映画『狂武蔵』坂口拓さん&下村勇ニ監督インタビュー

映画『狂武蔵』坂口拓さん&下村勇ニ監督

映画『狂武蔵』
坂口拓さん&下村勇ニ監督インタビュー

山﨑賢人さんの出演も話題となっている“侍映画”『狂武蔵』が本日8月21日(金)より全国公開中です。

本作は、アクション映画『RE:BORN』で主演し、常に日本のアクションシーンを牽引し続ける坂口拓さんが9年前に撮影し、日の目を見ぬまま眠っていた幻の作品を、『GANTZ』『キングダム』シリーズのアクション監督を務めた下村勇ニ監督がメガホンを取り完成させました。

今回は、本作の公開を記念して坂口拓さんと下村勇ニ監督にお話を伺い、77分ワンシーン・ワンカットで撮影、坂口さんがたった独りで400人以上の相手を斬り捨てるという前代未聞かつ実験的な戦いの真相に迫りました!

―――― 9年前の作品に追撮シーンを加え、今回の作品を完成されたと伺いました。下村監督は坂口さんの幻の作品を観た時にどのように感じられたのでしょうか?

映画『狂武蔵』下村勇ニ監督

下村勇ニ監督、77分ワンシーン・ワンカットを語る

下村勇ニ監督
2011年に彼が撮るって話は聞いていたんですけど、現場には行っていないんです。撮った直後に彼は体力的にも精神的にもボロボロになって、もう何もしたくない、刀も握りたくない、という期間があって、それほど辛かったみたいです。

しばらく経ってから彼の自宅で、撮ったものを観たんです。まだ効果音も音楽も入ってなくて、正直冒頭は面白くはなかったです。“戦っているなぁ”って感じ。

でも、30分、40分を越えたぐらいからちょっと変わってくるんです。瞳孔が開き、体の力が抜けて、多分体力的にも限界だったのでしょう。限界を突破したことで違う次元に行ったかのような、ゾーンに入っている感じ。それまで相手を見て相手に対して斬っていたのが、もう相手を見ずに気配だけ感じてどんどん動き出して、戦いの中で彼が強くなっていくドキュメントを観てるような感覚になったんです。

権利の関係もあってずっとお蔵入りになっていましたが、いつか作品として完成させて公開したい気持ちはずっと持っていました。

―――― 戦いが進んでいくうちに坂口さん本来の戦いと坂口さん自身の変化が見て取れたので“これは作品にしたい”という思いがその当時からあったのですね。

下村勇ニ監督
そうですね。
観ていて、ストーリーはないんですけど、彼の生き様が見えてくるんです。“なぜ、限界を突破してまで戦い続けるんだろう?”って。それにちょっと感動すら覚えたというか、だから、これを作品として公開したら、それを観た人は色んなことを感じるんじゃないかって、そういう想いもありました。

―――― 坂口さんとしてはいかがですか?早々に指と肋骨が折れるほどの激しさだったと伺いました。

映画『狂武蔵』坂口拓さん

前代未聞の戦いを振り返る坂口拓さん

坂口拓さん
そうですね。僅か開始5分で指が折れました。

映画を見てもらったら分かるんですけど、木剣で一番折れない樫の一番硬い木剣を用意して、銀を塗って使っているんですけど、刀の鍔(つば)が早目に割れちゃうんです。本物の刀ではないので。相手の刀が鍔に当たって割れたので、手を護る鍔がなくなり、その後、直に指に当たったんです。

竹光(たけみつ)だと折れるので絶対に無理ですし、真剣(しんけん)でやるかって言えばやれないんです。それで先が尖っていて鋭い樫の木剣を手に入れてやろうということになったんですけど、やっぱりすぐに壊れちゃって。やってみて分かるのが、鍔って役に立つんだなって。だからこそ、鍔がすぐに壊れました。もしかしたら、実際の合戦でも意外と鍔は先に壊れたのかもしれないです。ものの5分で気が付いたら指が変な方向に曲がっていたんで、“ああ、折れてるな”と思いました。
※竹光:竹を削ったものを刀身にして刀のように見せかけたもの。

肋骨が折れたのは中盤でした。それは音がバキッって。恐らく、刀を振っている時に自分の柄(つか)が肋骨に刺さって、相手の体重がかかってバキッて折れたんです。

―――― 片膝をついて立ち上がれなくなり、両膝を地面について戦っていた時に何かがあったのでは?と感じたのですが、あのシーンではなかったのでしょうか?

坂口拓さん
アレは僕が覚醒し始めたから皆が怖くなって来なくなったんです。だから、疲れているフリをしたんです。弱っているフリをしたらもっと来てくれるかな?って。つまり戦術です。だから、膝を抑えてからすぐに蹴っているはずなんです。

下村勇ニ監督
要するに40分ぐらいから彼が変わってきたので、周りもビビっちゃうんです。どう斬りかかっていけば良いのか分からない。なので、アドリブで「来いよ、来いよ」って手招きをしたり、彼の方から誘い出すんです。その辺の変化も面白いです。

―――― 「本気でかかって来い!」というあの場の状況から出たリアクションだったのですね。

坂口拓さん
そうです、発破をかけたんです。
撮影前に、「とりあえず、本気で殺しに来てくれ。倒れても殴り続けて、動かなくなったら終わりでいいから。一度でも殺しに来ないなら、ルールを無視して俺が殺しに行くよ」と言ったんです。そうしたらメチャメチャ来たんです。いやいや、そういうテイじゃんって。開始5分で体力もなくなりました。ゼロ状態でした。

―――― しかも、水を飲むのかと思えば、含むだけにされていて…

坂口拓さん
日本の特殊部隊の方々と仲がいいので呑んだことがあるんですけど、彼らも水が飲みたくても喉が閉じちゃって飲めない。唾液だけがダラーっと出ちゃうと言っていました。戦場アルアルらしいです。

―――― 鍔(つば)の話題がありましたが、確か小説「新選組血風録」(著者:司馬遼太郎)によると戦った後に指がバラバラ落ちていたとか。実戦でも鍔が割れたのでしょうか?

坂口拓さん
それでしたら「指切り」という技があるんです。上段から振りかぶった時に、刀じゃなくてあえて指の方を狙う技があるんです。実は僕の得意な技の一つです(笑)

―――― 小指や親指を失くすと力が入らなくなると言いますよね。

坂口拓さん
小指ですね。小指を失くすと結構ヤバイです。

―――― 空手でも“先手なし”って言うし、実戦では体の範囲を超えて相手の攻撃を避けたりしないので、見た目は派手にならないと思います。それでもこの77分の殺陣については、坂口さんのファンの方や実戦を知っている方々は、食い入るように観られるのではないかと思います。

坂口拓さん
僕はリアリズムアクションにこだわっているんですが、普通はアクションってやっぱり派手にしなきゃいけないと思うじゃないですか。面白かったことは、立ち回りを決めないで「リアルにしていいよ」って言うと、相手もこっちの動きを見ながら動くので、アクションよりも取り決めみたいな動きになってくるんです。前半はまるで取り決めしているみたいな。後半、俺が疲れ始めてから皆も変わってくるんです。

下村勇ニ監督
最初はちょっと段取りっぽいところもあるんですよね。彼も緊張しているので、攻撃のリズムが単調に感じるのですが、後半になると自由自在に本能的に動いている。

坂口拓さん
むしろ前半こそが一番疲れてリアルだったんです。だからこそ、アクションの味付けって必要なんだなって。本作の場合は77分ワンカットだから、逆にそれも味になると思うんですけど。リアルを77分までやったから面白いと思いますけれども、10分ぐらいリアルでやってもそんなに面白いものじゃないのかもしれない。

―――― 相手役の方々も最初から全力ですし、何発か斬られても問題ないというものでもないですものね。

坂口拓さん
そうなんです。ふざけるなよ!って(笑)

もう開始5分で腕がパンパンでした。仰る通り、1回当たったら終わりだと思っていたので、それだけ集中して刀を振って防御しているんです。そうしないと折れちゃいますし、折れたら残りは片腕で戦わなければいけないんで。でも、後半は力じゃなくて片手でも受けられていたんです。

―――― しかも、スピードは全く落ちていなかったですよね?

下村勇ニ監督
後半になればなるほど速くなっていくんです。

―――― 上段を狙いつつも下段を攻めるなど武道をかじった人であれば「おおっ!」って思います。

坂口拓さん
アクションはリアルではないので、心のフェイントがないんです。でも、『狂武蔵』は空手とかちょっとでも武道経験がある人が観たら「あっ、フェイント入れてこうやってやってるんだな」とか「こっちに意識向いてそっちを斬るんだな」とか、意外とアクションにはない心理戦があるので、そういう意味での楽しみもあります。

「心」が面白いというか、まあ、血が通ったアクションですよね。

―――― 本作で9年前の坂口さんとラストのシーンを観ていると、アクション映画の集大成というか、「この9年間を見てくれ!」と言わんばかりのラストになったような気がします。
河原でのシーンについて、監督にはどのような狙いがあったのでしょうか?

下村勇ニ監督
狙いというか、彼が(一度)引退した後、一緒に復帰作『RE:BORN』を撮ったんですが、その時に彼が修行というか訓練して、本当に強くなってしまったんです(笑)

9年後の現在の彼には、その強さが佇まいというか、存在感に出ている。『狂武蔵』の中では何か悟っているようにも見えるんです。

普通だったら河原は足場が悪いから、アクションを創る側としては凄く気を遣うんですけど「いや、俺どこでも行けるよ」って、そんな感じなんです。だから、その辺が『狂武蔵』と宮本武蔵がシンクロするんですけど、この9年間の間に彼も成長して何か違う次元に行ったということが、追撮の彼が川を無表情で眺めているあの佇まいとか、あの画だけでも感じ取れるのかなと思います。

関連記事:山﨑賢人、侍役奮闘!映画『狂武蔵』メイキング映像解禁!

―――― 佇まいも武術の力量も進化されて、集大成的に受け止めさせていただきました。
ちなみに、そもそも坂口さんと下村監督はどのようなご縁で出会ったのでしょうか?

映画『狂武蔵』坂口拓さん&下村勇ニ監督

出会った当時も今も坂口さんは”破天荒”…

下村勇ニ監督
僕は元々奈良出身だったのですが、10代の頃、大阪の倉田アクションクラブに在籍していて、20代の前半頃に上京してずっと自主映画をやっていました。

東京で知り合った、スタントマン仲間の友人が彼で、僕が作った自主映画を観て“面白そうだから会わせて”みたいな感じになり、一緒に自主映画を撮るようになったんです。

坂口拓さん
相当長い付き合いです。俺が二十歳の時に会っていますから。

下村勇ニ監督
彼がデビューした作品『VERSUS』では僕がアクション監督をしています。

―――― 倉田アクションクラブ(現倉田プロモーション)の名前が出ましたし、千葉真一さんもまだ現役で活躍されていますし、最近では『TRAVERSE』田部井淳さんや武田梨奈さんにも取材をさせていただきました。

坂口拓さん
僕はジャパンアクションクラブ(通称:JAC)に入って半年で「アクションってこんなに嘘なんだ」って思って辞めて、そこからは自分のアクション道を行っているんです。

下村勇ニ監督
自主映画で初めて会った時は、すでに今と変わらず破天荒でしたから(笑)
本当にJACでアクション学んだの?っていうぐらいオリジナリティーがあったというか。

坂口拓さん
いかれているんです。

当時は、PRIDE、猪木軍、K−1とか格闘技の全盛期でこんなにみんなが格闘技を見ているのに、“映画だけは何でリアルを無視してもいいの?”ってずっと疑問に思っていたんです。だから、リアルな世界に身を置きたくてJACを辞めてから色々な格闘技をやったり、危険なところに身を寄せてリアルを学んだりっていうことをやり通して、自分のリアリズムアクションを作ったんです。実際は基本だけをJACで習った感じです。

―――― 最後になりましたが、日本のアクション映画が何処に向かうのか。コメディとしてやる分にはリアリズムを追い求める必要はないのかもしれませんが、空手、剣道、柔道など様々な武道がある日本には世界に発信する義務もあるし、技術も持っているんじゃないかと思います。アクションの将来像に関して、お二人のお考えをお聞かせください。

下村勇ニ監督
若い時は、日本のアクション映画業界を変えていきたいという強い気持ちはありましたが、今は、どちらかと言えば、自分が本当に創りたい作品を、賛同してくれる熱い仲間たちと一緒に創りたい。後世に残るような作品。坂口と作るのであれば、やはり侍映画ですね。日本映画は時代劇が衰退している。

そんな中、彼は成長しているというか、まだまだ進化していくと思うんです。だから、日本の侍が強い、日本人が強いというのを世界に見せつけたい。昔の三船敏郎さん、勝新太郎さん、若山富三郎さんみたいな、ああいう本物の俳優さんが居ないからこそですよね。

坂口拓さん
結局、彼らは本当に侍と言われる人が居たかもしれないところにちょっと触れ合っているんですよね。だから、刀が本当に上手い。今はそういう人が居ないから若い俳優さんも可哀想ですよね。

この令和の時代に合戦に出たことがある人は俺しかいないんです。77分で588人斬りをリアルでルールなしで、誰かやっていますか?って言ったら誰もやっていないです。

本作の戦いで強くなって進化したんですけど、逆に僕が俳優ではなくあえて戦劇者と名乗っているのは、俳優さんだと酷な仕事だと思うんです。怪我がつきものですし、僕の顔にも刀傷がありますから、俳優さんにそんなこと求められないじゃないですか。俳優さんが出来ないこと、体を張るという意味ではスタントマンと似ているかもしれません。アクション俳優でもないですね、ケガを厭わないので。だけど、ルールは守ります。アクションのルールというのは相手をリスペクトして、思いやりを持って怪我をさせない。それさえあれば、映画の世界の中で殺し合いをしてもいいと思うんです。

せっかく素晴らしい俳優さん方が刀を振っていた時代があったわけですから、そのさらに上、歴代の俳優さんを超えられるとしたら自分が戦劇者として、昔の侍と戦っても引け劣らない強さを手に入れて“ちょっと日本の侍やべーな”“カッコイイじゃん侍映画”っていうものを残したいです。

―――― ありがとうございました!

坂口拓さん&下村勇二監督から動画メッセージ

あらすじ

1604(慶長9)年、9歳の吉岡又七郎と宮本武蔵(坂口拓)との決闘が行われようとしていた。武蔵に道場破りをされた名門吉岡道場は、既にこれまで2度の決闘で師範清十郎とその弟伝七郎を失っていた。面目を潰された一門はまだ幼い清十郎の嫡男・ 又七郎との決闘を仕込み、一門全員で武蔵を襲う計略を練ったのだった。一門100人に加え、金で雇った他流派300人が決闘場のまわりに身を潜めていたが、突如現れた武蔵が襲いかかる。突然の奇襲に凍りつく吉岡一門。そして武蔵 1人対吉岡一門400人の死闘が始まった!

キャスト

TAK∴(坂口拓)、山﨑賢人、斎藤洋介、樋浦 勉

監督

下村勇二

原案協力

園 子温

映画『狂武蔵』作品情報

2020年/91分/16:9/5.1ch
企画・制作: WiiBER U’DEN FLAME WORKS 株式会社アーティット
配給:アルバトロス・フィルム
©2020 CRAZY SAMURAI MUSASHI Film Partners
公式サイト:https://wiiber.com/

8月21日(金) 全国ロードショー

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