“俗っぽさ”が響く 津田寛治さん【インタビュー】 映画『山中静夫氏の尊厳死』

映画「山中静夫氏の尊厳死」津田寛治さん インタビュー

浅間山を望む信州の地を舞台に、人が死んでいくこと、最期まで自分らしく生き抜くことの意味を優しく描く、映画『山中静夫氏の尊厳死』が2月14日(金)よりシネスイッチ銀座ほか全国順次ロードショーを迎えます。
今回は、「私は肺がんなのです」と告白する山中静夫(役:中村梅雀さん)を担当することになる今井医師を演じた津田寛治さんに、本作で感じたことや見所についてたっぷりと語っていただきました。

映画「山中静夫氏の尊厳死」で今井医師を演じた津田寛治さん

映画「山中静夫氏の尊厳死」で今井医師を演じた津田寛治さん

―― 初号試写後に撮影監督の高間賢治さんと抱き合ったというエピソードがパンフレットにもありました。作品にも言えることですが、凄く感動的なお話ですね。

津田寛治さん
まだ売れていない時に喫茶店で知り合い、その頃から高間さんには凄く良くしていただいたんです。ちょっとした役で呼んでいただいたり、僕が短編映画の監督をした時も本当に予算のない映画なのに「俺が撮るよ」と言って撮っていただいたりしたんです。
お互い現場でちょこちょこ会うこともあったんですけど、本作の衣装合わせをしている時に高間さんがいらして「寛ちゃんの主演の映画を撮るなんて思わなかったよ」と。
現場に高間さんがいらっしゃるまでは知らされていなくて、“エッ、高間さんなんだ”って。現場でもお仕事ぶりを見て、改めてほんっとに凄い撮影監督だなと。
初号試写が終わった時、高間さんが泣いていらして、言葉もなく抱き合ってしまいました。僕も思わず涙が出てしまって、本当に人生ってこういうことがあるんだなと、神様に感謝です。

映画「山中静夫氏の尊厳死」津田寛治さん インタビュー

―― お話を伺っているだけでも感動です!そして、いよいよ公開が近づいてきましたが、今のお気持ちをお聞かせください。

津田寛治さん
台本自体が素晴らしかったので、その通りの映画になると思っていたら本当に素晴らしい映画になって。原作の南木佳士(なぎ・けいし)さん(作家・医師)も凄い太鼓判を押していただいているので不安はありません。
お客さんが入るかどうかは二次的なものだと僕自身は思っているんですけど、観ていただいた観客の方にはちゃんと届く映画になっている、そのように村橋監督に仕上げていただいたという気持ちです。だから、不安とかは全くないです。

―― テーマからすると多少重たい、暗い映画をイメージしていましたが、実際は中村梅雀さんが演じられた山中静夫から「肺がんです」と宣言はされるものの、楽しんでいらっしゃいますよね?

映画「山中静夫氏の尊厳死」津田寛治さん インタビュー

津田寛治さん
ねェ!あの宣言の仕方も最初からなんかチャーミングですよね(笑)。
また、高畑淳子さんが本当にいい奥さん役を演じられて、素晴らしいですよね。

映画「山中静夫氏の尊厳死」

―― その辺の掴みがバッチリで、静夫への愛情を抱いたところから作品が展開していき、もちろんご本人たちは真面目に演技されてると思うんですけど、クスッて笑えたり。
今井先生の気持ちからすると「こっちが色々と考えて苦労しているんだから、そんなに能天気になっては困るよ」という気持ちもあるかもしれないですけど(笑)。

津田寛治さん
そうですね。最初に台本をいただいた時には、まさかああいう仕上がりになるとはちょっと予想してなかったです。というのは、音楽が凄く優しい曲と明るい感じの曲が沢山入ってまして、最初観た時にやっぱりちょっと違和感があったんです。
台本を読んだ時はもっと荘厳な話になるかなと。無機質で淡々と生死を描くような作品になるかと思いきや、作品を見たら凄く人の温もりがある温かなものになっていて、僕も何回か観返してみたんですけど、観返すうちにあの音楽があることで、「死」というものが逆に無機質になっていくんです。

映画「山中静夫氏の尊厳死」津田寛治さん インタビュー
例えば、梅雀さん演じる山中静夫さんが郵便局員時代にご遺体を発見するシーンがあるじゃないですか。あそこはかなりグロいと言えばグロいシーンですが、あそこにバーンと優しい曲がかかっているんです。いかにも楽しい思い出を思い出すような曲がかかっていて、そのお陰で「死」というものがどんどん軽く、なんだろうな、無機質になってくるんです。「死」が重いものではなく、とはいえ軽過ぎもせず、スーッと人の人生の延長ラインにあるものという風に映っているんです。
だから音楽は温かいんだけど、過剰な温かさは感じないようにバランスが取れている。それは何回か観返すうちに“音楽をうまく当てたんだな”と感じました。

映画「山中静夫氏の尊厳死」津田寛治さん インタビュー

―― 音楽の力も巧みに使いながら、作中で「死」との向き合い方が感じられるように作られてたわけですね。

津田寛治さん
そうですね。僕自身はとにかく「死」と向き合う、向き合えば向き合う程どんどん自分が蝕まれていく感じの中で、山中さんという今まであまり類を見なかった患者さんがいらして、ちょっと救われる感じもするんです。
だけど、決してそんなことで救われる程、生易しいものじゃないんだと思いながらお芝居をさせていただいていたんですけど、仕上がりを観たらそこまで重くなっていなかったのは、逆に「死」のリアリティーですかね。ちょうどいい質感のものを描かれたんだなって気がしました。

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――リアリティーといえば、原作者の南木佳士さんが自身の経験談を踏まえて書いていらっしゃるので、山中さんと今井先生の台詞に関しては、比較的原作に忠実に描かれているのかなという風に思いました。

津田寛治さん
そうですね、原作には忠実でした。

―― そうすると、忠実にやればやるほど演技をするのは難しいんじゃないかなと思ったんです。

津田寛治さん
そうですね。ただ、「てにをは」とかは変えたりしました。
この頃、自分の中で芝居に対するアプローチが変わってきたんです。
今までは役を構築したり、ロジックに基づいて創っていくみたいな感じで、自分の中にないものを色々考えながらその役を創っていき、その中に微妙な仕草であったり、台詞の言い回しであったりを混ぜたりしたんです。でも、やっぱりそれって限界があるなと。

映画「山中静夫氏の尊厳死」津田寛治さん インタビュー
一人の人間が他者を創っていく上で、全くないものから“ああだこうだ”考えて創るとどうしても薄くなってしまう。自分に寄せて、今井医師になるというよりは、僕みたいな医者がいてもいいだろうっていうんですかね。
原作の言葉どおりではなく、自分なりに柔らかくして。もし、自分が患者さんと接する場合どうするかなって考えたり。やっぱりまず不安を与えないってことが大事だし、患者さんに対しても、周りの奥さんやご家族に対してもそうだろうし。一方で、病院の中にいる看護師さんたちと喋る時にはまた違うだろうし。そのまた先の自分の家庭にいる時はもう一つ違うかなって、自分だったらどうなるかを意識しながらやりました。

―― 津田さんが今井医師になるのではなく、津田さんに寄せていったことであのリアリティーが生まれたのですね。そういうアプローチをするきっかけはあったのでしょうか?

津田寛治さん
そのきっかけも梅雀さんのお芝居を一発目に見た時ですかね。
梅雀さんがやると聞いた時にこれは素晴らしいものになると思っていたし、楽しみだったんですけど、最初の梅雀さんのお芝居を見た時に、もう迷うことなくこの人をずっと見つめていようと、この人に寄り添ってこの現場では芝居をしていこうと。それが今井医師の想いとかなり重なっていたんです。

映画「山中静夫氏の尊厳死」

―― 演技をする上で「患者さんありきなんだ」ということにもなると思いますが、山中さんに対して説明をしている時と、大工のがん患者川口さん(役:中西良太さん)に接してる時は接し方を微妙に変えているのでしょうか?

津田寛治さん
違いますね(笑)。
というか、大工役の中西良太さんとは、僕、付き合いが凄い古いんですよ。あのままなんですよ(笑)。
あの感じが凄く出ちゃっていて、それは監督が意図したところでもあると思うんですけど、いや、助かったなって感じでしたね。あのシーンは監督が最初からワンカットで撮りたいと仰っていて、ほぼほぼワンカットでいってると思います。
今思えば、二人の10年以上培ってきた関係性がそこで出るといいなという監督の意図もあったんだろうな、と。ものの見事にその関係性が出ています(笑)。

映画「山中静夫氏の尊厳死」津田寛治さん インタビュー

―― 以前手術をしていて、その川口さんが再発してしまうということは、当然二人の関係性が長年続いていなくてはならないのですね。

津田寛治さん
そうなんです。しかも後半では「あの先生じゃなきゃ嫌だ。今井先生でなきゃ僕の手術はしてもらいたくない」っていうぐらいの信頼関係が出来てるので、そこはうまく監督に利用していただいた感じがします。

―― 今井先生の話に移りたいのですが、おそらく山中さんは自分の身体のことは自分が一番分かっているし、それは今まで今井先生が患者さんを多数抱えて、宣告できなかった大多数の患者さんも気が付いていたのかもしれない。嘘をついてきた、真正面から向き合って来れなかったのかもしれない、そんな苦しみも今井先生にはあったのかもしれません。その苦しみは津田さん自身も演じていく中で感じたり、共感出来たりする部分はありましたか?

津田寛治さん
今井医師と自分の大きい共通点としては、“疲れている”ということが一つ共通項で、役に入っていくきっかけではありました。“疲れ”って何だろうと思った時に、本当に嘘はつきたくないけれども旅立とうとしている人に嘘をつく。その嘘を真に受けて、まだ生きられるんだと思っている患者さんを沢山見てきた中で、自分が壊れそうになった時、防衛本能って働くじゃないですか。
その時に思ったのは、患者さんにとって死ぬという人生の一大事が起きているんだけれども、医者にしたらそれは日常じゃないですか。特別じゃなくて日常なんだと思い込もうとするんですかね。それを逆に、一生に一度の大変な時だからと感情移入をし過ぎると、その先自分もどんどん壊れていくしかない恐怖を感じてしまって。だからそんなに患者さんのことを思わなくて良いんだ、と。そう思うことで自己救出をしようとしてるんじゃないかなって気はしました。

映画「山中静夫氏の尊厳死」

その中で山中静夫さんとの出会いがあって、考え方がちょっと変わるっていうんですかね。やっぱり相当引っ張られたんだろうなって気はするんですね。それが果たして良かったのかどうかっていうのはまた違って。
僕の中の勝手な解釈なんですけど、山中静夫さんは今井医師にとって荒療治だった気がするんです。最後の極め付きは、鬱の症状が出てしまって仕事すらできない状況になってしまったと。だからどん底に感情移入しないで接しようとしたけども、感情移入するしかないような患者さんが目の前に現れて、一緒になってその患者さんを応援して、その人が旅立った時にこんなにエネルギーを注いでしまったという中で、ドーンと末期の鬱病にかかってしまった。でも、結果的にそのお陰で今井医師は休めたわけですね。休めることによって色んなことを考えるきっかけとなった。結果的には、山中さんに救われたんだなって思います。

映画「山中静夫氏の尊厳死」津田寛治さん インタビュー

―― 看護師長役の大島容子さんは山中さんにお尻を触られていましが、患者さんと向き合うことを、相手の気持ちを理解して、それに対して返していくことの大切さを感じました。

津田寛治さん
あのシーンは凄く腑に落ちるというか、エロい気持ちで触るんではないんだなって。関係性を持ちたいというのと、温かみが欲しいというのと、母親に対する思いもあったのかなとか。やっぱり人の温もりをそこに感じたいっていうのもあるのかなと。
がんで旅立とうとしている方が、俗っぽいエロい気持ちだけっていう風に見えないように創られたシーンだなっていう気はしました。それは大島さんの演技に凄い説得力がありました(笑)。

映画「山中静夫氏の尊厳死」津田寛治さん インタビュー

―― 相手を想うことが大事だということと、もう一つ自分と向き合うということも非常に大切なことで、これも非常に難しいことだと思います。
山中さんは最後だからということもあり、自分と向き合うことの大切さのようなことを示してくれたのかなとも感じました。自分と向き合うこと、生きることについて、山中さんは何を教えてくれたと思われますか?

津田寛治さん
多分、山中さんが達観した方ではなかったというのが凄く大事だなって気はしています。今井医師が“こんな患者さんもいるんだ”っていう風に崇める(あがめる)ように接するような達観した患者さんとでも言ったらいいのでしょうか、死も恐れてないし、自分は旅立つんだと、旅立つ用意を粛々とされている方だったら響かなかったんじゃないかなっていう気がするんです。お墓ってやっぱり生きてる人のために残されているものだし、死んだら別にお墓があろうがなかろうが関係ないわけだし、お墓に執着するということ自体が物凄く俗っぽいことでもあるし。しかも、それが養子に行ったあそこのお墓には入りたくないとか、死んでまで気を遣いたくないとか、そういう風に思われていることも俗っぽいし。そういう俗っぽい欲望を粛々と山中さんなりのやり方で、ちゃんと最後のケジメをつけているというんですかね。その姿を見たからこそ響いたんじゃないかなっていう気はするんです。

映画「山中静夫氏の尊厳死」
劇中の台詞でもありますけど、「死を恐れずに旅立ちです。神のもとに行けるんです」みたいな心情なら、それこそお坊さんや神父さんにやってもらえばいいことだし。医者のやることはそれとは違うんだと思った時に、山中さんが達観してないところに物凄い接点っていうんですかね、心を動かされるものがあったんだろうなって思います。だからこそ、自分との向き合い方も今井医師に響いたんだと思います。俗っぽいものがそこにあったからこそ、それは物語としても本当にうまく出来ている思います。

映画「山中静夫氏の尊厳死」津田寛治さん インタビュー

―― 最後に映画ファンに向けてのメッセージ、それから医師を演じていらっしゃるので、現役で働いている医師の方にも津田さんが演じてみて感じたことがあればメッセージとしてお伝えください。

津田寛治さん
映画ファンの方には、この映画が凄く稀有だなと思うところは、いわゆる僕なんかも物凄く映画ファンなので、無機質で地味な映画っていうのは、それはそれで好きなんですよね。ケン・ローチが描きそうな作品も好きだし、昔でいえばベルイマンとか、本当に生死というものをしっかり情に流されることなくちゃんと見つめて描く映画も好きなんです。
この映画はちょっとそれらとタイプが違っていて、優しさで包み込むことによって、新しいリアルな生死というものを描いている気がするんです。パッと観た感じ、老人向けの癒し系の映画かなって見えるところも一つ大きなミソだなと感じていて、若い人にこそ観ていただきたいなという気がするんです。若い人が観た時に、この変な違和感とリアリティーに気付いていただける気がして、それ、凄い期待しています。

映画「山中静夫氏の尊厳死」津田寛治さん インタビュー

医者という役を通じて、原作も拝読しまして、お医者さんの大変さというか、仕事との向き合い方っていうんですかね。どこにアイデンティティを持っていいのかとか、モチベーションをどこに持てばいいのかとか、色んな問題があるんだけれども、そういうことで悩んでいる間もどんどん今の時代患者さんが増えていく中で、僕がお医者さんに言えることはないですけど、ただただこの作品に携わったことによってお医者さんという職業の方々に対して、感謝の気持ちがさらに膨らみました。
僕からの想いは、ご自身のお体を大事にしていただきたいなと、それとやっぱりご自身の人生ですからご家族とかも大事にしていただきたいなという思いです。

―― ありがとうございます!

映画「山中静夫氏の尊厳死」津田寛治さん インタビュー

映画「山中静夫氏の尊厳死」津田寛治さん インタビュー


2020年2月14日(金)より、
シネスイッチ銀座ほか、全国順次ロードショー

2019年9月21日(土)より映画の舞台長野県(佐久アムシネマ)にて先行公開中

画像,山中静夫氏の尊厳死

■予告動画

■公式サイトwww.songenshi-movie.com
■キャスト:中村梅雀、津田寛治
小澤雄太、天野浩成、中西良太、増子倭文江、大島蓉子、江澤良太、石丸謙二郎、大方斐紗子、田中美里、浅田美代子、高畑淳子
■監督・脚本:村橋明郎
■原作:南木佳士「山中静夫氏の尊厳死」(文春文庫刊)
■主題歌:小椋佳「老いの願い」
製作:株式会社スーパービジョン、株式会社アメニティーズ、株式会社ベルメールプロモーション
協賛:のぞみグループ、㈱ティー・ワイ・プロデュース、ソーマTK㈱、鈴与マタイ㈱、一般社団法人佐久医師会
企画協力:文藝春秋 後援:日本医師会 助成:独立行政法人日本芸術文化振興会
配給・宣伝:マジックアワー、スーパービジョン
©2019映画『山中静夫氏の尊厳死』製作委員会
2019/日本/カラー/DCP/シネスコ/5.1ch/107分

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