スタジオジブリ広報部長が語る『ロング・ウェイ・ノース 地球のてっぺん』の魅力【前編】

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スタジオジブリ広報部長が語る
『ロング・ウェイ・ノース 地球のてっぺん』の魅力【前編】

アヌシー国際アニメーション映画祭・観客賞、TAAF(東京アニメアワードフェスティバル)グランプリほか、国際的なアワードで多数の賞を受賞した傑作アニメーション映画『ロング・ウェイ・ノース 地球のてっぺん』が、三鷹の森ジブリ美術館ライブラリーより 12 月 2 日(水)にブルーレイ/DVDで発売されます。(同日、デジタル配信開始)

高畑勲監督が日本での公開を訴え、フランスでの劇場公開から3年越しで、昨年日本でも公開された本作の魅力について、スタジオジブリ広報部部長の西岡純一氏に語っていただきました。

インタビュー前編では、本作との出会いや生前の高畑勲監督が語っていた「世界名作劇場」テイストのストーリー、境界線や背景の描き方の特徴などを解説していただきました。

スタジオジブリ広報部部長 西岡純一氏

 

―――― 色々な要素が詰まっていて、現実世界と近い設定の中で、女の子が挑戦していく姿が印象的で素晴らしい作品でした。本作をご覧になったときの印象はいかがでしたか?

西岡純一

この作品と最初に出会ったのは、東京アニメアワードフェスティバル2016(TAAF2016)でした。

私はコンペティション部門「短編アニメーション」の選考委員でした。並行して横で審査していた「長編アニメーション」に選ばれた作品の中に『ロング・ウェイ・ノース 地球のてっぺん』があり、ちょっと知っていたというか映像を観る機会がありました。

最初に観たときはシンプルな絵なんだけれども、4本あった作品の中で一番日本人に馴染める感じがしました。

ヨーロッパや欧米のアニメーションには、デフォルメした顔の…日本人が受け入れにくい顔のキャラクターがあるじゃないですか?(笑)すごく鼻が長くて目が上の方にキュッとあったりするような…そういうキャラクターではなく、日本人にも受け入れ易いキャラクターで、目がクッキリ大きく描いてあって、目で語っている感じが、日本人的には受け入れ易いだろう、と。

ロング・ウェイ・ノース 地球のてっぺん

その後、裏話をすると、この作品はフランスとデンマークが共同制作したフランス語の映画なんですけど、色々なフランス映画を紹介してアニメーション業界ではよく知られた存在の東京藝大特任准教授イラン・グェンさんから「スタジオジブリのスタッフの皆さんに作品を観てくれませんか?」という依頼をいただいたんです。

それでジブリ社内で上映会をやったんだけども、英語字幕だったこともあってあまりストーリーが入ってこなかったんです(笑)

絵は綺麗だと思ったのですが、主人公の心情がよくわからなくて、残念ながらそのときは「ジブリ美術館ライブラリー向きではないですね」という総合的な判断が…。そういう経緯がありました(笑)

それからしばらく経って、TAAFのフェスティバルディレクターの竹内孝次さんからご連絡がありました。竹内さんは宮崎駿監督や高畑勲監督とも深い縁のある方です。昔は日本アニメーションで『赤毛のアン』の制作進行を担当し、その後、トムス・エンタテインメントでは『ルパン三世 カリオストロの城』(1979年)の制作などを経て、テレコム・アニメーションフィルムの社長も務めた方です。

竹内さんから「実は『ロング・ウェイ・ノース 地球のてっぺん』はグランプリを獲ったものの、配給が中々決まらない」という相談があり、飯田橋のアンスティチュ・フランセで上映会と応援イベントをやるから参加してほしいということで、高畑監督による「なぜこの映画が日本で興行されないの?」というトークショーが開催されたのです。

そこで改めて観て、「この映画、いい映画だなぁ」って(笑)

高畑監督の言葉を聞いて観てみると「なるほど、すごい映画だ」ということで腑に落ちました。

―――― まさに次の質問では、具体的に高畑監督が絶賛されていた点をお聞きしたいと思っておりました。

西岡純一

高畑監督も仰っていましたが、この作品はあくまでもファンタジーなんです。19世紀のお嬢さまがいくらなんでも北極探検には簡単に行ける訳ないですから(笑)

だからフィクションだし、ファンタジーなんですけど、だからといって魔法が出てきたり、怪物が出てきたりはしないんです。

行く先々で人情に触れて、助けられる。これは「世界名作劇場」の作品テイストに似ているなと思っていて、まるで「母を訪ねて三千里」のワンエピソードみたいな感じ(笑)そういうところに高畑監督も共感したんだと思います。

今のアニメーションって世界を救ったり、戦って怪物を倒したら、さらなる敵が現れたりとそういうアニメーションばっかりの中で、これだけシンプルでドラマとしてグッと惹き込まれる作品は中々ないんです。「なぜこういう映画がもっと日本で観られないんだ!」と高畑監督が仰っていて、その通りだなぁと思い、感心したんです。

―――― 高畑監督は「かぐや姫の物語」の作画タッチでも相当こだわりをお持ちになっていたと知ったのですが、『ロング・ウェイ・ノース 地球のてっぺん』も線を消したり、靴紐等の難しい部分も端折って作られたというお話ですが、その辺について高畑監督はなにか仰っていましたか?

西岡純一

特にその辺については、はっきり覚えていないのですが、CG主体のモーションキャプチャ系のアニメーションが多い中で、これだけ手書きで動かしていることは評価していたと思います。

最初に観た時は輪郭線のないキャラクターだと思っていたのですが、パソコンで拡大して見るとちゃんと肌のところにはオレンジ色の輪郭線があるし、同色の輪郭線が入って存在を消している感じはとても斬新だし、それによって背景との調和がよくできていると思うんです。

黒い線で輪郭を描いているとどうしてもアニメーションで背景と馴染ませるのは難しい。アニメーション制作の初期から、背景に輪郭線を書いてみたり、コントラストを強くしてみたり、キャラクターの輪郭を茶色にしてみたりとか色んな手法を試してみて、先人が工夫してきたことを、見事に解決しているなと感じます。

これはデジタルだからできますけど、輪郭線を内部の色とほぼ同色にしてしまうことによって、なじませる、背景と違和感がない。これは一つの新しいテクニックだと感じました。この監督はかなりいいところに目をつけたなと思いました。

ロング・ウェイ・ノース 地球のてっぺん

―――― 雪景色で全体が白い中、どうやって浮き上がらせるのか、吹雪があるとぼやけていくわけで、そういうものについてもハッキリと印象に残るような絵のタッチ、作り方をされていると感じました。

西岡純一

前半のロシアの街並み、途中の航海の海の表現、北極の氷山の表現も素晴らしいですよね。やはり、背景の美しさというのは、この作品の大事な特徴です。

特に氷の世界に行ってからは、白一色の雪や氷に光を当てることによって、オレンジや水色で表現し、コントラストを付けてくっきりと見せる感じが実にうまいし、技術が素晴らしいと感じます。

―――― まさに氷河が崩れる瞬間、船が横倒しになる場面、とてもスケールを感じました。うわっ!と大きい氷河が倒れてくる感覚の表現も独特な感じがします。

西岡純一

やはり、よく取材しているし、丁寧に研究をしている監督だと思いました。

氷山が剥がれて崩れ落ちるシーンは手書きだけではなく、コンピューターを使っているかもしれないけど、落ちるタイミングとか付けている音がすごくリアルで取材も物凄くやっていると思ったんです。砕氷船が氷を割るシーンなんかも、すごくよく調べている。”超オタク”という感じですね(笑)

日本では、高畑監督や片渕監督しかやらないでしょう。そこに裏付けられた作画が、ものすごく説得力を持っていると感じました。

―――― 片渕監督にお話を伺ったことはあるのですが、歴史の背景を調べて、いつ、ここに何があったのか?当日の天候はどうか?など、細部まで判った上で描かれていました。

西岡純一

同じようなこだわりをこの作品からも感じます(笑)

ロープの結び方のエピソードも丁寧に描いているし、細部へこだわることによって説得力が増すということです。

ロング・ウェイ・ノース 地球のてっぺん

後半へ続く!

発売&レンタル開始日

『ロング・ウェイ・ノース 地球のてっぺん』
12月2日(水)ブルーレイ発売/デジタル配信開始

ロング・ウェイ・ノース 地球のてっぺん [Blu-ray]

© 2015 SACREBLEU PRODUCTIONS / MAYBE MOVIES / 2 MINUTES / FRANCE 3 CINEMA/ NØRLUM

発売/ウォルト・ディズニー・ジャパン

三鷹の森ジブリ美術館ライブラリー

世界の優れたアニメーションを、ジブリ美術館がセレクトし広く紹介する活動として、2007年に発足。高畑勲監督・宮崎駿監督がおすすめする作品を中心に、まだまだ知られていない世界中の名作を取り上げています。

映画配給第一弾は、ロシアのアレクサンドル・ペトロフ監督作品「春のめざめ」、DVD化第一弾はフランスのポール・グリモー監督作品「王と鳥」。以後、世界のアニメーション作家やスタジオと協力し、美術館での展示やイベントにとどまらず、“映像”による作品紹介を念頭に、劇場公開(配給)とブルーレイ・DVD化を2本柱として活動を継続中です。

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