高畑勲監督の遺志を継いだスタジオジブリの取り組み「三鷹の森ジブリ美術館ライブラリー」とは【前編】
- 2020/11/25
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高畑勲監督の遺志を継いだスタジオジブリの取り組み
「三鷹の森ジブリ美術館ライブラリー」とは【前編】
12 月 2 日(水)にアニメーション映画『ロング・ウェイ・ノース 地球のてっぺん』のブルーレイ/DVDを最新ラインナップとして発売する、三鷹の森ジブリ美術館ライブラリー(デジタル配信、同日開始)。
今回は、スタジオジブリ広報部長の西岡純一氏に三鷹の森ジブリ美術館ライブラリーの活動やスタジオジブリの根底に流れる信念を語っていただきました。前編では、アニメーションが子どもたちに与える影響に触れ、スタジオジブリが常日頃から大切にされていることや、作品選定のポイントなどをお伝えします。

スタジオジブリ広報部部長 西岡純一氏
―――― アニメーションが子どもたちに与える影響は、どのようなものだとお考えでしょうか?
西岡純一氏
これはジブリにとってかなり大きな質問です。
産まれてしばらくすると、みんな必ず「アンパンマン」を見て、善悪を少しずつ学んでいくと思うんです。その後は必ず「となりのトトロ」を見ますよね。「トトロ」を見て、優しさとか悲しさとか不安とか色々な感情を学ぶのだと思います。その後は、「プリキュア」「ドラゴンボール」「ONE PIECE」など、要するにキャラクターものに移行するんですけど、本当はもっと相応しい、必要なアニメーションがあるのではと思うんです。
ジブリはそれをずっと考えていて、会社の(作品を)作る方針が、「子どもたちに向けて優良なアニメーションを提供したい。そのアニメーションは、おじいさんおばあさんになっても見られるはず。」
ですから、暴力的なことは描かないなど、信念を持って作品を作っています。それは、宮崎駿監督や高畑勲監督が、東映動画の時代からずっと向き合ってきたことです。ロボットが闘ったり、悪をやっつけたりではなくて、子どもたちに見せるための良いアニメーションを作りたい、それを永遠のテーマとしてやってきたんです。
三鷹の森ジブリ美術館ライブラリーもジブリの名のもとに提供するものですから、勿論それは忘れてはいけないと思っています。子どもたちに自信をもって「これを見て」といえるアニメーションを提供したいと考えています。
もう一つ、宮崎駿監督が作る作品は、たしかに魔法が出てきたり、不思議な生きものが出たりする、いわゆるファンタジーですが、でもそれは魔法対決ではないし、モンスターとの戦いでもないんです。必要に応じて空を飛ぶこともあるし、多少の魔法を使ったりするけど、それは決して重要ではなくて、本質は子どもたちの成長や社会との触れ合いを描いています。
高畑監督はもっとこだわっていて、魔法も出てこないんです。時には厳しい現実を描くんだけども優しい目線を忘れない。細かいところまでしっかり作り込んで、とにかく嘘をつきたくない(笑)
「かぐや姫の物語」でも、竹を上から包丁で割ってしまうとかぐや姫を傷つけてしまうので、どうしたかというと、光る竹の前にタケノコがあらわれ、そこからかぐや姫が産まれるんです。高畑監督は徹底的に考えていました。そういうところまでちゃんとやらないといけない、嘘はいけないと(笑)
そんな作品と出会えたら、三鷹の森ジブリ美術館ライブラリーとしても応援していきたいと思います。
―――― 空からお迎えが来た時の天人の囃子の様子も幻想的で、ああいった力なり才気を持っているのがかぐや姫というよりは、「ああ、残念」もしくは「ああ、美しい」、「こういう世界もあるんだ」という受け止め方にもなりました。
西岡純一氏
あれはこだわりがあって、阿弥陀二十五菩薩来迎図という元になった絵があるんですけど、あのシーンに登場する天人たちが弾いている楽器の音が鳴っていないとおかしいということで、音楽の久石譲さんにお願いして、その楽器を入れたんです。本当にびっくりしました(笑)
―――― やらないものはやらないし、やるものは徹底してやるなどの主義・主張があり、それを何年もかけて温めていき、現実のものにしていく。そこには背景を含めて、努力を惜しまなかったということですね。
今回は、『ロング・ウェイ・ノース 地球のてっぺん』を選ばれていますが、三鷹の森ジブリ美術館ライブラリーはどんなアニメーションを選んでいこうと考えているのでしょうか?
西岡純一氏
三鷹の森ジブリ美術館ライブラリーで取り上げるということは、ジブリの名を冠していることで、世間には多少注目してもらいやすくなると思うんです。良い作品なのに注目されずに世の中から忘れられていく、埋もれていくのは惜しい。そういう作品を三鷹の森ジブリ美術館ライブラリーの名前で出すことによって、多少は多くの人が見てくれるのではないか。ですから、ふさわしい作品が見つかれば、考えていきたいと思っています。
ただ、三鷹の森ジブリ美術館ライブラリーの推進者、一番の協力者が高畑監督でした。高畑監督が亡くなった後に出すライブラリー作品は、これで2作目です。「ディリリとパリの時間旅行」と2作目が「ロング・ウェイ・ノース 地球のてっぺん」でして、2作品は高畑監督にとても縁のある作品でした。
「ディリリとパリの時間旅行」のミッシェル・オスロ監督は、高畑監督とお互いに尊敬し合っていて懇意にしていた方なので、オスロ監督が「ぜひ高畑さんに見てもらいたかった」と語った最新作でした。
「ロング・ウェイ・ノース 地球のてっぺん」も高畑監督が「なぜこの作品が日本では公開されないの?」と言ってくれていた作品だったので決めることができました。
次の候補作品が出てきた時は、「高畑監督ならなんて言うだろう?」ということをまず考えながら、作品に向き合っていきたいと思っています。
後半へ続く!
発売&レンタル開始日
『ロング・ウェイ・ノース 地球のてっぺん』
12月2日(水)ブルーレイ発売/デジタル配信開始
ロング・ウェイ・ノース 地球のてっぺん [Blu-ray]
© 2015 SACREBLEU PRODUCTIONS / MAYBE MOVIES / 2 MINUTES / FRANCE 3 CINEMA/ NØRLUM
発売/ウォルト・ディズニー・ジャパン
三鷹の森ジブリ美術館ライブラリー
世界の優れたアニメーションを、ジブリ美術館がセレクトし広く紹介する活動として、2007年に発足。高畑勲監督・宮崎駿監督がおすすめする作品を中心に、まだまだ知られていない世界中の名作を取り上げています。
映画配給第一弾は、ロシアのアレクサンドル・ペトロフ監督作品「春のめざめ」、DVD化第一弾はフランスのポール・グリモー監督作品「王と鳥」。以後、世界のアニメーション作家やスタジオと協力し、美術館での展示やイベントにとどまらず、“映像”による作品紹介を念頭に、劇場公開(配給)とブルーレイ・DVD化を2本柱として活動を継続中です。
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