映画『宇宙でいちばんあかるい屋根』藤井道人監督インタビュー【後編】

藤井道人監督

藤井監督が語る理想の人間関係
映画『宇宙でいちばんあかるい屋根』
藤井道人監督インタビュー【後編】

インタビューの前編では14歳の少女が主人公の『宇宙でいちばんあかるい屋根』の映画化を決めた心境や、『デイアンドナイト』に続きコンビを組んだ清原果耶さんへの厚い信頼を明かしてくださった藤井道人監督。

前編はこちら

後編では、より深く本作の見所や藤井監督の想いを打ち明けていただきました!

清原果耶の主題歌に大反対!?

―――― 清原さんの主題歌も映画の魅力の一つだと思いますが、Coccoさんに楽曲提供をお願いし、清原さんに歌をお願いした狙いを教えていただけますか?

藤井道人監督
俺は大反対してて、最初は(笑)

『デイアンドナイト』の主題歌が野田洋次郎さんに決まっていたけど、彼から「清原さんが唄った方がいいんじゃない?」と提案があり、急遽抜擢して「気まぐれ雲」を唄ってもらったら、凄く良かったんです。

今回、「宇宙の主題歌、清原さんでどうかな?」ってプロデューサー部に言われた時に、僕が凄く唄わせたい監督みたいじゃないですか(笑)あの時は清原さんが大野奈々役として唄っていたから良かったけど、今回はプロダクトマネジメントみたいに思えた。主演に背負わせ過ぎだろうみたいな気持ちがあって。

Coccoさんに「今とあの頃の僕ら」を書き下ろしていただいて、「Coccoさんに歌っていただけばいいじゃないですか」って、最初はそういうモードだったんです。ただ、守りたかったのは清原さんの感情だから「清原さんが唄いたいって言えばいいです」って。清原さんは「映画のためになるなら」と言ってくださったので、そこで僕が反対する理由は一つもないから。

どうすればこの映画にとっていいフュージョンなるかを考えた時に、Coccoさんのライブに行ったんです。そこで、Coccoさんが素晴らしいことを仰っていて「Coccoはいつも逃げてばっかでこうやってフラッと戻って来て歌を歌ってごめんなさい。でも、今、聴いてくれてた皆が結婚して大人になって、Cocco久しぶりに聴こうって戻って来てくれるだけで自分はそういう存在でいられる。“おかえり”って皆が言ってくれるだけで幸せです」って。それを聞いた時に、この映画で自分が伝えたいメッセージに近かった。昔は色んなことがあって、今は大人になってしまって、守んなきゃいけないものとか色んなものがある中でも幸せでいて欲しい、そういうものをCoccoさんから清原さんにバトンを渡すイメージなら想像出来ますって言って、いい曲が完成したと思っています。

MVも僕が撮って、8月11日から配信中なんですけど、19歳になって美大に通っているつばめが、自分の生まれた町に戻って来る4分間のショートフィルムです。映画を観る前だとフワッとして何だかよく分からない部分もあるかもしれないけど、純粋にMVとしても楽しめるようになっているし、映画が観終わったらもっと余韻が出るような作品になっているので、是非ご覧ください。

藤井監督が語る理想の人間関係

―――― 今回の物語でつばめと星ばあの関係に惹かれました。清原さんと桃井さんが直前まで会っていなかったことが上手く作用したのかなとも思います。全く違う世界の2人がぶつかり合って、どう関係を結んでいくのか。藤井監督は、友達のようで家族のようで、色んな要素が詰まっているつばめと星ばあの関係のどんなところに惹かれましたか?

藤井道人監督

藤井道人監督
今って皆コミュニケーションが上手くなり過ぎて。言葉も凄く上手いし、忖度しまくるというか、言いたいことを言わない。

自分の会社も徐々に大きくなって、30人ぐらい若いメンバーがいて、こっちがフラットな関係でいようと思っても、(彼らは)言葉を選んでいるというか。でも、この2人にはそれがないし、そこを描きたかった。本来、自分はなるべく素直にいようと心がけていて、ネットではみんなあんなに自由に発信出来るのにとか思いますし、本人に言わなくなっている理由は何なんだろうなって思った時に、人間関係が変わってきているんだと思うんです。希薄になってきてるというか。自分はちゃんと顔を突き合わせて「お前のそういうところダメなんだよ」って言われたいし、言いたいし、そういう関係がつばめと星ばあにあったらいいなと思っていて、実は僕もそういう関係の人が一人いて、スターサンズの河村さんというプロデューサーがいるんですが、毎日ディスカッションの嵐で。

我が強いんです。「俺はこうしたいんだ!!」って言われるから「俺はそうは思いません」って双方引かない感じで。でも、そこが好きというか、そんなことを言って強がっているけど、実は「じゃあ、もう辞める」とか言ったら多分嫌だろうし、何かその関係というか。一人いれば十分だと思うんですけど、それが彼女でもいいし、親でもいいし、こういう関係いいなって。

―――― 監督には、今まさに星じいがいるのですね。

藤井道人監督
80歳まではやると言っていて、困ったもんです(笑)

清原果耶の演技は自分にとっての財産

―――― ストレートな質問になるのですが、好きなシーンというか、こんなのシーンが撮れたといったシーンがあればお聞かせください。

藤井道人監督
今回は『新聞記者』の後だってこともあり、現場が凄く楽しかったんです。一つも嫌なことがなかった。暑かったけど、夏生まれで暑いのは好きだし。だから、ほとんど目的の画が撮れている。画として技術としてはこの予算感の中でこれ以上のパフォーマンスを出せる組はないと思っていますし、そこに自信はあります。

やっぱり、芝居ですね。俳優部の芝居、特に清原さんの一つ一つの芝居を何一つ妥協せずに、ちゃんと初主演の彼女を良い役者だなって皆が思ってくれるように撮れたこと、それは自分にとっての財産だと思っています。

清原さんの芝居は凄く素晴らしいなと思って撮れたので満足してます。

宇宙でいちばんあかるい屋根,画像

―――― クラゲのシーンのファンタジックな感じが空を飛ぶイメージとも繋がっていて印象的でした。クラゲのシーンについてのこだわりやモチーフを教えていただけますか?

藤井道人監督
そうですね、山形県鶴岡市の加茂水族館に出会えたことも大きいです。

原作の中にもクラゲはちょっとだけ出ていて、今回はメタファーを凄く意識して入れた中に、クラゲって凄くいいなと思いました。クラゲってほぼ水分で出来ていて、死ぬ時も溶けてなくなっちゃうんです。この水槽自体が地球というか、中には小さいクラゲもいれば、大きいクラゲもいて、ひとつの世界、社会みたいなものを表現出来るものとしてクラゲを使いました。メタファーとして凄く大事な表現が屋根とクラゲです。

色んな色があっていいし、大きい屋根も小さい屋根も、大きいクラゲも小さいクラゲも、色々あってみんなイイというか。そんな中で僕らは生きているということが説明せずとも視覚的に伝わればいいなと思っています。この映画からのお土産というか、繋がっているもの。

星ばあの台詞で「まだ繋がってんだよ」って、あれは桃井さんが言いたいと仰って、「スゲー、イイ台詞ですね!」って付け足したんです。なんか2人が繋がってたり、彼女は繋がりを断ってしまった存在だから、繋がってみたかったりとか、死ぬまでに彼女は色んなことをやりたかったんだなって。それを、説明せずとも出せたらいいなとは思ってやりました。

宇宙でいちばんあかるい屋根,画像

―――― 星ばあは幽霊のようでいて幽霊らしくない。言葉を換えれば、世の中の目に見えない存在。ジブリの世界ではないですが、そういう存在は大事で、そこにつばめが心を許してお話を仕掛けたのかなと思うんです。そして、目に見えないもう一人の存在が習字の先生だったのではないかと思います。つまり、先生はつばめのお母さんが誰なのかを知っていて、いつか2人が出会うようにし向けたのではないかと。

藤井道人監督
なるほど、なるほど。

藤井道人監督

―――― そういう制作の意図がありましたかという話ではないんですけど、目に見える存在と目に見えない存在の違い、大切さについて、この作品を通じて監督はどう感じていらっしゃいますか?

藤井道人監督
一石な考察でございました。かなりロジカルに考えてしまうタイプなので、僕の中ではそこまでは(笑)

僕の中では小説の中にあった不透明さというか、目に見えないものが、映画の中ではもう少しだけロジカルに、見えてたかもしれないよって。観終わって映画館を出たカップルが考察出来るようにはしています。どちらにでも取れるようにはしつつです。

映画と絵画の共通点

―――― ―― 『青の帰り道』では自殺する青年が登場し、彼はお父さんとの意見の食い違いのようなものを引きずっていて、今回もやっぱり家族が複雑化していく中で、子供が心の葛藤を抱えている。それを大人には知って欲しいし、伝えるきっかけにもなっていると思います。
『新聞記者』もそうだと思いますが、監督としては社会現象や社会が抱える問題、課題に対して、映画を制作することでどうアプローチしていきたい、訴えていきたいという想いをお持ちなのでしょうか?

藤井道人監督
そうですね。あんまり社会派監督としての「自覚」(太文字)みたいなのは一切なくて。

やっぱりエンターテインメントですし、『今日から俺は!!』のように純粋に楽しめる映画があることは凄く良いと思っています。

ただ、映画は絵画と凄く似ているなと思うのは、時代の写し鏡であるべきだと思うんです。豊かな時には豊かな映画が沢山出来ていますし、豊かじゃない時、国家の状態が良くない時には、そういう問題を定義する映画が増えるというのは、常であるはずというか。

僕の父親が、絵画や、骨董のコレクターで美術館にメチャクチャ行くんです。昔は、ダリとかピカソとか「俺って変わってるでしょ?」系絵画が凄く好きだったんですけど、今は静物画が大好き。静物画って面白いのが、やっぱり印象派の時には、この時代には凄くそこに飾られてる果物とかが変わるんです。あれは絵の練習だと思って美術館で見た時に、「果物とある女」みたいなタイトルだと、ただの練習だと思って最初はスルーしてたんです。だけど、衣装だったり、器しかないとか、豊かさや貧困を表していて、こういう風に画家の人たちも意識があって描いてたんだって。

それは映画にとっても一緒で、今なぜこれを撮るのかってさっきも言ったのは、今自分たちが国と言うとあれですけど、社会ってものを考えていかなきゃいけない立場にいた時に、僕たちが伝えられる唯一の武器はTwitterじゃないと思うんです。映画だと思うので、その映画の中でちゃんと問いかけて、楽しんでももらえるし、そういう意味合いもちゃんと入れるような、そういうレイヤーをしっかり厚くしていける映画作家に30代はなりたいと思ってやっています。

―――― 今回も答えがあるわけじゃないですよね。この作品からまた色んな葛藤が出てくるかもしれないし、妹とのひょっとすると仲違いもあるかもしれないし、色んなドラマがあるけれども、その過程として、スクリーンに映っているつばめが何か生き生きとして、一つ乗り越えたみたいなところはとても感じました。押し付けではなく、自然な形で人間の生き様みたいなものを感じたし、星ばあの台詞であったと思うんですけど「見てみなよ、家族だってお父さんもお母さんも血つながってないじゃないか」と。

藤井道人監督
「元は他人だからな」って(笑)

―――― そして、「ひとつ屋根の下で家族って作られていくもんだよ」という言葉が心に響きました。素敵な作品を有難うございました。最後に、公開を楽しみに待っている映画ファンに向けて、動画のメッセージをお願いします。


映画『宇宙でいちばんあかるい屋根』作品情報

キャスト

清原果耶
伊藤健太郎 水野美紀 山中 崇 醍醐虎汰朗 坂井真紀 吉岡秀隆
桃井かおり

脚本・監督:藤井道人
主題歌:清原果耶「今とあの頃の僕ら」(カラフルレコーズ/ビクター)
作詞・作曲・プロデュース:Cocco

原作: 野中ともそ「宇宙でいちばんあかるい屋根」(光文社文庫刊)
配給: KADOKAWA © 2020『宇宙でいちばんあかるい屋根』製作委員会

公式HP:uchu-ichi.jp

9月4日(金)全国ロードショー

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