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――「中学校の映画鑑賞会でこの作品が上映作品に選ばれて(smzmskさん)」嬉しかった、といったコメントも届いています。中学校のお昼の時間にも、ふとこうしたことを感じ取ってもらえるのでしょうし、そうして成長していってもらえればいいのでしょうね。

一言でいえば、他人事ではなくなってもらえれば。他人事としてではなく自分のことだと思ってもらえれば、ということですね。

Q.「想像する力を蓄えて欲しい」と監督が思うに至った背景にはどんないきさつがあったのでしょうか?

マイマイ新子の前に制作した『アリーテ姫』の中でも、同じ‟千年の魔法”という言葉が映画の中に出てきます。それも‟想像力の使い方”についてのことでした。主人公が「そういう風に気持ちを使えば、どこにでも行けるかもしれない」「心の力は千年を飛び越えることだってできるかもしれない」ということを言っています。そうしたことを『アリーテ姫』という映画の中で語っていたのですが、高樹のぶ子さんの小説『マイマイ新子』を読んだ時に「ここでも使えるな」と思いました。高樹さんの原作小説の中にも‟千年の魔法”という同じ言葉まで本当に使われていて、偶然の一致にびっくりしたりもしたのですが、それを映画のメインタイトルにつけてしまうことで、『マイマイ新子と千年の魔法』が誕生したんです。
『この世界の片隅に』は千年ではなくて70数年ですね。同じと言ったら芸がないですが、ずっと同じようなアプローチで作品を作ってきています。

全てが人の心の中に浮かんだイメージから絵として描かれたものばかりで出来ているアニメーションは色々な想像力の発露の場です。想像力というのはたいていの場合、見たことがない別の世界へ行く、宇宙に行く、未来の世界に行くみたいな使い方です。でも、想像力の使い方としてこうあったらいいんじゃないのかなと一番思うのは、目の前にいる人の心の中にあるのは何なのだろうということを想像することなんじゃないかな。それが『アリーテ姫』の時に抱いた想いです。目の前にいる人の心の中で起こっていることを想像する力、それはつまり他者を自分と同じ者としてみるというところから出発するのではないかと考えています。

70数年前の世界で暮しているすずさんという人なんかも、自分と縁もゆかりもない人ということではなく、ああ、この人の中にある気持ちはこういう感じなんだろうな、とか、想像してみるうちに、いつしか自分も彼女の側の世界に足を踏み入れている。そういうことなんだろうな、と思います。

『アリーテ姫』の場合、魔法使いのボックスにアリーテ姫がいじめられていたのですが、主人公だけではなく、「敵役・悪役であるボックスの心の中にあったものは何だったのか」ということを観客が覗けるようにしたいと思いましたし、『この世界の片隅に』でも、小姑としていじめ役にまわっているお姉さんの径子さんの心の中にあるものは何なのだろう? とか、主人公以外の存在にまで向かっても共感が働いていくように、などというふうにも思いました。

映画『アリーテ姫』(2001年)©ARETE PROJECT

――「見終わって数日するとまたすずさんに会いたくなる(spikeさん)」という書き込みがありました。すずさんへの共感や人物に対する身近さを伝えてくれています。

映画や物語、アニメーションの中に出てくる人には、ある種の設定‟こういう人物なんです”というものが与えられていて、割と一面的な人格を持たされていることが多いように思います。でも、本物の人間はもっと多面的な人格を持っています。
すずさんは子供っぽい所もあるけど、大人っぽいところもあるかもしれないし、そういう複雑に色々な面から見た時に、どの面にも顔があるみたいなものが人間であり人格だと思います。
こうのさんの原作が既にそうだったのですが、すずさんは非常に多面的な人格を持った人として登場していました。だからこそ、いわゆるキャラクターということではなく、一人の人として付き合っていける感じがするんじゃないかなと思います。

Q.そんなすずさん役の声優として‟のんさん”を選ばれた経緯を教えてください。

映画を作ろうとしたその時点からすずさんの声はどういう声なんだろうと気になってはいました。それと同時に、すずさんの右手というものが別のものとして存在していると考えて、映画を設計しようとまず思いまして、この右手にも声が必要なんだなと思った時に、どうやってその右手の言葉を映画の上で表現していこうかと考えはじめたわけです。そこで、それを唄にするという手段を思い付きました。『マイマイ新子と千年の魔法』のエンディング曲を担当して下さったコトリンゴさんのやわらかい感じが『この世界の片隅に』の世界観にも合致していましたし、コトリンゴさんの歌声で右手の声ができたら面白いなって思いついたんです。
そうすると、自ずと右手とすずさんは表裏一体のような存在ですから、すずさんも、コトリンゴさんみたいな、ああいうホワホワした柔らかい感じの、そしてちょっとすっとぼける所がある感じなんだろうな、と思うようになりました。そういう雰囲気を醸し出せる女優さんで、なおかつ、すずさんは二十歳前の十代でお嫁に行って苦労したり、一人で主婦として家庭を支えたりする人でもあるので、若い女優さんでなくてはならない。柔らかさやユーモラスな感じが出せて十代の娘らしさを感じさせてくれる女優さんがいないか、と考えていました。こうしたことを考えるようになったのは2010年くらいの時期でしたので、のんちゃんはその頃まだデビューした直後ぐらいだったと思います。まだ教室の場面で隅っこにいるような感じで映画の中に登場していた頃だったのではないでしょうか。それが3年くらい経過して、NHKの「あまちゃん」に彼女が主演するようになって。4月からの放映でそれを観て、比較的早い一ヶ月後くらいにはもう私の大学院の授業で教材として使わせてもらってました。教室で映写しながら、この声はすずさんの声にぴったりかもしれないなと思っていきました。

――レビューでも「のんさんがぴったり」と多くの感想がありました。(「モリモリさん」「napoさん」)声優さんを選ぶ上での着眼点というのはどういう部分なのでしょうか。

彼女が演じていたあまちゃん役と、すずさんが同じようなパーソナリティか、といえば実は全く違うのですが、「この役者さんにはどういうことができるのかな」「こういうことを演じてもらいたい」という期待を演出家である自分が抱けるかどうかだと思うのです。マイマイ新子でも、主人公を福田麻由子さんが演じたわけですが、彼女はそれまでは子役で影のある子どもの役が多くて。子供なのに過去がある、黙っていて喋ろうとしないとか。そんな福田さんに元気よく、朗らかに笑ってもらえれば、心の中に普段秘めている笑いたい気持ちを発揮してもらいたい、そんなふうに感じて、新子ちゃんという人を演じてもらうことにしました。
のんちゃんにも、自分自身とはイコールではないすずさんを作り出した上で演じてもらわないといけない。そういたことをまかせられそうか? という見極めが必要ですし、同時にこんな風にすずさんになってもらいたいな、化けていってもらいたいなという期待が抱けるかどうかだと思っています。

Q.のんさんの「わからないところがあったら監督に聞いて教えてもらいました」というコメントを拝見しました。すずさんを作る上でわからないこと、声の雰囲気だけじゃなくて「この時すずさんはどう思っていたのでしょうか?」「この立場ならどう感じるのでしょうか?」ということを監督に尋ねていた、ということですか?

のんちゃんがそれまでやってきた演技の方法というのは、演じる人物の人格を自分の中に一度再現するというタイプなんだろうな、と想像します。すずさんという人は、面白おかしくって、のんびりしていても、でもこの人の中には心の傷はやっぱりあるのかもしれない。それはどんな風なのか、そこから確かめていくべきじゃないか、いこうじゃないか。そこからのんちゃんとのやり取りがスタートしました。それが多面的なすずさんの人格に結実していくわけです。


『この世界の片隅に』片渕須直監督インタビュー【後編】へ続く


 

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