
松林うららさん&穐山茉由監督インタビュー
映画『蒲田前奏曲』内「呑川ラプソディ」
9月25日(金) よりヒューマントラストシネマ渋谷、キネカ大森ほかにて公開中の映画『蒲田前奏曲』。プロデュース&出演の松林うららさんと穐山茉由監督にお話を伺いました。
本作は、松林うららさん演じる売れない女優マチ子の眼差しを通して、“女”であること、“女優”であることで、女性が人格をうまく使い分けることが求められる社会への皮肉を、周囲の人々との交わりを介在しながら描いていく作品。4人の監督と伊藤沙莉さんや瀧内公美さんら映画やドラマに多数出演されているキャスト陣が結集し、1つの連作長編として仕上げました。
今回は、2つ目の物語『呑川ラプソディ』の穐山監督とマチ子役の松林うららさんに、物語の着想や本作を通じて描きたかった事、蒲田のオススメスポットなど、たっぷりと語っていただきました。

松林うららさん

穐山茉由監督
―――― 穐山監督には前回『月極オトコトモダチ』取材で、知り合いから友達になるって一体何だろう?という着想があったとお話しいただきました。本作では女友達が決して裏切らないというか、お互い縛り合っているようでいてそれが心地良かったりするみたいな、我々男性からみると新鮮な感覚でした。本作の設定にしようと思われた意図をお聞かせください。
穐山茉由監督
「女子会編を是非お願いします」とオファーをいただきまして、女子会で何が描けるかなと思ったんです。ちょうど設定が20代後半の女性だったので、普通に生活していてもどうしても“結婚”を意識せざるを得ない、自分が気にしていなかったとしても周りの環境とかによりどうしても出てくるキーワードだと思っていたので、それを主軸にしつつ。
今回の登場人物は、マチ子の女子校時代の同級生です。もしかしたら、今それぞれが付き合ってる人たちって、どうしても自分の感覚が合う人とか環境の近い人とかが集まっちゃいがちだと思うんです。けれども、それとは全然違う、昔仲が良かった人たちのグループで、卒業したらそれぞれ違う環境になり、バリバリに働いていたり、結婚して主婦になっていたり。そういう普段出会わない人たちが同級生ということで出会い、それによって生まれるどうしても隣の芝生は青い的な感じ、他の人の環境が気になってしまうみたいな人間ドラマが面白そうだなって。それを女子会編に取り入れてみたいというところから始まりました。
―――― 松林さんはマチ子役として出演され、さらに全体のプロデュースも担当されています。男性との違いが女性のグループの中に存在するとすれば、女性がそもそも集団で行動しがちだとか、身を守るために集まるというような傾向ってあるのでしょうか?
松林うららさん
私も穐山監督も女子校育ちで、その辺りも色々とお話しさせていただきました。
特に中学校・高校とか学生時代は群れたり、集団を作りやすいのかなと。例えば、女の子って教室に30人ぐらいいても、お昼を食べる時には8グループぐらいが出来ていたりして、それって俯瞰して見ているとメチャクチャ面白い。けれども、果たしてその群れが作る集団が今の日本の社会でどうなのか、群れた時に攻撃をしたりするし、そこは疑問に感じていたところはあって、女子会という集団が凄く面白いテーマの一つだと思って、表現したいなと思いました。
―――― 世の中の女子会はみんなあんな感じなのかなって(笑)
穐山茉由監督
もうちょっと上手くやっていると思います(笑)
松林うららさん
結婚観に関しては結構あんな感じに意見が分かれるのかもしれないです(笑)
―――― 加えて、舞台を見ているようなテンポの良さを感じました。特に蒲田温泉の「黒湯」から上がった後の宴会場での雰囲気が面白くて、それぞれの人生に飛び火していきます。和田光沙さん演じる静のテンポもみんなをまとめがちで良かったですし、伊藤沙莉さん演じる帆奈が吸収されていくような感じもありました。それぞれのキャラクターに役割があると思いますが、テンポの良さは監督からディレクションをされたのですか?
穐山茉由監督
短編ということと、他作品の監督がちょっとシリアスなテーマを撮っていることもあったりするので、女性がいっぱいいるし、ワチャワチャと楽しく、テンポ良くコミカルに描きたいと思いました。お芝居のスピード感というかテンポ的なところはちょっと意識してやってもらいました。
―――― 改めて、松林さんは企画・プロデュースをされて、この『呑川ラプソディ』は4作品の中ではどういう位置付けとして考え、監督ともどんな会話をされたのか教えてください。
松林うららさん
全てがシリアスな映画にはしたくなくて、コメディータッチで、どこか笑えるような作風にはしたいと思っていたので、『月極オトコトモダチ』を観た時に、穐山監督だったら男女間の会話劇が絶対に面白く撮れると思っていました。女子会の話とか結婚観の話とかはお互いにお話ししたんですけど、後は委ねて、「蒲田を舞台にしてください」とだけお伝えしました。
―――― 蒲田といえば「餃子」がおいしいと評判ですが、蒲田の中で蒲田温泉を舞台に選ばれたのは監督が温泉をお好きだから?
穐山茉由監督
蒲田らしいところで撮影をしたいと思っていて、いくつか候補が挙がっている中の一つに蒲田温泉がありました。その時はあまり温泉について知らなかったんですけど、源泉かけ流しの凄く濃い黒湯が何軒か蒲田にあって、こういう名物があったんだ!って。再発見的な感じで、私も行ってみたら舞台となる2階の宴会場も味があってここはいいなと(笑)
―――― 宴会場に登場するとあるカップルの温泉好きエピソードも楽しませていただきましたし、最初から温泉を舞台にすると決めていらっしゃったのかと思いました。
穐山茉由監督
松林さんと一緒にロケハンへ行ったんですけど、蒲田温泉は地元で凄く愛されているんです。朝から並んでいる地元のおじさんやおばさんが沢山いて、スタンプラリーを集めていたりする銭湯マニアみたいな方もいて。そういうおじちゃんがメッチャ絡んで来て「これ見て見て!東京でこういうスタンプラリーやっているんだよ!」みたいなトークを聞いて、こういう楽しみ方があるんだなぁって衝撃を受けたんです。知らない側からすると、それを当たり前に愛している人とのギャップが凄く面白いと思ってその辺を取り入れました(笑)
松林うららさん
あのTシャツも魅力的で。結構出演者の皆さんにも気に入っていただきました。
穐山茉由監督
あの時はスタッフも全員着ていました!
―――― ちなみに、蒲田のオススメスポットを教えていただけますか?
松林うららさん
この映画で色々と出ているんじゃないかなぁ。やっぱり餃子ですね、本当に餃子屋さんが多いですからね。
後はテアトル蒲田という映画館があったんですけど、昨年閉館してしまったんです。素晴らしい味のある映画館でした。
それから、松竹蒲田撮影所が今年100周年記念を迎えるので、絶対に今年、2020年に公開したいという想いがありました。撮影所の跡地は全く残っていなくて、看板が残っているだけなのですが、ここに小津監督がいたんだぁとか。蒲田が親しまれていたのは、やっぱり味があって、古き良き時代の良さが残る街だからだと思います。
―――― 『月極オトコトモダチ』から『蒲田前奏曲』を撮り終えて、“どこからが友達なのか?”について、結論めいたものや新しいお考えはありますか?
穐山茉由監督
そうですね。そもそも友達という言葉の定義がよく分からないというところからではあるんですけど。この作品で言うと、最初の屋上での女子会場面ってどうしてもまだ見栄を張っていたり、ちょっと上辺だけの付き合いみたいなところが残っているような関係性だったんです。女子会という言葉にもそういう皮肉めいたニュアンスがなぜか入っているようにも思うんです。
どうしても女子会は上辺の付き合い的な感じだと一般的に思われがちですけど、それはそれであるとしても、どうしても隠してしまう部分が人間には誰しもあると思います。でも、やっぱりどこかでホロッと本音が出たりして、その上辺の関係性が崩れていく様を今回は描きたかったんです。武装していたものが崩れていくというか。そういうのがさらけ出せる本音を言える関係性というか。そこから固い友情になったかどうかはまだ描かれていないんですけど(笑)
人と人との関係性の中で、一つの壁を越えるというのは、見栄を張っていたりとか、虚勢で作っている壁を取り払って向き合えることなのかなって思います。
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―――― 恐らく、友情の深さというか境界というのは、相手を信用出来るか出来ないか、自分でも気付かずに武装解除が出来ているかどうか、その時点で友達であるという関係性が発生するんじゃないかっていうことですね?
穐山茉由監督
その人の個性を受け入れるというか、尊重するというか。そういう意味では、作られたものじゃなくていいんだよって、そういう関係が築けるといいな、と。
―――― 屋上で帆奈(役:伊藤沙莉さん)が「言ってくれたらいいじゃん。友達なんだから」みたいな言葉をかけていましたが、そういう見栄というか壁があると分かって言っていたのかな?なんて考えると、また違うニュアンスを感じながら台詞を受け取ることが出来ますね。
穐山茉由監督
そう言っている本人も隠し事があった。結局、自分もそうじゃん!みたいな(笑)
―――― 松林さんは『飢えたライオン』や『21世紀の女の子』など出演され、色々な経験を経て今回の企画に辿り着いたのだと思いますが、本作を通じて表現したいと思っていたことは監督とのコミュニケーションも踏まえて、十分に表現が出来たという実感はございますか?
穐山茉由監督
表現出来ていないです、とは言い難いですよね(笑)
松林うららさん
私が考えていたことを4人の監督が担当してくださって、それぞれの色が生まれて、私が考えていただけではなくて、監督に委ねたことでさらに広がって、今をときめく役者さんが出演してくださって、私として本当にプロデューサーと言っても名乗ってはいけないと思いつつ、立ち上げたからにはやりきらないといけないというところでは常に揺れてはいたんですけど、3月に行われた第15回大阪アジアン映画祭のクロージング作品として上映され、劇場公開にもたどり着き、本当に色々なことがありましたが、嬉しいです。
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―――― 実行力があるというか、チャレンジ精神が旺盛な方のように感じるのですが、監督から見た松林さんはいかがでしたでしょうか。
穐山茉由監督
大変だったと思います。役者としても接しないといけないし、プロデューサーとしても接しないといけないので、結構その辺の回線が混線して、私も初めての経験でした(笑)
キャストには演じてもらうためのアプローチがあったりするんですが、プロデューサーには伝えないといけないこともあるし、私も混乱しましたけど、多分松林さんが一番混乱したと思います。
その分、新しい試みだったからこそ私にとっても凄く刺激的でした。
―――― ありがとうございました!
松林うららさん&穐山茉由監督から動画メッセージ!
取材場所協力:ENBUゼミナール
松林うららさん衣装協力:Ray BEAMS
出演 : 伊藤沙莉 瀧内公美 福田麻由子 古川琴音 松林うらら
近藤芳正 須藤蓮 大西信満 和田光沙 吉村界人 川添野愛 山本剛史
二ノ宮隆太郎 葉月あさひ 久次璃子 渡辺紘文
監督 ・脚本 : 中川龍太郎 穐山茉由 安川有果 渡辺紘文
企画 : うらら企画
製作 : 「蒲田前奏曲」フィルムパートナーズ
(和エンタテインメント ENBUゼミナール MOTION GALLERY STUDIO TBSグロウディア)
特別協賛: ブロードマインド株式会社 日本工学院
配給: 和エンタテインメント、MOTION GALLERY STUDIO
2020年 / 日本 / 日本語 / 117分 / カラー&モノクロ / Stereo
『蒲田前奏曲』︎© 2020 Kamata Prelude Film Partners
9月25日(金) よりヒューマントラストシネマ渋谷・キネカ大森にて他全国順次公開
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