第32回東京国際映画祭「ジャパニーズ・アニメーション」部門 氷川竜介氏

日本アニメ映画への招待状!
第32回東京国際映画祭「ジャパニーズ・アニメーション」部門
氷川竜介氏【インタビュー】

今年も10月28日(月)から11月5日(火)の期間で開催された第32回東京国際映画祭。ジャパニーズ・アニメーション部門のプログラミング・アドバイザーである氷川竜介氏に、作品の選定理由や魅力、歴史的な視点についてお話を伺いました。

―――― 今回、ジャパニーズ・アニメーションが“部門”として取り上げられました。

第32回東京国際映画祭「ジャパニーズ・アニメーション」部門 氷川竜介氏

氷川竜介氏

氷川竜介氏
昨年の第31回まで5回の特集上映は、主に作家性に注目する「○○監督の世界」のようなテーマをたてて、日本製アニメの「映画らしさ」を伝えてきました。今年は規模を拡大して全体像を打ちだすことになり、「部門」に昇格することができました。作品数も大幅に増やし、レクチャーや展示など立体的に構成することを依頼されたのです。

―――― 日本アニメ映画の『マスターズ』、『到達点』、『VFX:ULTRAMAN ARCHIVES「ウルトラQ」4K上映&Premium Talk』とこの3つのプログラムについてご紹介いただけますか?

氷川竜介氏
「日本のアニメ文化は特別」と世界から言われ始めて久しく、独自の進化を遂げてきました。その進化の形を具体的に展示で言語化して伝え、上映で実例を観てもらうことで、歴史の実像を立体的に明らかにすることが、プログラムの大きな目的です。

まずVFXから説明します。今回はその代表作として、1966年の「ウルトラQ」を上映しました。

ウルトラQ

「漫画の神様」手塚治虫がテレビアニメで「鉄腕アトム」を成功させ、その3年後に「特撮の神様」円谷英二が本格的な特撮を持ちこんだ。そこで「怪獣ブーム」が起きたことで、当時“テレビまんが”と呼ばれた枠組みを拡張しました。当時の「ウルトラQ」の商品にはセル画のアニメ調で描かれたものもあり、広告では“テレビまんが”のカテゴリーに入れられています。つまり本質的な区別はなかったのです。

一方で怪獣は皮膚のディテール、鋭いキバやツメなど実写なりに情報量も多く、強いインパクトがありました。怪獣ブームが起きた結果、盛んだった「SF少年ヒーローアニメ」が衰退するほど強烈でした。ところがアニメはスポーツものの「巨人の星」「あしたのジョー」「タイガーマスク」などのヒット作を生みだします。ツルっとした絵柄ではなく、線の強弱を加えた「劇画タッチ」で情報量を増やすことで、特撮への対抗策を打ち出したのです。

「ウルトラQ」は同じ1966年に「ウルトラマン」へ発展します。そこで毎週毎週、新しい怪獣が登場するようになり、「ヒーローが怪獣を必殺技で倒す」というフォーマットが生まれたわけです。1971年の等身大変身ヒーロー「仮面ライダー」や、1972年末のロボットアニメ「マジンガーZ」も、同じフォーマットで作られています。現在放送中の「プリキュアシリーズ」でさえ「ウルトラマンフォーマット」の応用ですから、すごい影響力です。

このように「日本のアニメは特撮と寄り添って進化してきた」という事実を、大学、大学院では学生に強調して教えています。アニメの年表だけを見て研究すると、どこかに歪みが出てしまうのです。

映画祭の話に戻ります。「ウルトラQ」は35ミリフィルムという映画用フィルムで撮っていました。その4Kリマスターとスクリーン上映も価値が高いです。円谷英二特技監督が当時所属していた映画会社(東宝)のスタッフの作品なので、映画的な本格的セットや撮影、照明が楽しめるのです。映画スタッフなりのノウハウによる入念な作り込みは、映画館でこそ映えるはず。「改めて映画として観ていただくこと」に、今回の映画祭でかける意味があると思います。

レッドカーペットにも登場!

次に『日本アニメ映画マスターズ』です。映画祭事務局から「解説つきで歴史を概観することはできないか」という強い要望があって、それを反映しました。過去5年は「レトロスペクティブ(回顧上映)」という形式で作家の代表作をまとめましたが、今回のテーマは「歴史」です。「以前以後」で語られる「時代の変化点」の集積が「歴史」です。

「ジャパニーズ・アニメーション」の特徴は、どういう経緯で現れたか、それを探るのが目的です。それも網羅的にせず、ギリギリ最低限に絞りこんだ「最重要変化点」を3本としました。3本を5本にしても10本にしても、足りないものは足りない。さすがに2本はおかしいので、3本が「進化・変化を語れる最低限の本数」と考えました。

歴史の現時点でのゴール、『日本アニメ映画の到達点』を説明します。3年前の「君の名は。」のヒットで、日本アニメ映画の歴史が大きく塗り替わりました。興収が250億円を越えるという、新世代の作家・新海誠監督の成果が、周囲にチャンスをあたえたのです。自分の考える「映画らしさ」は、テレビアニメの拡大版のように「キャラクターと物語」の基盤が外にあるものではなく、始まりと終わりがあって2時間前後で映像世界が完結する、独立したものです。そんなオリジナル映画が多く出て、それぞれ違う特徴を打ち出すようになりました。この1年以内でピックアップしても、映像表現やテーマが異なる、これだけ個性的な作品が揃えられるということ自体、「到達点」なのです。

そして、「マスターズ」の3本と「到達点」の5本を組み合わせたときの、意味も考えました。若干誤差はありますが、昭和期と令和期だけで平成の30年間を飛ばしたスタイルになりました。

マスターズの3作品は、「白蛇伝」が1958年、「エースをねらえ!」が1979年、「AKIRA」が1988年で、これが昭和最後の超大作に相当します(平成元年は1989年)。つまり昭和期を代表する3本の段階的な変化を経た後、平成期30年間のステップアップで、「到達点」が形づくられているということです。

個別作品の紹介に移ります。

「白蛇伝」東映動画による最初のカラー長篇アニメーション映画

「白蛇伝」

白蛇伝」は東映の子会社である東映動画(現:東映アニメーション)による最初のカラー長篇アニメーション映画で、当時は「漫画映画」と呼ばれていました。東洋のディズニーを目指すという目標があり、全てを省略しない動きで表現する自然主義のもので、これをフルアニメーションと呼びます。それを主にアジア圏へ輸出しようという構想です。まだ終戦から13年ぐらいで国産のカラー映画自体が少ない時期、「色のついた夢」として受け止められていました。

―――― まだほとんどのテレビが白黒の時代だったでしょうか。

氷川竜介氏
テレビそのものが普及途上の時代です。現上皇陛下が皇太子だった頃、結婚の儀を観る目的で59年に急速にテレビが普及する直前です。そんな時期に、ディズニーでも難しかった長編漫画映画の毎年公開を実現したわけです。敗戦国から立ち直って平和な中で高度成長期に向かおうという気概のある社会情勢も要因です。

次の変化点は、本来は1963年の「鉄腕アトム」です。手塚治虫が自ら虫プロダクションを設立し、すでに人気だった自分の漫画原作を毎週放送されるテレビアニメ化したのです。作家性で売るアニメの始まりでもあります。そこでコストや時間の問題を解決するため、リミテッドアニメーションの技法を応用しました。たとえば身体は止めて、目や手だけ動かして演技させる、セリフは全部口の動きだけにするという方法です。徹底した省力化で、東映動画のアニメーターたちは冷ややかな反応でした。

しかしこのコストダウン手法が広まったことで、新規参入が凄く増えました。戦後のベビーブーム以後しばらく経ち、子供の累積人数が多くなって教育や娯楽に力を入れ、新市場を築いたことが背景にあります。そして週刊誌で大量消費されるようになった紙の漫画の中からヒット作をアニメ化するケースも増え、それに止め絵を多用する手塚式リミテッド手法は、よくなじみました。

このように歴史の原点を押さえるなら、原点は東映と虫プロの2点になるのです。しかし今回は映画祭ですから、テレビの「アトム」ではなく「映画の文脈」で考えました。

出崎統(でざきおさむ)監督の「エースをねらえ!劇場版」

「エースをねらえ!劇場版」

そのとき、ビッグバン的な変化をもたらした《1979年》を重視しようと考えたのです。

ちょうど今から40年前のアニバーサリーイヤーですし。この年は高畑勲監督の「赤毛のアン」、富野由悠季(とみのよしゆき)監督の「機動戦士ガンダム」、りんたろう監督の「銀河鉄道999」、年末に宮崎駿監督の映画デビュー作「ルパン三世 カリオストロの城」という傑作・名作がそろった年で、この出崎統(でざきおさむ)監督の「エースをねらえ!劇場版」もその中に含まれています。

集中したのにも明確な理由があります。「鉄腕アトム」の初期に新人だったクリエイターが30代後半になり、成熟期を迎えたのです。中でも虫プロ出身の出崎統監督は、手抜きと呼ばれた手法を逆用し、むしろ止まっている方が美しい、それをカメラワークの勢いで見せようと、1970年の「あしたのジョー」以後、さまざまな映像テクニックを編み出し始めました。年々進化する技法の集大成、完成形が「エースをねらえ!」なんです。

そして映像テクニックを駆使して、主人公の成長ストーリーをたった88分に濃縮して映画的に豊かな時間のつくり方を実現し、細田守監督を筆頭とする後進に大きな影響を与えているのです。出崎統監督本人が劇場公開時、「自分たちのアニメーション語でフィルム(映画)を創りたい」(趣意)と自覚的に宣言していることも大きな理由です。

大友克洋監督の「AKIRA」

「AKIRA」

最後の3本目は大友克洋監督の「AKIRA」にしました。

「東映・虫プロ」と2つの流れに収まりきれない要素は何かを、海外から観た「日本のアニメらしさ」の点で検証したのです。大友克洋監督は漫画家としても手塚治虫に次ぐ大きな影響をあたえたクリエイターです。70年代後半から劇画とは異なるリアルな絵柄で、少し乾いた感じの映画的な漫画で知られるようになり、ニューウェーブと呼ばれました。映画監督志望だったこともあり、既にヒットしていた漫画「AKIRA」を、ご自身で監督されることになったわけです。

この時期、すでにメカなどをリアルに描くことが流行していました。その決定版であり、次のステップがアニメの「AKIRA」なのです。その特徴をまとめると「正確性と緻密さ」になると思います。ビルが壊れる場合、窓枠を全部正確なパースで描いた上でガラスの破片を細かく描き、中の鉄筋を見せたりする。1枚絵の漫画でも大変な作業を、枚数を要するアニメで実現し、海外の観客を驚かせました。

ここで参加した若手スタッフは、平成期に押井守監督の作品に参加します。その頂点が海外からの評価を決定づけた1995年のGHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊ですが、こうした変化点は「AKIRA」に集約されます。

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