブリランテ・メンドーサ監督

ブリランテ・メンドーサ監督
実は、Netflixシリーズのオリジナルドラマ『AMO終わりなき麻薬戦争(メンドーサ監督)』の制作のためのリサーチを色々としていた過程で、地下シンジケートや警察の方々に会ったりして色々と情報を収集し、かなりのネタが集まりました。このドラマシリーズはそうして撮った訳ですが、やっぱりそこでベースとなったネタ以外を使ってまだ撮ってみたい、という気持ちがありました。それを自分の映画として作ったという経緯になります。
また、この麻薬戦争というのはフィリピンにおいて、やはり政治的に重要かつ深刻な問題だったということもあります。

―――― タイトルの意味ですが、どの様な意味があるのでしょうか?

ブリランテ・メンドーサ監督
2つの意味があります。アルファと言うのは、実は警察の隠語で‟情報屋”とか‟タレこみ屋”の意味になります。アルファだけでは分からないということで付けたのが“the right to kill”です。文字通りに考えれば“殺す権利がある”という意味になりますが、誰にもそんな権利はないですよね?だけど、アンダーグラウンドのこうした闇組織では、誰もがある意味法を無視しているわけですよね。治外法権であること、誰もが殺す権利を持っているということを伝えようとして付けたタイトルです。

―――― 映画の中ではフィリピンの一般市民に麻薬が深く浸透しているように見えました。フィリピンで起きているこの麻薬汚染の現状について教えてください。

ブリランテ・メンドーサ監督
確かに、どこまで麻薬汚染されているのかということは、国外からでは中々分かり得ない部分があると思います。
これまでもフィリピンではドラッグの問題はあった訳ですが、ドゥテルテ大統領以前の政権は、ある意味ここまでガッツリとこの問題に取り組んでは来なかった、重要視して来なかったところはあると思うんです。
しかも、いかに麻薬というものが本人、そしてその家族の生活や健康を蝕むのかということを分かっていても、どこかそれを甘く見ていたり、問題に向き合ってこなかった部分があったと思うんです。ところが、ドゥテルテ大統領つまり現政権は、果敢に立ち向かうというスタンスをとっている訳です。確かにこのスタンスについては、他国であったり人権団体であったり、国連からも色々と言われていますよね。そういった死を厭わないといった姿勢はどうなのかと。だけど、被害を受けているのはフィリピンの市井の人達ですよね。外の人達が何を言ったとしても結局自分の問題ではないんです。日々これに向き合っているのはフィリピンの人達なんです。
もちろん殺すであるとか死という選択について、私は正しくないと思います。ただ、ある意味これを麻薬戦争と呼ぶならば、戦争による被害者は常にいるわけですよね。

フィリピンの巨匠!ブリランテ・メンドーサ監督

―――― すさまじい現実ですね。話題は変わりますが、オムニバス映画『アジア三面鏡2016:リフレクションズ』の第一話『SHINIUMA Dead Horse』のロケ地として北海道を選ばれていますが、その経緯を教えてください。

ブリランテ・メンドーサ監督
決め手は気候と競馬ですね。特に競馬は、世界唯一のばんえい競馬(農耕馬「ばん馬」に重いソリを曳かせ、パワーと速さ、持久力を競うレース)が北海道で行われているということで選びました。そして、ばん馬に鞭を打って進ませている構図と、主人公が日本で不法就労している点において、重なる部分があるということも北海道を選んだ理由です。

―――― なるほど。主人公は、厳しい労働環境とはいえ、長い年月を日本で生活しているうちに日本が好きになって、とうとう30年も居ついてしまったということでしょうか?

ブリランテ・メンドーサ監督
実は、このストーリーはある程度実話に基づいているんです。初老の男性である主人公ですが、30年近くもの長い間日本にいて、帰りたくなくなった理由というのも、家族とも繋がりがないので“日本にもう骨を埋めたい”という風にほんとうは思っていたからだそうです。

―――― ところで、フィリピンの方々にも競馬は人気なのですか?どことなく、作品に身近さを感じるのはそうした共通点があるからなのかと思うのですが?

フィリピンの巨匠!ブリランテ・メンドーサ監督

ブリランテ・メンドーサ監督
そうですね、ギャンブルとして人気はありますね。

―――― 次に、撮影技術について教えて下さい。『アルファ 殺しの権利』では狭い路地をハンディカメラで撮影を行ったと聞いています。今ではiPhoneで撮影された映画も出てきていますが、テクノロジーと映画との関係性などについて監督のご意見をお聞かせください。

ブリランテ・メンドーサ監督
そうですね、常に進化・進歩はあるわけですし、やっぱり何が起きているのかということに追い付け追い越せというのはもちろん大事だと思います。
というのも、私たちはそれ(進化)を止めることは出来ないからです。ただ、遅かれ早かれカメラもそうですが、今の状態というのは消え去って変わって行くと思いますし、フィルムは物理的にもう使わないものですよね。今、何があるかといえばチップですが、これもまた無くなると思います。
そう思うと、そういったテクノロジーというものにあまり依存してはいけないと思うんですね。私たち映画を作る者はストーリーテラーで、やっぱりストーリーありきであって、テクノロジーを作る側ではないですよね。だけれども、テクノロジーをどう使うかということ、そこがポイントかと思います。つまりテクノロジーに支配されたり、テクノロジーに仕えるのではなくて、どう使いこなすか?自分の側の問題であって、自分が支配するということですね。

―――― さらに、編集技術についてお聞きします。音の効果が素晴らしいです。音へのこだわりについて教えて下さい。

ブリランテ・メンドーサ監督
映画を構成する要素には、撮影技術や音、そういうものが含まれますよね。それにストーリーテリング、背景音、効果音と音楽です。そういったものが構成するわけです。例えば、ここは感情を反映するために必要だというシーンであれば音楽を入れます。そして、ロケーション。場所というのも、もちろん一つの配役であり、キャラクターと同じくらい意味を持っています。
私が何かをどういう要素であれ入れる時は、それがストーリーそのもの、いわゆる装飾ではなくて、ストーリーを構成する一部だという気持ちで入れています。ですから、そういった意味でサウンドというのも大事なんですよね。
で、(『SHINIUMA Dead Horse』においては)やはりマニラに主人公が戻った後とのコントラスト、文化の違いを表すものでもあります。日本は整然としていて清潔、静かですよね。音はあっても、いわゆる喧騒というものがない。マニラに行くと違う音がワーッと溢れています。文化的なものを伝えるという手段であると同時に、マニラでほんとうに静かなシチュエーションというのは、人が働いていないんですよね。静かすぎると仕事ができない、寝ちゃうというか(笑)。
そういったことを語らずとも示唆するという、それら全てをストーリーの中に入れ込んでいるのが私のスタイルです。

―――― 最後に、映画ファンに向けてメッセージをお願いします!

フィリピンの巨匠!ブリランテ・メンドーサ監督

ブリランテ・メンドーサ監督
やはり、こういったことが現実に起きているというのを世界の、フィリピン以外の人達にも理解してもらいたい、問題として分かってもらいたいということがあります。
真摯にこういった状況を伝えることによって、世界に観てもらうこと。そこから学ぶもの、もちろんフィリピンの人が自国の状況を観て学ぶこともあるし、世界の人が観て学ぶところもあります。それを観ることによって、自分たち個人としての欠点であったり、国としての欠点を、ある意味“鏡”のようにして見て気付く、そういった気付きにつながるのではないかと思います。是非、観てください!

『アルファ 殺しの権利』
年内シネマート新宿にて上映決定!!

『東南アジア映画の巨匠たち』予告動画

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