
和田瞳さんインタビュー!
映画『悲しき天使』
美しき遊女と遊郭に流れ着いた青年の悲しき純愛を描く映画『悲しき天使』が8/7(金)より、シネマート新宿にて2週間限定レイトショーです。
時代から取り残されたような大正建築の遊郭が立ち並ぶ歓楽街を舞台に、大きな借金を抱えた無職の男・茂(役:水野勝さん)はその遊郭で働く一美という美しい遊女が出会い、地獄を彷徨うような恋に堕ちて行く…。
今回は、遊女・一美役で初ヌード、初濡れ場を厭わぬ壮絶な演技を披露されたタレントで女優の和田瞳(わだ ひとみ)さんに、本作から感じたことや撮影現場での様々なエピソードなど、たっぷりとお話を伺いました。

遊女・一美役の和田瞳さん
謎のオファーにも即答!
―――― 物悲しさや人間が抱えている矛盾みたいなところが作品から醸し出されていて、和田さんの美しさも相まって非常にいい映画でした。
今回は初めてづくしの作品ということですが、オファーを受けた時のお気持ちや経緯についてお聞かせください。
和田瞳さん
オファーは謎のオファーでした。
昨年の夏に森岡監督が脚本・演出をされた舞台「夕凪の街 桜の国」(原作:こうの史代)に出演させていただきました。稽古の初日に「和田瞳、来い」と呼び出しを受けました。その日、監督に対して少し口ごたえというか、分からなかった部分があったので「ここはこうですか?」と聞いたのですが、その場でも少し怒られていたので、“これは怒られる…もうこの舞台で干されるかもしれない…”と思ったんです。
行ってみたら「主役、やってみないか?」って突然言われて、怒られない驚きと、突然、訳分からないこと言い始めたぞって。“主演??”って思いながら、即答で「はい!」って。よく分からないまま「はい!」なんて言ったのは初めてでしたが、その時は戦争をテーマにした舞台と向き合っていたので(『悲しき天使』の)台本が届いた後もあえて読まないようにしていました。
公演が終わってからすぐに台本を読んで、大阪に行ってタクシーの中から「飛田新地」を見させていただきました。私と同世代くらいの子がニコニコして体を売っている光景を初めて目の当たりにして、そこにそういう世界があることを知らなかったので、ちょっと言葉にならない思いを2~3時間抱えたまま、“私はどうやって演じたらいいのかな…”って。
役作りが物凄く難しくて、知り合いの男性に「飛田新地」へ遊びに行ったことがあるかを片っ端から聞きました。ちょっと変な人みたいなですよね(笑)。経験アリの人には手順はどうだったのかとか、最初どうやって入って、どういう場所に案内されて、最後にはペロペロキャンディーをもらうんだよ、とか教えてもらいました。そうすると、他のお店から声をかけられないんだよ、とか。“そうなんだぁ…”っていう驚きの連続をもとに自分の中で何となく落とし込んで作品に臨みました。
―――― 戸惑いを感じたところなどはありましたか?
和田瞳さん
やっぱり自分が経験してないこと、聞いたことしかないものを演じる不安がありました。だからこそ一美の心理、中身の部分だけを作って、後の表現に関しては演出を付けてくださる部分もあるので、一美がどういう子なのかをしっかり創りました。だから、本番に挑む時はもう怖いものはなかったです。
―――― 監督以外に怖いものはなかった、ということですね(笑)。
和田瞳さん
でも、映画では凄い優しい監督でした。舞台とは全然違うので、二重人格なのかな?って(笑)舞台の時は怒鳴り散らしていて、怖いから私は隠れるんですけど、映画の時は凄く優しくて、スタッフさんに対しても凄く優しい方でした。
―――― 舞台の時の厳しさはひょっとすると間違いが許されない、所謂“生もの”だからなのでしょうか?
和田瞳さん
「気を引き締めろ」っていう意味で怒ってくださってる部分も多いと思います。
ただ、当たり前の事で怒ってくださっていることが多くて、挨拶が出来ない人には「挨拶しろ!」って怒るし、芸能とはこういうものだぞ!って教えて下さっている。古いと言われるやり方なのかもしれないけど、そういう素敵な監督さんなんだと思いました。
茂(役:水野勝)への気持ち
―――― 味のある作品になっているので、きっと“道具としての叱り”みたいなものとして使い分けていらっしゃるんですね。茂(しげる)役の水野勝さんとはどのような会話をされましたか?
和田瞳さん
最初にお会いしたのが9月上旬の顔合わせ兼読み合わせの時でした。その次にお会いするのはクランクインだったので、本当にお話をする時間が限られていました。その中で、これはどうなんだろう?とか、2人だけの表には出ないような裏設定を細かく決めました。
あとは、「現場で2人の雰囲気でお芝居をしましょう、そこを楽しもうね」って。現場で話していたことは結構他愛のない事でした。私と水野さんだけの時に、1番似合う髪の「ベスト・オブ・水野勝」を探してたり(笑)。
もちろん演技についても、「次のシーンを早口で台詞だけ合わせてみよう」とか。「言い辛いなら監督に伝えてみよう」とか。
あとは撮影が終わった後に皆でいつも軽く飲んでいました。そもそも、宿泊場所がそのまま撮影場所だったので、寝て起きてたら撮影が出来るみたいな、本当に移動がなく効率良く撮れる現場だったんです。だから、私がお部屋に行って「このシーンこうしたいんだけどいい?」って聞いて「いいよ、じゃあ、おやすみ」みたいな。皆さんとコミュニケーションをとるには凄くいい環境でした。
―――― 「飛田新地」は撮影が難しいと思うですが、どこか違う場所で撮影されたのですか?
和田瞳さん
茨城の旅館です。
あれはスタッフの皆さんがCGで作ってくださった賜物です。もう、ビックリしました。完成した作品を観た時に「えっ、スゴイことになってる!」って。実際は道にポツンとある旅館をあそこまで!(笑)
―――― 作品を観ていると会話や言葉による深みよりも、表情や周りの人が騒いだり行動することで本質を伝えている作品だと感じたので、確かに裏設定みたいなもので気持ちを持っていくことが大事だったんでしょうね。
和田瞳さん
私のやり方としてなのですが、この日は出会ってから何日目とか、今は茂に対する気持ちが何%とか、そこまで決めていました。少ないシーンの中で気持ちのボルテージを上げていかなければいけなかったので、そこは凄く自分の中でこだわりました。
―――― 撮影は順撮りで撮影されてたんですか?
和田瞳さん
違いました。最初にクラブのシーンを全部東京で撮影しました。
その次からは全部旅館なんですけど、1日だけ壮絶な日がありました。うどんを食べながら拗(す)ねるシーンを撮り、濡れ場のシーンを3回、そして刺されるシーン。それが1日(での撮影)だったんです。メチャクチャヘビーで、その日は結構辛かったです。私だけがほとんどずっと撮影で、大変でした。
―――― しかも、主人公の悲哀というか、情念というか、それが中々抜けない辛さがあるのではないでしょうか?
和田瞳さん
結構、一美は私の中にいます。
でも、私は役作りで役ごとに香水を毎回決めるようにしているんです。その匂いを嗅いだらそのモードになれるように設定していて、今日は取材なのでそれをつけて来ました。一美は甘い香りのイメージだったので、ちょっとムスクっぽいのを一美の時はしています。
―――― そうやって一美を思い出す時と、ご自分になる時を使い分けているんですね。いやいや、やはり俳優さんは大変ですね。
和田瞳さん
赤がイメージカラーだったので、(普段の生活で)赤い服を手に取ってしまうと「あっ、今一美だったかなぁ」みたいな時はあります(笑)。
―――― 先程、茂に対しての気持ちが何%という話がありましたけど、嫉妬のシーンや守ってもらうシーン、茂が自身のことを打ち明けてくれるシーンなど色々なシーンがありました。特に“これが一番”というシーンはありましたか?
和田瞳さん
やっぱり一番は濡れ場に持っていきたかったので、そこに向けて100%になるように、5%とか10%、ちょっとずつ上げて100%に持っていくように調整しました。
本当に心の中を作っていた分、濡れ場は「よしっ、濡れ場だ」って感じじゃなく、自然に入れるように作れたので、自然に出来たと思います。皆さんの空気も良かったので、緊張もせず楽しめました。
空調を止めていたので、暑かっただけが思い出です。9月末だったのでメチャクチャ暑かったです。所々、よく観ると皆さん汗をかいてるシーンがあるんです。たぶん本当に暑くてそうなっています(笑)。
―――― 自然に演技が出来たのは、スタッフや演者の皆さんが空気を作ってくださったんですね。
和田瞳さん
本当にその通りです。
東京の時はお弁当だったんですけど、茨城に入ったらお昼ご飯や夜ご飯は全部作ってくださって。キャストやスタッフさんが作ってくださる手料理だから気持ちも温かくなりました。
うどんのシーンの日は、お昼もうどんだったので私はメッチャうどん食べたんですけど、そういうのも含めて大切な思い出です。
―――― 最初の出会いのシーンで茂に運転手をお願いするシーンから最後のシーンまで、とても自然に流れているような感じがしました。だからこそ監督が描ききろうとしたストーリー、気持ちが浮き出ていたような感じがします。
和田瞳さん
皆さんと相談をしたり、コミュニケーションがあったりしたからこそやり易かったシーンが多いので、本当に皆さんのお陰で出来た作品だと思っています。
―――― 川上奈々美さん演じる小百合と重松隆志さん演じる中沢。あの2人のシーンも物語の中の恋愛とは違った世界感を描き出しています。
和田瞳さん
あの二人のシーンも長回しだったので、監督からは「一美と茂は、中沢と小百合に負けるなよ。いい場面を二人に取られるなよ」みたいな事を言われながら臨んでいました。
青木と春子の関係もいいじゃないですか。本当にどこも大事で、どこが一番ではなく、全員が全力で臨んだからこそ120%、150%の作品になっていて、監督は色んな計算をされているんだろうなぁ思います。
柴田明良「前貼り事件」を暴露!
―――― 他のキャストの皆さんについて色々とお聞きしたいのですが、柴田明良さん!演技が上手なので、まさに本物にしか見えませんでした。
和田瞳さん
柴田さんのことは、撮影のあと5時間くらい本気で嫌いになりました(笑)。
「私、柴田さんのこと嫌いですから!」って最後の飲み会で言ったくらい。でも、5時間ぐらい経ったら戻りましたけど。
私が嫌がってるシーンがあるじゃないですか。「痛い!」とか言ってるんですけど、ガッツリと来るから本当に痛いんですよ。声が枯れそうになるぐらい叫びました。
それも滑稽なところがあって、一美が目隠しと縛られた状態だったじゃないですか。カットがかかる度に、皆さんがそれ(目隠し)を取りに来てくださるんです。開放しに来てくださって、扇いで下さりながら「大丈夫?そろそろ行くよ」って。そうすると私が「縛ってください!」ってお願いするんです。「縛ってください!」って(私が)ドMみたいじゃないですか(笑)。
お富役の大迫可菜実さんが手を担当、水野くんが目隠しを担当してくださって、そこもシュールでした。あんなシーンでしたけど合間凄い笑ってました。「手痛くない?」って言われながら(笑)。
―――― 柴田さんのインパクトは本当に…。
和田瞳さん
眉毛も本当に剃ってくるんです(爆笑)。柴田さんはマジで面白いので…。
「前貼り事件」があったんです!どうしてもこれは話したかった!!(爆笑)
実は劇中に何回か濡れ場のシーンがあるのですが、柴田さんが他の女の子との濡れ場シーンを演じているんです。その時は、後ろ姿だけで入れ墨なしで。その撮影が茨城の初日で、2日目が私と柴田さんの濡れ場だったんですけど、メイクルームに使用済の前貼りを外して置いてあるんです。「えっ!!」って思って、前貼りなんか着け直せばいいのに、再利用しようと(爆笑)。
もう本当に耐えられなくて「何これ!!」みたいな。メイクルームで騒ぎになっちゃって、柴田さんは「別にガーゼをしてたから、いいでしょ?」みたいな。みんな嫌だから捨てたら、(柴田さんが)ゴミ箱から救出しだして(爆笑)。
メチャクチャ癖の強い面白い方が集まっていたので、こんなに重いお話なのに現場ではメチャクチャ笑っていました。楽しかったです。
―――― 男としてはカッコいいなって思うところがあるんですよね。あの甲高い怒声と鋭い目つきで「どやぁぁぁ!」みたいな(笑)。
また、ストーリーはテーマを深く掘り下げています。人間は本来平等に生まれてきたはずなのに、社会的には弱者になったりと、そこが物悲しかったりします。
そういう意味で、この作品は様々な人間関係や置かれた状況を描くことで、こうした人間の世界を凝縮して描いているようにも見受けましたが、どのように受け止められましたか?
和田瞳さん
本で読んだ時と皆さんが演じた時は全く違うシーンになるんです。
何回も台本を読んで皆さんの台詞も勿論知っていたのに、モニター越しに皆さんのお芝居を観させていただいた時に、知らないうちに涙がポロッと出てくるような…。やっぱり表現する人によってこんなにも台本が変わるんだって身に染みて分かりました。
逆に、私が小百合をやったらどうなるのだろう?とか、私が先生をやったらどうなるのかな?っていうのもちょっと考えさせられました。
―――― 本を読んで持っていたイメージと、実際の作品で一番違いを感じた部分はどのシーンでしょうか?
和田瞳さん
赤羽君が演じている生徒役の青木要次ですかね。
障害を抱えている役ですけど、文面ではあまり障害について分からない。だから、どう演じるのかも自由な部分があり、赤羽さんの役作りには凄く感動しました。荷物を置く時は人に置いてもらうのではなく、それを押し退けて自分で置きたい。なぜなら、自分のスペースを確保したいから、とか。そういう細かいところまでお芝居をしていたのが一番出ていて、赤羽君と青木に一番差を感じました。赤羽君自身は普段は凄く面白い人なので。
体型も役作りで10キロ近く痩せて欲しいと監督からオーダーがあったみたいで、それも大変だったそうです。
―――― 皆さんの本気度が作品から伝わってきました。R指定の作品ではありつつも、ストーリー性、作品の深みが感じられたので絶賛したい作品です。
和田瞳さん
出演の告知を出した時に、「濡れ場」をマスコミの皆さんが書くじゃないですか。「濡れ場をやるんだ。観に行けないな…」とか色んな反応があるんです。
でも、予告編を観た瞬間に「観に行きたい!」という人が凄く増えたんです。予告編から「濡れ場」だけではない何かを感じてもらえたことが凄く嬉しかったですし、「濡れ場」も「純愛の濡れ場」だったりするので、女の子でも観られるような作品になっていると感じています。だからそこに囚われず、物語を楽しみに観に来てほしいです。
―――― 飛田新地の現状は分かりませんが、遊郭みたいな場所が置かれている現況が、決してこの作品と同じではないけれども、全く違うわけでもないんだろうなとも感じます。
和田瞳さん
私達もエンターテインメントとして、お金を払っていただき会いに来て下さる。遊郭の女の子たちもお金を払ってもらい、サービスを提供している。なので、根本は一緒だなっていう風に思います。
仕事も半端な気持ちでは出来ないし、皆さんが色々なものを背負ってやっているから、どんな仕事であれ働くことは凄いことだなって、この映画を通じて身に染みて思いました。
和田瞳のマイブーム!
―――― 映画の話題から離れて、和田さんご本人への質問なのですが、マイブームというか、いつもどんなことを楽しんでいらっしゃいますか?
和田瞳さん
私は仕事が大好きで、仕事のこと考えるのが好きなんですけど、温泉ソムリエの資格を持っていて温泉に行くのが好きですし、御朱印を集めるのも好きです。旅行が好きなのでそういうのが付随してついてきて、少しでも休みがあればどこかに行きたいと思うぐらいアクティブです。家でゴロゴロとかはしないです。
―――― イチオシの温泉を教えていただけませんか?
和田瞳さん
秘境温泉の尻焼温泉(群馬県吾妻郡中之条町)が凄いんです!
無料で入れるんですけど、川の中に温泉があるみたいな感じで皆さん裸だったり。芸能で知り合った方に教えてもらったんですけど、メチャクチャ良かったです。ちょっと遠いですが、ちょうどスノボの帰りに寄って、満月を見ながら入って幸せでした(笑)。
―――― ファッションの好みはいかがですか?
和田瞳さん
大好きです!!
色んな種類の洋服が家にあります。デニムにTシャツもあれば、ちょっと女の子っぽい可愛い物もあれば、ちょっとヤンキーっぽい物もあれば。役に合わせて私服を変えたりもしているので、次はちょっと強い役なので最近の私服は黒が増えています。
―――― 最後に映画ファンへのメッセージをお願いします。
和田瞳さん
「濡れ場」に囚われず物語を楽しんでいただきたいですし、どんどんザワザワして欲しいです。私の自信作なので、是非沢山の方に観ていただいて色々な劇場に広がって欲しいです。是非、観てください!
映画『悲しき天使』作品情報
美しき遊女と遊郭に流れ着いた青年の悲しき純愛を過激に描く!
キャスト
和田 瞳 水野 勝
川上奈々美 重松隆志 森田亜紀 円谷優希 山田奈保 赤羽一馬
酒井健太郎 那波隆史 柴田明良
お宮の松(友情出演)/中西良太
三浦浩一 木下ほうか
脚本・監督 森岡利行
原作:山之内幸夫
配給:キングレコード ブラウニー
配給協力:太秦
2020 年/日本/91 分/カラー/ステレオ
8/7(金)より、シネマート新宿にて2週間限定レイトショー!
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