少女と一人の男性が綴る「愛」、「喪失」そして「悼み」。優しい眼差しに包まれ、辛い過去を乗り越える

この世界に残されて,画像

映画『この世界に残されて』
バルナバーシュ・トート監督インタビュー

12月18日(金)にシネスイッチ銀座ほか全国公開される映画『この世界に残されて』。

今回はバルバナーシュ・トート監督に、ハンガリーの歴史、アルド役のカーロイ・ハイデュクさん、クララ役のアビゲール・セーケさんの素顔、本作の見どころについて語っていただきました!

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映画『この世界に残されて』バルナバーシュ・トート監督

―――― 切なくて、悲しいけれど愛に満ちている、とてもいい作品だと感じました。
監督は何故このテーマを取り上げようと思ったのでしょうか?最近に至ってもホロコーストに関する資料がハンガリーの民家で見つかった、などといった報道もあるようですが、そういった背景もあるのでしょうか?

バルバナーシュ・トート監督
(日本語で)こんにちは。

自分はブダペスト育ちなのですが、ユダヤの出自ではありません。ただ、街が、歴史が、文化がこの前例のない恐ろしい出来事に囲まれているのは間違いなく、学校で手にした文学や記念碑にやはり影響は受けるんです。私もその一人でした。

ただ、私はこの作品をホロコースト映画だとは思っていません。実際の恐ろしさを描いているわけではありませんし、むしろ後で何が起きたか?生き残った方々がどういう風に(現実に)向き合っていったのかというドラマだと考えています。

―――― アルドの、そしてクララの物語であり、また被害にあわれた多くの方々の物語でした。時代背景について少しお聞かせください。ハンガリーでは、ホロコーストに関して、その事実を調査し、紐解くような動きはあったのでしょうか?ソ連の影響下にあった共産主義時代にはなくて、民主化後にそういった動きがあったのか?などお聞かせいただけますか?

バルバナーシュ・トート監督
複雑なご質問ですね。

共産主義の時代ではタブーだったので、ホロコーストについて語られることはあまりありませんでした。私からすれば、理解出来ないのは、ナチのことを話しても全くおかしくはないわけですよね。ただ、アルドやその医者仲間がいい例ですが、実際に生き残った方々もほとんど自分の体験を語る人はいません。これは例えばアメリカでお会いしたホロコースト生存者の方々も同様です。

そして、90年代に政権が変わった後に、例えば学校で学ぶプログラムや博物館が出来ました。しかしながら、実際にはハンガリーのトップが(ホロコーストに)積極的に加担していたにもかかわらず、それでもドイツのみのせいにする、というのは未だにあります。

 

―――― アグニェシュカ・ホランド監督のホロドモールに関する映画『赤い闇 スターリンの冷たい大地で』を観ていたので、ホロコーストが去ってからもなお人々を共産主義に対する恐怖が覆っていたことを感じ取ることが出来ました。

バルバナーシュ・トート監督
ご存じのように、ポーランド、チェコに限らずハンガリーの歴史も第二次世界大戦下のナチによる支配の恐怖から逃れ、そしてハンガリーの場合は自国のファシスト政党の支配下からも逃れたと思ったら、ドイツ軍を排除したソ連軍が残って支配することになりました。ハンガリーの場合は2、3年の脆い民主主義が一瞬だけあったのですが、それも暴力的な形で共産主義政権になり、40年間残りました。

最初の5、6年間、特にスターリンが亡くなるまでというのは、非常に大変でした。
アグニェシュカ・ホランド監督の作品は、私は残念ながら観ていないのですが、スターリン政権時代の話は、リシャルト・カプシチンスキ氏やガレス・ジョーンズ氏といったドキュメンタリー的・記録的な文学や、ジョージ・オーウェルの「1984年」などを読んでいました。

※スターリン主義について監督が読んだおススメ本として「Darkness at noon真昼の暗黒」(アーサー・ケストラー)と「Imperium帝国ロシア・辺境への旅」(リシャルト カプシチンスキ)を挙げてくださいました。

―――― 有難うございます。ところで、本作中のアルドの人間性について、原作通りの人物像もあれば監督が創りあげたアルド像もあると思います。クララという10代の少女の孤独、寂しさを痛いほど理解してくれている、この優しさゆえにクララは立ち上がれたし、別の幸せを掴むこともできたのではないでしょうか?モデルになる実在の人物はいたのですか?

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バルバナーシュ・トート監督
同じ名前や年齢という方は特に存在していません。ただ、本作の原作者ジュジャ・F・ヴァールコニさんのご家族もホロコーストでお亡くなりになっていらっしゃるんですね。その中でアルドたちを想起したのだろうとは思います。

また、ジュジャさんは心理学者なので、小説を読んでいると、なぜキャラクターがそういうことを口にして、こう答えるのか?という心理面が細かく書き込まれていたのでそれは凄く役立ちました。

脚本を書いたり、演出している時に、頭に描いた方は実在していて、特にカーロイさん演じるアルドですが、それが実は妻の叔父です。とても純粋で、礼儀正しく、控えめで、とても善良な方なんです。

―――― アルドは涙を見せないようにクローゼットやバスルームに入って感情を隠します。涙は見えませんでしたが、最初は悲しみの涙であり、最後は幸せの涙のようにも見えました。実際に、アルド役のカーロイさんは涙を流されていたのですか?

バルバナーシュ・トート監督
面白い質問ですね(笑)

実はカーロイさんは、撮影時に毎晩夜の10時~11時まで舞台をこなしてから、朝4時に起きて車で現場にやって来られていたんです。ブダペストから離れた場所での撮影が終わると、ブダペストに車で戻るという生活をしていて、まるでゾンビのようでした。とても疲れていたのですが、かえって良かったと思うのは、悲しい時と疲れている時、人は同じ表情になるから、そんなに演技するまでもなく、ただ疲れた自分であればそれで良かった、ということです(笑)

実際の現場ですが、カーロイさんが涙を流したことはありませんでした。
最後のシーンだけは4テイク撮りました。その4回目にもう少しで涙が出そうになったのですが、そのテイクを映画の中で使っています。これが最後に彼の感情が垣間見えたシーンだと思っているので、良かったんじゃないかと自負しています。

ただ、実は私は、彼が最後で見せるもう少しで泣きそうな表情は、幸せではなくて悲しいからなのではないかと思っています。何か、自分に大事な娘のような大切な愛おしい存在を失う、そのメランコリーがあふれている表情なのではないか、不可能な、ある意味で愛、あるいはラブストーリーを手放さなければならないという表情なのではないかと思っています。

―――― アビゲールさん演じるクララですが、最後までキャスティングにもご苦労されたそうですね。アビゲールさんとカーロイさんは『ハンガリー連続殺人鬼』という映画で共演されていると思うのですが、キャスティングでは過去の共演実績なども一つの決め手だったのでしょうか?
また、クララの黒い髪が金髪に変化したりカールしたり、ハリネズミだった時から最後は成長した美しい女性の姿が創り出されていました。演技上、監督からどういったディレクションがあったのでしょうか?

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バルバナーシュ・トート監督
元々のキャスティングでは、彼女が入ってきて、一目見てクララにぴったりだ!というわけではなかったんですね。実は彼女に出会ってからも、まだキャスティングは続けていたのですが“もう一回戻って来て下さい”とお声がけしました。確かに、カーロイさんと共演していたことは良かったとは思いますが、それがキャスティングの決め手になったわけではありません。クララのキャスティングを2回目にやった時には、アルド役としてカーロイさんが決まっている状態でキャスティングを行いました。二人の年齢は離れているのですが、共演していた時の演じ易さみたいなものがあって、そこは確かに凄くいいなと思いました。

で、3回目彼女のオーディションなのですが、彼女を撮影しているカメラがどんどん寄っていったんです。それだけ彼女がフォトジェニックだと思ったし、特に、役に入ってからの彼女の目が、“なぜ私がこういったことを経験しなければならなかったのか”という風にナチスをあるいは神を責めている目をしている。常に痛みを感じる表情というものが最も大きな決め手になりました。

同時に勿論、女優さんとしてのスキルも素晴らしく高く、スイッチを押せば涙が出るタイプの女優さんなので、それも役立ちました。ですが、本物のアビゲールさんはクララほどアグレッシブなタイプではなくて、スクリーンでの姿は当然演技していることになります。

それと、私が“ビューティーチーム”と呼んでいるヘアメイクと衣装のチームが彼女の年齢を見せる上で凄く尽力してくれたおかげで、16歳から21歳までの姿にすることが出来ました。当然、これはアビゲールさんの実力でもありますので、彼女は若きカメレオンと呼べますよね(笑)

―――― 監督がお気に入りのシーンも含めて日本の映画ファンにメッセージを頂けますか?

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バルバナーシュ・トート監督
アルドの誕生日会とアルドとクララのダンスシーンが組み合わせられたモンタージュで表現している場面が好きです。二人がどんな風に一緒に暮らしているのかがよく分かるあの瞬間です。元々台詞がない短いシーンが好みなので、選ぶとしたらそこですかね。

あと、最後のシーンです。脚本では“曇りの日だけれどカメラが寄ると彼女の背後に陽が、太陽が顔をのぞかせる”という風に描いていたのですが、撮影の時にも曇りだったのですがほんとうに太陽が出てきたんです。まるで、神に触れられたかのように。特別なシーンでした。

ハンガリーの歴史をご存じなくても問題ありません。普遍的な愛と、喪失と、そして誰かを悼むこと、いかにトラウマを乗り越えていくかという物語です。日本の皆さんにもきっと楽しんでいただける作品だと思います。是非劇場にお越しください!

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©Inforg-M&M Film 2019

12月18日(金)より、シネスイッチ銀座ほか全国順次公開

監督

バルナバーシュ・トート

製作

モーニカ・メーチ
エルヌー・メシュテルハーズィ

出演キャスト

カーロイ・ハイデュク
アビゲール・セーケ
マリ・ナジ
カタリン・シムコー
バルナバーシュ・ホルカイ

2019/ハンガリー/ハンガリー語/88分/シネマスコープ/5.1ch/カラー
英題:Those Who Remained 原題:Akik maradtak  日本語字幕:柏野文映
後援:駐日ハンガリー大使館、ハンガリー文化センター
配給:シンカ

【公式HP】synca.jp/konosekai/

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