映画『子どもたちをよろしく』隅田靖監督

映画『子どもたちをよろしく』
隅田靖監督インタビュー
ワルボロから12年、弱者の目線で届ける“きっかけ”

オリンピック、カジノ、万博…世の中が浮足立つなかで、子どもを巡る事件が、毎日のように報じられています。しかし、子どもたちの世界に目が向けられることは多くありません。いじめに苦しみ、そのために死を選んでしまう少年、性的虐待を受け自らを「汚れた存在」と思い込んでしまい風俗産業に身を沈める少女。そんな彼らに、われわれ大人は手を差し伸べることができるのか。いや、アルコール依存、ギャンブル依存、対人依存、同調圧力など、大人社会にはびこる闇こそが問題の源なのではないのか。その問いかけを、観客の皆さんに投げかけたい――。そんな想いを込めて制作された映画『子どもたちをよろしく』が2月29日(土)より渋谷・ユーロスペースにて公開します。

今回は『ワルボロ』以来、12年ぶりの監督作品となった隅田靖監督に、本作制作の経緯や脚本設定を振り返っていただきながら、現代社会を生きる我々に様々な問題について考える“きっかけ”を届けていただきました。

―― 本作の結末は日本が抱える深刻な問題にも繋がっていると思います。逆説的ですが、この作品が必要のない社会が理想なのかな、と思いました。この作品の制作へと監督を突き動かしてしまったものを含めて、本作誕生の経緯を教えてください。

映画『子どもたちをよろしく』隅田靖監督

隅田靖監督

隅田靖監督
元文科省の寺脇研さんが本作の企画・プロデューサーなのですが、寺脇さんが私の師匠である澤井信一郎監督とずっと懇意にされていて、その繋がりから寺脇さんが受け持っている日大芸術学部の授業にゲストとして何度か呼んでいただいたことがあったんです。それが7~8年前からあって、『ワルボロ』を題材にした授業をやったこともあるんです。

寺脇さんは『戦争と一人の女』(2013年、井上淳一監督)と『バット・オンリー・ラヴ』(2015年、佐野和宏監督)をプロデュースしていて、澤井さんが「今度やる時は隅田に撮らせてやってくれよ」と会話してくれていたそうなんです。そういう話もあり、授業にお邪魔して寺脇さんとお会いした時に「実はこういう話をやりたいんだけど」とご相談いただいたのが今回の話です。

物語の骨格は、父親がデリヘル嬢の運転手で、息子は学校でいじめられ、貧困でネグレクト。いじめの首謀格の一人の中学生にはお姉ちゃんがいて、デリヘル嬢として働いてるという話。それを寺脇さんから聞いて、すぐに面白いと思ったので「非常に面白いので、僕にやらせてください」とお願いしたんです。

いじめ、自殺、ネグレクトなどに関するルポルタージュの本は沢山出ているんです。そういうの読むのが元々好きだったので読んでいたし、医療の専門家が家庭の状況を書いているような本もありますし、新聞とか図書館で調べたりして、それでやっと物語が固まっていって、脚本を書こうと思いました。そこからはもう2~3ヶ月でこの映画の骨格の話は大体出来上がったんです。

要するに、いじめる側の稔(役:杉田雷麟さん)とその姉の優樹菜(役:鎌滝えりさん)の姉弟の家庭の話と、いじめられている洋一(役:椿三期さん)の家庭の話。それが交互に出てきたり、動物園のシーンとかある程度構成が出来上がって、あとは寺脇さんと僕の共通理解というか。

自殺してしまう人の総数や出生率は減っているのだけど、10~15歳の自殺は増えている。その辺のやっぱり不条理っていうのかな。そういうことを描かなくてはいけない、今を描かないでどうするんだという気持ちで脚本を執筆していきました。

―― 本作のために徹底的に取材を重ね、特定の家庭をモデルにしたというよりも、監督がこれまで見聞きしてきた知識と経験をベースに作られたのですね。

隅田靖監督
そうですね。幅広く。
後は、僕自身も家庭があまり裕福ではなかったし、家族関係も複雑な部分もあったので、書いていて自分の歴史、自分史っていうんですかね、それに向き合わざるを得ない。

親によって子供が傷つけられていく様というのは、大体親は分かっていない場合が多いと思います。親は子供を所有物だと思っているんです。一人の人間との付き合いじゃなくて、自分の所有物だと思っちゃっているから、いつまで経っても子供みたいになっちゃって。そういうことが素地にあったことは事実ですかね。だから、非常に興味があったというのも、自分史を振り返えざるを得ないという覚悟っていうかな、その辺はありました。別にそんな悲惨なことではないんですけど、脚本を書いてそう感じていました。

映画『子どもたちをよろしく』隅田靖監督

―― ところで、稔の家ではお父さんはアルコール中毒のような状態になってはいるものの、スーツで出掛けているし、また、家も少しゴージャスな雰囲気を感じました。この設定には何らかの狙いがあったのでしょうか?

隅田靖監督
結論から言えば、設定としてはたまたまです。

ローバジェット(低予算)の映画なんです。見た目はそういう風に見えないかもしれないけど、撮影は実質11日間でした。
今回、絹織物で有名な群馬県桐生市で撮影をしているのですが、桐生市には呉服屋さんを営む僕の親戚がいるんです。その方に色々とお世話になって、あの家もご紹介していただいたんです。凄く広い家なので泊まる場所兼撮影場所にしたんです。プロデューサーが「監督、ここ(撮影)いけるんじゃないの?」って(笑)。

ただちょっと豪華だなと思ったんだけど、優樹菜にとっては義父になる辰郎(役:村上淳さん)の設定が建築関係のデザイナーで、一級建築士資格を持つエリートだったんです。地元に力があり、家にも金があった。事務所に向かう時もいつもビシッとしたスーツを着ています。でも、人がいいのと、株や投資に手を出したり、借金の肩代わりをしていくうちに財産を段々切り崩していって、何もなくなってしまった。それで裏としては、もうあの家しかない、みたいな風にすればいいんじゃないかなと思ったんです。

実は最初はあの村上さんの設定は、日雇い労働者の感じにしようと思ったんです。ただそれは特殊過ぎちゃうから、もう少し普通にしましょうと寺脇さんから提案があり、普通のサラリーマン的な感じに。実際にそういうシーンはありませんけど、スーツをビシッと着て帰って来るからそういう感じにはなっていると思います。裏としてはそういう設定です。

―― 仰るように実際のシーンがないので建築士かどうかは分かりませんでしたが、普通に出勤しているお父さんが帰宅後にああいう感じになることは、ある意味で身近に感じるというか、自分にも起こりうることのように受け止めることが出来ました。

隅田靖監督
実は、洋一の家庭状況は私の身近な問題でもありました。

12年前に『ワルボロ』を撮ったあと、どこからも仕事の声が掛からない時期が続きました。その時、3年間ぐらい何もせずに朝まで酒を飲んで、朝になったら寝るような生活を繰り返していたんです。妻が仕事をしていたのと、うちはたまたま子供がいないので、子供がいたとしたら洋一と貞夫(役:川瀬陽太さん)みたいな関係になっていたかもしれません。

そんな生活を3年間過ごした後に、このままじゃダメだと思ってバイトみたいなことを始めて、バイトが時間的にも規則正しい仕事だったので、そこで完全に抜け出せました。あのままだったら死んでいたかもしれないと思うこともあります。もしくは、妻が出て行ってしまい、自分たちに子供がいたら…。ある意味、私=貞夫だった部分もあったのかもしれないと思いながら脚本を書いていました。

映画『子どもたちをよろしく』隅田靖監督

―― 洋一の父親として川瀬さんが登場しましたが、演技がとても良かったです。
ただ、こうして子どもたちの父親や母親が登場するわけですが、彼らが悪いと決めつけているようには思えませんでした。

隅田靖監督
彼らも被害者なんです、そうなんです。

―― 社会の問題として、ギャンブル中毒などの問題に対して避けるだけで、更生させる術やケアが圧倒的に足りていないことが炙り出されています。
そういう状況から抜け出すことの難しさについて身をもって感じられるとともに、日本の社会の仕組みを監督なりに突いていらっしゃるのかなと思いました。

映画『子どもたちをよろしく』隅田靖監督

隅田靖監督
全くその通りです。ただ、それをあからさまにやると格好悪いので、それは忍ばせているつもりです。

結局、ギャンブル中毒って病気なので、治らないです。だから、施設とかで語り合う必要があるわけです。「自分はこれだけやってしまった」と皆で語り合って、吐き出して、頭を変えないとダメなんですけど、そういう風に出来ないからいつまで経ってもギャンブルも、麻薬も、アルコールも。それってやっぱり病気なんです。

それを社会が悪いと言っても韓国みたいにパチンコを全部無くしちゃうわけには多分いかないと思うし。設定を低くして大当たりは出ませんよ、としても結局やる人はやっていますし、1円パチンコもお客さんが沢山入っています。生活保護費をそれに使っちゃう人だっていっぱいいるわけでしょ。だから、そういうのは病気なんです。

それで今、オリンピックだとかIR(統合型リゾート)とか、そんな事をしていいのかなって。オリンピックは仕方がないのかもしれないけど、横浜にギャンブル場のデカイの造っても地域の人には関係ない話だし、逆に一部の人が儲かって、アメリカの言いなりになっているのかもしれないけど、それも(誘致)ありきでやってるじゃないですか。そういうのっていいの?っていうことは非常に疑問に思います。

本当は企業や組合とかがもっとしっかりしていれば、非正規な社員の人たちは生まれなかったわけです。だから会社にとって都合がいいようにアルバイトや契約社員を作って会社の負担を減らす。つまり、大企業から減税して貧しい者から税金を奪い取っていく。消費税を10%に上げたら今度は物が売れない。そうするとますます貧困層が貧困になっていく。

映画というのは弱い者の味方にならなきゃしょうがないと私は思っていて、そういった意味では弱者の味方というか、弱者の目線で描こうよっていうのが基本というか、その魂はあります。

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