この世界の片隅に
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4月の映画ログおすすめ映画は2016年に公開され、現在もなおロングラン上映中の『この世界の片隅に』です。今回は、片渕須直監督に本作品に込めた想いをたっぷりお話いただきました。

Q. 『マイマイ新子と千年の魔法』を制作している時に原作と出会ったとお聞きしていますが、監督は原作者の想いをどのように受け止められたのですか?

マイマイ新子では、昭和30年代の山口県防府市を描こうとなって、ただ、その場所を描くのではなくて、その場所や時代を想像する力をお客さんに蓄えてもらいたいと思ったんですね。それと同じことを、主人公の新子が千年前の世界を思い浮かべる、想像力を膨らませる、働かせるというようなことで使っています。

映画が出来上がった後も、映画をご覧になった方々と防府市の実際の場所に一緒に行って、その場所を歩いてみて、ちょっと気持ちを働かせてみると、目の前にある何の変哲もない道とその横にある用水路が、実は千年前からある道であり千年前からある流れであって、そしてまた、映画の中に沢山出て来る麦畑が今はその辺りにはほとんどなくなっていても、見回すと周囲にある山の形は映画の中の形と同じであって、ということは‟ひょっとしたら”千年前から同じだということなんですが、そうしたことがどっと心に入ってくるわけです。

今だと、その場所へ行くとその風景が見れると言われる‟聖地巡礼”みたいなことがよく言われていますが、少なくともマイマイ新子の場合はその場所に行っても画面と同じ風景は見えないわけです。‟さらに色々思い描く”ということをしないと、今から50年以上前の昭和30年の風景は見えてきません。当然、さらに千年前の‟新子が想像した世界”はもっと見えてきません。ただ思い浮かべるだけではなくて、土地に立って思い浮かべた時の空気感とか、そういうものを全部含めて味わう、そういう想像力の働かせ方があるんだよ、ということ。そうした楽しみ方もあるのだということを世の中の皆さんに述べていって、広がっていくと良いかなと思っていたんです。

同じように、こうの史代さんの『この世界の片隅に』では、戦争中、戦時中という時代に、空気感やその場の雰囲気までを含めて、心を持ってくというタイムトラベルが出来るというような感じがあるかもしれません。その状況をただシチュエーションとして描くのではなく、それが本当はどうだったのか? その肌触りがわかるような形で描くということが、原作の時点からされていたわけです。それこそがこうのさんの『この世界の片隅に』という漫画の本質であり、いちばん他の作品と違う所だと思ったのです。だから、すぐ共感することができましたし、千年前にも行けたのだから70年ちょっと前の戦争中の時代にも行けるんじゃないかな、という気持ちで臨みました。

Q.その時代を生きてきた人たちのいろんな想いがあって、それを、今の時代でも感じとることができるということでしょうか?

人間の、人としての存在はいつまでも同じですよね。そこにいた人たちが“どれだけ自分と同じなのか”を、想いとして抱けるようになるかだと思います。千年前にいた人が自分たちとは全く異質な原始人であるということは絶対ないわけです。「自分たちと同じような人たちがそこにいて、このようなことを体験していたんだな」と思うことができればいいですよね。
同じように戦争中も自分たちにとって、もはや異世界になっているはずですが、それをそこにいる人たちのことが自分たちと同じものだと思って心の中に描けるようになればと思いました。そんなことができるくらいに、戦争中という時代を絵空事ではなくて、実際にどういうものがあったのか、何が起こっていたのか、ということを丹念に調べたり、画面の上で再現する、当時こんな風に世界があったんだというのを見せられるようにしたい、そう思ったんです。


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