役に助けられた30代 生き辛さを抱えたすべての人へ

『SEASONS OF WOMAN』内田慈さん
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映画『SEASONS OF WOMAN』
内田慈さん【インタビュー】

「友情」「仕事」「結婚」「出産」…。

春夏秋冬を舞台に、年齢を重ねるごとに変化する女性特有の悩みと葛藤を描いた現在公開中の4部作の映画『SEASONS OF WOMAN』。『egg 選ばれたい私たち』が2月に公開となるインディーズ映画界注目の才能、川崎僚監督が6年越しで完成させた力作だ。

高校時代の教室での一コマを切り取った『笑女(しょうじょ)クラブ』、久しぶりの帰省で再生した友情を描く『彼女のひまわり』、婚活中の姉と就活中の妹の葛藤を見つめた『AUTUMN OF WOMAN』、そしてラストの冬が「結婚」「出産」「仕事」に揺れ動く女性たちの物語『雪の女』。

ラストの『雪の女』で、仕事にもプライベートにも行き詰まった主人公の編集者の優(根矢涼香)の部屋を、書くことに行き詰まって訪れる作家を演じたのが内田慈さん。優の気持ちを見透かしたかのような言葉が見る者をハッとさせる役どころだ。

今回は、NHK教育テレビ『みいつけた!』のレギュラー出演、ドラマ『半沢直樹』に加え、11月公開の『ホテルローヤル』、今月公開のW主役を演じた『レディ・トゥ・レディ』、そして『SEASONS OF WOMAN』と目覚ましい活躍をする内田慈さんに、本作に寄せる思いやテーマとなっている「女性の生き方」についてお話を聞きました。

『SEASONS OF WOMAN』,内田慈,画像

内田慈さん

女性たちの思いに涙して

―――― 『SEASONS OF WOMAN』の出演経緯についてお聞かせください。

内田慈さん
主演の根矢涼香さんからの紹介でした。『SEASONS OF WONAN』 は川崎監督が6年越しで撮った作品ですが、夏の季節を描いた『彼女のひまわり』にも根矢さんは出演していて、お二人は作品についても相談し合う仲だったんです。そこで私の名前が挙がったとのことでした。根矢さんとは内田英治監督作品の『神と人との間』(‘18)でご一緒していたのですが、様々な感情を巧みに表現していた彼女に声を掛けてもらったことが嬉しかったです。

川崎監督からのオファーも、台本と共にその時点でできている映像資料を下さったり、どういう思いで自分の役を登場させたのかなどを伝えて下さり、とても思いのこもったものでした。

―――― 登場人物たちへの思いはありますか?

SEASONS OF WOMAN

内田慈さん
私の演じた作家の役は川崎監督の分身のような役という説明を受けていました。川崎監督の名前も「僚」ですが、彼女も清水涼子と言う名前なんです。原稿が書けなくて半狂乱になっていますが、彼女の中には春夏秋冬に登場する全ての女性たちの悩みや葛藤が詰まっているのではないかと思いました。また、試写を見た時には、優の気持ちを思うと涙が止まらなくなってしまい、優と自分が同化しているようなところはありましたね。

松尾スズキに衝撃を受けた10代

―――― 『SEASONS OF WOMAN』の4作は友情、就職、結婚、出産を巡る10代から30代までの女性たちを描いた作品ですが、内田さんが俳優の道を歩むことを決めたのはいつだったのでしょうか。

内田慈さん
高校3年生の夏です。私の父は学習塾を経営していたのですが、塾長の娘だから勉強ができなくてはならないと言われていたことが苦痛でした。貧しく厳しい家庭環境に対して反発心がありましたね。一方で、何か自分の中に渦巻いているものの、言葉にしてはいけないという気持ちもありました。

そんなある日、大人計画の松尾スズキさんをテレビでたまたま観たんです。今まで私にとってはタブーと教えられていたことを全部言葉にしてくれたような感覚でした。舞台映像も流れていましたが、ヘンテコでかっこよくて。ずっと綺麗事の中で生きなさいと教えられてきた私に「そんなことで世の中成り立ってないよ」と言ってくれているような気がしました。しかもその皮肉が決して暗いものではなく、めちゃくちゃ面白かったことが衝撃的でした。演技の経験は全くなかったのですが、その時に演劇の世界に行きたい、松尾さんに会いたい、と思ったんです。

それで日本大学芸術学部の文芸学科に進みました。結局、経済的な理由で大学は辞めてしまうのですが、日芸中退した人=面白い人に憧れていた部分もあったのであまり落ち込みませんでした。上手く人間関係が築けず、元々確たる居場所があったわけではなかったので、飛び出していくことに不安はありませんでした。

『SEASONS OF WOMAN』,内田慈,画像

OJTで女優へ

―――― その後どうやって女優への道を歩んだのでしょうか。

内田慈さん
スペース・ゼロという劇場が主催している「ラフカット」というオーディションがあるのですが、大学を中退した直後にそれに受かって女優への道が開けました。あの時代は小劇場が盛り上がっていたのでオーディションも多く、片っ端から受けましたね。劇団員だと、劇団公演のスケジュールに縛られることもありますが、自分はフリーだったのでそういう縛りはなかったことが良かったのかもしれません。

―――― 演技経験がないまま舞台に出たということでしょうか。

内田慈さん
そうです。最初に頂いた役は再演だったのですが、初演では日本語がカタコトの方が演じていたようです。自分ではきちんと話しているつもりが、滑舌が悪かったらしく「それならあの役にぴったりかも」と決まったとのことでした。素養のなさが役を掴むきっかけになったんです。その演出家には「数年は上手くならなくていい」とも言われましたね(笑)。ところがそんなわけにもいかず、そこからは修行でした。

25歳ぐらいまでは、アルバイトをしながらどんなに眠くても劇場に行って芝居を見ていました。新聞で募っている招待チケットに応募して、お金が掛からないようにしながら観劇をしていましたが、学校に行って演技を習うことはしませんでした。

劇団の公演に客演で出る場合には、少し上の世代の人たちとの創作が多く、時に教わりながら切磋琢磨し、一緒に発見していくことで血肉になったものが多いと思います。ポツドールの三浦大輔さん、五反田団の前田司郎さん、ハイバイの岩井秀人さん、イキウメの前川知大さんに大きな影響を受けました。

―――― 20代半ばで芸能事務所に所属していますね。

内田慈さん
そうなんですけれども、ここから「もうここから私は芝居で食べていくんだ」と決めた時期はなかったです。ただ、芝居を辞めるということは考えませんでした。どんな経済状態であれ「芝居は続けていくんだろうな」と思っていました。

―――― 様々なアルバイトを経験したと聞きました。

内田慈さん
俳優業は急に「明日仕事です」とか「オーディション来てください」と言われることもあるので、シフトの融通が利くアルバイトを選びました。それが雀荘の運びだったんです。店長は大きな会社の雇われ店長でしたが、彼女自身も俳優をやっていたので理解があり「運びは多くいる分にはいい」と言ってくれました。後はコールセンターや日雇いのパン工場、店頭販売、結婚式の配膳や模擬結婚式のモデルをやったりもしました。

30になって感じた焦り

―――― 周りが就職や結婚をしていく中で、アルバイトをしながら女優を目指していた20代は、登場人物たちのような葛藤を抱えていたのでしょうか。

内田慈さん
映画に描かれているような「こうしないといけない」という前提ゆえの葛藤は感じていなかったです。20代の私には無知の強みがあったと思います。真剣に将来のことを考えていたら、登場人物たちのように「就職→結婚→出産」というレールを意識していたかもしれませんが、無知だからこそ「なぜみんな同じ道を行くんだろう」という疑問がありました。

厳格な家庭に育った反動もあったのかもしれません。「レールとは違う選択をしたら面白い人生になるのでは」とも感じていました。

ところが、30代に入って、きちんと未来を計画して着実にいろんなものを身に付けてた人たちがどんどん自由になって行くのを見た時に、違う気持ちが出て来ました。例えば仕事でもプライベートでも何かあった時に準備と経験があるので柔軟に対応できる。「人生はこうやって積み重ねて行くものなんだ」と焦りました。

『SEASONS OF WOMAN』,内田慈,画像

―――― その不安な気持ちはどのようにして解消したのでしょうか。

内田慈さん
とにかく不安を消したいと思ってスキルを増やそうと勉強しました。バレエやダンスのレッスンを増やしたり、観る作品を増やしたり。それまでも作品は観ていましたが、観っ放しだったんですね。その時に感じたのが学習能力の低下です。今がピークで、これからはどんどんできなくなった自分を見つめるだけなのかと絶望したのが34か5の時でした。

ところが、その時期の努力が功を奏したのかその後少しずつ変わって行きました。開き直りの図々しさがプラスされたのかもしれませんが、勉強したことが血肉になっていくことを感じました。

そして、何よりも演技をしている時に「いま私生きてる!」と感じたことに助けられました。自分の実人生ではそこまでドラマチックな瞬間はないのですが、演技しているととんでもない瞬間があるんです。演じる人間は自分と違う人間でも、自分との共通点を見つけて役に潜り込み、全部自分ごとにして芝居するとやってくる、その瞬間がとてつもなく好きで。このやり方を極めれば自分の力になって、私にしかできないことができるかもしれないと思うようになりました。30代で演じた役によって元気付けられましたね。

―――― 『ホテルローヤル』では家事育児介護に忙しい主婦を、『レディ・トゥ・レディ』『SEASONS OF WOMAN』では働く女性の役を演じていますが、どの役もリアリティがありました。

内田慈さん
頭で考えるのではなく、自然と一挙手一投足が動いてくれる状態になるようにしています。そのために、演じようとする人間の感情の弱いところはどこか考えるんです。どんなに悪い人の役でも突き詰めれば何か弱いところが見えて来る。そこから入って行くと、急にその人が身近になって心が動くようになり、自然に演じられるようになるんです。

台本を読んだ人の数だけ解釈があるはずですが、物語全体における役割をクリアにするために、役柄について監督と話します。特に『レディ・トゥ・レディ』の藤澤(浩和)監督は俳優の質問に対して同じ目線で耳を貸してくださる方で、一緒に考えてくださり、たくさんの意見交換をしました。

男女ではなく「ひと」として

―――― 『レディ・トゥ・レディ』では内田慈さん演じる城島一華は夢を追う女優で、ダンスのパートナーの鈴木真子(大塚千弘)は専業主婦です。

内田慈さん
大塚千弘ちゃんとは撮影開始まで毎日1ヶ月半レッスンしていましたが、その中で感じたことは「彼女がもし私の立場(フォロー)で踊っていたら」ということでした。そして、それは夢を追う売れない女優と専業主婦という立場の違いを互いに思いやることと同じだと思いました。

一華は真子のことを羨ましいと思ったかもしれないし、その逆もあるかもしれない。でも、真子は家庭の中では孤独で、一華も先が見えないという孤独を持っていました。そのタイミングでわかり合えたから尊重し合えたのかなとも思います。

日常生活でもこういうことはあると思います。他人同士が寄り添ったり、なるべく対等でいられるようにお互いが努力しようとすることが必要なのではないかと。

レディ・トゥ・レディ

―――― 『SEASONS OF WOMAN』でも、婚活中の姉と就活中の妹、妊娠してあっさり仕事を辞めるキャリアウーマンと、ずっと仕事を続けたい女子大生など、立場の違う女性たちのそれぞれの気持ちが描かれますね。

内田慈さん
この作品は、女性特有の葛藤や悩みを描いていますが、女性の人生が男性と決定的に異なるのは、やはり出産だと思います。出産するか否かという壮大な問題を女性一人で抱えがちですし、出産前後はどうしても立ち止まらざるを得ない状態になり、今までのようにはいかないという意味で一旦人生にストップがかかります。働く女性も専業主婦の女性も。

それは私たちの世界も同じです。作品には様々な境遇の人が登場するのだから、マイノリティに目を向けるべき業界であるはずなのに、物づくりの現場では男性が稼働するために、裏で家庭を支えてくれる女性がいることも多いです。作品では異なることを主張していますが、実人生は異なるケースもあるんですね。

そういう現実がある中で、女性が「私たちこんなに苦しいのよ」ということだけを主張するのは男性の辛さを無視することにもなり兼ねません。

結局、女性も男性も生き辛いんです。なので、なるべく私自身は男女ではなくひとりの人間として「皆が平等であるためにはどうしたらいいのか」ということを考えていきたいと思っています。

今が人生の春

―――― 『SEASONS OF WOMAN』は女性の人生を春夏秋冬にたとえています。今の内田さんいつなのでしょうか。

『SEASONS OF WOMAN』,内田慈,画像

内田慈さん
春ですね。ようやくいろんなことがやっとしっくりくるようになりました。自分の気持ちをコントロールできなくて苦しんだ時期を「冬」と言うならそこを通り抜けてまた春が来た気がします。「これから楽しくなるんだろうな」という感じです。

―――― 『SEASONS OF WOMAN』の見どころ、伝えたいメッセージについてお聞かせ下さい。

内田慈さん
結婚や出産を巡る女性の葛藤が描かれますが、「女性だけが辛い」ということを一方的に訴える作品ではありません。『レディ・トゥ・レディ』もそうなのですが、苦しい思いをしている人たちの切実さを見ることで他者と寄り添い、向き合おうと思える作品だと思います。

この映画は女性からの共感が多いと思うのですが、そこだけには向かっていません。「自分が選ばれない」ということに対して女性が苦しむ様子が描かれますが、男性も同じように感じることがあると思います。女性をモチーフに生き辛さを描いていますが、いろんな人が共感できる要素が詰まった作品なので、より多くの方々に見て欲しいですね。

―――― 今後のどのように活動していきたいですか。

内田慈さん
とにかく、今が楽しいです。もっと勉強しておけばよかったという後悔はし尽くして、いろんな人に会えることが楽しいですし、吸収することが楽しい。いろんな役をやっていろんな勉強をして、60代ぐらいになった時に逞しく生きていたらいいなと思っています。

(文章・写真:熊野雅恵)

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