映画『宇宙でいちばんあかるい屋根』藤井道人監督インタビュー【前編】

藤井道人監督
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負の感情から優しい作品へ
映画『宇宙でいちばんあかるい屋根』
藤井道人監督インタビュー【前編】

9月4日(金)に全国公開を迎えた清原果耶さん初主演映画『宇宙でいちばんあかるい屋根』。監督は、前作『新聞記者』で第43回日本アカデミー賞最優秀作品賞を受賞した藤井道人監督です。

藤井監督が高い注目の中で世に送り出す本作は、藤井監督の特徴でもあるエンターテインメント性と社会性を見事に融合させただけではなく、新たなエッセンスとして“優しさ”や“温もり”が散りばめられています。そして、これまでの『青の帰り道』『デイアンドナイト』『新聞記者』などの作品と同様に、観た観客が様々な想いを抱き、語り合い、感情を動かされ、自然に心の中に残っていく「映画」となりました。

今回は、藤井監督に本作の映画化を決めた理由や監督が大切にされた視点、清原果耶さんと桃井かおりさんの魅力など、藤井ワールドをたっぷりと語っていただきました。

20代で出し切った負の感情から優しい作品へ

―――― 映像がとても綺麗で清涼感たっぷりの作品でした。『新聞記者』の次の作品に児童文学の映画化ということですが、その振り幅みたいなものは監督の中ではいかがでしたか?

藤井道人監督
今日は絶対そのお話になるだろうなと(笑)

実は『青の帰り道』のクランクイン前にこのお話をいただいていて、当時は29歳。前田プロデューサーが『ポケットモンスター サン・ムーン』のCMを観てオファーをしてくださって、幾つかやりたいと言っていた原作の中で、これが一番自分に向いてなさそうだったので「これにします」と決めました。14歳の少女を29歳のおじさんが描くのは難しいだろうと思ったんですけど、すぐに公開するわけではないし、というのが4年前ぐらいの感じだったと記憶しています。

ちょうど『青の帰り道』と『デイアンドナイト』の脚本を書いていて、社会への負の感情というか、そこに対してある種、出し切った。20代に思っていたことは本にしてしまった。逆に、結婚して自分が大人になっていく過程の中で、こういう優しい作品に触れておく必要があると思っていたところに、イレギュラーな形で『新聞記者』が入ってきて、僕のフィルモグラフィーが急に崩れて(笑)

―――― 20代で吐き出して、30代で優しい作品へ移行しようとしていたところに『新聞記者』だったのですね(笑)

藤井道人監督

藤井道人監督

藤井道人監督
こういう人生なのだと割り切っています。

『新聞記者』はいい経験、いい出会いがあったなと思いつつ、自分の中ではあまりそれによって考えが変わることはないと思っていたら、意外なことにクランクインの3ヵ月前ぐらいに脚本を全部書き直したんです。

元々は、2025年ぐらいの設定で、空にはドローンが飛んでいて、部屋の中にはお掃除ロボットがあって、デジタライズされた世界の中で温かい話をやろうとしていたんです。でも、『新聞記者』が終わってから、未来の話を提示するには自分の中ではまだ早いなって。歴史って言うとアレですけど、自分が今まで生きてきたストーリーをちゃんと観客の人が思い返せるような、だからこそ人に優しく出来るような映画になって欲しいと思って、2005年の設定に変えました。

―――― 宇宙の物語そのものの軸はブレていないけど、『新聞記者』から良い影響は受けているのですね。

藤井道人監督
キャラクターが変わったとかストーリーラインが変わったことはほぼなかったですし、ラストのシーンは2020年にしたいなって思いました。

―――― パンフレットには、前田プロデューサーと共感のポイントが一緒だったとご紹介されていますが、どの辺りが同じだったのか具体的にお聞かせください。

藤井道人監督
前田プロデューサーとは映画の趣味が合うというか、僕自身も前田さんがプロデュースした映画を観て育ったこともあるし。沢山あるんですが、一番はやっぱり郷愁感というか、誰しもの記憶にこういう少年少女の時代があって、周りの人に凄く支えられて生きてきた彼女の成長期。ああいう口の悪いお婆ちゃんがいるけど、それが嫌いじゃないというか、どちらかというと人となりの感じとかが凄くテーマとしてあって。もっと絵本的で、ファンタジーな作品にすることも出来たんですけど、よりナチュラルな方にやろうというところも前田さんと一致していたし、一つ一つの選択が似ていました。

(この作品を選んだ)当時は、そこまで社会のことにも興味がなかった20代、売れたい売れたいばかりだった時なので、今になればやった方がいい映画だなって思えるんですけど、よくあの時にこの本を選んだなって、運命的なものを感じます。

藤井流、14歳少女の描き方とは?

―――― 向いてなさそうだから選んだという選択が興味深いのですが、14歳のヒロインの内面を描いていく時に難しかった点や悩んだ部分はありましたか?

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藤井道人監督
意外と考え方次第だなと思っていて、つばめ(役:清原果耶さん)を全て知ろうとか、もしくはつばめを定義しようとすると失敗するだろうなっていうのを脚本のプロットを書いている段階で気付いて、笹川マコト(役:醍醐虎汰朗さん)の目線でこの映画を描くことにしたんです。

中学の時にクラスで全然喋らなかった子、もしくは、ちょっと可愛いなと思ってたけど自分とは接点のなかった窓際に居たあの女の子、彼女は実際どんな子だったんだろう?みたいな知的探求から始めていくとつばめを描きやすくなったんです。

たまたま自分の婆ちゃんと知り合いで、友達みたいな感じで。そういう風な考え方をしてみると凄くつばめという人により興味が湧いて、それを清原さんが演じてくれることが決まって、より現実味が帯びていきました。

―――― 監督ご自身の10代の記憶を呼び覚ましながら創っていった部分もあったのですかね?

藤井道人監督
すっごい記憶の海を泳いで、昔の写真をいっぱい見直して「あー、あったあった!」みたいな。余談ですけど、写真を見たら昔の僕はオレンジの服ばっかり着ていて、だから笹川マコトはオレンジの服を着せているんです。

―――― 視線を変えて脚色をされていく中で、原作から映画化をしていくプロセスにおいては、監督ご自身が今回大切にした感覚とか視線はございますか?

藤井道人監督
原作の映画化はデビュー作以来で、そのデビュー作は伊坂先生の大好きな本。自分がファンだった本だから、変えないというか変えちゃいけないみたいな。何て言うんですかね。160キロの大暴投を投げられるはずなのに142キロぐらいをどこか潜在的に狙いにいっていたような感覚があったんです。

今回は幸運なことに原作を知らなかったので、大事なことは何だろう?って解体する作業を自分の中で始められたんです。原作者の野中さんはアメリカのLA在住で、来日された際にご挨拶をさせてもらったら、「映画は映画なので自由にやってください」と言ってくださり、それは救いでした。

最初はずっと本を読みながら書いていたんですけど、後半はあえて本を読まないようにして。どんどんパラレル化させるというか、原作は原作の良さがあって、映画には映画じゃないと出せないことを監督として知らなきゃいけないと思って、なるべく離す。こんな言葉があったなとは思いながらも読み返さない。自分の言葉にして、自分の中の星ばあ(役:桃井かおりさん)ならこうするみたいな形で書いていきました。

―――― 原作との距離を保ちながらも、絶対に映像として描きたいと頭の中で真っ先に浮かんだシーンはございますか?

藤井道人監督
ラストカット。

これは本にないんですけど、小説のラストは看板屋を開くんだと言って14歳のままで終わるのですが、僕は彼女が大人になった姿を書きたかったんです。彼女が色んな人に出会って、一人の人間として大人になり、人に何かを与えられるような女性になったんだなっていうところにカタルシスを持っていきたかった点は、初稿から変わっていない気がします。

―――― 成長を描きたかった、と。

藤井道人監督
そうです。

清原果耶は欠かせない存在に

―――― キャストについてですが、清原さん演じるつばめは一見物静かそうでいて、心の中では結構色々と叫びたがっているというか、葛藤を抱えていて、そういう演技が清原さんはお見事でした。監督から見た清原さんはどのように映っていらっしゃいましたか?

宇宙でいちばんあかるい屋根,画像

藤井道人監督
15歳のオーディションの時から見ているので、何て言うんだろう…、今は同志というか俳優として自分の映画には欠かせない存在にこの映画を経てなったのかなと。

『デイアンドナイト』の演出は今回とは真逆で突き放す。要するに「分からないところない?大丈夫?」とかではなくて、児童養護施設にいる奈々として悩んでいる彼女に監督の僕は何も言ってくれない。その時は、プロデューサーとして山田孝之が居たのでその演出方法でも大丈夫だと安心していたんです。他の子役や主演の阿部進之介さんにはガンガン演出をつけるのに、(清原さんは)自分だけ何も言われない。そういう関係だったのであまり喋らなかったんですけど、「宇宙」は逆で、星ばあの居ない時は自分が星ばあのように横に居て彼女を見る。お陰で“こんな表情するんだ”というのは沢山見せてもらいました。そういう意味では僕自体、一緒に成長させてもらえて良かったなと思います。

―――― そして、本作を語る上で外せないのが桃井かおりさんです。個性的な俳優さんですが、どういう演出をし、どういう演技をしてもらうかということについて、監督が心に残っている桃井さんとの会話はございましたか?

宇宙でいちばんあかるい屋根,画像

藤井道人監督
僕らはクランクインしていたんですけど、桃井さんはまだLAにいて、撮影の前日にLAからいらっしゃったんです。「かおり、来たから大丈夫だよ~」って(笑)

僕たちからするとレジェンド。つばめのお父さん役の吉岡さんもそうなのですが、好きな映画というか、僕らにとっての映画を形成する一人みたいな。そういう人が一番映画を好きなんだなと思えたことで、スタッフがまたガッと結託出来たんです。メッチャ怖くて言うこと聞いてくれなかったらどうしようって思うじゃないですか。まあ、言うことはたまに聞かないんですけど(笑)

僕がビジョンを完全には見えていない時に「じゃあ、一回やってみましょう」ってお願いするんです。演じてもらってみて違かったら「桃井さんそれ違くて、僕はこういう表現がしたいんです」って言うと「あっ、そっち?分かったやるよ」って言ってやってくれるし。桃井さんも監督の経験があるので、見えているビジョンがあるんです。

僕の撮り方は発展途上というか、完成されていないことを前提に、最初から最後までお芝居を通しで撮るんです。それをやり易いという方もいらっしゃいますし、ベテランの方になると「使いはどこなの?」って言う方も勿論いらっしゃいます。その辺はやり方なので役者さんに合わせるんですけど、桃井さんはそういうのは一切言わない。ハンバーグを食べるシーンも何回でも食べる。逆に心配になっちゃって、「桃井さん、そこはもう撮っているんで(食べなくても)大丈夫ですよ」って言うと「大丈夫よ」って。一番子どもっぽいというか、無邪気なんですよね。

一方で、自分がこう思ってるからこう言いたいんだということに対しては凄くロジカルで、沢山教えてもらいました。「大事なことを今言うじゃん。だから目は見たくないんだ」とか。大事な時だから目を見られないという桃井さんの説得力は、自分が演出をする上でも凄く身になりました。

―――― 清原さんは初主演作品で、しかも桃井さんとの打ち合わせはSkypeのみで行い現地でいきなり演技をされたと伺いました。相当プレッシャーも感じていらっしゃったのではないでしょうか?

藤井道人監督
初日はあったと思います。

やっぱり、桃井さんの「かおりモード」もあるし。でも、緊張もあって現場が止まったりした時に僕は全く慌てません。だって「初めまして」の状態で急に合うわけがない。むしろその状況を楽しんで、お互いのやりたいことの何が違うのかなって。最終的にOKかNGを出すの自分だから、初日は結構3人でワチャワチャやりました。緊張していたとは思いますけど、2日目以降は凄く伸び伸びとやっていた気がします。

―――― 清原さんも、桃井さんの演技を受ける中で成長されていったのでしょうね。

宇宙でいちばんあかるい屋根,画像

藤井道人監督
清原さん自体も反応するタイプの俳優なので、相手の言葉が本当であればあるほどいい表情をしてくれる。そこは凄く、お二人は最後うまくいってリアクションしてくれたんじゃないかなと個人的には思っています。

―――― 清原さんの目の演技・表現も凄く素敵でした。目の演技に関しては何か演出されたのでしょうか?

藤井道人監督
僕が演出で心掛けているのは、動揺を感情で出す時に目を揺らしてから落とそうかとか、一回鼻をすすってから上を見た方が葛藤してる感じが出るとか、そういうことはテクニックとして知っていたとしても一切言わないようにしています。

清原さんに対しても、清原さんが思った表情が出ないなと思ったら、多分それは本に欠陥があったり、演出の導き方や配置に問題があることが多いと思うので、そういう時は「清原さん、今のこの台詞で無理矢理寄ろうとしてくれたけど、寄らなくてもいいですよ」とか「離れたままで聞いてみたらどうなるか見ていいですか?」って言うと欲しい感情が出たり。そういうチューニングはするんですけど、基本的には感じたことを純粋にやってくれる人なので、生き物として凄く面白いです。

俳優部としてやらなきゃいけないと分かっているからやるけど反応していない。上手い女優さんになるとそこを力技でやる人がいるんです。泣き芝居で、実はここを見てなくて、そっちを見て泣いている人とか。清原さんはそういうことをしないんです。だから、こっちも絶対に嘘をつけないし、つかないし、そういう関係でモノを創れる関係は凄く貴重というか素敵。

お芝居が上手い俳優さんは沢山いますけど、清原さんはオーラというか纏っているものが全然違うというか。吉岡さんもずっと「あの子はスゴイ!!」って、その反応も嬉しかったです。

後編へ続く


映画『宇宙でいちばんあかるい屋根』作品情報

キャスト

清原果耶
伊藤健太郎 水野美紀 山中 崇 醍醐虎汰朗 坂井真紀 吉岡秀隆
桃井かおり

脚本・監督:藤井道人
主題歌:清原果耶「今とあの頃の僕ら」(カラフルレコーズ/ビクター)
作詞・作曲・プロデュース:Cocco

原作: 野中ともそ「宇宙でいちばんあかるい屋根」(光文社文庫刊)
配給: KADOKAWA © 2020『宇宙でいちばんあかるい屋根』製作委員会

公式HP:uchu-ichi.jp

9月4日(金)全国ロードショー

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