映画『GEEK BEEF BEAT』内田慈&山口まゆ、母と娘役対談インタビュー【前編】

映画『GEEK BEEF BEAT』内田慈&山口まゆ 母と娘役対談インタビュー【前編】

映画『GEEK BEEF BEAT』
内田慈さん、山口まゆさん
母と娘役対談インタビュー【前編】

演劇界の異端児・鳥皮ささみさんの初監督作GEEK BEEF BEAT』が3月21日(土)~3月27日(金)に新宿K’s cinemaで1週間限定公開されます。

本作は、主演・音楽に孤高のポエトリー・ラッパーの狐火さんを起用し、狐火さんの書き下ろし曲満載で送る、ルーズでハートフルな家族の成長物語です。

今回は狐火さん演じる春男の妻・雪子役の内田慈(うちだ ちか)さん娘・花役の山口まゆ(やまぐち まゆ)さんに本作についてたっぷりと語っていただきました。

映画『GEEK BEEF BEAT』内田慈&山口まゆ 母と娘役対談インタビュー【前編】

妻・雪子役の内田慈さん

映画『GEEK BEEF BEAT』内田慈&山口まゆ 母と娘役対談インタビュー【前編】

娘・花役の山口まゆさん

―――― 監督の表現の仕方が素直といいますか、何気ない日常をコミカルな会話や表情で描かれていて、とても受け入れ易い作品だと思いました。まずは、母・雪子役の内田さんから見た、娘・花役を演じた明るい山口さんの印象を教えてください。

内田慈さん
実は、イン初日に台風が直撃していて現場に到着が出来るかどうかで。みんな各々県外から撮影地の宮城に入ったのですが、動いてない電車もあって、ヘトヘトになって行きました。行ってみたら到着出来ていないスタッフもいて、よく分からないけどホテルの一室で「とりあえず待っていてください」と言われました。そこで(山口さんは)全然動じないんです。“まあ、何とかなりますし、時は来ます”みたいな(笑)。私が逆に落ち着かせてもらって。

山口さんが出演されていて昨夏にオンエアされたNHKドラマ「マンゴーの樹の下で」が凄く面白い作品で、内容も撮影も絶対に大変だと思ったので、撮影の話を聞いていたら、やっぱり大変さがあって。色んな現場で修羅場をくぐりぬけている方だから、山口さんとならこの先何があっても大丈夫だって安心しました。

物静かな印象も最初は持ったのですが、芯の強さがあり、少女の笑顔と大人の笑顔を持ち合わせて、クルクル変化する感じが魅力的だなって思いました。

山口まゆさん
ありがとうございます(笑)。

撮影に入る前に2、3回本読みをキャスト全員でしました。その時の迫力が凄くて、さらに出演者全員のキャラクターが濃くて、そこからスタートだったので、「みなさんに負けないように頑張ろうね」ってマネージャーさんとも話していました。

本読みの時から、身を預けられる、心強いお母さん役としていつも居て下さったので、内田さんは私の心の支えでした。実際には不安なところもあって、少人数の現場だったので、どうしたらいいのかな?ということもありましたが、内田さんが引っ張って下さって、心強かったです。

―――― そして、お二人からみた父・春男を演じた狐火さんはどのような印象でしたか?

映画『GEEK BEEF BEAT』狐火

内田慈さん
狐火さんは年齢ごとに「〇歳のリアル」というタイトルで赤裸々な作品を書いていて、イン前に楽曲を聴きました。サラリーマンとの二足の草鞋で活動されているので、中には職場の上司への悪口と公言されているものもあり(笑)、全ての働く人の核心に迫るようなことを突いていて、言葉にする力とセンスがスゴイなって。自分の思っていることを人に押し付けるわけではなく、シンプルに一撃で面白く作品に出来る。同い年なので余計に刺さりました。また、宣材写真が薄い布を被った顔がよく分からないカッコイイ写真なんです。絶対に怖い!と思っていたんですけど、本読みに来た時の狐火さんの素朴さというか優しい感じにびっくりして。怖くないし、春男君を演じる狐火さんが想像出来て、そこでこの座組は強いなって思いました。

現場に入ると鳥皮監督や森田ガンツさんがテンパっているというか、色々大変でグチャグチャしていることが多くて(笑)。そんな時に、普段は大人しい方なのですが、狐火さんが冷静にどしんと居てくださったから、スムーズに回っていったことが多かったと思います。

―――― 面白いエピソードが沢山ありそうですね(笑)

山口まゆさん:森田ガンツさんがメチャメチャ面白いです(笑)。

山口まゆさん
いっぱいありますよ。森田ガンツさんがメチャメチャ面白いです(笑)。
皆さんのキャラクターの良いところが出ているというか、無理に出している感じがなくて、狐火さんもそのままというか、私もはしゃいでいる時はあんな感じなので、割と自分の素が役に反映出来たかなと思いました。

映画『GEEK BEEF BEAT』

内田慈さん
前半が家族のシーンで、後半が工場のシーンという撮影の順番だったのですが、家族のシーンでは(工場の)出演者の森田ガンツさんが助監督兼制作部をすべてやってくださっていたんです。とにかくスタッフが少なかったので、雨が降ってきて車のガラスが濡れたら拭いてくれたり、劇用の色んなパターンの朝食を用意して、食材が足りなければガンツさんが調達してきてくださったり。本当に優しい方で、皆のためにと異常に行動が早くて、すぐに買ってきてくれるそのスピード感がもはや可笑しかったです。まだ使うかもしれないけど、とりあえず撮影をして今のカットはOKとなったら、すぐ食べちゃって。それに対して、鳥皮監督が「食べないでくださいよ!」って怒ったり(笑)。そんなやり取りで鳥皮さんと森田ガンツさんの関係も掴めましたし、座組の雰囲気も出来ていきました。

―――― 劇中、雪子の髪の毛がドンドン爆発していくようなシーンもありましたが、あれは監督の演出ですか?

内田慈さん
はい、脚本のト書きに書かれていて、そういう所は物凄くハッキリされています。ハッキリとこういう風に見せたい、こういう風に表現したいというのが監督の頭の中にあるんです。それを具体的にどうする?みたいな部分は現場に入ってから…みたいなところもあって、それを補っていたのが森田ガンツさん。

実は髪の毛は私が自分でやる可能性もあり、家から大きな針金を持参して試したりしていて、撮影に入っても美容師さんが中々決まらなくて、結果的に美容師さんが入ってくれた時は安心しました。正直それに関しては「私が全部自分で作るなら不安だぞ!」って思っていました(笑)。

映画『GEEK BEEF BEAT』内田慈

―――― 山口さんは中学生役でしたが、確かに中学生に見えました。何か意識されたポイントはあったのでしょうか?

山口まゆさん
気持ちのはけ口というか、若いからこそ(感情を)出してしまうみたいな所が中学生にはあるじゃないですか。反抗的なところが。それを分かり易くすること、プラス自分も比較的反抗期が激しい方だったので思い出しながら演じました。

怒ってオルゴールを投げつけるシーンがあるのですが、鳥皮監督はやりたいことが決まっている方なので、何十テイクも撮りました。段々私も疲労がたまっていって、「そんなに出来ないです」みたいなことを伝えて、監督は「まあ、でも一応やってください」みたいな感じで(笑)。最後はもうダメだと思って、自分の気持ちもグチャグチャしてきてしまって泣いちゃったんです。「もう、分かんない、分かんない…」ってバーッと泣いちゃったら、OKが出て、本編にもあれが使われていた…みたいな。

ちょっとイメージの違いがあってそんな撮影にはなりましたが、結果的にはそれが凄く良くて、自分の気持ちを掘り下げて掘り下げて、良い意味でグチャグチャにしてくれて出たものでした。あまり映像のお仕事でリテイクを重ねることはないので、良い経験になりました。お互いにピリピリしちゃって(笑)。疲れすぎちゃって、“もぉー!”みたいな。でも、それが良いシーンになっていて良かったです。

―――― 確かに花の突然の涙には驚きもあって、とても印象に残っています。

山口まゆさん
反抗している時って親には勝てないじゃないですか。それがある種自分の中でも悔しくて、泣きながら怒鳴り散らすみたいなことは自分も中学生1年生の時に経験していて。だから、それもリアルで良かったかなと思います。

―――― 反抗期が激しかったようには全然見えないです。

山口まゆさん
大暴れしていました(笑)。

山口まゆさん

内田慈さん
眼鏡をかけるシーンがありましたけど、あれはどういう演出だったんですか?

山口まゆさん
「とりあえずやってみて」と言われ、ずっとカットをかけてもらえませんでした(笑)。

内田慈さん
得意気になっていくのも、まゆちゃんが?

山口まゆさん
はい、全部自分で(笑)

内田慈さん
そうなんですか!(笑)

山口まゆさん
眼鏡で遊んでみてって言われて、結構長く3分くらい(カメラを)回していました。

内田慈さん
馬鹿だなーって感じがして、可愛かった(笑)。

―――― 日常会話がコミカルに描かれていますが、監督の印象や印象に残っている演出があれば教えてください。

映画『GEEK BEEF BEAT』内田慈

内田慈さん
鳥皮監督の主宰している劇団「なかないで、毒きのこちゃん」の公演を前に見たことがあったのですが、リアリティのある表現や物語とは離れた世界にいる方なのかと思っていたんです。でも今回作品をつくって、鳥皮さんはすごくまっすぐに人を見つめる方だと思いました。ちょっと変なところも沢山ありますが(笑)、なんて言うんですかね、ちゃんと人を信じられる人だと思うんです。その気持ちが芯にあるからこそ一見突飛な表現をしてもブレないのかなという感じがしました。

色んな事が両立出来る方というか、破天荒さと上品さとか、そのバランスが不思議な魅力の方だと思っています。

山口まゆさん
元々演劇をやっている方で、私は映像が中心だったので演出の違いにギャップも感じましたが、それは新鮮で楽しく出来ました。映像だとちょっとおかしいかもしれないけど、爆発したような感じでやるとか、ここは映像っぽくとか、やっていて面白いなって。本読みの時に監督はイメージが固まっているので、それにどう応えていくか葛藤はしていて、感情を出す芝居が難しいところがあって、どこまでテンションを持っていけるのか難しかったです。でも、リテイクしたりイメージを伝えてもらったりして、映画の現場の空気感を感じることが出来ましたし、やりがいもありました。ご一緒出来て凄く嬉しかったです。

―――― 監督は本作で描かれている表現を具体的な言葉で伝えて下さるのですか?それともイメージなのですか?

山口まゆさん
演劇っぽいところはあったので、大きくとか、声を張り上げてとか。感情面で寄り添うというよりは、オーバーにして欲しいとか怒りを強くとか、繊細なところというよりは客観視したところでどう見えるか、みたいなのを重視されていたように思いました。

内田慈さん
監督もシーンによっては演技してみせて下さるのですが、いつもやった後に必ず「これは一例だから」って言うんです。多分、型でそれを真似するというよりは、これくらい興奮してパニックになって欲しいとか、そういうことを伝えたいんだろうと受け取って、ニュアンスの枠組みとして捉えつつ、(監督の演出に)ついていくようにしました。
多分、日常会話のままやっているとテンポが凄く緩くなってしまうところを、ギュッとしたくて、そのテンポを上げるために言っていたのかなと思います。

―――― お父さんが校内放送で思いのたけを叫びました。それを聞いた娘・花の気持ちは複雑だったと思いますが、言葉で表現するとどのような気持ちで放送を聞かれていたのでしょうか?

映画『GEEK BEEF BEAT』山口まゆ

山口まゆさん
実際、あのシーンを撮った時は流してもらったわけではなくて、聞いている風でした。本読みでちょっと聞いて、曲ももらっていたのでそれも聞いていましたが、ちゃんと全部聞いたのは本編でした。狐火さんが声を発している姿は本編が初めてで、それこそラップをしている姿が想像つかないくらい、いつもおっとりしている方なのでそのギャップも凄い感じました。

改めて本編でちゃんと聞いて、そうですね、動かされたというか。やっぱり言葉で伝えてもらうのが一番早いと思うんです。“花”は言葉に詰まっているし、一番言葉が出せない時期だと思うので。それこそ車の中のシーンでお母さんとのやり取りでも、後ろをわざと見ないとか。変に正面向かって言われるよりも、放送で別の言葉で言われたり、お母さんみたいに「大丈夫だよ」って言ってくれたり、そういうのが1番響くんじゃないかなというのはやっていても感じましたし、そこは何となく素直に受け入れられるんです。それはその年齢だからこそ感じることなのかなとすごく思って。本読みで何回か聞いている時もやっぱり感動しますし、なんだろうな。「向き合いたいというのは分かっているんだけど、どうしても向き合えないんだ、ゴメン」みたいなのをすごく強く感じました。

―――― 心の声を聞けたということですね。

映画『GEEK BEEF BEAT』山口まゆ

山口まゆさん
そうですね、それがお父さんとしても寄り添ってくれているんだというところで、本人も嬉しかったんじゃないかな、と。嬉しかっただろうし、“全部預けていい”っていう風に思ったからこそだったんじゃないかと感じました。

―――― 不器用でも、何とか一生懸命娘のために頑張っている父の姿はどういう形であれ嬉しいんだろうなってことが伝わってきました。

山口まゆさん
嬉しいですね、やっぱり親なので。ラップにも入っていましたけど、昔、楽しいことがあって、今ここに生きていて、反抗期で少し離れているけど、やっぱり親だからこそ好きなんだと思います。私も今、年齢を重ねることによって見えてくるところもあると思うんですけど、実際その時はただただ嬉しかったんじゃないかなと思います。

―――― 子どもたちの世界に口出しをして欲しくない気持ちもあるけど、自分たちだけでは解決出来ないですし…

山口まゆさん
“構って欲しい”というのはありますね、きっと。

―――― 一方で妻の「何で起こしてくれなかったの!」というのは旦那への甘えだと思うのですが…

内田慈さん
そうですね(笑)

―――― それが、あの放送の後は旦那さんを見直して、その後の食卓の雰囲気は夫婦の気持ちが元に戻ったように受け止めました。その変化のきっかけは妻が改めて抱いた夫への「恋」なのかなと思ったんですけど、どういう変化で妻の気持ちは変わるものなのでしょうか?

内田慈さん
「恋」というのはLOVEのですか?(笑)

―――― はい(笑)、全国の旦那向けに!是非、内田さんのお考えを教えてください!!

内田慈さん
大事なことですものね(笑)

あの夫婦に関しては、どちらも相当不器用だと捉えていて、多分普段から口はあんな感じですが、そんなに深い意味はないように感じているんです。それが習慣化していることで濃くはなってしまっていると思うのですが、その甘えがさらに甘えになって、“別にもういいでしょ、この態度を改めなくても”って彼女の方がなっていたり。また、そうさせてくれているから長続きもしているんだと思うんです。“バランスの取れる場所”が長年の関係の中でそこになっちゃっただけの気がしていて。だから最悪な夫から評価がグンと上がったというよりも、やっぱりこの人で良かったなって思い出させてくれた出来事だったのかなと。

日常の中ではその瞬間を忘れてしまったりすると思うんです。“花”に対してもそうですけど、大事なことより表面のことの方を見てしまったり、お互いの態度の連続でこの人はこういう人だと決めつけてしまったり、そこから抜け出せないのが日常だと思うんです。でも、その日常の有難さだったり、本当の真意は何だったの?と気付かされたシーンではあったのかなと思います。
だから、“ちょっといい奴じゃん!”と思って春男にトーストを焼いたんですけど、結局焦げ焦げなんですね。家事が出来るようになっていくわけではないし、また彼に負担が生じて、雪子はそれに甘んじて繰り返すんだろうって思います(笑)。

映画『GEEK BEEF BEAT』内田慈

―――― 日常が何らかの“バランスの取れる場所”に行きついていき、それが惰性で続いていくというのはすごく面白い見方ですね。脱ぎ捨てた靴下への文句とかもそうなんでしょうね。

内田慈さん
あれは何なんですかね!?
例えば稽古場とかでも男の人たちと半ば生活をするみたいな時もあるし、演劇に限らず撮影の時もそうか、男の人たちの雑魚寝を目撃する時…結構やっぱりキタナ(笑)、、散らかってるなと思う時があるんですが(笑)。靴下を丸めてしまうというのは男性の習性なんでしょうかね(笑)。

後編へ続く

3月21日(土)~3月27日(金)1週間限定公開!!
新宿K’s cinema

予告動画

あらすじ・ストーリー

東野春男36歳、宮城の片田舎で妻の雪子と中学生になる娘の花との3人暮らし。
口下手なためか家でも職場でも邪険に扱われている春男の唯一の楽しみは『ラップ』現実では言えないことは脳内でラップにして鬱憤を晴らし続ける春男のありふれた(?)毎日。現実で飛び交う罵声罵倒!加速し続ける脳内ラップ!迫り来る家族の危機!
笑いあり、涙あり、ミュージカルあり?!ラップで(きっと)解決する(かもしれない)家族の物語が幕を開く!!!

キャスト

狐火、山口まゆ内田慈、蒼波純、亀岡孝洋、植田祥平、久我真希人、古木将也、森田ガンツ

■監督・脚本:鳥皮ささみ

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