【連載】女優・松本若菜Vol.3「本音」

Vol.1「プライベート」編、Vol.2「映画トーク」編に続く今回 Vol.3 は、2019年に公開されている松本若菜さんの出演作品を振り返っていただきながら、作品を通じて松本さんが感じている「本音」に迫りました。
思春期の闇に一筋の光!映画『惡の華』
最近の作品では、9月27日から公開中の伊藤健太郎さん主演映画『惡の華』に出演しています。監督は2008年に公開された『片腕マシンガール』をはじめ国内外で人気のある井口昇監督、原作が『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』でも知られる押見修造さんの漫画です。
思春期の独特の闇、怒りとか逃げたい気持ちとか、どこからか湧き上がってくるそういう理由のない感情が凄く事細かく描かれています。伊藤健太郎君(役:春日高男)が主となり、最初は戸惑いつつも玉城ティナちゃんが演じる女の子(役:仲村佐和)に助けられるんです、気持ちの中で。
観ていると自分とは全く違う学生時代だったけど、必ず誰かに感情移入してしまう。この物語ほど大きなものにはならなかっただろうけど、もしかしたら私も一つ間違っていたらそういう感情になっていたかもしれない。そういう風に過去を思い起こさせてくれました。
学生時代には、あの時初めて告白して、あの子と付き合えて…とか色々なキラキラしたどこか華やかな思い出があると思います。でも、それだけではなく、もっと人間関係のギスギスしたものとか、女の子同士のマウンティングみたいな、それこそ映画『愚行録』じゃないですけど観ているとちょっぴりナイーブになるような…。ただ、その闇の中にも一筋の光みたいなものも見えたりして、これは今までにない映画かもしれないですし、必見の人間ドラマだと思います。
映画『柴公園』で新境地!?
とても気持ちの悪い役でした!(笑)もうちょっとやりたかったのですが、さすがに監督に止められました。
『ピア~まちをつなぐもの~』が終わってすぐに綾部監督からこの役のオファーをいただいたのですが、撮影まであまり時間もなかったので、ちょっと不安な部分もありました。だって、苔(コケ)を研究している女性ですよ…(笑)
渋川さんとの共演も初めてでしたし、ドラマ『柴公園』で作られていた世界観にどうやって飛び込んだらいいのだろう。綾部監督がせっかく私を指名してくれたのに、普通じゃつまらないし、やるなら思い切ったことをやりたい。でも、『柴公園』の世界観を壊したら元も子もないし…。そういう状況だったので、思い切って監督にキャラクターについて相談をしました。綾部監督は「パッと見は綺麗な方だけど、喋ってみたらちょっとヤバイ女、そんな感じにして欲しい」と仰ってくださいました。綾部監督からいただいた言葉と私の考えをミックスして出てきたのが、あの気持ち悪いキャラクターです(笑)
『ピア~まちをつなぐもの~』でつかんだ役者としての喜び
前作『ケアニン~あなたでよかった~』の第二弾のような位置付けで、“ケアニン”から“ケアマネ”にステップアップした女性を演じました。
綾部監督は前作で助監督をされていて、色々な調査をして本当の現場にも行かれています。そこで利用者さんの一日をビデオに撮ったりもされていました。だから、『ピア』の監督が綾部さんだと聞いた時は、綾部丸という大きな船に乗ったつもりで、私は全てを綾部監督とともに創れたらなという思いでした。監督は“リアルな部分を残しておきたい”と仰ってくださって、それは私も同じ気持ちで、映画はフィクションだけどリアルな部分を出来る限り省略せずに演じたいなと思いました。
まず、“ケアマネ”という職種を正直知らなくて、調べるところからスタートしたのですが、利用者さんと医療従事者の方々の間に立っている存在なので、“ケアニン”とは違って、あまり利用者さんを手伝ったらダメだと知りました。例えば、オムツを替えている時はケアニンの方と一緒にお世話をするのではなく、状況を書き留めたりして、次のステップのための計画を作ることが仕事になります。撮影中も『ケアニン』の流れがあるので手伝ってしまいがちだったのですが、手伝わないように意識をしました。
実際に観ていただく方も医療従事者の方が多いので“この時は、そんな事しないよ”みたいな部分があると、一気に現実に引き戻されてしまいますよね。私が演じた夏海は細田善彦さん演じるお医者さんに対して、ハッキリとものを言うのですが、実際の“ケアマネ”さんはあそこまでは言ったりはしないそうです。そこは物語だし、前作からの夏海のキャラクターがあるのでそこは壊さないように、ギャンギャン怒るというよりは、持論を持っていて、そこから外れている考えを許せない一人の女性でいたいなという想いを持って演じました。
ケアマネの方とも色々なお話をしたのですが「初心を思い出させてもらいました」という言葉をいただいた時は本当に嬉しかったです。その方も私と同世代くらいの女性だったのですが、本当のプロの方からそういう言葉をいただけたのは物語を創っていて一番嬉しいことでした。本当の職業の方々の琴線に触れられたことは、創っている私たちにはとても励みになります。さらに、この作品をきっかけに新しく“ケアマネ”や“ケアニン”を目指す人が増えたらなおのこと嬉しいです。今は介護士の方たちの人数が足りないという現実もあったりしますから。
人手不足の他にも、老人の一人暮らしや老々介護の増加、病気になってもなかなか周りに打ち明けられないなど色々な問題があると思います。認知症にしても都会よりも地方の方が隠しがちというか、家庭の中だけでどうにか出来ないかと考えてしまう。近所の人たちも認知症が進み徘徊が進んでようやく気付くというケースも多かったりするそうです。都会よりも地方は近所付き合いが厚いはずなのに…。
もしも、誰かに相談することが出来たら、少しでも何か助けを求めることが出来たらと思います。難しい問題だと思いますが、近所の方でも、ケアマネや施設の方でも、市区町村の役所の方でもいいので、どこかに「ヘルプ」を一言でも言えたら、必ず状況は変わってくるのではないかなと思っています。
女優・松本若菜の本音
有難いことに、女優として可憐な女性の役やちょっと幸が薄そうな感じの役をいただく機会が多いです。多分それは私の外見的なイメージがどうしてもあるので、そこから派生する役なのかもしれないですけど、私はそれを有難いと思う反面、邪魔だなと思うこともあります。一人の人間として普通の女性の物語にキャスティングの時点で当てはまらなかったりするからです。
どんな役でも一人の女性であり、考え方もいろいろで、悪い面もあれば良い面もあると思うんです。こういうキャラクターだからどこまでもこのキャラクターで通すというより、このキャラクターが主軸としてあるけれど、その一人の女性をかみ砕いていくという作業を私はしています。そういうことを感じ取り、小さい表情でも汲み取って下さる監督さんがいらっしゃって、そういう監督との出会いは、私の中ではとても大きいものになっています。
ドラマと映画の違いは、ドラマは割り本で、ここを喋っている時はこの人を撮っていると決まっています。その方がとても効率的に撮れるのだと思います。台本を読んでいても、このセリフの時はこの人の顔を撮りたいんだなって分かったりもします。一方、映画は割り本がないので、そこで何か表情が出ていたらそれを撮ってくれます。
自分でも仕上がりを観て“あっ、こんな表情をしていたんだ”と気付くこともあります。物語だけではなくて、そういう一人一人のキャラクターをしっかりと見つめてくれて、その中のキャラクターの一人である私や、私が観たことのない私を探し出して、それを掬い上げてくれる監督やスタッフの皆さんは本当に凄いなと思いますし、それが私にとっての映画の魅力なのだと思います。
(編集部より)
演技を通じて自分を再発見することがあると語ってくれた松本若菜さんに、映画をより深く楽しむための視点を教えていただきました。そして演じる側の松本さんもそれを糧にして日々演技に立ち向かっているのだと思います。
松本若菜さんの魅力にたっぷりと触れ、「是非、ピンカートン2を観たいです」とお伝えしたら「次は還暦ですかね」と明るく答えてくださいました。ピンカートンの再結成を待ち望みつつ、松本若菜さんの更なるご活躍を応援しています。

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