映画『ぶあいそうな手紙』アナ・ルイーザ・アゼヴェード監督インタビュー

ぶあいそうな手紙

映画『ぶあいそうな手紙』
アナ・ルイーザ・アゼヴェード監督インタビュー

7月18日(土)より、シネスイッチ銀座、7月31日(金)よりシネ・リーブル梅田、伏見ミリオン座ほか全国順次ロードショーのブラジル映画『ぶあいそうな手紙』。

ブラジル南部のポルトアレグレを舞台に78歳の目の見えない独居老人エルネストと、偶然知り合った若い女性ビア。「手紙の読み書き」のため、一人暮らしのエルネストの部屋に出入りするようになったビアは、エルネストと出会い、自分の人生をゆっくりと歩み始めます。同時にエルネストもビアとの出会いをきっかけに人生に変化が生まれるのです。世代の違う不器用な2人が、お互いの興味を交換していくことで、大切な何かに気が付いていく…。ブラジルから届いた、ちょっぴり可笑しくて、とても温かい、私たちの心を潤してくれる素敵な作品です。

ぶあいそうな手紙

釜山国際映画オープニングセレモニーにて

今回は、本作の監督・脚本を務めたアナ・ルイーザ・アゼヴェード監督にお話を伺いました。本作で描かれているのが世代間を超えた交流ならば、監督とのトークは国境を越えたとても貴重な交流になりました!

心が潤う名脚本のポイント!

―――― 心が温まるような素敵な作品で、特に人生を俯瞰しているような深みを感じました。監督は、なぜこの物語を映画にしたいと思われたのでしょうか?

アナ・ルイーザ・アゼヴェード監督
“老い”というのは人間の人生の中で、劇的な時期だと思うんです。なぜかといえば、人は“老い”に差し掛かって色んな選択をしなければいけません。しかし、肉体的なことなど様々な制約が出てきます。そうすると、選択をしなければいけないけど、自分だけでは決められないこともある。だからこそ色んな葛藤が生まれるし、そういう意味では人生の重要な時期だと思うのです。

私の両親も高齢ですし、周りには高齢のご両親と一緒に暮らしている友人もいますし、自身が老齢に差し掛かって決断をしなければいけない人たちも沢山います。この問題に強い関心を持っていましたので、今回のこのストーリーになりました。

ぶあいそうな手紙

―――― 非常に面白かった点は老人同士だと意外と本音同士で衝突してしまいます。ところが、若者と老人になると、老人は知恵を発揮するんです。孤独な老人エルネストと隣人・ハビエル、そしてエルネストと若者のビア。このコントラストが効いていると思うのですが、この脚本を書くうえでどういう点に着目し工夫をされたのか、もう少し詳しく教えてください。

アナ・ルイーザ・アゼヴェード監督
その通りですね。
まず、ハビエルという人物が、エルネストとは喧嘩友達のような関係であるところを描きたいと思いました。ハビエルとエルネストは突っかかったり、同じような問題を抱えているにも関わらず、決してお互いに同意しない(笑)。

これは一つの理由としては、ハビエルがアルゼンチン人で、エルネストがウルグアイ人であるということ。どちらが正しいかなど年がら年中競い合いをするわけです。

もう一つはエルネストとハビエルは人格が違うわけです。ハビエルは凄く厚かましい人で、他人のパーソナルな部分にドンドン入り込んでしまうような人です。それに対してエルネストは、もっと慎ましやかであったり。そういった意味でのコントラストは考えました。

それにも関わらず、この2人はお互いが必要なんです。高齢であることから生じている同じような困難に直面しているわけですけど、時にハビエルはエルネストに対して「ちゃんとご飯食べてるのか?」と、心配をしたりします。そういったやり取りは強調しています。

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しかし、ビアとの関係は全く違う関係性で、エルネストが変化するきっかけになる人物です。また、エルネストはビアを通して知らなかった世界を発見していく、もしくは再発見していくわけです。

例えば、“スラム” と呼ばれる吟遊詩人(ぎんゆうしじん)の会に行きますが、ビアがいなければ彼は絶対に行くことはないわけです。そういう意味で、ビアと交流するようになってから、彼は世界をもう一回発見する。実は、そのもう一回発見する世界というのはルシアとも繋がっていて、ルシアは彼の若かりし頃の思い出を象徴する存在です。その思い出の中に、思い出と被さるようにビアがいて、ビアは家政婦のクリスティーナやエルネストの息子とは違って、詩のことが分かるし、文学が分かるし、また書いたり読んだりするのもよく出来る。そんな風に関係性が広がっていく描き方をしています。

ブラジルで広がる“ポエトリースラム”とは

―――― 文化的なところで、吟遊詩人の会の話題がありましたが、ブラジルのポルトアレグレ地方では一般的に見られるものなのでしょうか?

アナ・ルイーザ・アゼヴェード監督
“ポエトリースラム”という名前で呼ばれているのですが、詩でもって戦う、そういうムーブメントなんです。ブラジルでは、特に大都市圏の低所得層が住んでいる郊外などでとても盛んです。

ラップとかヒップホップとかそういうものとダイレクトに繋がっていて、恐らく最初はアメリカのシカゴかどこかで発祥したものだと思います。それがブラジルに伝わって、大都市で広がって、大半は低所得層が住んでいる地区の若い人たちが中心になってやっています。政治的であったり、フェミニスト的であったり、いろんな傾向がある集まりがあるんですけど、一番面白いのは、最近のお金持ちの人たちは、ストリートは危ないので家の中でこもって何かをするのが主流なんです。でも、彼らはそうじゃなくて自分たちがストリートに出て行ってストリートを占拠する。そういう勢いでやるところが面白いと思うんです。ポルトアレグレの街でもこの“ポエトリースラム”は非常に盛んです。

ぶあいそうな手紙

―――― 低所得層ということですが、同時に教養がないと出来ないことですよね?

アナ・ルイーザ・アゼヴェード監督
私自身も数年前に息子に“ポエトリースラム”へ連れて行ってもらって初めて見たんですけど、仰る通りです。

ちょうど私はその時、政府による言論の検閲、それから弾圧をテーマにした作品を撮ろうとしていて、その時に息子に紹介してもらったんです。そこで歌われている詩のレベルというのは物凄く高くてビックリしたんです。“ポエトリースラム”というのは先程も言ったように、郊外の低所得層の地区の音楽、ヒップホップ、ラップに直接繋がっていて。例えば、踏韻する、韻を踏む、それが物凄く豊かな韻を踏むわけです。しかも、それを即興で語っていくので本当に感銘を受けました。

映画の中に登場する女の子で、人種差別のことを歌う子がいます。彼女はクリスタル・ホーシャという名の実在の人物で、“ポエトリースラム”の全国大会で最優秀賞を15歳で獲った凄い人です。

―――― 文化的なことをもう一つお聞きしたいんですけど、日本では独居老人が増加していて、孤独死も社会問題になっています。ブラジルにおける高齢者事情はどんな特徴があるのでしょうか?

アナ・ルイーザ・アゼヴェード監督
ブラジルの状況は私が耳にしている日本の状況とは少し違う気がします。まず、人口に占める高齢者の割合がだいぶ低いです。日本ほど高いことはありません。それでも高齢者の数は増えています。今のところ世話をするのは家族が多いので同居します。貧しい家庭では祖母が孫の世話をして、その間に母親が働きに出るケースが多いです。これは家族の構成が、祖母、母、そして子供なんです。男性が居ないということが多いです。

中程度の所得層になると、家族の人数が少なくなって、要は核家族化して、独居の老人の率も高くなります。老人ホームの必要性も高まっているんですけど、どこも非常に高額なので中々入れるものではないという事情があります。

『ぶあいそうな手紙』

とりあえずは、日本や他の国よりも高齢者の問題はまだ先鋭化していないのかなと思います。ウルグアイの方がブラジルよりもずっとずっと高齢者の数が多くて、しかし、どちらにしても高齢者向けの公共的な政策がない、非常に少ないというのが大きな問題になっていると思います。

映画の中にもありましたが、高齢者の生活水準がドンドン劣化しています。年金が目減りしていることが大きな理由になっていて、やっぱり高齢者は生活が苦しいことが多いです。

世代を超えて必要な知識の交換!

―――― 色々な現実や世代を生きている人たち同士が、お互いに情報交換することが非常に刺激的で良いことだと思うのですが、老人にとって若者とは、若者にとって老人とは、それぞれどんな存在なのか、映画ファンへのメッセージも込めてお聞かせください。

アナ・ルイーザ・アゼヴェード監督
大事なのは、高齢者の人たちと若い人たちの間の共存、共生だと思います。共に交流があれば、そこに新しいものを発見する可能性が生まれてきます。その新しいものというのは、実は高齢者にとっては自分が実際に体験することは無理だったりするわけです。足が悪いとか。

でも、若い人たちや子どもたちと交流する中で新しいことを教えてもらうことが出来ます。そうでなければ、自分が既に持っているものを反復するしかないのです。そういう意味では、この映画でビアがエルネストに新しい知識、新しい考え方を紹介するわけです。

ぶあいそうな手紙

一方で、映画の中でのビアという人は後先をほとんど考えない、明日のことを考えない、今日を何とか生き延びればそれでいいという感じです。そこへエルネストがもっと成熟した考え方を彼女に見せるわけです。もうちょっと明日のこと考えた方がいいんじゃないの?って。エルネストが持っている豊富な文学の知識であるとか、彼の好きな音楽の知識であるとか、そういうものをビアに紹介することが出来るのです。

このような知識のやり取り、交換は、2つの違う世代の間では一番大切なことだと思います。どっちの側にとってもこれは有意義で、いいことだと思います。そうでなければ、老人は孤立しがちになってしまう、もしくは、老人同士の付き合いで完結してしまう。そうすると新しいものが得られません。だけど、そこに若者や子どもたちがやって来ると、全然違う世界を見せてくれる。だから、老人ホームで老人だけの世界にいると、いつの間にか何か新しいことを計画する、新しいことを夢見る、希望を抱く、そういうことが出来なくなっていくんです。夢も持たない、希望も抱かないってことは本当にどうしようもないことで、そういうことがあってはいけないと思うんです。

だからこそ、この映画の中ではエルネストの中の夢、希望をビアがもう一度呼び起こすんです。

―――― 有難うございました!


映画『ぶあいそうな手紙』予告動画

キャスト

ホルヘ・ボラーニ、ガブリエラ・ポエステル、ホルヘ・デリア、ジュリオ・アンドラーヂ

監督

アナ・ルイーザ・アゼヴェード

スタッフ

脚本:アナ・ルイーザ・アゼヴェード、ジョルジ・フ ルタード
脚本協力:セネル・パス(『苺とチョコレート』

原題:Aos Olhos de Ernesto|英語題:Through Ernesto’s Eyes
ブラジル|2019|123 分|字幕翻訳:比嘉世津子|
配給:ムヴィオラ

ぶあいそうな手紙

7月18日(土)よりシネスイッチ銀座、7月31日(金)よりシネ・リーブル梅田、伏見ミリオン座ほか全国順次ロードショー

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