
世界中が熱視線!
長編アニメーション映画『カラミティ』
レミ・シャイエ監督からの提案
前作『ロング・ウェイ・ノース 地球のてっぺん』が、ジブリ美術館ライブラリーからブルーレイ発売中/デジタル配信中で話題のレミ・シャイエ監督。
最新作『カラミティ』では、アヌシー国際アニメーション映画祭長編アニメーション部門クリスタル賞(グランプリ)受賞するなど世界中から注目を集めています。
今回は、12月10日(木)~13日(日)に開催される「フランス映画祭2020 横浜」での上映を記念し、レミ・シャイエ監督の目指す世界観などについてお話をうかがいました!

レミ・シャイエ監督
―――― 少女に勇気をもらいましたし、作画の美しさに感動しました。
前回の『ロング・ウェイ・ノース 地球のてっぺん』では、氷河の動きや吹雪の描写を含め、白が基調で世界がとても美しかったです。今回の『カラミティ』は草原や雲、星空など雄大な自然を描かれていますが、非常に多彩な色を使われています。
“白”と”多彩な色”ということで対峙しているような色合いだったと思いますが、(どちらも)非常に難しい作業だったのではないでしょうか?加えて、今後に繋がるようないろいろな技術の開発にも繋がったのではないでしょうか?
レミ・シャイエ監督
「ロング・ウェイ・ノース 地球のてっぺん」の方は、北国の色を使いました。ですので、かなり抑えた、霞んだような色を使っています。それから、氷河などは天気がいいと光が乱反射して、ピンクやグリーン等いろいろな色に見えるんです。そういった”白”だけれども乱反射した光も描いています。
それから”影”ですね。北国は影が非常に長く伸びていて、「影の国に行く」とサーシャも言っているのですが、山にもすごく長い影があるという特徴があるため、しっかり描くようにしています。
一方、ワイオミング(カラミティ内で扱われる)は、色が全然違っていて、どちらかというと印象派の色とか、アメリカの風景画家の色等を参考にしていて、フューシャピンクとリンゴの緑を合わせることによって、目の錯覚で、色のバイブレーションのようなものが起こり、揺れた色感が出てくるように、あえてそういった色使いにしています。
―――― 非常に細部まで観察しないとこの表現はできないと思うのですが、監督は大自然が好きで、氷河を見に行ったり、荒野でキャンプしたりされるのでしょうか?
レミ・シャイエ監督
カンザス州に行ったことがありますね。16歳か17歳の頃だったのですが、空があまりにも広くて驚きました。
そういった広大な自然の風景に惹かれます。ヨーロッパやフランス、日本もそうだと思いますが、どこを見回しても、家があったり、人間が歩いていたりと、”人間がいた跡”があります。例えば、フランスは北から南まで行っても全く人がいないということや自然が続くということはないのですが、ロシアやアメリカには、山もないようなフラットな高原が延々と続いていたり、雲がとても素晴らしく見える非常に広大な土地があります。モンゴルにも行ったことがありますが、そういう場所の広大な風景に惹かれます。
―――― 監督の作品には「ロング・ウェイ・ノース 地球のてっぺん」、「カラミティ」ともに、とても雄大で壮大なスケールを感じます。アニメというのは、そういった”表現の自由度”が幅広く行えるものだと思いますが、魔法や異世界やロボットなどが登場しがちな一方で、監督の場合は、現実世界を舞台にしています。
これは監督にどの様なこだわりがあるのでしょうか?監督の目指しているアニメの世界観について触れながら教えてください。
レミ・シャイエ監督
「ロング・ウェイ・ノース 地球のてっぺん」も「カラミティ」も19世紀を舞台にしています。つまり、私は「現実だけれども、存在していない世界」を描いています。
そして、常に危険と隣り合わせで、オレゴンの道でもそうですが、例えば、猟に行って戻らないとか、居なくなってしまったり、もう帰ってこない危険もあります。また、自然がものすごく雄大で、かつ地図に描かれていないので知られていない自然とか地域というものがある世界だったんです。
現代は、すべてが分かってしまっていて、すべてが閉じた世界ですよね。人間がいるし、飛行機が飛んだり、どんなところに行ってもエンジンの音が聞こえたり…という世界になってしまいましたが、そうではない知られていない部分があるという世界の中で、物語を語るというのが私の世界観ですね。
―――― 加えてストーリー性についてもお聞きしたいと思います。
“見える世界” 、“見えない世界”ということから、ストーリー性の中では、『ロング・ウェイ・ノース 地球のてっぺん』だと、”大人社会の打算的な考え方と対峙する少女の純粋な心”を感じましたし、『カラミティ』であれば、”少女らしさという暗黙の制約に対する自由や行動する勇気”を得ることができました。
これは子どもたちにとってみれば、非常に勇気を与えてくれるストーリーだと思うのですが、逆に監督が子どもたちに期待していること、また、アニメが子どもたちに与える影響について監督の考えをお聞かせください。
レミ・シャイエ監督
私は、子どもたちに”違うモデルがあるんだよ”ということを提案したいんです。
プリンセスから外れるとか、少女でも結婚することだけを考えている少女とは違う子を描くとか、スーパーパワーは持っていないけれど普通の女の子で勇気と頑張りと忍耐があるので、ヒロインになり得るということ、山を越えることもできるということを伝えたいわけです。
それに男の子や女の子に、例えば「鼻も大きく、眉も太く、女の子らしくなくても感じのいい女の子もいるんだよ」と言うこともいいたいことの一つです。父親の姿も、ヨーロッパやアメリカのアニメを見ると、お父さんは体がとても大きくて、安心感も醸成し、優しい。母親は優しくて、いつも子どもと近い関係にあるようなお母さんが描かれているわけですが、そういった父親像、母親像だけでは、もう飽きてしまいました。
その場を逃げたいとか、困難があってもそれに打ち勝つことができないような父親もいるし、母親だってそんなに優しくない母親もいるわけです。当然、子どもたちもそういった親を持っている場合もあります。ですから、アニメを見て、理想的な親でなかったら、親をどうみるか?というのも気になりますし、そういう意味では全然違うモデルの提案をしたいんです。
―――― 最後になりますが、『カラミティ』は多彩な色の使い方がとてもフランスらしく、見所でもあると思うのですが、監督が是非見てもらいたいシーンを教えていただけますか?
レミ・シャイエ監督
私は監督として、旅に出てほしいと思うんです。
リズム感というのがものすごくて、最初の数分間のリズムをとても重要視しています。それによって、観客の皆さんに物語の中に入ってきてもらって、アニメを見ているということさえ忘れてもらい、1時間20分経ったら、「あれ?いまどこにいたのかな?」というような印象を持っていただけたら嬉しいです。ですから、物語に入り込んでいくようなリズムを感じていただければと思います。
アニメが恵まれているところは、初めから抽象であるという点です。映画だとフィクションなのかどうかというところが気になりますが、アニメは初めから絵で抽象ですから、中に入って一緒に旅立ちやすいものだと思います。そういう意味では、書籍と似ているところがあって、本は紙の上に文字が書いてある抽象的なものですけど、それを読むことによってすごく感動する。同じようにそういった旅をして、感動してもらいたいと思います。
―――― 見た目に限らず、あらゆる物事の多様さに視線を向けるレミ監督の作品は、主人公のみならず周りの登場人物の変化や成長も丁寧に描かれており、観ているこちらもその中の一人として感動する以上のものを得られるように感じます。ありがとうございました!!
原題:CALAMITY/© 2020 Maybe Movies – Nørlum – 2 Minutes – France 3 Cinéma
フランス映画祭2020 横浜
Festival du film français au Japon 2020
日程:12月10日(木)~13日(日)
会場:イオンシネマみなとみらい(横浜市中区新港2-2-1 横浜ワールドポーターズ5F)
みなとみらい駅(東急東横線直通/みなとみらい線)、馬車道駅(みなとみらい線)より徒歩5分
桜木町駅(JR京浜東北線・根岸線/横浜市営地下鉄)より、汽車道経由、徒歩10分
公式HP:https://www.unifrance.jp/festival/2020/
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