今、日本中に届けたい!ブータン秘境からのメッセージ

ブータン,画像

映画『ブータン 山の教室』
パオ・チョニン・ドルジ監督インタビュー

国民総幸福量を基本として国家作りをしているブータンから届いた映画『ブータン 山の教室(4月3日(土)より、岩波ホール他にて全国順次公開)は、都会に暮らす普通の若者たちの日常から始まります。教師という職業に就きながら、自分の居場所を海外の大都会に求めている主人公のウゲン。そんな彼が標高4,800メートルの地にあるブータン北部の秘境ルナナ村に赴任。携帯電話が繋がらないどころか電気さえ通っていない僻地でウゲンが体験する未知の世界は日本の観客の皆さんにも安らぎと多くの気付きを届けてくれます!

今回は写真家としても活躍するパオ・チョニン・ドルジ監督に、長編デビュー作となる本作に込めた監督の想いやブータンの人々の生活の全てに根付く仏教的な思想について伺いました。そしてインタビューの最後には、日本に向けて力強いエールを送ってくださいました!

探し物は意外なところに

―― 子ども達からウゲン先生に渡された手紙に「先生に思いやりの心を教えてもらいました」というメッセージがありました。このメッセージにとても惹かれたのですが、どんな意味を込めてこのメッセージを選ばれたのでしょうか?

パオ・チョニン・ドルジ監督
この映画の中でずっと通底するテーマに、“自分が探しているものを、全く期待しないところで見つける”というものがあるんです。

主人公のウゲンは自分が探しているものを求めて、近代化・都会化されたオーストラリアに象徴されるような場所に行きたかったわけですが、真逆の辺鄙(へんぴ)で遅れているルナナ村のような土地でそれを見つける。

また、同じようなメタファーなんですが、教師が人生の教訓を生徒から学ぶということもあります。

ブータン,画像

ルナナ村の子どもたちと

―― まさに、そうですね。子どもは先生の行動をよく見ていて、人間にとって大事なことを理解していたのだと受け止めました。

パオ・チョニン・ドルジ監督
例えば、壁に直接墨で書いたり、紙がないので自分の部屋の窓ガラス代わりになっていた紙を破いて使ったり。大事なことは教室の外で学ぶということだと思うんですけど、これは私が自分で考えたことではなくて、実際にルナナ村に赴任された先生方のお話から作っているんです。実際に黒板がなかったので壁に直接墨で書いたとか、調理するために燃やす薪がないからヤクの糞を使ったとか、ヤクの糞を一々山まで探しに行くのが大変なので教室にヤクを入れたとか、赴任された先生方の実体験を聞いてこういう話にしました。

「足るを知る」をブータンの秘境ルナナ村の人々の生活で体現

―― この作品を通じて、人間が知識を利用して豊かな暮らしをすることと、精神的な豊かさを享受することとは、ちょっと別のところにあるのかなという受け止め方をしました。ひょっとするとブータンの仏教的な背景が影響しているようにも思えましたが?

パオ・チョニン・ドルジ監督
まさに仰る通りで、ブータンという国の文化は、毎日の生活から政府の機能に至るまで社会のあらゆるレベルにおいて仏教が浸透している国です。そして、ブータンは幸せな国だと言われていますけれども、幸せという考え方もその基礎の上にあるわけです。

仏教の考え方では満足する、足るを知るということが豊かであると言われています。つまり、物質的に沢山持っているということではなく、私はもう十分に持っている、足るを知ると言える人こそが、例え物質的に沢山持っていてもそう思えない人よりはもっと豊かであるという風に考えます。こういう考えをルナナ村の人々の生活で体現させました。

―― “ヤクに捧げる歌”は家畜と人間との共生を慶んでいます。また、子どもたちは先生を欲していたり、村が先生を欲している。自分の幸せは常に相手がいてのことで、相手の状態によって自分の幸せにも大きな影響を与えるんだということも併せて伝わってきました。これも仏教的な考え方なのでしょうか?

パオ・チョニン・ドルジ監督
そうですね。仏教が基礎になっていて、全ての人が繋がっていて相互依存してるという考え方があります。ですので、一人の人の幸せは、他の人の幸せに頼っている。そして先程も申し上げましたように、ブータンではあらゆる生活の側面に仏教の影響があるんです。

ヤクの歌なんですけど、よく聞くと深い意味が隠されていまして、相互依存が描かれている歌なんです。人と人が住む世界、人と動物が共存するということ。あるいは、仏教的な意味でカルマとか輪廻転生とかそういったものを先生とヤクに代表させています。

―― セデュは、山の精霊やヤク、そこに住んでいる人や自然に対して歌を歌っています。目に見えない観客たちに向かっての歌なので、そこに人がいなくても、歌い手として十分に満足して歌っているように見ることが出来ました。

パオ・チョニン・ドルジ監督
やはりこれも仏教の影響だと思うんですけれども、仏教において供え物、捧げものはとても大事なんです。捧げものには伝統的にはお水、食べ物、お香ですとか、あるいは音楽や曲を捧げるということもとても大切なことなんです。それで映画の中にも入れたのですが、それはある村の伝統的な歌手の人が山の上で誰もいないのに歌っていたんです。「なんで誰もいないのに歌ってるの?」って聞いたら、その人が「山にいる精霊や世界に向かって歌を捧げているんだ」って言ったんです。それを聞いて非常に美しいコンセプトだと思いました。山の上で自然に捧げる、世界に捧げるというその美しさにてとも惹かれて、それはブータンの伝統文化であるという風に感じまして、これは世の中に伝えるべきだと思って映画の中に取り入れました。

私はウゲンみたいに上手に歌を歌えないですし、山の上で一人歌おうとは思わないですけどね(笑)

ブータン,画像

ルナナ村の少女の純粋さは必見!

―― キャストについて、特に学級委員長のペム・ザムさんの演技が素晴らしかったです。監督の奥様で本作プロデューサーのステファニー・ライさんが演技指導をされたとお聞きしていますが、演技指導で大変だったことや撮影のハプニングなどありましたら教えてください。

パオ・チョニン・ドルジ監督
ブータンで映画を撮る上での課題というか大きな挑戦は、プロの役者がいないことなんです。今回はキャラクターと同じような人生を歩んでいる人をキャスティングするという戦略を取りました。

私の妻は舞台俳優でもあり訓練を受けたので、今回も役者のトレーニングを助けてくれましたが、ルナナ村に行くのはとても大変なので、現地には一緒に行かなかったんです。村人たちの役を演じているルナナの人達は全くトレーニングがなく撮影に臨んだわけです。

ペム・ザムについては、彼女が自分の話をしてくれて彼女の人生に合わせるように脚本の方を書き直したんです。そして、彼女に一つだけ演出をしました。それは「他の人にならなくていい。自分自身の話をすればいいんだよ」と言いました。というのは、実際この脚本も書き直したので、彼女のストーリーになっているわけです。覚えておいていただきたいのは、ルナナの人は他の世界を知らないんです。映画も知らない。その純粋さというものが、スクリーンの上に表れていると思います。

ブータン 山の教室,画像

―― 歌を歌っていたセデュですが、とても可愛かったので、それだけの理由で男性は皆ルナナ村に居ついてしまうのではないかと思いました(笑)

パオ・チョニン・ドルジ監督
多くの人から「ウゲンは彼女のために村に残った方が良かったんじゃないか?」って言われました。一番いいのって、ちょっとティーザーっぽくというか、次はどうなるのかな?って思わせるのがいいなって思うのであのような形で映画を終わらせました。

プロの役者がいないということで、演じてる人を最大に利用するということで、実際二人は恋人同士なんです。普段はセデュ役のケルドン・ハモ・グルンは結構ウゲン役のシェラップ・ドルジを怒っています(笑)

ブータン 山の教室,画像

苦しみを乗り越え輝く力がある!日本にエール!!

―― (笑)
最後になりますが、日本では若者の自殺が先進国で恐らくトップだと思います。幸せについてより真剣に考えなくてはならない時で、そんな時にとてもいい作品を届けていただいたと思います。是非、日本の皆さんに観ていただきたいと思うので、監督から熱いメッセージを頂けますか?

パオ・チョニン・ドルジ監督
この映画はおそらく日本の皆さんが慣れ親しんでいる映画とは色んな意味で全く違う映画だと思います。世界で最も辺鄙な場所と言っていい、それこそヤクの糞だらけの谷間で行われている生活の営みが描かれているという意味で、非常に多様性というか、いつもと全然違う物語になっていると思います。

ですが、そこに描かれているのは人間として共通の願いです。それは、自分の居場所、自分の幸せを探すということだと思います。日本文化と全く違う内容ではありますが、居場所や幸せを探すという意味では日本の方と繋がりがある、共通するものだと思っています。

特に、コロナ禍の今、パンデミックが広がる中、苦しみが世の中を覆っていますし、色んな境界や境目、自分たちを分断するということが多く起こっています。そんな中で、違うことではなくて自分たちが共通していることを祝う、祝祭する。そういう時期ではないかと思います。

最悪の危機の時こそ最大のチャンスであるというような表現がありますよね。なので、今はコロナで大変な危機ですけれども、これが日本の若者にとって自分を振り返る、内省するいいチャンスになればと思います。そして、この映画の上映をご覧になって、「自分にとって真の幸せとはどういうことなのか?満足するとはどういうことなのか?」を考えていただければ嬉しいです。また、人間の心の忍耐強さというか、苦しみを乗り越えて再び光ることが出来ると感じていただければと思います。

私が知っている限りにおいて、日本の文化や日本の社会は、世界の歴史を見ても珍しいほどレジリエンス、つまり回復力が物凄く強い人々だと思っています。暗い嵐の後でも再び光輝く力がある国民であり、文化であると思っています。夜明け前が一番暗いと言いますので、苦しんでいる若者の方がいらしたら、自分は一人じゃないんだ、太陽は必ずまた昇ると考えていただければと思います。

―― 素晴らしい作品とメッセージを有難うございました!

パオ・チョニン・ドルジ監督メッセージ

キャスト

シェラップ・ドルジ
ウゲン・ノルブ・へンドゥップ
ケルドン・ハモ・グルン
ペム・ザム 他

監督・脚本

パオ・チョニン・ドルジ

2019年/ブータン/ゾンカ語、英語/110分/シネスコ
英題:Lunana A Yak in the Classroom
後援:在東京ブータン王国名誉総領事館 協力:日本ブータン友好協会
配給:ドマ
(c)2019 ALL RIGHTS RESERVED
公式H’:https://bhutanclassroom.com/

4月3日(土)より 岩波ホール他にて全国順次公開!

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