別所哲也代表インタビュー【前編】ショートショート フィルムフェスティバル&アジア

ショートショート フィルムフェスティバル & アジア 別所哲也

別所哲也代表インタビュー
【前編】
ショートショート フィルムフェスティバル & アジア

米国アカデミー賞公認・アジア最大級の国際短編映画祭、ショートショート フィルムフェスティバル & アジア(略称:SSFF & ASIA)は、1999年に初めてショートフィルムの映画祭を原宿でスタートしました。以来、毎年6月4日前後に開催しているSSFF & ASIA も今年は新型コロナウイルスの感染拡大防止を鑑み秋以降に延期中です。

今回は本映画祭の誕生の裏話から、未曾有のパンデミックにより大きく変化しようとしている映像制作や映画祭の今後について、同フェスティバル代表で俳優としても国内外で活躍されている別所哲也さんにお話を伺いました。

はじまりは10本のショートフィルム

―――― 別所さんがアメリカでショートフィルムに出会い、その体験を日本に持ち込んでいただいたわけですが、当時を振り返っていただきながら映画祭創設の経緯をお聞かせください。

別所哲也さん
つい先日のような気もするんですけど、映画祭をスタートしたのは世紀末の1999年、きっかけはさらに2年前の1997年まで遡ります。

出会いは米国ロサンゼルス州のカルバー・シティ。その地にソニー・ピクチャーズのスタジオがあり、10本のショートフィルムを観たんです。随分前にアメリカでハリウッドデビューをしていて、日本とアメリカを行ったり来たりしている中で、友人の友人がショートフィルムの映画監督をしていて「スクリーニング(ラインアップ発表会)に参加してみてくれないか?」って。正直な所、実は渋々行ったんですけど、行ってみたら10本のショートフィルムがどれも面白くて、“映画は長さじゃない”って思い知らされ、その瞬間からショートフィルムの虜になりました。

しかも、日本では当時、短編映画を観る場所が皆無だったので、どうしてないんだろう?という疑問もわきました。
その夜、集まっていた友人や映画監督たちと食事をして短編映画の話をしていくと、実は現地では沢山の方々がショートフィルムを作っていて、大学のフィルムスクールの作品もあるし、ハリウッドを目指す人は自分のパスポート代わりに短編映画を作っていると知ったんです。

翌日「他にショートフィルムが観られるところがないか?」と尋ねたら、UCLA(カリフォルニア大学)とかUSC(南カリフォルニア大学)の大学にはアーカイブがあると。すぐに予約を取ってUSCのビデオライブラリに行き、1日中ショートフィルムを観ていました。

―――― スゴイ行動力です!別所さんが感じられたショートフィルムの衝撃がこちらまで伝わってまいります。

別所哲也さん
観れば観るほど、実験的というよりもエンターテインメント・コンテンツとして面白いものが沢山あり、その中には『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のゼメキス監督のショートフィルムとか、後にこの映画祭を応援してくれることになるジョージ・ルーカス監督のショートフィルムが宝物のように存在していて、それを観た時にこういう映画体験を日本でも出来ないかな?って考えました。

ただ、その時はすぐに映画祭なんて思いつかなくて、日本に戻ってこんな話を皆さんにするんですけど、当時は30代前半でしたし、誰も取り合ってくれなくて。短編映画は8ミリ映画とか学生が作る実験的映画のように捉えられていたので。

僕がアメリカで観たエンターテインメント性の高いショートフィルムが中々伝わらなくて悶々としていたんですけど、実はその翌年訪れたサンダンス映画祭で光が射しました。ロバート・レッドフォード(『明日に向って撃て!』『普通の人々』)が始めた映画祭で、1998年1月のことです。当時から有名だったスパイク・リー監督が普通に雪の中の街を歩いてたり、当時はまだ無名だったベン・アフレックが僕の隣でコーヒーを飲んでいたり、その時にこういうフラットで有名・無名関係ない映画の祭りっていいな、って思ったんです。しかも、サンダンス映画祭は長編映画の前に必ず短編映画を上映してまして、ユタ州のサンダンスで再びショートフィルムを沢山観ることを体験出来て、短編映画、ショートフィルムの祭りをやろうと決心したんです。

そして、98年から1年かけて試行錯誤しながら、ようやく翌年99年6月4日に原宿の表参道で産声を上げました。

ショートショート フィルムフェスティバル & アジア

ショートフィルムの魅力とは?

―――― 「ブリリア ショートショートシアター オンライン」で短編を観させてもらいましたが、短い時間に込められたストーリーが想像以上に盛り沢山で、しかも完璧といったらいいのでしょうか。短いのにこんなに色んな感情を受け取れるんだと思って面白かったです。言葉で言い表すのは難しいと思いますが、敢えて、ショートフィルムの魅力を表現していただけますか?

別所哲也さん
確かに一言で伝えるのは難しいですが、僕は映画は長さじゃないと良く言います。短編映画って例えると、宝石の原石。これからもっともっと磨かれる映像作家のはじめの一歩みたいなところもあるんです。映画祭としてショートフィルムを沢山観ていると、映像の未来、未来地図みたいなものが浮き上がってきて、テクノロジーもそうだし、発想とか生活様式とか、今、世界中が抱えているテーマとかが映し出されるんです。

なぜかと言えば、パーソナルなものだから。長編映画は大きな不動産と一緒で、ビルを建てようと思ったら10年越しで計画するじゃないですか。でも、短編映画は本当に小さなブティック型のお家と一緒で、思い付いた人がその時代を反映してすぐにその場に表現出来る場所。デスクトップフィルムメーキングと言って、21世紀になってパーソナルに、パソコン一台カメラ一台で映画が撮れる時代になってより加速したと思います。まさに、表現の今、動画の今。それが集まっている場所がショートフィルムの魅力なんじゃないかと思います。

―――― 当時はまだYouTubeが存在していない時代だったと思います。YouTubeとの比較には賛否があるにしても、ショートフィルムにはオリジナルの芸術的なストーリーが存在します。そこが大きな違いであり感動したり、記憶に残ったりするポイントなのだと思います。

別所哲也さん
当たり前の事なのですが、「映画」はなぜ劇場公開され、なぜ2時間前後の作品じゃなきゃいけなかったんだろう。それを改めて僕に問いかけてきたのが短編映画だったんです。

なぜかと言うと、物語そのものの本質のストーリーには体力があると思うんです。
例えば、小説には短編もあれば長編もあって上下巻のものもあるように、表現って本来強弱、長さの長短も含めて表現の域だったのに、20世紀の映画ビジネスのモデルの中で、映画が80分~90分前後に収まっていったんです。しかし、映画の歴史を振り返るとエジソンがワンコインムービーを発明し、それがスクリーンに映し出されて以来最初は全部短編映画だったわけです。

それが段々長くなって、技術的にも表現出来るようになっていった。でも、本質的なことはストーリーそのものが持っている体力だから、悪く言うと、今まではどうしても決められたお弁当箱にちゃんとおかずとご飯を詰めなきゃいけない、パッケージになっていたんです。ショートフィルムを観ていると、8分の体力のストーリーを8分に、25分のストーリーは25分、ストレッチする必要は全くなくて、そこにある表現は本当に削ぎ落とされたものもあれば、この長さで十分だと思える25分の作品もある。

逆に言えば長編は、本当の意味で80分の体力がないのであれば、色んな要素を入れて、混ぜてまで長くしなくてもいいんじゃないかって。そこが、短編映画のストーリー性の純度の高さというか、パーソナルな映像作家の表現の、画家で言うとデッサン画みたいな強さがあると思います。

―――― 日本の映画界では「予算が少ない」とよく言われている中、限られた予算なら時間を縮めようという発想が出来れば、映画業界にとっては追い風になる様な気が致します。

別所哲也さん
長さそのものは、ストーリーに体力さえあれば、3時間の映画でもあっという間の体験になると思うんです。でも、短編映画の魅力は、短い中にギュッと凝縮された映画的っていうか、シネマの宇宙みたいなものがあって、それぞれに個性があるんです。尚且つ、世の中のニーズはソーシャルメディアのような表現であるとか、短い時間の中に必要なことや面白みをパッパッと入れていく時代になっています。

観る人の可処分時間が凄く限られていて、テクノロジーとして携帯端末が普及して、さらに今のようなウィズコロナ、ポストコロナの時代のオンラインの時代のコミュニケーションの一つの本質みたいなものとして、短編映画は凄くこれからも光を浴びると思っています。

短編専門映画館「ブリリア ショートショートシアター」

―――― ところで、映画館「ブリリア ショートショートシアター」を10年間横浜で運営されて、その後、2018年からは現在の「ブリリア ショートショートシアター オンライン」という形でいち早く配信を展開されています。
東京建物さんとの取り組みになると思いますが、これまでの成果も含めてご紹介をお願いします。

別所哲也さん
「ブリリア ショートショートシアター」は横浜みなみみらいの東京建物さんのBrilliaマンションの2階商業施設部分にオープンをした映画館です。東京建物さんにはネーミングライツとして協賛いただきました。

世界でも珍しい映画祭と連動したブティック型のショートフィルム専門シアターとして、単館1スクリーン。2008年にオープンした当時は「これからはシネコンの時代なのに逆行している」って揶揄もされたんですけど、逆に希少性のあるブティック型のシアターはとても意味があると思ったし、やっぱりオープンすると全国から様々な方々が観に来てくださいました。さらには、そこでブライダルを挙げたり、プロポーズをする方がいたり、貸し切り型・ライブハウス型の、クリエイターが貸し切れる映画館として、今までの興行形態とは違う劇場のあり方を提案出来ました。

元々、10年間は定期建物賃貸借契約があったので、その先の未来については東京建物さんとお話をしながら考えていきましょうということでした。10年経った時点で、時代の流れの中でコミュニケーションの主戦場がネットになっているので、リアルを大切にしながらオンライン型のシアターを一緒にやりませんか?というご提案をしまして、それを東京建物さんにもご快諾いただきました。

シアターをオープンしたのが映画祭の10周年記念事業でしたので、映画館は10周年からスタートして19年目まで上映館として存在し、19年目からオンラインになり、映画祭の20年の節目に今後の未来をオンラインで進めていくことになりました。

実際にシネマチックということが、考え方としてもライフスタイルとしてもきっと少しずつ変化してきているので、その中でオンラインシアターを人が繋がる場所として成長しているところです。

ビジネスと芸術

―――― 加えて、別所さんが代表の(株)ビジュアルボイスは、ショートフィルムを用いたビジネス展開も積極的にやっていらっしゃいます。
劇場から配信という発想もそうですし、そこに登場しているクリエイターの方々をビジネスのラインに繋げる試みだと思いますが、芸術とビジネスの間、ビジネス展開については、どのような状況になってくるのでしょうか?

別所哲也さん
大きいテーマですね、“ビジネス”と“芸術”。

映画祭を主催するようになり、とりわけ短編映画の映画祭をやるようになってからは、アメリカで色んなモデルの映画祭を見たり、世界中の映画祭に招待されて行ってきたんです。地域振興型の観光モデルとしての映像事業、お祭りとしてのカンヌを中心とした映画祭のような世界の名だたる映画祭もありますし、トロント映画祭のような見本市を主体としたキャリア形成を支援する映画祭の仕組みも見てきました。

どちらが正しいわけではないですし、カンヌ映画祭にも当然マーケットがあり、運営主体は違いますけど広告祭もあります。サウス・バイ・サウス・ウエスト(SXSW)みたいなものが近年出て来たように、今は新しい形の見本市だったり、映画の祭りが存在していて、それって結局何かっていうと、アート・芸術でありながらどういう風にそれをマネタイズしたり、ビジネスモデル化したり、関わってる人のキャリア形成に繋げるか。やはりそれは皆がハッピーになる上でとっても大事だなって思っています。

僕自身も映画というお祭りを半ば文化祭のように楽しくて始めたんですが、世界中から集まってくる優秀なクリエイター達には成功して欲しいですし、何らかの成功の場となる制作現場や、キャリア形成のヒントになるコネクション作り、あるいはネットワークが出来るプラットフォームというか場作りがとっても大事だなと思っていて、それは映画祭の使命だと今でも思っています。

そこをさらに、一歩、二歩踏み込んで、僕たち自身は映画祭というものを運営しながらビジュアルボイスとか、(株)FROGLOUDという会社で映像制作の支援であったり、制作プロデュースそのものだったりを手掛ける中で、未来の映像ビジネスというものもしっかり映画祭を足掛かりに開拓していきたいと思っています。
実際に「Branded Shorts」と言われる広告とシネマのハイブリッドバージョンのようなコンテンツも企画してますし、様々なところにショートフィルムという作品群が上映出来るイベントを企画・プロデュースしたり、そういうことを積極的にやる集団でありたいと思っています。

ショートショート フィルムフェスティバル & アジア

ショートショート フィルムフェスティバル & アジア 2019より

―――― 先ほど、追い風というお話もありましたが、その辺りの活動はこれまでの実績を踏まえて展開が加速している状況なのでしょうか?それとも、何かしらの課題が浮き彫りになっているような状況でしょうか?

別所哲也さん
今まさに、追い風ムードと言って良いと思うんですけど、このコロナの状況になって、益々人々はリアルとオンラインを意識していると思います。元々オンラインの方向に動いていたとは思うんです。だけど、加速度的にそちらに進む中で、短尺のショートフィルムという映像コンテンツは、コミュニケーションツールとして、エンターテインメント・コンテンツとして、あるいはエデュケーション・コンテンツや観光映像など、裾野をどんどん広げていきます。取説ムービーや縦型動画、YouTuberやVtuberによる映像は勿論のこと、あらゆるものがオンライン上の動画コンテンツとしてひしめき合う時代に入りました。

そういう中であえて課題と言えば、これまで僕たちが歩いてきた21年間、今年は22年目ですけど、自分たちへも自問自答で問いかけてるのは、“シネマって何だろう?”とか、要はシネマチックとか、“映画そのものって何だろう?”ということです。映画館にかかるから映画っていう時代はもう、NetflixとかAmazonが出てきて変容したと思いますし、インターネット上でこれだけ様々な動画コンテンツがある中で、物語性の高い“シネマ”というのが何かっていうことは、映画祭の本髄としては哲学的にカッコ良く言えば、追求していかなきゃいけないことなのかなって思っています。

映画が隆盛を極めていた時代とか、テレビ時代だったらそこに没入していたと思うんですけど、今はネットを通じてあらゆるメディアのアウトプットがある時代。いわゆるリアルなデジタルトランスフォーメーションの中で生まれてくるCX(カスタマー・エクスペリエンス)と言われる顧客体験を、どうやって作り出すことがシネマチックなことなのか、映画なのか、そういうことをあえて課題とすると、ショートフィルムが沢山ある中で、どこをキュレーションしてどこをセレクトして皆さんと分かち合っていくか、というのを今まで以上にセンシティブに取り組んでいる感じです。

―――― しかも、スマホで映画を撮ることも可能になった今、撮影技術の進化により動画の質を上げつつ、コストを抑えることも出来るでしょうし、色んな改革の芽が生まれてくるような気がして、ワクワクします。

別所哲也さん
本当に仰る通りで、テクノロジーと共に技術とか、新しい発想でこれからショートフィルムを中心にした動画コンテンツメディアとか、ビジネスって一番面白い分野だと思います。

それは、かつてチェンバロしかなかった時代にピアノが生まれて音楽が変化していったり、交響楽の中にも金管楽器が生まれたり、サックスフォンが生まれて音楽が変化していったように、技術とアートや表現って表裏一体だと思います。とりわけ昨今はVRとかドローンとかの技術も沢山あります。オンラインに活動の場を狭められた中で俳優たちも考えていますし、例えば、行定勲監督や斎藤工君が色んな人たちとオンラインで創る制作、作品、シネマを考えたり、試行錯誤しているように、新しいものがきっと今のこの時代の中から生まれて来るんじゃないかと思います。

後編へ続く

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