「難民や移民に声を」『ベルリン・アレクサンダープラッツ』ブルハン・クルバニ監督インタビュー

『ベルリン・アレクサンダープラッツ』ブルハン・クルバニ監督

ブルハン・クルバニ監督が語る偉大な小説との出会い、そして挑戦

ベルリン・アレクサンダープラッツ』が、2021年5月20日(木)AM0:00よりオンライン上映スタートです。

今回は、現代ドイツ文学の傑作を大胆な解釈とスタイリッシュな映像表現で映画化し、第 70 回ベルリン国際映画祭に正式出品・ドイツ映画賞で作品賞など5部門受賞、ほか国内外の映画祭を席捲している話題作を完成したブルハン・クルバニ監督にお話を伺いました。

【動画】海外メディア絶賛!映画『ベルリン・アレクサンダープラッツ』予告

主人公フランシスは、アフリカからヨーロッパを目指した不法移民。船が嵐に遭遇した時に、もし無事に上陸できたなら今後は心を入れ替えて真面目に生きようと誓うのです。しかし、ドイツへ辿り着いたフランシスの難民生活は過酷を極め、華やかなベルリンの夜の街とは対照的に裏社会に⽣きる狡猾なドイツ人男性・ラインホルトの手引きで犯罪に手を染めていってしまいます。そんな中、ある女性との出会いによりフランシスは運命を変えようとするのですが…。

ブルハン・クルバニ監督が原作のアルフレート・デーブリーン長編小説「ベルリン・アレクサンダー広場」をどのように解釈し、現代に置き換える上で工夫されたことや圧巻の演技を見せてくれた俳優陣とのエピソードも交えながら本作の見所を語っていただきました。

クルバニ監督

オンライン取材に対応してくださったクルバニ監督

偉大な小説との出会い、そして挑戦

―― テレビ、写真、小説など色んなメディアがあると思いますが、監督はなぜ映画を選んだのでしょうか?

ブルハン・クルバニ監督
今作と大きく関係があります。

この原作は高校の卒論の題材で、2年間取っ組み合いをしたのですが、当時は嫌いで嫌いで(笑)

両親はアフガニスタンに戻って医者として活躍して欲しいと考えていて、私も医療の道を目指していたのですけれども、卒論が全く上手く書けなかったお陰で、いい点がもらえず医学部に進めませんでした。それで映画になったんです(笑)

実は、映画学校に入った時も同じことを聞かれました。その時、映画の美しさや素敵なところは、全てをコントロールできること、そして自分の世界を作り出せるところじゃないかと答えました。ビジュアルも、音楽も、デザインも、衣装も、本当に全てを自分たちが作り出すことが出来る、ミクロ・マネージメントが出来るから映画なんです。

映画の道に進んでいなかったら、ゲームのプログラマーも良かったかもしれません。同じように全てをコントロール出来ますから(笑)

―― この映画の原作は、1920年代に書かれた古典文学です。なぜ今、舞台を現代に移して黒人の難民を主人公にして描こうと考えたのか、その理由を教えてください。そこには、監督自身がアフガニスタン人で難民の息子であることも強く影響しているのでしょうか?

ブルハン・クルバニ監督
この小説は本当に文学として傑作だと思います。そのクオリティーはとても高く、いつの時代にも据えることが出来る物語だと思います。

現代にしたのは、私がまさに現代に生きているからでもありますし、フランシスを難民にしたのは自分の親が難民であり、その難民の体験というものを自分なりに理解していると感じているからなんです。

©️ Wolfgang Ennenbach, Sommerhaus Filmproduktion

©️ Wolfgang Ennenbach, Sommerhaus Filmproduktion

そして、もう一つ、難民の方や移民の方のコミュニティというものに顔をつけ、声を持ってもらうことによって、無視出来ない存在にしたかったのです。それはなぜかというと、このようなコミュニティが社会から無視されている、社会の端っこの方に押しやられていると感じたからなんです。この物語はとても強いので、ジャーナリストの方も彼らのコミュニティを無視出来なくなるだろうと考え、こういう形にしました。

©️ Frédéric Batier, Sommerhaus Filmproduktion

加えて、ギャング作品でもあるわけですけど、このジャンルを選んだことにも理由があります。アメリカの監督達は、ある物語を描く時に、ギャングというジャンルを非常に上手に使っています。移民や難民の物語をギャングの物語という形をとることによって、その国について語ることが出来ている。『ゴッドファーザー』も『スカーフェイス』もそうでした。今回は自分も同じような試みをしています。

―― 確かに、現代に置き換えても全く違和感のない作品だと感じました。逆に、1920年代の原作と現代とでギャップがあったこと、マッチ出来ない部分があったとすればどんなところだったのでしょうか?

ブルハン・クルバニ監督
原作が傑作だという風に言いましたけど、同時にモンスターでもあるわけなんです。本当に沢山のテーマや問題に触れていて、一般的には映像化出来ない小説だと言われています。勿論、ファスビンダーがTVシリーズ『ベルリン・アレクサンダー広場』を作ったわけですけど、TVシリーズでさえ尺が限られているから全てを語り尽くすのは無理だった、そんな原作なんです。

今回、私が表現出来ずに特に残念だったと思うのは、やはり美しい筆致です。原作は言葉としてはストリートっぽい喋りをするのですが、同時にモンタージュで、例えば聖書であったり広告であったりそういった意識の流れ的な筆致が本当に美しいけれども、当然それは映像化が無理なので、そこはちょっと残念なところでした。

こだわり抜かれた映像や音楽の背景に迫る!

―― 冒頭、斬新な映像から始まるので驚かされたんですけども、監督はどういった意図であのシーンを撮ったのでしょうか?

ブルハン・クルバニ監督
ご存知のように映画というのはチームで作っていて、皆のアイディアが入っています。特にこの作品のいいアイディアは僕からではなくて、一緒に仕事をしているスタッフからきているんです。

このシーンもスクリプトエディターが「これは違うんじゃないか?」と言ったんです。この瞬間というのは、フランシスにとって大きなトラウマです。人間が本当に想像出来ないような、何が起きているのか把握出来ないようなそれぐらいのトラウマの瞬間なので、「ひっくり返したらどう?」と提案してくれました。つまり、反対にした時に皆さんは何が起きてるのか分からないわけです。それがこのキャラクターにとって、今人生の中で起きていることを“彼はそこまで分からないんだ”ということを表現しています。

音、サウンドデザイン、音楽もなるべく観客が居心地悪くなるような設計をしています。サウンドデザイナーのアイディアが入っていて、観客の方が凄く怖い、居心地が悪い何か新しい体験が出来るような表現というものを模索していました。

例えば、終盤にラインホルトがミーツェと二人で森の中に入って行くシーンの音の設計も同じような感じです。あれはラインホルトの世界の地獄なわけですよね。その音符を作るためにサウンドデザイナーは、収録していた音を全部捨て、サウンドコラージュを作り、駅の音を結構使っています。それはなぜかと言うと、列車に押し込まれる人と押し出される人というものを想像せずには、ドイツの地獄というものは自分には見えないという理由付けだったんです。つまり、ホロコーストの音が入っているということです。

©️ Wolfgang Ennenbach, Sommerhaus Filmproduktion

©️ Frédéric Batier, Sommerhaus Filmproduktion

©️ Sabine Hackenberg, Sommerhaus Filmproduktion

©️ Frédéric Batier, Sommerhaus Filmproduktion

©️ Wolfgang Ennenbach, Sommerhaus Filmproduktion

―― 凄く殺伐とした話の割には、映像が美しいと感じました。特に夜の街の風景が凄く美しく印象的でした。これは意識的にされたことなのでしょうか?それからラインホルトがいつも「愛しのクレメンタイン」を口ずさんでいるのはなぜですか?(笑)

ブルハン・クルバニ監督
まず、映画はリズムが大事で、リズムにはコントラスト、対比が重要だと考えています。視覚的にフランシスが、どんな場所に身を置いているのかを描いているわけです。それは、決して快適な場所ではない難民の生活、それに対比するように夜のベルリンは夢のように描かれています。現代においてもベルリンは世界中の人を惹きつける街のようで、色んな方がパーティーやカルチャーを求めてベルリンにやって来ます。なのでフランシスをこの2つの世界の間に置きたかったんです。美しさと厳しさの間にフランシスを置く、そういう設計でした。

映画の中でキャラクターが歌うのが好きなんです。今回は、“オーマイダーリン、オーマイダーリン、…”という「愛しのクレメンタイン」を使いたかったんですけど、あまりにもお金がかかってしまうのでもう一つの曲を選びました(笑)。

映画の中でキャラクターが歌う曲も古いアメリカの歌ではあるんですけど、実は歌詞が“溺れてしまう女性”の話なんです。だから、ピタッとハマったと、今は思っています。しかも、その楽曲はタダでした(笑)

役者は“マイ・キッズ”

―― ラインホルトは腰に手をやり非常に奇妙な立ち姿でした。これは彼の精神状態を表していると思うんですけども、この立ち姿は役者のアルブレヒト・シュッヘさんのアイディアなのか?監督の演出なのか教えてください。また、フランシス役のウェルケット・ブンゲさんについて、監督が印象に残っている会話やエピソードがあれば教えてください。

©️ Wolfgang Ennenbach, Sommerhaus Filmproduktion

ブルハン・クルバニ監督
ラインホルト役は、かなり初期の段階でアルブレヒトさんに決めていました。彼自身、やるかどうかとても躊躇したんです。ラインホルトが悪魔なので「この役を演じて引きずってしまったら怖いんだ」という風に仰っていました。実際に撮影に入る2週間前まで躊躇なさっていて、私は「なるべくこのキャラクターから守るから」と説得し続けていました。

リハーサルを始めた時に、違う映画を撮ってからすぐに来てくれたので、彼はちょっと疲れていたんです。ちょっと弱っていて、エネルギーのレベルもとても低くて、座ってた時に背中をちょっと丸めるような、声も凄く高いキーになってしまってた時に、二人で顔を合わせて「これラインホルトじゃない?」っていう風になったんです(笑)

彼には「キャラクターとしても成立するけれども、キャラクターから自分に戻る時にはそれを置いていけばいいから良いんじゃないか?」っていう風に言ったんです。それが安全網みたいなものになりました。このジェスチャーが凄く良かったんじゃないかなという風に自負しています。

©️ Frédéric Batier, Sommerhaus Filmproduktion

ウェルケットさんは、今世界中で最も仲が良い友人と呼べる存在です。

映画の終盤にミーツェが出て行ってしまって、そんな彼にラインホルトが女性を押し付けようとするシーンを最後の日に撮影しました。実は話し合った通りに彼は演じてくれなくて、別の部屋からそれを見ながら声を上げたり、イスをバンバン叩いてかなり怒ってしまったんです。最後のこの瞬間に自分を信じてくれないのか?と思って、6テイクぐらいやっても上手くいかないので彼を部屋に呼んで、二人で話し合いというか、叫び合いみたいなことになりました。彼には、彼女の尊厳を取り戻すシーンだと説明したんです。だから“僕を信頼してくれ”という風にお願いしました。

Berlin Alexanderplatz

©️ Frédéric Batier, Sommerhaus Filmproduktion

最終的には、ウェルケットさんは役者としてではなく、このシーンを僕の友人として僕のお願いした通りに演じてくれたんです。その瞬間は怒りを感じてしまったんだけれども、彼の友情があのシーンを成立させてくれたことを凄く感謝しています。

映画あるいは映画作りは、やはり友情、そして信頼の上に成り立っていて、一番ベストな形は皆がファミリーであるということなんです。私は映画を15年来、同じスタッフと作っているので、皆とても仲が良いんです。役者さんと映画を作る上でも、やはり信頼感を得られるか、家族のように思ってもらえるかがとても重要です。それがなければ演技の上で本当に傑出したパフォーマンスは無理だと思います。

今回の作品では、役者のことを“マイ・キッズ”と呼んでいるのですが、本当に皆スゴイ演技を見せてくれて嬉しくなりました。私も皆もお互いを愛し合っていて、皆が一つの家族になれたから、一緒に作れたんじゃないかと思います。

©️ Sabine Hackenberg, Sommerhaus Filmproduktion

―― ありがとうございました!!

『ベルリン・アレクサンダープラッツ』予告編映像

キャスト

ウェルケット・ブンゲ
イェラ・ハーゼ
アルブレヒト・シュッヘ
アナベル・マンデン
ヨアヒム・クロル

監督

ブルハン・クルバニ

原作

アルフレート・デーブリーン

脚本

マーティン・ベーンケ
ブルハン・クルバニ

原題︓Berlin Alexanderplatz
製作国︓ドイツ・オランダ
製作年︓2020 年
本編尺︓183 分
配給︓STAR CHANNEL MOVIES
レイティング︓R15+相当
公式HP
SNS:【twitter】@berlinalex_jp 【Instagram】@berlinalex_jp 【facebook】berlinalex.jp
© Wolfgang Ennenbach, Sommerhaus Filmproduktion

5 ⽉ 20 ⽇(⽊)より
MIRAIL(ミレール)、Amazon Prime Video、U-NEXT にてオンライン上映

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