東京国際映画祭とは。東京国際映画祭プログラミング・ディレクター 矢田部吉彦氏【インタビュー】

東京国際映画祭プログラミング・ディレクター 矢田部吉彦氏

第32回東京国際映画祭の「成功」と「課題」

第32回東京国際映画祭コンペティション部門のプログラミング・ディレクターを務めた矢田部吉彦氏に今年の映画祭を振り返っていただきました。

―――― 今年もメディアとして、東京国際映画祭を楽しませていただきました。まず、今年の映画祭を一言で振り返っていただけますか。

東京国際映画祭プログラミング・ディレクター 矢田部吉彦氏

東京国際映画祭プログラミング・ディレクターの矢田部吉彦氏

矢田部氏
一言で表現するならば“充実していた”という思いはとても強いです。

というのは、とても幸せなエンディング、色々な要素がありますけれども、特にコンペティション部門について言えば、皆が一番愛した作品が見事に東京グランプリに輝いたからです。

大きなイベントなので細かいトラブルが沢山ありましたけれども、本当に“終わりよければ全てよし”で、皆が幸せな気分でまとめることができた、その気持ちが今もずっと続いている感じです。

―――― 今回20万人目標に対して23万6千人が来場し、前年比でも観客動員数も増え、数字的にみても好評だったと思います。改めて矢田部さんの目から見た、今回の映画祭の成功と、今後についての課題。この2つを教えていただけますか?

矢田部氏
まずは成功についてですが、これが映画祭の良いところでもあり、伝わりにくい部分でもあるのですが、非常に多岐に富んだラインナップ、品揃えで、あらゆる映画ファンが自分の好きな作品、あるいはジャンルを見つけてもらえるような映画祭になったという事。

少しアート色の強い傾向のコンペティション部門の作品もそれぞれ会期中に3回上映があって、3回ともそれなりにキャパが大きい会場でお客さんが入ってくれましたし、片や、日比谷会場の野外上映には物凄い数の人が集まった『ボヘミアン・ラプソディ』の完全版だったり、六本木の劇場での『プロメア』の英語字幕付きの応援上映、マニアックというか今はメジャーですけど、それがとても盛り上がったり。いろんな多面性を持った映画祭で、しかも裾野も広がっている。ということで、多様な品揃えにお客さんが沢山ついて来てくれたことが一つの成功として見てよいと思っています。

『プロメア』英語字幕付き応援上映

『プロメア』英語字幕付き応援上映

一方で課題としては、色んなことをやろうとしているので、逆に「一本芯が通った哲学は何ですか?」と聞かれてしまうこと。
コンペ部門もバラエティに富んだ品揃えにしたいと思っていますし、映画祭自体が僕は“映画のデパート”であって、各フロアにいろんな売り場があって、自分の探しているものはどこかで必ず見つかると思っています。それが一つの東京国際映画祭のアメーバ的多様性のイメージだと思っているのですが、それをうまく一言で伝えることが難しいのです。

色んなお客様を相手にしようとしているから、逆に誰を相手にしようとしてるのか見えないという風なツッコミもされてしまう。例えるなら両面コインの裏表だと思うのですが、スタッフ側は凄く良い事をやっていると信じてやっているんですけど、それを言葉やメッセージとしてマスコミやお客様にうまく伝えることが今後の課題だろうと思います。

―――― 確かに自分の興味関心のあるものを書棚から引っ張り出していくような良さって凄くあると感じました。日本独自のアニメ、アジアで活躍している監督や作品の潮流、そういったことも非常に伝わってきました。
過去から今を見渡した時に、変化していくなかでこの課題は解消されている、もしくは課題がまだ残っている、そういう切り口ではいかがですか?

矢田部氏
やはり、一番国際映画祭として分かり易く求められるものとしては、誰もが知っているような世界的な有名監督の新作がワールドプレミアでやって来ること。昨今のカンヌやヴェネツィアがそうですね。国際的なビッグネームのワールドプレミア作品を何本か取り揃えることについては、そこを目指すかどうかは別議論ですが、過去から現在に至るまで大きな改善はしていません。欲しいか欲しくないかと言えば当然欲しいので、そこはなかなか届ききれていません。

夏のヴェネツィア、トロント、サンセバスチャンといったヨーロッパ・北米の大きな映画祭がある中で、特に欧米の有名監督たちの作品に、大きな映画祭の出品を我慢して東京にワールドプレミアを取っておいてくれと言えるほどの魅力やメリットやステータスにはまだ届いていないのかなと。まだまだ努力する余地は多いのかなというのが、以前からの、そして毎年の課題です。

ただ、一方で例えば「コンペティション」部門について言えばアジア映画は全部ワールドプレミア上映をルールとしていますし、「アジアの未来」部門もその大半がワールドプレミア上映ということで、アジアの新しい作家、あるいはそれなりに実績のある監督たちの新作を世界に向けて発信することは毎年進化していると思います。
「アジアの未来」部門も出来て7年目になりますが、ほぼ全てワールドプレミア作品を揃えているというのは以前からの進歩だと思います。国際的に見ても“新人発掘”、あるいは“新作発表”の場として進歩しています。

作品について言えばそういうことでしょうし、もちろんインフラ面はチケットシステムにもっとテコ入れが必要だとか、上映会場をもう少し増やしたいなど、改善には時間のかかるハードな側面、システム面での課題は沢山あります。

―――― 来場者数の目標を今後も引き上げていくとなれば、それ以外の会場、突飛ですが東京国際映画祭 in ○○地方みたいな話も出来るでしょうし、それは各地も喜んで受け入れてくれると思います。東京国際映画祭が一層充実することは、これまで以上の成功の一つの試金石にもなると思います。

矢田部氏
それはとてもやりたいところですね。しかし、映画祭ではまだ配給会社などのついていない新作を上映するので、そういった地方などを巡回する時に権利交渉が簡単ではないのですが、本当は巡回したいという気持ちはとてもあります。

一方で、東京国際映画祭が終わったら配信サイトでハイライトが観られます、主要な作品も何本か観られます、となれば会場に来られない方向けに全国津々浦々で観てもらえますよね。そういうことも考えなくてはいけない時代になってはきていると思うんですが、まだ踏み込めてはいません。

―――― 映画が劇場の大画面で沢山の情報を取り入れられるのと、デバイスが進化して変わっているのでそこに合わせることと、当然時代の流れに沿った課題は出てきてしまいます。

矢田部氏
Netflixの話は沢山質問されるんです、必ずと言っていいほど。

それだけやっぱり今、「映画の定義って何だろう」というか、そういった、いわゆる“神学論争”みたいなこともありますし、よりビジネス的な公共の世界から見たNetflixのような配信向けに作られた作品を、あえて興行を重視している東京国際映画祭が上映することの是非みたいな議論にもなります。

まだ業界の議論が固まってない過渡期だと思うのですが、Netflix作品は実際に昨年も今年も上映もしているので、これからは映画祭としても上映作品を後々配信できる仕組みを作り、東京に来られない人たちにも届けていくような工夫をしていかなければ、せっかくこういう時代になってきたのだから利用しなければなりませんよね。

Netflix作品『アイリッシュマン』を上映

Netflix作品『アイリッシュマン』を上映

アートかエンタメか

―――― また観る側の姿勢といいますか、エンタメに偏っていると比較的多くの人が見てくれる。一方でアートに偏りすぎると分かる人と分からない人が出てきてしまう。アートかエンタメか、さらにビジネスの話が入ってくると議論すらまとまりがつきません。
アートとエンタメ、それに加えてビジネスと、これについては矢田部さんはどうお考えなのでしょうか。

東京国際映画祭プログラミング・ディレクター 矢田部吉彦氏

矢田部氏
おそらく一年中そのことだけを考えていいぐらいの根本的な問いですね。

特に映画祭の作品を選定するにあたっては、そこが決定的に重要なポイントですし、かつあまり明確な答えをまだ導けていません。

根本的な話をすると、国際映画祭というのは基本的にはアート系映画作家を守る場である。例えばカンヌがその姿勢を貫いていて、やはり国際映画祭の根源にはそれがあると思います。アート性の高い作家を擁護するということを踏まえた上で、やはり沢山のお客さんには来場して欲しいから、エンタテンイメント映画がもたらしてくれる“祝祭感”というものも映画祭には必要で、そこでたまたま別のジャンルの映画にも触れ、結果的に映画祭ファンを増やすという循環も作りたいです。

ただ、映画が100年以上も続いているのは、多分、“エンタメ”としての映画と“芸術”としての映画の両面があるから飽きられることなくここまで続いていると思うのです。

映画祭の中で、エンタメ色の強い部門とアート色の強い部門とを完全に分けて、両方に来てくださいというスタンスを打ち出すことも出来ると思います。東京国際映画祭がやっているのは、そこだと思うんです。ただ僕自身は、エンタメ作品も大好きなので、できればコンペティション部門は、アート映画寄りですけども、エンタテインメントであると言えるぐらいのワクワク感を備えた作品を揃えようと思っています。

最優秀監督賞 と最優秀男優賞をW受賞した『ジャスト 6.5』

最優秀監督賞 と最優秀男優賞をW受賞した『ジャスト 6.5』

例えば、今回のイラン映画『ジャスト6.5』はド・エンタメですけども確実に作家性が備わっていますし、グランプリの『わたしの叔父さん』はしっとりとしたアート系ですけど、ちょっと小津監督っぽいところもあって日本人の琴線に触れるエンタメだと僕は思いました。

“果たしてこれはエンタメに足り得ているだろうか?”ということは自分が映画を選ぶ時にすごく気にするところで、だからお客さんのことはとても意識します。

というところで、僕個人としては難解なアート作品も一部あってはいいと思いますが、どこかでお客さんが楽しんで配給がついて劇場公開もされるような可能性を含んだ作品を選ぼうとは意識します。が、全く意識しないこともあります、いやッ、8:2で意識します(笑)

―――― スローガンのひとつが「アートとエンタテインメントの調和」ということですが、それはまさに矢田部さんの「言葉」じゃないかなと思いました。

矢田部氏
本当に映画はその両方があってこそ映画なので、どちらとも言い切れないと思います。エンタテインメントに流れすぎるとちょっと物足りないですし、アートばっかりになると疲れちゃいますし。

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