
映画『あなたにふさわしい』
宝隼也監督【インタビュー】
避暑地を舞台とした大人の恋愛映画『あなたにふさわしい』は、2つの夫婦関係を軸に「ふさわしさ」や「名前」を巡る群像劇です。今回は6月12日(金)よりアップリンク吉祥寺ほか全国順次公開を控える本作について、宝隼也監督にお話を伺いました。
『カメラを止めるな!』では主題歌を歌唱した山本真由美さん演じる(飯塚)美希の予測できない行動に翻弄されながらも、ラストに男女が辿り着く結末は…。
きっかけはバカンス映画構想
―――― 2組の既知の夫婦が別荘をシェアし、その環境下で美希を中心に4人(もしくは5人)の状況が刻々と変化していきます。この設定については、ひょっとして宝監督の何らかの経験から生まれたものなのでしょうか?または、脚本の高橋知由さんの構想なのでしょうか。お2人の役割分担も含めて、物語誕生の経緯をお聞かせください。

宝隼也監督
宝隼也監督
はじめは男女複数人でどこかに出かけ何かが起こるという、バカンス映画を作りたいと思っていました。当時よく観ていた作品群の影響が大きいです。
それを高橋さんが脚本に起こしてくれています。やりとりとしては、毎稿送ってもらったものを、メールや電話でやりとりし、最後はファミレスにPCを持ち込み2人で1日籠もって、脚本頭から打ち合わせていき作りました。映画に出てくる別荘に行き、そこで見たもの、話したことも脚本に入っています。内容について、特に自身の経験が入っているわけではありません。
山本真由美&橋本一郎キャスティングの決め手は?
―――― 山本さんは、決して派手ではないものの大胆な行動をする美希役です。対する橋本一郎さんは、美希の気持ちをスルーしてきた夫役。失礼な言い方ですが、ご本人達もこういう人なのかな?と思わせる程のなりきりぶりだと思いました。キャスティングの決め手、監督が感じている山本さん、橋本さんの魅力についてお聞かせください。
宝隼也監督
山本さんにお願いしたのは、声が決め手になりました。落語やラジオ、歌ったりとお芝居以外もされる方ですが、最も魅力的なのは声では?と思います。耳に残る声という印象があります。美希は劇中に出てくる手紙をナレーションとして読むシーンがあるので、声を重視してキャストを探しました。
橋本さんは、雰囲気が決め手になりました。その場にどっしり構えて、ブレがなさそうな印象を与えられる俳優を探していました。由則は信念を強く持った人物なので、それが雰囲気からも伝わるような方がいいと思っていました。実際のお二人は役とは全く違う方々だなと思っています。
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―――― 島侑子さんが「こんな刺激的な人生は普通無いです。完璧です。」とコメントされていて、この展開を楽しんでいるようなところがとても印象的です。
撮影現場では、女性陣が生き生きと演じ、男性陣は悩みながら演じていたのかな?なんて想像もするのですが、俳優陣の様子も含め、撮影で印象に残っているエピソードがあったら教えてください。
宝隼也監督
撮影で使用した別荘は宿泊も兼ねて使用しました。不思議と撮影が進むにつれて、建物に俳優陣が馴染んでいく印象を受けました。定住している設定ではないので、馴染みすぎるのも問題なのですが、いい塩梅で「ちゃんとそこにいるように見える」と感じていました。
ロケ地に宿泊していたので撮影時間以外も映画のことを話したり、リハーサルもできましたし、現場の雰囲気は作品の内容に反して穏やかだったと思います。
―――― また、演出をする上で特に監督からお願いした点があればお聞かせいただけますか?
宝隼也監督
俳優の芝居上大事な導線は決めるのですが、所謂バミリはあまり貼っていません。なんとなくあのあたりで何かをするという目処をつけ、俳優とカメラが一緒に動くように進めました。
また、スタッフ側で事前にカット割りを作ってそれを元に演じてもらったシーンと、逆に俳優に動きを決めてもらってそれを元に撮影を進めたシーンとがあります。シーンの内容、全体の構成をみて、どの方法を取るかを決めました。
―――― 美希は「あなたにふさわしくない」と一度は本気で思っていたはずなのに、その気持ちは会話や新しい出会い、そして謝罪などによって変わっていきます。人の感情は固定的に定められるものではなく流動的で、振り回される方は困るけど、“感情ってそういうもの”といった受け止め方をしました。
私たち人間の感情(の変化)について、どのような特性をもっているかなど、監督のお考えをお聞かせください。
宝隼也監督
受け止めていただいたこととほぼ同じことを思っています。人の感情はあまりにも揺れ動き、その様をうまく言葉にできないと感じています。それが映画を作る中では厄介で、きちっと何かの言葉を借りて共有していいものなのか?と感じます。
今作では俳優に「こうやって欲しい」といった注文はほぼしていないと思います。一旦、導線などの動きを決めつつ、段取りで俳優の演技を見て、除いて欲しい要素を話していきました。僕の恩師は、「感情(勘定)は後払い」とよく言っていましたが、今作を通してそれが少しだけ分かったような気もします。
タイトル「あなたにふさわしい」に迫る
―――― 「あなたにふさわしい(仮)」という仮題から、よりふさわしいタイトル探しをした結果、改めてこの仮題に決まったとHPでコメントされています。「あなた」と「君」の違い、「ふさわしい」ってどういうこと?シンプルな問いの様でいて、非常に想像を掻き立てられます。
特に「ふさわ(相応)しい」という言葉は「釣り合っている」といった意味ですが、そもそも「人」と「人」とが釣り合うとはどういう状態をいうのか?とても観念的な気がします。この言葉の持つ意味、または“力”について、本来、監督はどのように考えていますか?
私はふさわしくないということへの「劣等感」とふさわしくなりたいと思う「エネルギー」の双方を感じました。
宝隼也監督
「ふさわしい」という言葉は大方、ネガティブには聞こえない言葉だと思えます。ぴったり、お似合い、なんて言葉もありますが、ふさわしいという言葉が与えられる事は、品も感じます。ですが、本質がよくわからないところもありますが魅力的なイメージもあって、だからこそふさわしくなりたいと思うのかもしれません。引力のある言葉だとは思います。質問文の中の「エネルギー」の方が僕は強く感じています。
また、もしかしたら人と人の関係性で言うなら、ふさわしいとかふさわしくないとかそう言ったことなんて考える隙もないような時を幸福と呼べるのかなとも思います。釣りあっているという言葉を借りるなら、釣り合っているからこそ、小さな歪みに気づけないと思えます。場合によってはふさわしいという言葉が与えられたことが重荷にもなりえます。
ふさわしいという言葉は見た目に反してとても脆いものなのかもしれないと映画を通して感じました。
―――― 同様に「後悔を抱えながら」生きている訳あり野鳥カメラマン・結城孝志の存在もこの物語の中でポイントになっていると思います。最初にお店で荒れていた時と美希と接している時はまるで別人の孝志ですが、役柄・キャラクターについて孝志を演じる鶏冠井さんとはどんな会話をされたのでしょうか?
宝隼也監督
孝志については前日談を書きました。たぶん、僕と鶏冠井さんしか読んでいません。シナリオだけでは孝志のキャラクターが掴めないと感じたからです。
映画の中では名前を呼ばれることもなく、出てくる場所も限定されるように描いている人物です。過去のパートナーがどんな人だったのかを話したと思います。彼が過去を語るシーンは重要でしたので、現場では何度もテイクを重ねました。
―――― ロケ地は監督の出身地である長野県で行われたのでしょうか。ひょっとして、監督のお気に入りの場所があるのでしょうか?
宝隼也監督
ロケ地は冒頭シーン以外、軽井沢です。元々、他の避暑地から探していましたが、別荘のロケ場所が見つけきれず軽井沢になりました。特にお気に入りの場所があるわけではないのですが、過去に何度も行ったことのある場所でしたので、多少土地勘があります。
ロケハンをして改めて思いましたが、軽井沢は景観が切り取りやすい街だと思いました。
―――― 監督ご自身は、大学で映像を学ばれていらっしゃったとのことですが、映画とのそもそもの出会いやそこから映画監督を志したきっかけを教えていただけますか?
宝隼也監督
僕は高校では映画と関係のない勉強をしていましたがあまり熱心になれず、何か別の事をしたいと思い映画系の大学に行きました。もともと何か作ることは好きでした。映画を沢山観ているわけではなかったので大学からだんだん観始めたといえます。
学校に行き始めてからは、周りの友人達と8mm、16mm、デジタルと色々なカメラで短い映画を作りました。所属した研究室も何をしてもいいというような雰囲気で作りやすい環境でした。最初は自分でカメラを回して[撮る]ことが好きだったのですが、そこからだんだんと[作る]ことが好きになりました。それを続けているといった流れになります。
バック・トゥ・ザ・フューチャー、裸の島、デス・プルーフの体験
―――― また、本作に影響を及ぼしている作品や映画人、男女の関係を描いている作品で(に限らずとも)監督が好きな映画があればお聞かせいただけますか?
宝隼也監督
今まで映画を観てきた中で、観た時の自身の状況や心境などが大きいのでしょうがとても印象に残っている映画がいくつかあります。その映画自体の素晴らしさや内容を隅々まで話せるわけではないのですが、映画を観た体験として印象に残っているのが、「バック・トゥ・ザ・フューチャー PART3」(ロバート・ゼメキス監督、1990年)、「裸の島
」(新藤兼人監督、1960年)、「デス・プルーフ in グラインドハウス
」(クエンティン・タランティーノ監督、2007年)、「ナンバー・ゼロ」(ジャン・ユスターシュ監督、1971年)です。
映画ファンへメッセージ
―――― 最後に、本作の見所も含めて映画ファンへのメッセージをお願いします。
宝隼也監督
本作を観ていただいた方からは出演者のことを聞かれることが多い気がします。どうやって芝居を撮影すればいいのかを、常に考え悩んだ撮影期間でしたが、試行錯誤した結果が映画として残ったと思います。なにより、映画を楽しんでほしいと思っています。
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映画『あなたにふさわしい』予告動画
映画『あなたにふさわしい』作品情報
キャスト
山本真由美 橋本一郎 島侑子 中村有
鶏冠井孝介 紺野ふくた
監督・スタッフ
監督:宝隼也
脚本:高橋知由
配給・宣伝:アルミード
© Shunya Takara 2018 / 日本 / カラー / 83分 / 16:9 / stereo
www.anafusa.com
『あなたにふさわしい』アップリンク吉祥寺は本日6/25(木)までの上映。上映は20:35より。最終日、監督・キャストが登壇されます!