【インタビュー】映画『クシナ』速水萌巴監督が小集落に込めた願い

映画クシナ,速水萌巴監督

映画『クシナ』
速水萌巴監督インタビュー

女だけが暮らす男子禁制の山奥の集落を舞台に、速水萌巴監督が自身の過去の体験に根ざした母と娘の物語を描いた映画『クシナ』が7 月 24 日(金)よりアップリンク渋谷ほかにて公開中です。制作から4年、国内外の映画祭での上映から2年、待望の公開を記念して速水監督にお話を伺いました。

―――― ロケ地の緑が美しく、川のせせらぎも音も綺麗で、とても綺麗な所だなと思いました。あの場所をロケ地に選ばれたのは、どの様な経緯があったのですか?

速水萌巴監督
ロケーションを探す上で色んな所に行ったんです。東京から3時間圏内を目安に東西南北一通り見ました。ただ、集落と川が近い関係にある条件の場所がなかなか見つからなくて、たまたまです(笑)。

たまたま見つけられるような所ではないんです。どうしても現代的な要素が入ってしまうので設定している集落のイメージとは違うなって。インターネットで秘境を探していたら、とある方のブログで見つけたんです。でも、行き方が複雑で分からないから山梨県の観光課の方に相談しました。そこで集落に住んでいる男性を紹介していただき、現地の山で合流して集落に連れて行ってもらいました。集落の周りを散策したらちょうどいい川もあり、そこに決めました。

冒頭の森は横浜で、部屋の内部は、埼玉県の高坂市と東京の町田にある古民家で、撮っています。

―――― 映像美に加えて音楽も素晴らしかったです。
その中でも「カノン」とラストの有名な曲については監督のこだわりがあったのでしょうか?

速水萌巴監督
この作品は私と私のお母さんとの実話をベースに作った映画なんです。仲違いしてる時期がありまして、私が映画の道に進むことに反対している時期もありました。でも、元々母は映画が好きなこともあり、よくヒッチコックの映画をお父さんとお母さんと観ていて、その中で使われていた音楽があの曲でした。それを母が口ずさんでいたので。

「カノン」は、思春期の時によく聴いていたので思い入れのある歌なんです。悲しくも聴こえるし、歓喜の喜びにも捉えられる、複雑でどっちにもとれる。

―――― 改めて、こうした森を舞台にしたこの物語を映画で撮ろうと思った経緯を教えてください。

速水萌巴監督
映画を撮ると決めた時にどういう映画にしようか考えたんですけど、私の中で物語を想像する時にあまり現代の風景が出て来ないんです。そこで繰り広げられるドラマに関心が湧かないというか。実際に生きていても皆が嘘をつき合ってるし、建前だし、いくらそこでリアルを描いても私にはちょっとあまりリアルに感じない感覚があって。

物語を考えると異次元に行っていることがあり、そこに出て来るキャラクターの方が私にとってはリアルだし、もっと精神が繋がっているような気がするんです。多分そういう私のバックグラウンドがありつつ、今回お母さんと娘の話にしようと決めたんですけど…。

自然と書き進めていくうちに男性のキャラクターが必ずしも必要じゃないなっていう感じにもなったのであって、先にシチュエーションがあったわけではないです。あくまでも、お祖母ちゃんとお母さんと娘の話があって、そこから広げていきました。

小野みゆき、郁美カデール

―――― 鹿宮(カグウ)は非常に若い時に奇稲(クシナ)を産んでいます。ひょっとすると望まれない状態でこういったシチュエーションになったのかなと想像しました。その望んでいない環境や出産から逃げ出してこの森にやって来た、つまり駆け込み寺的な場所なのかなと思いましたが、いかがでしょうか?

速水萌巴監督
まず、鹿宮(カグウ)は14歳で妊娠して出産するんですけど、総じて日本は若くして子ども産むことに関してタブーで凄く厳しい目があると思うんです。日本だからこそこういうシチュエーションが成り立っているというか、多分アメリカだったら14歳で子どもを産んでも全然逃げる必要はないと思うんです。そういう想いもあり、こういう生きづらい人たちがいることを描いています。

ただ、私としては駆け込み寺という感覚ではなかったです。小野みゆきさんとも話したんですけど、元々集落の設定は、樹海に入って死のうと思った人たちがたまたま行き着いたみたいな設定です。私も中学生の時から病気を患いまして、10年ぐらい病気と闘うことがあったんです。私が倒れて病院へ行った時に、先生が「この血液データは死体と一緒だよ」みたいにビックリしていました。何で呼吸して立っていられるのかが理解出来ないって言われた時に、“私は何かをするために生かされているんだな”と思ったんです。

それと似たような体験を小野さんもされていて、1回死ぬことに直面した人たちが見た先、そういう大変な経験をした人たちが集まれば、もうちょっと縛られることもなく違う世界が広がるのかなっていう想いから生まれた集落です。

―――― キャスティングについては、奇稲(クシナ)役がギリギリまで決まっていなかったと伺いましたが、鬼熊(オニクマ)役の小野みゆきさん、鹿宮(カグウ)役の廣田朋菜さん、奇稲(クシナ)役の郁美カデールさんの3人は特に息が合っていて、本作の登場人物として本当にピッタリだと思いました。監督はどのような期待や狙いを込めてキャスティングをされたのでしょうか?

速水萌巴監督
まず、人の顔にはその人の人柄とか生き様が刻まれていると思っていて、私はそれを読み取ることが割と出来る方だと思っているんです。それをベースに、お顔から選ばせていただいた部分もあります。

クシナ

鬼熊(オニクマ)役は、インターネットでアラ還の女性を探したら小野みゆきさんの写真が出てきて、その写真からロマンを感じ、私の母親にも少し似ている部分があったりして、この人しかいないと、是非やってもらいたいと思って所属事務所に連絡をしました。「(脚本を)持っておいで」って言ってくれて、次の日に持って行き、すぐ小野さんに届けていただくとその日の夕方には小野さんから「出ます!」とご返事をいただき、スムーズに決まりました。

映画『クシナ』予告解禁!試される母娘の愛

鹿宮(カグウ)役は、オーディションをしてもなかなかこの人だって思う人に巡り会わなくて。というのも複雑なポジションなので、私も書いていてカグウのキャラクター像が一番しっかり出来ていなかったんです。これは俳優部を入れて俳優部と一緒に作っていかなきゃいけないと思っていたんですけれど、その時に知り合いのプロデューサーさんから廣田朋菜さんをご提案いただいてお会いしたんです。以前から廣田さんは知っていたんですけど、カグウのイメージとは違うと思っていて、やっぱり最初にお芝居をしてもらっても、ちょっと違うなって思っていたんです。

結構個性的で強そうな感じなんですけど、リハーサルというか練習を止めて会話をしている時に、目を見ていたら凄く優しい目をされていて。ガラスのようなツルッとした(笑)。そこに彼女の抱えているものとかを見たような気がして、話していくうちに複雑なレイヤーがカグウと重なりました。廣田さんもカグウの設定と同じ年齢で、彼女なりにもカグウと重ねられるところもあると仰っていたのでお願いすることにしました。

クシナ

奇稲(クシナ)役は、色んな子役の事務所にオファーをかけたんですけどなかなかしっくり来なくて、撮影の2、3日前まで決まっていない状態でした。スタッフやキャストが皆集まる打ち合わせの時にはまだいなくて、焦っている時にヘアメイクの林さんが、「脚本を読んだ時からクシナにぴったりだと思っている子がいる」と言ってくれて、郁美カデールさんの写真を見たら「この子だ!すぐ会いに行こう!!」となりました。

郁美ちゃんはエキゾチックさも魅力で、カグウの子供だけどどうしてもカグウだけの子ではない、他の血を感じてしまうっていうのが面白いなって思いました。

―――― 確かにクシナを通じてちょっと世界観が広がるというか、監督の狙い通りだったと思います。ちなみに、監督が一番お好きなシーンを教えてください。

速水萌巴監督
難しいですね(笑)

幾つかあるんですけど、蒼子さん(役:稲本弥生さん)とクシナが初めてお家の中で三つ編みをするところも良いショットが撮れたと思っていますし、クシナが洗濯物を川へ流してしまうところも好きです。

―――― ファンタジックな要素もあり、物語としても美しい物語なので、本当に沢山の方に観てもらいたいと思います。最後に映画ファンへメッセージをお願いします。

速水萌巴監督
今、世界が変わっていると感じていて、人種や性別による差別をなくそう、皆が平等だみたいな考えが広がっていて、それは勿論正しいことですし、権利の平等は保障されるべきなんですけど、ただ文化は限られた人たちの中で強くなり、偏った環境・考えとかの中で生まれるものだとも思っているんです。それが無くなってしまい、継承されなくなってしまうのはやっぱり悲しい。そこに自分たちとの共通点を感じることもあるし、美しいと思うこともあるし、自分が信じるものが無くなった時にその文化に助けられる部分もあると思うし、そういうのは残しておくべきだと思っていて、そういう願いも込めてこの小さい集落を描きました。

自主映画でこういうファンタジックな舞台を設定して頑張って映画を創った、その気概を多くの人に観ていただきたいと思います。

速水萌巴×郁美カデール 映画『クシナ』アップリンク渋谷他で公開決定!

―――― ありがとうございました!応援しています!!

『クシナ』予告編映像

あらすじ

深い山奥に人知れず存在する、女だけの”男子禁制”の村。村長である鬼熊<オニクマ>(小野みゆき)のみが、山を下りて、収穫した大麻を売り、村の女達が必要な品々を買って来ることで、28歳となった娘の鹿宮<カグウ>(廣田朋菜)と14歳のその娘・奇稲<クシナ>(郁美カデール)ら女達を守っていた。

閉鎖的なコミュニティにはそこに根付いた強さや信仰があり、その元で暮らす人々を記録することで人間が美しいと証明したいと何度も山を探索してきた人類学者の風野蒼子(稲本弥生)と後輩・原田恵太(小沼傑)が、ある日、村を探し当てる。

鬼熊<オニクマ>が、下山するための食糧の準備が整うまで2人の滞在を許したことで、それぞれが決断を迫られていく。

キャスト

郁美カデール
廣田朋菜 稲本弥生 小沼傑
佐伯美波 藤原絵里 鏑木悠利 尾形美香 紅露綾
藤井正子 うみゆし 奥居元雅 田村幸太
小野みゆき

監督・脚本・編集・衣装・美術

速水萌巴

スタッフ

撮影:村松良
撮影助手:西岡徹、岩田拓磨
照明:平野礼
照明助手:森田亮
録音:佐藤美潮
整音:大関奈緒
音楽:hakobune
ヘアメイク:林美穂、緋田真美子
助監督:堀田彩未、佐近圭太郎、宮本佳奈
制作協力:村上玲、小出昌輝
協力プロデューサー:汐田海平

『クシナ』作品情報

配給宣伝:アルミード
© ATELIER KUSHINA
2018 / 日本 / カラー / 70分 / アメリカンビスタ / stereo
公式HP:kushinawhatwillyoube.com

7月24日(金)よりアップリンク渋谷ほかにて公開中!

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