“挑戦、そして映画を創る喜び” 映画『風の電話』諏訪敦彦監督 【インタビュー】

―――― モトーラさんをはじめ、キャスト陣は諏訪監督の即興で映画を撮る手法に見事に応えられました。でも、キャスト陣を選ぶ監督の眼は相当厳しいものではないかと思います。

諏訪敦彦監督
厳しいというか、こういうことってやりたい人やれる人、受け入れてくれる人じゃないとできませんね。無理矢理やってもらうわけにはいかないので。俳優さんにとっては負担も大きいし、タイプにもよる。こういうことやりたくないとハッキリ決めている人もいらっしゃるし、即興によって自由になれない人もいるので、そこは慎重ではあります。
西島くんとか三浦さんとか渡辺さんは、僕の映画にとってのある意味で故郷にいる人、家族なんです、僕にとって。三浦さんとか西島くんにとっては、ありとあらゆる監督の中の一人なんだけど、僕にとってはそういう想いがあって、だから皆にいて欲しいという気持ちがありました。

―――― モトーラさんと長い時間を過ごすのは西島さんであり、モトーラさんを選んだ時に西島さんが浮かばれたのでしょうか。

諏訪敦彦監督
そうですね。モトーラさんが決まって、主役によって周りが決まってゆきます。
色々候補もありましたけど、回りまわってというか僕にとっては一番信頼できる人とやろうと、もちろん新しい人とやるという冒険もあっていいのだけど、モトーラさんと初めてやるわけだから、周りは自分の家族に見守って欲しいというような感覚だったと思います。渡辺真起子さんも同じで、彼女から始まるというのは、自分のかつての主演女優(『M/OTHER』1999年)から引き継いでいくというか。

―――― なるほどそういうバトンタッチのようなものもあったのですね。
ところで、西島さん演じる森尾について聞かせていただけますか?

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諏訪敦彦監督
彼だけが唯一ハルから何かもらっていく人なんです。他の人はハルに何かをあげていく、励ましていくのだけど、一番過酷な過去を生きてるはずなんですね、森尾という人は。だから、今生きる実感を失っている人なんです。それはハルも一緒なので、だからあの二人が何か通じるわけなんです。でも、森尾は保護者じゃないんです。森尾自身も必要だったかもしれないし、唯一ハルによって彼自身が変わっていく。変わろうかなって何となく思えたわけです。

―――― ハルと森尾が別れるシーンで二人が交わした言葉、そしてハルの後ろ姿がとても印象的でした。

諏訪敦彦監督
いいですね、あの後ろ姿。
(モトーラさんは)最後まで見ていたいと現場で言っていました。ちゃんと見送りたいって言っていました。
結構本人に聞いているんですよ。「ここどうする?」とか「どうしたい?」とか。モトーラさんはここでどうしたいとか意思があるし、あのシーンは「ずっと見ていたい」と言っていました。
最後の森尾の台詞も凄く良かったと思うんですけど、何を言うか僕も考えたんです。西島さんも色々と悩んで、脚本があれば気の利いた台詞を書いちゃうんですけど(笑)。
実際ってそんな言葉は出てこないんですよね。単純なことしか出てこない。だから、それでいいんじゃないかな。あの言葉って凄く大事な言葉だし、あれを2回言うって凄くいいなと思う。あの西島さんの言い方も感動的でした。

―――― 同じく二人のシーンですが、壊れた家でハルが泣き崩れて倒れたところを、森尾が手を携えてサポートしていくシーンも非常に印象的でした。

諏訪敦彦監督
あれは三浦さんのシーンの反復ですよね。でも、それが違うニュアンスであるわけです。モトーラさんも色々と考えている人なので、あそこで僕が「寝てください」と提案しましたが、実は寝ないテイクもあったんです。彼女は寝ない選択をしたんです。なぜならば最初の広島と同じようになってしまうので、それと繰り返しになるのが気になるからやめようかなと思ったんですけど、僕は“あそこの場所を感じて欲しいから寝てみよう”ということで寝てもらったんです。それは反復なんですけど、僕にとってはその反復がまた違う風に見えてくるんじゃないかなと思ったんです。

―――― そして、ハルは自力で立ち上がり、その後を森尾がついていくシーンに繋がり、そのシーンでもハルの後ろ姿が描かれていました。

諏訪敦彦監督
あのシーンも色んなパターンがあったんです。撮る度に違ったので。

―――― 何回ぐらい撮られたのですか?

諏訪敦彦監督
普段そんなに撮らないんですけど、あそこは5回ぐらいですかね。(俳優陣は)きつかったと思います。あのシーンはきついシーンなので、でもなんか、もうちょっといけるんじゃないかなという期待があって何回かやって、西島さんもハラハラしながら。モトーラに色々助言をしてくれましたけどね、「出来るはずだよ」「大丈夫、出来ているから」って励ましてくれました。

―――― 森尾の自宅に帰った時、ハルには幻が見えていました。一面の菜の花畑にしぼんだ真っ赤なボールが投げられて、「光」と「闇」ではないですが、映像のコントラストがとても綺麗でした。

諏訪敦彦監督
福島のあの辺りは菜の花畑がいっぱいなんです。放射能を吸収するということもあるのですけど、観光資源を作りたくて色々なところに菜の花畑が出現しているんです。それを見て、これは綺麗だな、絶対に撮りたいな、何の目的があるか分からないけど撮りたいなと思っていて、なんの根拠もなくあのシーンを突如、「今、撮っちゃおう!」みたいな感じで撮ったんです。ボールを使うというのは、一つのアイデアだったので、膨らんでいたボールがしぼんでしまう。

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―――― ちなみにボールの色は菜の花畑を見た後に決めたのですか?

諏訪敦彦監督
違います、そんな風に考えてないです。
実は別のシーンがもう一つあって、そこでも赤いボールが出てくるんです。弟がいつも赤いボールを持っていて、海でみんなと遊んでいるというシーンがあって、2回目に赤いボールが出てくるのが今のシーンなんです。
その赤いボールというのは、昨年から小学校で開催している映画のワークショップ(文化庁が実施する巡回公演事業)で、みんなで赤いボールを使って映画を創るという活動をやっているんです。それと同じボールを使わせてもらいました。
今年もやりますけど、四国の僻地とかの小学校を巡って、みんなで『赤い風船』という63年前のフランス映画ですけど、有名な映画です。ほとんど台詞がない「風船」と「少年」の話なんです。それを子供たちに観せて、「さあ、今度はこのボールを使って映画を撮ろう!」と言って映画を創るということをやっていて、そのボールと同じボールを使ったんです。

―――― 観た時は計算しつくされたような、美しさに感動しました。

諏訪敦彦監督
計算なんてしてないです。そういうものなんです。
映画って出来たものを観ると全て考えられているように見えるけど、それは出来た瞬間にそうなるわけです。モノを創っている時には、全て計算してパッと出来るようなことは絶対にない。それは映画だけじゃなくて、あらゆる創作がそんな風に出来ていないんです。小説を書く人も絵を描く人も書いてみないと分からないから書くわけです。書くことでしか触れられないものがあるから、書くわけです。僕も映画を創ることでしか触れられないものがあるし、自分で全部分かっていたら撮る必要がないわけです。
だけど、観た人からは考えているんじゃないかとか聞かれるわけです。「これはどういう意図ですか?」って。本当は意図なんてないんです。だけど、後で生まれるわけです。自分の考えたことはモノを創った後に自分の中に生まれてくるわけです。
だから、創る喜びがあるんです。

―――― 質問しているのに変なのですが、監督から「計算してない」という答えを期待していました。

諏訪敦彦監督
そうですよね、そういうものなんです。
映画ってそういう風に観られがちなんですけど、監督が全部決めてイメージ通りにって。でも、イメージ通りのモノが創れたら、こんなつまらないことはないです、と僕は思います。

―――― 監督にとって、この作品の中で一番イメージと違った、想像を超えたシーンはどこだったのでしょうか。


諏訪敦彦監督
ラストシーンです。
「こんなことが起きるんだ!」と。凄いなと思いました。

―――― 一つ一つ作品を創る毎に新しい発見があるように思えるのですが、いかがでしょうか。

諏訪敦彦監督
発見ですか?常にありますね。
今回、本を出版してそこで全部の作品を回想したんですけど、そうするとやっぱり同じことは繰り返せない。でも、やっていることは全部一緒とも言えるんです。ただ、自分で予め分かっていることは出来ないです。“これをやればこうなるな”、“これをこうすればこういう映画になるな”と分かってしまったことはやらないです。やる必要がないんです。だから、“これやったらどうなるんだろう?”ということがあるから、やっぱりやるんです。だから毎回(発見は)あります。

今回はそういう意味では、前回と違って現実の出来事を扱っているので、現実の出来事と僕たちが作るフィクションがどういう関係なのかということを考えたと思う。でも、その境界みたいなものが最終的には溶けてしまったという気がしました。この映画はフィクションとかドキュメンタリーとかを問う必要がない映画のような気がして、言われれば勿論フィクションですけど、そんなことはどうでもいいという風に思えた。それは、モトーラさんに依るところが大きいと思います。モトーラさんの存在と“風の電話”が凄く上手くマッチしたように思います。

ただ、公開される前なので結論は出ていないというか、映画ってやっぱり観られて完成するんです、本当に。創り手はこれで編集が終わりだなとか、一応これで完成だなと言うんだけど、結局、完成品を監督は一生観ることが出来ないんです。絶対観られないんです、不可能なんです。なぜなら観客ではないから。観客にはなれないから。映画って観客にしか存在しないので。誰かが観ていなければ存在しない訳で、犬が観ていても映画にはなっていない訳です。人間が感情や記憶や知識を伴って観たことによって、その人の中に観た映画が生まれるわけなんです。それが映画なんです。僕たちは最終的にそのきっかけを創っているだけなので、完成した映画を絶対に観れないという宿命があると僕は思っています。

―――― 最後に映画ファンへのメッセージをお願いします。


諏訪敦彦監督
映画ファンに観ていただきたいとは思ってなくて、誰でもいいんです。
だけど、僕はみんな元気いっぱいで、毎日悩みも苦労もなく幸せに暮らしている人には必要ないかもしれないが、あらゆる人は傷ついているし、何か問題を抱えているし、色んな困難の中を生きているし、そういう人に観て欲しい。そういう人に対して、何かこの映画がその人に寄り添うようなものでありたいと願っているし、そういう人が日々悩んでいて辛いとか悲しいとか、それは震災で家族を失った悲しみと、自分の恋人と失恋した悲しみを比べることは出来ない。どっちが大変かを比較することは出来ない。どんなに小さなことでも、その人の傷はその人にとって深いものなんです。だから、この映画を観ている人は、私は一人じゃないんだな、私だけじゃないんだなって、この映画がそういう風にその人に寄り添っているものでありたいなと思います。

―――― ありがとうございます。


『風の電話』
1月24日(金)より全国公開 大ヒット上映中!

予告編映像

作品情報

■出演:モトーラ世理奈 西島秀俊 西田敏行(特別出演) 三浦友和
■監督:諏訪敦彦
■脚本:狗飼恭子・諏訪敦彦
■音楽:世武裕子
■企画・プロデュース:泉 英次
■プロデューサー:宮崎 大 長澤佳也
■企画協力:佐々木格 佐々木祐子
■制作・配給:ブロードメディア・スタジオ
■コピーライト:©2020 映画「風の電話」製作委員会
■公式サイト:http://www.kazenodenwa.com/
風の電話

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『風の電話』×『恋恋豆花』クロストークイベントレポート

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【後編】

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