『ある殺人、落葉のころに』三澤拓哉監督が放つ“違和感”

『ある殺人、落葉のころに』三澤拓哉監督,画像

映画『ある殺人、落葉のころに』三澤拓哉監督【インタビュー】

大磯を舞台に、恩師の死をきっかけに露呈する若者たちの不安と孤独を大胆なタッチで描いた映画『ある殺人、落葉のころにが、2021年2月20日(土)よりユーロスペースほか全国順次公開中です。

今回は、得体のしれない重たい空気に支配されたような、不思議な気持ちになる本作で監督を務めた三澤拓哉監督の映画制作に迫りました。

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映画『ある殺人、落葉のころに』の三澤拓哉監督

―――― 「ある殺人」というテーマですが、人の死については物理的に殺されてしまう死と、精神的に抑圧されてそれが死と同じ状態であるということと、何かその違いっていうものを垣間見たような気がするんですけど、なぜこのテーマを扱うに至ったのか、その経緯を教えていただけますか?

三澤拓哉監督
初めてそういう「死をめぐる」という感想をいただいたかもしれません。自分自身もそれをテーマにしてスタートしたということはなかったんですけども、コミュニティーの中での息苦しさだったり、狭さの中で抜け出せない感じであったりとか、そういったものは描きたいと思っていました。

恩師の死をきっかけに何か物事が変化するけれど、変化しきれずにまた同じことが繰り返されてしまう、むしろ死そのものが、変化のきっかけになっていないというか、一時的な先延ばしにしかならないというような考えはあります。

結局何も変わらないというか、ずっと螺旋状に下降していくようなイメージを持って映画を作っていました。

―――― なぜそういった螺旋状の閉塞的な状況を表現されようと思ったのでしょうか?

三澤拓哉監督
ウォン・フェイパンっていう香港のプロデューサーの方がいて、彼からの影響があったと思います。彼自身が香港の10年後を描く『十年』というオムニバス映画を撮っていて、そこでは中国の影響下にある香港社会だったりとかが描かれてるんですけれども、彼と一緒にやることが決まり、10年後の日本はどうなっているだろうか、と自分なりに考えました。

この映画を作る上で、現実に今起きている社会的課題を要素として入れながら、映画作りのプロセスと共、更にこの先の未来を見ていきたいという思いが反映されています。

反映された結果、結局何も変わらないっていうか、もしかしたら観る方にとっては何も希望も解決も感じ取れないかもしれませんが、観ていただくこと自体が希望だと思っています。

『ある殺人、落葉のころに』三澤拓哉監督,画像

―――― 最後のシーンでは槇原(役:ロー・ジャンイップさん)がメンバーに加わっています。あれは、誰だったとしても、結局、誰かが槇原みたいなことになるよ、っていう意味なのかと考えていました。

三澤拓哉監督
メンバーは変わってもイス、つまり構造は変わらないということですね。

―――― また「閉塞感」についてお聞きしたいのですが、抑圧されたものから抜け出すための策みたいなものについては、監督はどうしたらいいと思いますか?

三澤拓哉監督
「策」というと難しいですが、4人グループの中で支配的な立ち位置にいる和也(役:森優作さん)という登場人物がいますが、そのパワーを支えているのは知樹(役:中崎敏さん)たちです。知樹たちはそのパワーを怖がっている部分もありますが、それと同時に支えてもいる。知樹たちが空気を読んだり、忖度することで和也のパワーを成立させているのです。大袈裟に聞こえるかもしれませんが、そういう権力の構造みたいなものは意外と身の回りに溢れているように思います。自分自身、そういう視点を持ったことで「閉塞感」についての見方が変わってきました。

『ある殺人、落葉のころに』三澤拓哉監督,画像

―――― ところで、プロデューサーのウォン・フェイパンさんとの接点はどこで持たれたのでしょうか?

三澤拓哉監督
2015年の釜山国際映画祭で若手映画人を集めるワークショップがあってそこで出会いました。自分も彼も監督志望で同じチームでした。その後も映画祭とかいろんな機会で彼が日本に来る度に親交を深めていきました。

―――― ワークショップというのはどれくらい時間をかけてやるものなのですか?

三澤拓哉監督
約3週間です。アジアから24人の映画人が集まって12人1チームで短編映画を作ります。釜山国際映画祭に来ているベテラン監督のレクチャーも受けることができ、かなり濃密な時間でした。

―――― 海外の方と一緒に作品を作るにあたって、影響を受けられたものはありますか?

三澤拓哉監督
作ることに全然怖がらないというか、“やってみよう”っていう映画作りに対する姿勢が違いました。自分はまず頭で考えて、出来るかなとか、予算がとか、そういう条件についてばかり最初に考えてしまいがちなんですけど、彼らはまず“やる”ことが前提にあります。見る前に飛べ、という感じです。

また、特に今回一緒に映画を作った香港のクルーからは仲間を作ることの大切さを学びました。独りで考えるんじゃなくて、自分のアイデアを積極的にチームの皆に共有してフィードバックをもらう関係性というのでしょうか。

実際、香港の彼らの自宅を訪ねると、ビルのワンフロアを借りて10人ぐらいの集団で住んでるんです。それぞれ監督だったり脚本だったりを専門としていて。一部のスペースをスタジオとして使って、ちょっとした撮影があると仲間をすぐ集めてやっていました。自分自身が成長する場所を皆が求めてる。そういう生活してたら、こうなるなって本当に感じました。そこから自分も結構意識が変わりましたね。

―――― いつでも会話出来る距離にいて、日本の映画撮影よりももっと濃密って感じですね。

三澤拓哉監督
自分の感覚ですけど先輩・後輩みたいな関係がなく、何でも言い合える環境だと思いました。

―――― それは良いですね。大事なもの、必要なことを皆で話し合って決めていく、その作業そのものが映画の一部ですよね。今回の撮影の中で一番コミュニケーションをとったりや相談し合ったところなどはありますか?

三澤拓哉監督
脚本段階でテーマ性やコンセプトばかりを注視するのではなく、あくまで人物を描くってことをちゃんと考えないといけないと指摘されました。各登場人物の関係性を把握する上で、連ドラのウェブサイトにあるような、矢印があってライバルがいて、みたいな人物相関図を作りました。それをプロデューサーだったりカメラマンと共有して、線がここだけ偏ってるからこの2人のシーンを増やした方がいいとか、そういう作品のバランスを見たりしました。

―――― 人間関係の濃さや薄さはあるにせよ、何の関係もなくてそこに居るっていうのはやめようよ、みたいなことですね。

三澤拓哉監督
例えば唯一、知樹が残りの3人と1対1で話すシーンがあるとか、そういったシーンのバランスですかね。結構自分は頭で考えてしまうというか、作品のテーマや構造だったりとかを考えすぎてしまって。でも、そういうものは最後の最後に伝わるもので、人物同士の感情の機微であったりとか、そういったものを、まずしっかりおさえることですね。

―――― そうやって言葉にして書き出したりして、カメラマンも含めて皆で考えてみようよ、っていうことですね。

三澤拓哉監督
そうですね。カメラマンにとっては、表とかで見ることによって撮影の時の狙いどころが脚本以外で分かるヒントになったりすると思います。

―――― 今回、ウォン・プロデューサーの一緒に仕事することによって、より進化することが出来たということですね。

三澤拓哉監督
そうですね。1作目と作り方や作風も全く違うので。

―――― ウォン・プロデューサーの意見で、この度、新しい試みでキャストに接することが出来たなど、何か他にエピソードはございますか?

三澤拓哉監督
そうですね。(作中)4人が幼馴染という設定ですが、実際、4人はそれまで面識がなかったんです。リハーサルも前もってあまり出来なかった中、幼馴染の関係をすぐにでも撮影現場で演じなければならないわけです。しかも1日前にやっと4人で集まられたのかな。そのちょっと前に、リハーサル兼前リハが出来た時に、午後にリハーサルだったんですけど、午前中に香港のウォン・プロデューサーが「幼馴染で裸を見てないのはおかしいから、4人で銭湯行って来てもらって」って(笑)後から聞いたらその4人は凄い戸惑たって(笑)。むしろ戸惑いがいい方に、4人の緊張感というか、の方に転んだっていうか。

『ある殺人、落葉のころに』三澤拓哉監督,画像

―――― ちなみに、ウォンさんとは日本語で会話されているんですか?

三澤拓哉監督
英語です。本当にボロボロの英語なんですけど何とか。現場入れば伝わりますね。

それから、俳優陣と自分との関係ですが、それぞれのキャストが演じる役がどういう人物かっていうのを各々と話しました。後は、作品に違和感が残るよう、お芝居が「リアル」になり過ぎないように気をつけました。具体的には、台詞の間を一拍空けるなどして、日常とは少し違う感じリズムにしようと試みました。

―――― そういう間をあえてつくられたんですね。中心人物がいて、取り巻きがいるというリアルだけではなく、そこに、しっくりとしない何か闇というか。

三澤拓哉監督
そう、ちょっとしっくりこない感じです。
一見、棒読みっぽいかもしれないですけど、作品全体で統一されていれば成立するかなと。

―――― ところで他にも、作中、亡くなる人が何人か出てきますが、犯人を追求するようなところがありません。この意図するところは?

三澤拓哉監督
「謎解き映画」ではないということですね。

常に疑っていただきたいというか、真実を探す映画ではなくて、疑い続けていただく映画だと思っています。

―――― 確かに現実の目線でも、例えばパトカーが事故を処理するのを目にしたら「何か起きたのかな?」とは思いますが、結論は見ないで通り過ぎるという、伏線を回収しないリアルがありますよね。
特に個人的に気になったのは、和也のお婆さまの件です。

三澤拓哉監督
そうですね。しかも、未解決のままナレーションが「和也はホッとしていた」と言って次に章に移ってしまう、という。

―――― 他にも、ちょっとずつ気になるシーンがありました。その辺りも計算づくで投入されていらっしゃるんですよね?

三澤拓哉監督
「計算づく」かは分かりませんが、ミステリー映画の定型から外れている自覚はあります。

―――― そこが違和感や、閉塞感に結びついてくるわけですね。
監督からみて“このシーン”とか“こういうところが面白いから観て”ってところを教えてください。

『ある殺人、落葉のころに』

三澤拓哉監督
そうですね。やっぱり主演4人のお芝居にこの映画は支えられてると思っていて、それぞれ特徴のある雰囲気というか、お芝居をしてもらっています。

知樹を演じる中崎敏さんは異物感みたいなものを出せる人ですし、俊(役:守屋光治さん)の何か抱えているような雰囲気ですとか。そして、対立的な関係である和也と英太(役:永嶋柊吾さん)。特に倉庫のシーンですかね。ああいったところでしっかりドラマとして締めてもらってると思っています。場面によっては謎が多く“何なの?何なの?”っていう感じで観るけど、人物の葛藤や機微が見えることで、映画と観客を繋ぎとめてくれてるように思います。俳優たちを見ていただきたいです。

―――― 倉庫のシーンでは「英太、もうちょっと言え!」みたいな感じになりましたが、そういった点で、確かに投げられたボールを観客もうまくキャッチ出来ていますね。ところで、監督がどこからこういった感覚を持つに至ったのか?などに凄く興味があるのですが、監督の好きな映画などを教えていただけますか?

『ある殺人、落葉のころに』三澤拓哉監督,画像

三澤拓哉監督
この映画を撮る前に共有したのはエドワード・ヤンの作品ですとか、あとデイヴィッド・リンチとかですね。全然タイプの違う映画ですが、スタッフと共有しました。自分もこの映画はどんな作品になるんだろう?と映画の中に潜るような気持ちで作った感じがします。

釜山国際映画祭の時に司会の方が「この映画はいつ爆発するか分からない、地表の映画のようだ」とコメントを頂いて、この映画のことがわかりはじめました。それは、気づいたら自分も映画の上に立っているような感じというか、ただ観てるというよりは、自分も巻き込まれているような、そういったものを作りたかったのかなと。

映画ファンへメッセージ

キャスト

守屋光治 中崎 敏
森 優作 永嶋柊吾
堀 夏子 小篠恵奈
盧 鎮業 成嶋瞳子
大河原恵

脚本 ・監督

三澤拓哉

配給:イハフィルムズ
©Takuya Misawa & Wong Fei Pang

2021年2月20日(土)ユーロスペースほか全国順次公開中

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