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今回は、先の第30回東京国際映画祭特別招待作品としても大きな話題となった、巨匠アレハンドロ・ホドロフスキー監督最新作「エンドレス・ポエトリー」の主演で、監督の息子であり、父親である監督役を見事に演じたアダン・ホドロフスキー氏にインタビューを行いました。
—哲学や宗教と芸術との境目とは—
あの時代は、詩人達が集まって青春を謳歌していた時代です。たぶん自分の父親はそこに集まっていた他の人達とは違っていたと思います。天使として生まれついた父の才能だと思いますが、「ここに居るままでは駄目だ。ただの酔っ払いと思われ、自分が思うような人生を生きられない」と思ったのだと思います。

(c) Pascale Montandon-Jodorowsky

今でも父親はタロットの研究をしていますが、タロットでは「死」は一種の「変容」であり「生まれ変わり」です。初めて父親から自由になって、今までの自分の人生からも自由になった時に、ピエロの服装で大きな翼をつけたシーンは、そういう意味でやっと翼が開いたという瞬間でした。

また、普通の芸術家の人たちは、世界に何らかの足跡を残そうとするのですが、それは私から見ればエゴなことであり自己主張です。その後に何が残るのかをあまり考えている人はいません。有名人と言うのは、名声のために有名人であり続けたいという気持ちがあって、歴史の中で不死でありたい、死なないでいたいという気持ちがあるのだと思います。父は、アーティストであれば宇宙とか世界とか、そういったものが変革するための種を播くことが本当の芸術家なのではないかと思ってそれを目指しています。名声よりもその後の変革を考えることが大切であり、哲学や宗教と芸術との境目はそこにあると、父を見てそう思います。
—即興の才能を受け継ぐ—
監督は神秘的な人だったと思いますが、私(アダンさん)にとっても神秘的でした(笑)。

父からは青春時代のことは話はしてもらっていましたが、映画の中のあの場所が祖父の店があった所で、父が本当に歩いた場所でした。父から聞かされてきたこと、そして自分のイメージだけだったものが非常に具体的になりました。

(c) Pascale Montandon-Jodorowsky

自分は生まれた時からアーティストになると思っていましたので、父と同じように詩人であり、映画を創ったり、音楽を創ったりと、小さい時から意識しないままにそう思ってきました。

私が小さい時に母がピアノを弾いていた時のことですが、弾きながら泣いていたのです。なぜ非常に美しい曲なのに母は泣いているのだろう?と思ったのだけれども、その後に父と母は離婚するのです。私は父と一緒に居ることになりピアノだけが家に残ったのですが、ピアノが悲しんではいけないと思って、9歳の時に友達と家の庭に穴を掘ってピアノを埋め、そこにサクランボの木を植えました。また、小さい時からベートーヴェンなんかを聞くと、同じメロディーを繰り返し弾くことが出来たんです。何故かはわからないけど、自分の人生はすべて即興で、そういう部分では父親の血を濃く継いでいるのではないかと思います。サクランボも今頃なっていると思うので、いつかその家に戻って見てみたいと思います。即興でいえば、もしかしたらサクランボが音符の形になっているかもしれないので、それを食べてみたいですね(笑)。
—大きな可能性は小さなところに宿る—

また、禅に傾倒していたので、可能性は少ない方が大きくなるといった反対概念のようなことを子供の頃から聞いていました。エピソードですが、私が小さな時から紫色のカーペットをひいた部屋で皆が瞑想をしていたんです。その時に、父は車も服も枕もシーツも全部紫色にしたのですが、そうしたら瞑想に来ている人たちもみな紫色を着始めて、周囲にある種のセクトだと思われたのでそこから紫をやめました(笑)。

少ないものだったり、しゃべり過ぎないことなどに大きな可能性が秘められると、いつも父は言っていました。
—鮮やかな色彩と奏でられる音楽について—

衣装デザインはパスカル・モンタンドン=ホドロフスキーさん、父のパートナー(監督の妻)がずっと担当していました。何日か撮影が終わった後でラッシュを見てみたら、色がくすんでいたり、要するに色を薄く薄くしてるような撮り方だったので、父は死にそうなぐらいがっかりしたのです。そこから、色は鮮やかに、本当じゃないくらい鮮やかにしようということになり、父とパスカルさんが意識的に色を前面に出すようにしました。色へのこだわりというのは二人が全部最後までやりました。

また、音が欲しいと言われたので(アダンさんは)2時間の映画に対して1.5時間ぐらい曲を作りました。音楽が無ければ全く別の映画になっていたと思います。
—母親役そして恋人役/パメラさんについて—

(c) Pascale Montandon-Jodorowsky

「リアリティのダンス(2013年公開)」で初めてパメラさんとお会いしましたが、その時は女優さんではなく本当にオペラ歌手でしたので、どうなるのか?父でも分かりませんでした。初めは歌う予定ではなかったところを即興で歌ってみて、となりましたが、その時自分(アダンさん)は音楽担当でした。即興で歌われたので音程もリズムもバラバラで、後で音楽をつけるのが非常に大変でした。

今回は、母親であり自分の恋人という役柄でしたが、不思議なことに割と観ただけでは気付かない人が大半でした。皆、後でパンフレットや映画評を読んで「そうだったんだ」と思うぐらい、彼女はちゃんと演じ分けていたのです。また、今回は最初から彼女が歌うことは分かっていたので、リズムが取れるように音叉など基礎になるものを準備して、彼女もテンポに気を付けて歌うようになって、前回よりは随分楽にアレンジ出来るようになりました。

女優としてプロであり私も驚きました。エネルギーに満ち溢れていて、普通の女優ではなく、ホドロフスキー仕様女優と言っても良いと思いました(笑)。
—観客を信じている—

エンドレス・ポエトリー 映画予告動画やあらすじとストーリー・評判・レビュー

(c) Pascale Montandon-Jodorowsky

父親はいつも映画の中で、これまで誰もやったことがないことを実験するのが好きで、今回の映画に出て来る「黒子」に関しては、日本の「能」が好きなので、それを取り入れようとしたからなのです。映画を見ている人たちに「これは本当ではない」という、自分で手に取れるのに代わりに黒子が取るというのは、「これは要するに虚ですよ」ということをわざと伝えています。

他の映画監督とアレハンドロ監督との違いは、観客を馬鹿にしない、観客を信じているという事です。普通の映画監督は、観客に嘘を本当だと信じさせたいと思っていると思いますが、その逆なんです。これは嘘だというのをちゃんと観客に対して出しているんです。そうすることで、逆に観客に本当のことを伝えようとしているのです。

現状の世界でもビルや建物、お金、政治だったりだとか、具体的にこれが現実だと言われるものが、現実の一つではあっても全ての現実ではないこと、皆が現実であると思っていることに対して疑問を投げかけることによって、そこからもう一つの現実が見えてくる、そこがひとつのメタファーになっていると思います。
—芸術の中にある裸vs.性の対象としての裸—

エンドレス・ポエトリー 映画予告動画やあらすじとストーリー・評判・レビュー

(c) Pascale Montandon-Jodorowsky

アダムとイヴの時代からでしょうか、人は恥ずかしくなって服で体を隠しました。自分としては生まれたままの姿は誇っていいものと思いますし、裸になることは自分の中では全く抵抗はありません。

また、裸について、他の映画でもあるように例えば「性の対象としての女性の裸」と言うのは私は公平だとは思いません。映画の中で脱ぐということは、そこにちゃんとした理由があって、それが芸術的なものである限り神聖なものであると思います。ですが、女性だからといって、また女性の身体を商業的な性の対象にするというのは私は反対です。
—アンチドラッグ!—
映画の中で父親が飲んでいたのは、詩人たちの仲間に入るためであって、元々、お酒もたばこも、ドラッグに対しても反対でした。

アメリカで70年代に「ホーリー・マウンテン」が上映された時に、観客がマリファナやワインやLSDなどを、監督に向かって投げたりプレゼントしたりしたのですが、受け取っては全部捨ててきましたし、いつもアンチドラッグを唱えていました。当時、「ホーリー・マウンテン」はLSDをやらないと見ちゃダメ、といった感じだったのです。実は、耳にコカインを入れたり、グラス一杯のLSDを食べたりなど、要するにそういうことをやっている人たちを馬鹿にしているのです。そんなことをやりながら自分達は世界の王様だと思っている人たちに対して、これは違うんだといっているのが父の作品です。外からはシンパと見えても、自分の中の哲学は全部アンチなのです。

私も実験はしてみたのですが、たばこも吸いませんし、お酒も飲みません。映画の中でビールを沢山飲んでいるシーンは、実は本当に酔っぱらっているんです。酔っ払いがどういう風なものかわからないので、これまでにないぐらいビールを飲んで酔っ払い、その後3日間寝込んでいました。15杯ぐらい飲んでいました。あれ以来1滴も飲んでいませんし、ウィスキーボンボンもダメですね(笑)。


アダン・ホドロフスキーさん素敵なお話の数々ありがとうございました。11月18日(土)公開の本作品、是非劇場でホドロフスキー家の世界観をたっぷりと堪能してみてはいかがでしょうか。

 

(c) Pascale Montandon-Jodorowsky

【エンドレス・ポエトリー】

2017年11月18日(土)新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ有楽町、アップリンク渋谷ほか全国順次公開

前作『リアリティのダンス』から3年、舞台はサンティアゴへ―。様々な悩みや葛藤を抱えた青年時代のホドロフスキーが当時チリで出会った詩人、アーティスト、パフォーマーなど、アヴァンギャルドなカルチャー・シーンの人々との交流を、虚実入り交じったマジック・リアリズムの手法で描く。世界に潜むマジック・リアリズムを追い求め続けるホドロフスキー監督が観る者すべてに送る“真なる生”への招待状。
■ 予告編




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