『ドキュメンタリー沖縄戦 知られざる悲しみの記憶』太田隆文監督インタビュー

『ドキュメンタリー沖縄戦 知られざる悲しみの記憶』太田隆文監督

『ドキュメンタリー沖縄戦 知られざる悲しみの記憶』
太田隆文監督インタビュー

ドキュメンタリー沖縄戦 知られざる悲しみの記憶』が7月25日(土)から新宿 K’s cinema、他にて公開中です。

沖縄戦を描いた映画やドラマは少なく、学校の授業も詳しく学ばないので多くの日本人は沖縄戦をほとんど知りません。原発事故の悲劇を描いた劇映画『朝日のあたる家』も話題となった太田隆文監督が原発事故に続き、沖縄戦をドキュメンタリー映画として完成されました。

戦争中の真実を知識として得られると言うことだけではなく、様々なことを考えるきっかけを与えてくれる傑作ドキュメンタリー映画の誕生です。公開を記念して、太田監督に制作を通じて感じたことなど、たっぷりとお話を伺いました。

太田隆文監督

太田隆文監督

―――― 戦後75年の節目ということも当然あると思いますが、今回の作品の制作意図や経緯についてお聞かせください。

太田隆文監督
当初、沖縄については本当に何も知らなくて、ゼロから勉強しました。僕はドキュメンタリー専門でやっているわけではなく、劇映画のしかも可愛い女の子が出てくる青春映画を撮るタイプなので、社会性のある作品もありませんでした。

それが原発事故の悲劇を描いた『朝日のあたる家』(2013年)という社会性がある映画を初めて撮ったんです。今は政治家として活躍している山本太郎さんが俳優として最後に出演した映画なんですけど、映画を作る上で原発についてかなり取材、勉強をしました。完成後も興味があって勉強を続けたんですけど、原発問題を遡っていくと太平洋戦争に行き着いたんです。

“太平洋戦争ってどういう戦争だったんだろう?”特に沖縄戦は酷かったとは聞くけど、具体的なことはまるで知らない状態。中学高校時代を思い出してみると、日本史の授業で太平洋戦争を学ぶのは大体3学期。卒業間際でバタバタと進み、下手をすると太平洋戦争まで行かずに終わることさえあります。特に沖縄戦は教科書に「太平洋戦争で唯一の地上戦が沖縄で行われた。」と一行書かれているだけだったりする。

若い人たちに聞いても同じなんです。理由はもう一つあるんですけど、そんな時に『朝日のあたる家』を見た団体から沖縄戦のドキュメンタリー制作の依頼を頂きました。願ってもない機会、沖縄で何があったのか?どう酷かったのか?それが今にどういう影響を与え、どういう風な流れが引き継がれているのか? いろんなことが分かってくるだろうと思いました。

―――― 私(編集スタッフ)も数十年前に沖縄戦の話を父から聞きましたが、それを小学校のクラスの中で話しても誰も分からず、全く関心を示してもらえませんでした。

太田隆文監督
多くの人は太平洋戦争、特に広島や長崎への原爆投下、真珠湾攻撃、ミッドウェイ海戦は知っている。理由はどれも繰り返し映画やドラマになっているからです。映画やテレビ以外でも漫画では「はだしのゲン」が学校の図書館に置いてあり、子どもの頃から多くの人が読んでいます。そういう風に繰り返し戦争の悲劇を伝えることを、漫画も映画もドラマも色んなメディアがしてきた中で、沖縄戦を舞台にした有名な映画は『ひめゆりの塔』(1953年、今井正監督)と『激動の昭和史 沖縄決戦』(1971年、岡本喜八監督)くらい。前者は、有名で何度もリメイクされていますが、後者は映画ファンでも知らない。僕も知らなかった。

ドラマは明石家さんま主演の『さとうきび畑の唄』(2003年)があった程度で、その前後で沖縄戦を扱った作品はほとんどないんです。映画もドラマも漫画も、あまり沖縄を題材にしなかった。授業で教えないだけでなく、そのことが背景になり多くの日本人が沖縄戦を知らないと言うことになったのでしょう。それが分かったので、僕は映画人として“ドキュメンタリーで、沖縄戦を伝えることは大切なことかもしれない”と思いスタートしました。

―――― 今後、後世の人たちに戦争に対する警告をどう伝えて、活かしてもらうか?が課題となりますが、本作のような作品が一つの手段になると思います。監督もその辺りの責任感や期待を感じていらっしゃるのではないでしょうか?

太田隆文監督
取材の時に、沖縄の方々が仰っていたことは、昔は学校に戦争体験者の方に来ていただいて話をしてもらうとか、そういうことを教育しているところも沢山あったんです。でも、そういう方々が高齢になりどんどん亡くなっていく。ある戦争資料館では若い人たちが説明員を引き継いでいて、来場者に説明しているのですが、やっぱり伝わり難いです。つまり、若い説明員は受け継いだ“知識”を語るだけであって、体験者が語る“経験”とは重さやリアリティが違うんです。

また、体験者が書いた文章を読んでも伝わり難い、やはり体験者の方が肉声で「あの時、ウワッて米軍の飛行機が飛んで来たんですよ」って言う方が伝わる。喋りのプロではないのに、物凄くリアルに伝わってくる。やっぱり経験したことを言葉にすると力強い。そう考えて、“体験者の証言”を中心に映像で取材。戦後75年完成を目指して進めました。

もう一つ、辛い体験なので喋りたくない方が昔は沢山いらっしゃった。本作出演の上原美智子さんも若い頃は戦争の話は一切しなかったと聞きました。でも、教員生活の中で教頭になった頃から、あの体験は伝えるべきだと思うようになったと言います。そんな風に近年でも「もう先は長くないから、あの戦争のことを語っておかねば」と言う方が出て来ている。その意味で今、この時期に改めてお話を伺うことも、いろんな意義があると思えました。

―――― 慰霊碑のシーンで弟さんを亡くした上原美智子さんが、自身を「人間失格だと思った」といった言葉を聞いた時に、何とも言えない気持ちになりました。ご本人から聞くことで本当に伝わるんだと感じました。

太田隆文監督
本当にそうなんです。演出、音楽、照明で盛り上げることはできます。でも、それらではなく本人の言葉をストレートに聞いてもらうことが一番伝わる。ただ、今80代の方は、当時5歳、6歳、7歳。だから、しっかり記憶はない。何となく子ども心に覚えているとことか、お姉ちゃんから後々聞いたお話が多くなります。当時15歳ぐらい、中学生以上でしっかり記憶がある方はもう90代。どちらにしても10年後20年後にはもうお話を伺えないであろう方々。映像で記録し、30年、40年先にも伝えることが大事だと思えました。

沖縄戦,画像

―――― 加えまして、あるガマでは1,000人の命が救われました。当時、ハワイから帰国した比嘉平三さんが米軍と英語で交渉できたことで、ガマの村民が投降したからでした。でもその近くのガマでは、同じ村落の180人のうち85名が命を落とされました。この違いは、とても偏った考え方がある一方で、自由な思考・発想や世界で何が起きているのかを知っている人の知性や経験が救ったと思えてなりません。監督としてはどのように感じられていらっしゃるのですか?

太田隆文監督
そこは戦争というカテゴリーを越えて大切だと思ったことの一つです。僕はアメリカの南カリフォルニア大学の映画科で勉強したので、6年間ロサンゼルスにいました。比嘉平三さんも日本生まれでハワイに移住した方なので彼の気持ちが分かる。

お孫さんが証言をしてくれた映像が本作の中にありますが「うちの爺さんはリンカーンを尊敬しててね」「アメリカ兵は手を挙げて出て行ったら、絶対に殺さんよ」と話してくれました。日本では「鬼畜米兵。女は捕まったらレイプして殺される、男は戦車で轢かれて耳を削がれる」みたいな教育をしていたので、出て行くなんてとんでもないって感じだったんです。そんな中でアメリカを知る比嘉さんがいたことで多くの人が助かった。いかに外国を知ることが大事か?と言うことだと思えます。

僕がアメリカへ行った時、そもそもハリウッド映画が大好きだったので、アメリカのことをかなり知ってました。英語は出来なかったけど、文化や生活は全然問題がなかった。にも関わらず驚いたのが、日本の銀行は今でも15時に窓口が閉まるけど、アメリカは全て17時までやってました。(日本は)ATMも時間が決まっていて、当時は18時まで。17時を過ぎると手数料100円を取られた。土日も手数料を取られた。でも、アメリカはどの銀行でも365日24時間全て無料で引き出せた。アメリカ人に「凄いね!」って言ったら「日本は違うのか?」って。「だって、俺たちの金を預けているんだから、好きな時に引き出せるのがあたり前じゃないか。日本人はそれをおかしいと思わないのか?」って。ガーン(笑)。

散々ハリウッド映画を観ていた人間でも、そういうことで驚く。つまり、アメリアの生活、習慣、システムが日本に全然伝わってきていない。知らないから、15時過ぎたら間に合わない、17時過ぎたから100円かかる。それを仕方がないって思って、自分のお金なのにおかしいとは思わない。高々100円のことですけど、当時は“米軍に捕まったら殺される、だったら自決して死んだ方がマシ”という発想になる。当時も今も一緒なんです。

大事なのは、この映画を観てもらうことで“当時はそうだったんだ”と知るだけではなく、“今のあなたはどうですか? 同じことで陥っていませんか? 自分たちの世界にいることで視野が狭くなっていませんか?”ということを考えてもらう作品にせねばと思えて来ました。

―――― なるほど。そして、戦時教育の中にも落とし穴がありました。取材やインタビューを通じて、監督は当時の日本の教育についてどのように感じられたのでしょうか?

太田隆文監督
実は今の日本も非常に似たようなことをやっていることにも気づきます。

映画の中で大きなホードを持って語ってくれた瑞慶覧さんが「私なんか軍事教育で、将来は隊長になると思っていました」と仰っています。軍国主義の教育を受けて、偉い兵隊さんになって日本を守ることが大人になることなんだと思わされていた、と。それ聞いた時に「これも、今と同じじゃないか?」って思った。

沖縄戦,画像

当時は、大人になったら兵隊さんになって日本を守る。今は“大人になったら大企業に入ってサラリーマンになり安定した生活をする”そのための教育なんです。つまり、与えられた仕事を確実にこなす優秀なサラリーマンになるための教育を受けている。テストの点数で競い合い、少しでもいい大学に行くことを親も子供も教師も皆、願い努力している。僕も高校は進学校で、ほぼ全員が大学進学。勉強することが正義みたいな。映画なんか観ているお前はバカだと落ちこぼれのレッテルを貼られる。

「勉強しても意味がない、映画の仕事をしたい」と言うと「お前は勉強が嫌だから、言い訳をしているんだ!」って教師に言われました。戦争中に「戦争なんて意味がない」って言ったとしたら「お前は戦争へ行くのが怖いから、そんな言い訳をしてるんだ」と言われた。今は「落ちこぼれ」昔は「非国民」とレッテルを貼られた。その流れから逃れることができない。

それが国策なんです。戦争するための教育、優秀なサラリーマンを育て、経済大国になるための教育。はみ出すと「非国民」「落ちこぼれ」と阻害されて、皆を同調圧力で同じ方向に持って行こうとする。今も同じ。いつの時代も、教育とは恐ろしいもの。と思えます。

―――― 国が個人の幸せを決めてしまって、「国民は従っていればいいんだ」という声が聞こえてきそうです。

太田隆文監督
戦後の教育は一時期、経済大国として“JAPAN is No.1”になったことで、ある意味で成功しています。ただ、その後、バブル崩壊から20年を超える不況。今やアジアのジリ貧國。「優秀なサラリーマン育成」教育で育った大人は与えられたことしかできない。激動の時代はどうしていいか分からない。だから、アジアの国々に抜かれた。

映画の中でガマを案内してくれた知花昌一さんが「教育は恐ろしい」と語り、佐喜眞美術館の佐喜眞館長は「当時の教育はとにかく考えるなっていう教育だったんです。考えずに言われたことだけをしていればいい。教育の恐ろしさを感じます」と言ってました。今も一緒なんです。

沖縄戦,画像

沖縄戦,画像

どちらの時代も「考えさせない」「与えられたことをするだけ」の教育。そのために太平洋戦争では大きな犠牲を出した。戦後の教育も結果、日本は経済戦争から脱落した訳です。教育の大切さを感じます。一人一々が「これは正しいのかな?この教えは間違っていないのかな?自分はどうすべきなのかな?」と考えさせない大人に育てること。怖いと思いました。

―――― 今回のコロナの対処の仕方についても、国が考えるべき問題ですが、我々個々人もどういう風にすべきか考えていくべきなのでしょうね。

太田隆文監督
本作を観てもらうことで、沖縄戦を知るだけではなく、そんなきっかけにしてもらいたい。今も戦時中も同じなんだ、僕らも言われたことしかしていないのかも?と気付いてもらえればと思います。

―――― 本作を通じて私たちの目が開いて、映画によって世界観が広がっていきます。
最後に、監督からメッセージをお願いします。

太田隆文監督
ドキュメンタリーというと学校で見せられる退屈なもの!と言う印象があります。だから、退屈せずに見てもらえる作品にしたかった。もちろん歴史を面白おかしくは描いてはいけないけど、僕は劇映画のエンターテインメントの仕事をしている人間なので、興味を持って観られるような作りを目指しました。

また、僕自身が沖縄戦の専門家ではないので、一から勉強した。それと同じような形で映画を作れば、観る人たちも知識ゼロから知ることができるはず。だから、決して「教えてやる」っていう形では描いていません。退屈せずに、興味を持って観てもらえるドキュメンタリーになっていますし、色んなことを考えられる作品です。

沖縄戦,画像

日本や沖縄だけではなくアメリカという国も見えてきます。

例えば、アメリカ軍がなぜ最初に首里城を攻撃せず、現在の嘉手納基地の中飛行場を攻撃したのか。映画の中で描いていますが、それは本土攻撃を考えていたからです。さらに、そこをベースにして、後々の朝鮮戦争やベトナム戦争のベースにするつもりだった。アメリカがそこまで考えて戦争をしていたことが見えてくるんです。

おまけに動画とスチールの両方を撮っている。戦争にメイキング班とスチール班がある。映画撮影と同じ!そんなアメリカと言う国も見えて来ます。

色んな意味で興味を持ってもらえるきっかけが沢山詰まっていますので、是非観てください。

―――― 有難うございました!

『ドキュメンタリー沖縄戦 知られざる悲しみの記憶』予告動画

キャスト

上江洲安昌 知花治雄 上原美智子 照屋 勉 長浜ヨシ 川満 彰 比嘉キヨ 佐喜眞道夫 真栄田悦子 座間味昌茂 松田敬子 島袋安子 山内フジ 瑞慶覧長方 平良啓子 吉浜 忍 平良次子 吉川嘉勝 知花昌一、他
声の出演:挧野幸知 嵯峨崇司 水津亜子

ナレーション

宝田 明 斉藤とも子

監督

太田隆文

制作:青空映画舎
配給・宣伝:渋谷プロダクション
製作:浄土真宗本願寺派(西本願寺)
上映時間:1 時間 45 分
© 浄土真宗本願寺派(西本願寺) 青空映画舎

沖縄戦,画像

7/25(土)~ 新宿 K’s cinema、他にて公開中!

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