俳優 細田善彦さんが2つのミステリーに迫る!映画『赤い闇 スターリンの冷たい大地で』アグニェシュカ・ホランド監督特別対談

細田善彦,アグニェシュカ・ホランド監督

映画『赤い闇 スターリンの冷たい大地で』
俳優・細田善彦さん&アグニェシュカ・ホランド監督対談

スターリン体制下のソ連という大国に、命がけでひとり立ち向かった英国人ジャーナリストのガレス・ジョーンズの戦慄の実話を描いた『赤い闇 スターリンの冷たい大地で』が2020年8月14日(金)より全国公開されます。

本作の監督を務めたのは、米アカデミー賞ノミネート経験もあり、世界的に活躍するアグニェシュカ・ホランド監督(『僕を愛したふたつの国/ヨーロッパ ヨーロッパ』、『太陽と月に背いて』、『ソハの地下水道』)。彼女が描き出したのは真実を追い求める勇敢なジョーンズの姿と、秘密主義の独裁国家に潜む数々の闇…。あまり知られていない真実を目の当たりにし、私たち観客はスクリーンに縛り付けられるような感覚さえ感じます。

今回は、7月31日(金)から大林宣彦監督最新作『海辺の映画館-キネマの玉手箱』にメインキャストとして出演し、カンボジア映画にも出演するなど国内外で活躍している俳優・細田善彦さんに、アグニェシュカ・ホランド監督とオンライン特別対談をしていただきました。現在の世界に監督が感じていること、そして細田さんが役者目線で監督にお話を伺う中で、監督が抱いている2つの“ミステリー”に迫りました!

細田善彦

俳優の細田善彦さん

20世紀と現代の共通点

細田善彦さん
映画拝見させていただきました。歴史的なストーリーでありながら、今我々が直面している問題とリンクしている部分が多々あると感じました。この半年で世界は大きく変わり、様々なことを模索しています。情報のあり方、理想の社会をどのように作っていくべきかを考える上で、今だからこそ観るべき1本だと感じました。そして、この作品を観て受け取る感情や葛藤は、今の私たちにとても大きな影響を及ぼすものだと感じました。

昨年、ヨーロッパで公開され、そして日本ではこれから公開される予定です。国によってだいぶ状況は違うとは思いますが、監督はこうした点についてどのようにお考えでしょうか?

赤い闇

アグニェシュカ・ホランド監督
私が初めて脚本を読んだのは4~5年前だと思いますが、その時既に現代的な要素を感じていました。それは、例えば情報をどうやって流布していくのか、伝えていくのか、様々なツールやそれらツールをどう使うのか。フェイクニュース、あるいはそれを用いたプロパガンダ(※)に対する一般の人々の無関心さや、勇気を持たない政府というものを脚本から感じました。
※プロパガンダ:世論や思想を誘導、先導する行為

特に当時のヨーロッパに限らず、世界でポピュリズムが広がり、ハンガリー、アメリカ、ブラジルなどでポピュリストの政治家が台頭していく中で、そういった人たちに権力が集まっていました。

その様を見た時に、何か凄く被るところがあって、彼らがファクト(事実)を操作し、とても強いプロパガンタのツールとして使っている。それは20世紀が舞台のこの映画でも描かれていたことで、当時は紙媒体とラジオぐらいしかなかったけど、今はネットがあるので、情報が何百倍ものスピードで伝達していってしまう。やはりそこが今の時代の難しいところなんだと思います。

そんな中で主人公と同じ、調査型ジャーナリストの調査行動の役割は大きくなっていくんじゃないかと思います。例えばトランプ政権になってから何が起きたか、新型コロナウィルスの影響もあって民衆を扇動するような傾向というのがより強まってしまっている。そういう印象を私は受けているので、そういった部分も感じながら観ていただきたいです。

加えて、経済的な危機についても20世紀にも経験していますが、今回のことでより大きな経済的危機がやってくるんじゃないかとも言われています。本作では世界恐慌の時代を描いていてその部分も被っている作品なので、皆さんが考えるきっかけになればと思います。

赤い闇,映画

細田善彦さん
冒頭でジョージ・オーウェルが「私は悪い時代に生まれた。あたなは?」そして「未来が危ういからこそ、行間を読んでくれ。家畜の話で怪物の話を語れば…」と語りかけます。これは本作を通して監督が我々にメッセージを送っているように感じました。

監督が懸念していること(フェイクニュース、真実の在り処等々パンフ記載)の中で特に“人々の無関心”については日頃どのような時に感じているのでしょうか?

アグニェシュカ・ホランド監督
まず、こういった苦しみ、あるいは非常に恐ろしいことに対する人々の無関心というのは、ずっと人類史にあると思います。残念ながら、人間というものがそういったものに関心を払う、そして向き合うことが得意とは言えません。

劇中でも描かれているのは、人道に対する犯罪なわけです。あるいは人類に対する犯罪なわけですよね。でも、ホロコーストとか天安門事件とかに比べると、そこまでは知られていない。

スターリンが政治的な理由でウクライナ、そして他のソ連領の何百万人もの命を奪った、餓死させたという、そういう事件です。しかし、亡くなった方は皆無言のうちに亡くなっていきます。そこでガレスや他のジャーナリストたちが、世界に対して警鐘を鳴らさなければ、スターリン政権が解体されるまできっと誰も知らずにこの犯罪は埋もれていったわけです。

赤い闇

しかし、ニュースとしてこの事実が広がった時、西洋の民衆の反応は非常に大人しいものでした。それは、政治的なリアクションも同様です。すぐに違う事件が起きてしまえば、そっちに関心が移ってしまう。

それはこのことに限らず、ルワンダの大虐殺、天安門事件、カンボジアのポル・ポト政権の大虐殺、シリア内戦で難民となった沢山の人々が地中海からヨーロッパに密航でやって来る中で亡くなる方が沢山いること。このような話は聞いてるはずなのに、個人も社会も反応が凄く大人しいじゃないですか。

つまり、事のスケールに、私たちの反応のサイズが合ってないんだという風に思います。確かに、それぞれ家族や社会や国に問題を抱えているので、そちらに関心がいってしまうのは分かります。それにしても、自分の居る場所以外の世界との連帯感を凄く持ちにくくなっているように思うんです。時々それをスッと飛び越えて、皆に響く事件があったりしますが、大抵の場合こういった苦しみというのが忘我の果てに消えていってしまう。それは人道的な部分でもそうだし、政治的なところでもそうだと思います。

ヒーローはミステリー!

細田善彦さん
本作も監督の過去作『敬愛なるベートーヴェン』も素晴らしい作品でした。さらに、映画『ソハの地下水道』やNetflix配信『1983』を拝見させていただいておりますと、主人公が周囲に反対されていても、自らに正直に生きた人を描いた作品が多いと思います。監督ご自身の経験で、周囲に反対されてでも、やり遂げたことがあれば教えて下さい。

アグニェシュカ・ホランド監督
私はヒーローではないけれど…(笑)
少なくともそうありたいと思っています。

例えば、個人の話で言うと、どんなことでも“これは違うんじゃないか?”ということや、“不公平で正しくない”と思ったことがあれば、それをきちんと声を挙げて言う、ということはもちろん普段から心がけていることです。

物語を綴る時には、実は善や正義を体現しているヒーローを描く方が悪人を描くより難しいんです。なぜか邪悪なものはフォトジェニック(写真映えする)だったりして、凄く撮り易いんです。物語にすることも、なぜこの人は悪い人間なのか?ダークな人間になったのか?というのは描き易いし、観ている人も理解がし易いんです。

逆に、私にとっては正義感があって、そのために闘う人、危険であっても、周りの人がそれを受け入れなくても闘える人は“ミステリー”なんです。だから、どこかで正義感の遺伝子みたいなものが何なんだろう?正義感を持っている人はどんな人なんだろう?って探しているようなところがあるんです。その“ミステリー”に自分が触れてみたいんです。なぜ、そういう人たちはそういうことが出来るのか。そのリアルな理由、彼らの強さの根っこにあるものを知りたいのです。

赤い闇,映画

細田善彦さん

監督のプロフィールを拝見させていただき、まさにヒーローというか、素晴らしい方だと勝手に感じているのですが、監督ご自身もヒーローを探求されているのですね。

次に演出について伺いたいのですが、本作では英語の他にロシア語も使われていると思います。他の作品でもポーランド語があり、中国語を使っている作品もありました。色々な国の言葉を作品の中で使っていく上で、どのように演出されて、どのようにOKテイクを出していくのでしょうか?台詞の言い回しではないところも含めてOKを出されているのではないか、と推測しているのですが、その辺りを教えてください。

アグニェシュカ・ホランド監督
脚本を書いているので、どんな台詞なのかは当然頭の中には入っています。現場では、ダイレクト・コーチや通訳の方が入っていて、言語学的に正しいかどうかというのは彼らを通して確認します。

今回の場合は、ロシア語とウクライナ語と英語を使っていて、ウクライナ語はちょっと弱いのですが、ロシア語と英語は分かるのでそんなに大変ではありません。

細田善彦さん
スゴイ!!

アグニェシュカ・ホランド監督
ドイツ語は全然話さないけれど、2本の映画を作って、その時に凄く大きく学びとして感じたのは、結局言葉を理解しているかよりも、その時の“感情の真実”を掴んでいるかの方がよっぽど重要なんだということです。それは私が言葉を全て理解していなくても分かるんです。

つまり、言葉が分らなくても役者さんが真実、正しいことを、良質な台詞を発しているか、演技をしているかどうかは、ジャッジが出来るんです。それは、真実を掴めているか、あるいは表現出来ているかということなんだと思います。だから、皆「言葉」に価値を置き過ぎているのではないでしょうか。

どちらかというと言葉をどう使うかではなく、言葉が伝えていることの真実、特に感情の側面がきちんと伝わるかどうか、それがポイントだと思います。

子役のイマジネーションもミステリー!

細田善彦さん
“感情の真実”と仰っていたんですけど、ガレスが子役と演じている衝撃的なシーンがありました。凄く生々しい気持ちになり、圧倒されました。

あのシーンは子役の方にどういう表現を求めて、どのように感情を演出されましたか?

赤い闇

アグニェシュカ・ホランド監督
まず、ご両親に対して、お子さんにこういうシーンを演じてもらうということで、準備をしていただくようにお願いしました。子役はウクライナの子どもたちで、ウクライナではこの大虐殺、あるいは人為的飢饉のことは皆が知っているんです。小さな子どもたちでも皆知ってるような事件なんです。

なので、私からは“人間の”あるいは“お兄さんの”ということは説明してないですが、頭のどこかで理解していたんじゃないかと思います。多分、その時に感じている感情みたいなものを自分で落とし込む中で“それがそうなんじゃないか”って、きっとどこかで感じていたんだと思います。

今までも子どもたちを主人公にした作品を何本か作っているんですけど、言葉ではない感情的なイマジネーションを子どもたちは凄く豊かに持っているんです。例えば、何かのシーンを演じていても、実際何でそうなっているのか細かく分かっていないんだけれども、テンションみたいなものを大人の役者さんよりもつぶさに感じ取ることが出来たりして、それは私にとっても“ミステリー”なんです。今回もしっかりキャッチしてくれていて、それは“ミステリー”!!

しかも、撮影では人形を使っていたんですけど、あれ自体は見せていないんです。おそらく、どこかでそういう風に感じたのを落とし込んでくれた。あとは、ご両親に「何らかのトラウマにならないように守ってほしい」という風にお話したのもポイントだったと思います。

細田善彦さん
最後に、これから日本で映画を観る方に一言だけいただいてもよろしいでしょうか?

アグニェシュカ・ホランド監督
私たちにとって凄く重要で大切なことに触れた作品ですから、是非劇場で日本の皆さんに観ていただきたいです。そして、恐らく皆さんにとって何か重要な、鱗が落ちる、目が開くような体験をしていただけると思っています。

赤い闇,映画

(写真:左からジェームズ・ノートン、アグニェシュカ・ホランド監督、ピーター・サースガード。2019年ベルリン国際映画祭にて)

細田善彦さん
ありがとうございました。来日された時は、是非お会いしましょう!

インタビューを終えて!細田善彦さん動画メッセージ

【関連記事】映画『海辺の映画館ーキネマの玉手箱』細田善彦さんインタビュー


監督:アグニェシュカ・ホランド『太陽と月に背いて』『ソハの地下水道』
脚本:アンドレア・チャルーパ
出演:ジェームズ・ノートン「戦争と平和」(BBCドラマ)
ヴァネッサ・カービー『ワイルド・スピード/スーパーコンボ』
ピーター・サースガード『ブルージャスミン』

配給:ハピネット 配給協力:ギグリーボックス

【コピーライト表記】
場面写真コピーライト:Photo by Robert Palka © 2019 Film Produkcja All rights reserved
監督モノクロ写真コピーライト:Photo by Jacek Poremba
ポスタービジュアルコピーライト:© FILM PRODUKCJA – PARKHURST – KINOROB – JONES BOY FILM – KRAKOW FESTIVAL OFFICE – STUDIO PRODUKCYJNE ORKA – KINO ŚWIAT – SILESIA FILM INSTITUTE IN KATOWICE

スターリン体制下のソ連に立ち向かったジャーナリストの実話!映画『赤い闇 スターリンの冷たい大地で』公開決定

8/14(金)新宿武蔵野館、YEBISU GARDEN CINEMA ほか全国公開!

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