
「ACT芸能進学校」
伊藤主税氏インタビュー【前編】
『古都』『青の帰り道』『デイアンドナイト』『Daughters』等の映画をプロデューサーとして手掛け、2021年春公開の竹中直人・山田孝之・斎藤工(齊藤工)が共同監督を務める映画『ゾッキ』の公開を控えるand pictures代表取締役で映画プロデューサーの伊藤主税氏。
数々の映画をプロデュースする中で得た経験や技術、監督や俳優をはじめとした幅広いコネクションなど持ち得る全てを注ぎ込み立ち上げるのは子どもたちへの演劇教育です。今回は10月に開校した「ACT芸能進学校」(通称:A芸)について、たっぷりとご紹介いただきました。
―――― 伊藤さんには藤井道人監督『青の帰り道』で取材をさせていただきました。藤井監督は今年『新聞記者』で日本アカデミー賞最優秀作品賞を受賞され、新作も次々に決まっている大活躍の状況です。
伊藤主税氏
そうですね。9月に発表した『MIRRORLIAR FILMS』という短編映画制作プロジェクトの原点も藤井君との自主映画制作です。大の大人たちがああでもないこうでもないと言いながら、何のしがらみもなく作品を撮っていたんです。あの時に“やろうと思えば人って出来るよね”って感覚があったので、「mirroRliar(ミラーライアー)」もいけると思って、企画を立ち上げるにあたってはあの時のマインドを仲間に伝えていきました。
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―――― 何を撮りたいのかが大事で、お金は後からついて来るものだとか、なくても出来るというお話だと思うんですけど、何か力強さというか雑草魂みたいなものを感じます。
伊藤主税氏
雑草です。雑草でしかないぐらい(笑)
―――― 映画といえば、ハリウッドやディズニーなど煌びやかでどこか遠い世界のイメージを抱きがちです。しかし、伊藤さんのメッセージを聞いてると、親しみやすいというか、僕も参加していいのかもしれないと感じるところがあり、しがらみや思い込みをなくしてくれる感じがします。
撮りたいものがあればそれでいいし、演じたいもしくは表現したいと思うんだったらそこに参加してもいいんだ、とてもシンプルで分かりやすいです。
伊藤主税氏
今の世の中が何かを言うと誰かに叩かれたり、大きな世論に従わないと声が消されてしまうとか、いけないことを言っているんじゃないのかとか、勿論適正とか適度はあるのかもしれないですけど。
色んな地域で映画を撮っていても、自分の意見とか個性を自ら消してる方や子どもたちが非常に多いと感じています。
本来は人間がどう感じてどう思ったかということ、世の中の社会風刺とか社会情勢とかニュースとか物事とか体験とかから人の意見が生まれるものだと思ってまして、そこがいけないみたいな、凄く気になっていて、何が美しくて何が面白いのかは絶対自分の中にあることだと思っていて、それが成熟して文化になったり、人に豊かさを与えたりすると信じていまして、ACT芸能進学校も、それがコンセプトにあります。
会社設立当初から映画を作りながら、俳優育成のワークショップを運営してきました。地方にも機会を広げたいとオンライン体制を整備していたのですが、コロナウイルスの影響で開発に拍車がかかり、10月にACT芸能進学校を開校しました。
僕自身は元々教員になりたかったんです。少年時代から色んな子どもたちがいる中で、お金持ちかどうか、勉強が出来るか出来ないか、運動が得意か苦手か、人は結構評価で差別されてると思っていて、しかも子どもたちの心まで理解してくれる大人が中々いないと感じていて教員を目指したんです。僕の叔父が校長だったので色んな質問をしていたんですけど、ずっとハンコばっかり押していて、これは違うかもしれないって(笑)
そんな時に映画と出会って、映画を作ったんです。教員は対面で一人ひとり丁寧に向き合いますが、映画は多くの人に届けられるツール。しかも、人の心を動かせるものだと思ったので映画をやり出したんです。だから、映画に出会わなかったら映画じゃなかったかもしれないですね。

「ゾッキ」の上映が行われた東京国際映画祭でA芸の生徒たちと
―――― 確かに、「教育」となれば義務教育に科目に目が行きがちですけども、いわゆる知識的なものと感情的なものと、バランス良く育てていかなければ「教育」のパッケージとしては欠品であるような感じがします。「感情、どういう風に育てるんですか?」となった時に、学校の先生がきちんと答えられるのか、大学で先生になるために学んでいるのかもしれませんけど、課題もありそうですね。
伊藤主税氏
本当にそうですね。学問は学校が教科書に沿って教えていると思ってまして、そこは義務教育にお任せして、僕たちはそこで教えきれないことをこの“A芸”で教えていけたらと思っています。
―――― 例えば、アメリカでは有名なハリウッドスターたちも大学の俳優部に所属して勉強していますよね。演劇や感情の勉強については、日本にも専門の大学があるにせよ「そっちの世界に行く人たち」のような区切りがあって、一直線では見られてないような業界の壁を感じることがあります。
伊藤主税氏
子どもの頃は凄く吸収力もあって、どんな体験をしてどんな大人と出会ったかが、その後の人生に非常に多く関わると思っていて、そこの種みたいなものだと思っているんです。
ただ、今年はコロナウイルスの影響で確実に出会いが減ってしまったし、遊びに行く回数も減ってしまったし、致し方ないと思うんですけど、子どもたちがどういう風に学んで楽しい体験をしてくか、それにコロナがどう影響するのかが凄く気になっています。子供たちも心の半分はコロナとどう向き合うかみたいになっている気がしていて、大人たちも絶対にマスクをしなさいって言いますし、そこはもう仕方ない状況ですが、吸収力がいい時に、少しでも多くの楽しみとか刺激を渡したいんです。
加えて、日本は演劇やお芝居、映画の文化価値が支援も含めて低いと思っています。
僕は山田孝之さんや阿部進之介さん、斎藤工さんをはじめ、色んな俳優さんともお仕事をしていますが、彼らは精神とか時間とか自分の全てを犠牲にしてお芝居を作り上げています。自分を使って目に見えないもの(役)を作り上げていくわけですから、もうアートの域に達していますよね。
その価値は、一人のお芝居が企業の売上を変化させてしまうぐらいの価値があるものだったり、人を確実に救えるものだったりもすると思うんです。作品に救われたという方も少なくないと思うんです。そういったものが価値としてまだ認められてないからこそ、まずはオンラインでそういうパイを広げるというか、まず知ってもらう、体験してもらうことからでもやろうと思いました。実は演劇教育には100年以上の歴史がありますし、小学校の道徳の授業の進化型ですよね。
さらに、文化価値を上げるために学術としてお芝居や人間の心や行動を探究していくことも進めていて、その研究結果を子どもたちにも継承して身につけてもらおうとも考えています。
―――― スゴイですね。人間は賢い動物なので、相手の表情を見たら喜怒哀楽のどの分野で相手が考えてるか、感じてるかというのは比較的分かりやすい生き物です。一方で、それを見せないこともあり、なぜ見せなかったのかを考えることによって相手のことを知ることが出来たりします。役者として自分がそういう演技をしなければいけない時に、どういう風にすれば相手に伝わるのか、伝えわりやすいのはどういう仕草なのか、そういう意味では立派な教育材料にはなりますし、感情を分析することは非常に有用なことですよね。
伊藤主税氏
本質は今お伝えしたことを“A芸”で伝えていきたいんですけど、やはり難しい面も感じています。これまでも芸能とかお芝居からの教育を伝えてきたんですけども、中々伝わりづらいというか、難しく聞こえちゃったり。
どのように噛み砕いて、こちらの本質を分かってもらいながら、お芝居に興味のある方々に応募してもらうか、入り口としてどうやってここに辿り着いてもらうか。常々変な言い方にならないようにこだわっていて、「その言い方はダサいから止めよう」とか(笑)けど、ダサくしないと伝わらないし…みたいな。上手く伝えていく方法をいつも試行錯誤しています。
来春より製作「A芸フィルム」公開オーディションを実施します!
ACT芸能進学校では、2021年の春から、八重樫風雅監督、諸江亮監督、菱沼康介監督による3本のショートフィルム「A芸フィルム」の製作を開始します。第一回目として12月に八重樫風雅監督の作品オーディションを実施します。
詳細 https://act-college.com/3808/
A芸フィルム 八重樫風雅監督作品オーディション
■オーディション日程:12月26日(土)時間未定
■撮影日程:2021年4月以降予定
■募集資格:5歳〜14歳の男女(年長〜中2)
■応募方法:応募フォームより必要情報をご記載ください。メールまたは公式LINEアカウントよりプロフィール・お写真を添付してください。
応募フォーム https://forms.gle/s8t9aU5wEiLMNKWb9
A芸公式LINE https://line.me/R/ti/p/%40735ttrlk
メール info+audition@act-college.com (件名を「A芸フィルム八重樫監督応募」としてください)
ACT芸能進学校芸能ホームページ:https://act-college.com/
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